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第五十六話 暴かれた秘密、避けられない未来

 オプションリングから発せられる警戒音。それと共にビカビカと黄色い光が点滅する。

 本当に、もう数百年以上も聞いていなかったそれに、カナメは僅かに驚いた。それと同時に懐かしささえ感じる。これをよく聞いたのは、建国したばかりで竜種が餌を求めて攻撃を仕掛けていた時期だったと記憶している。

 もっとも、それら全てを返り討ちにした結果が今の機竜船であり、現在ではそんな馬鹿げた行為をする魔獣はいない。ちょっと懐かしい記憶が脳裏を過る。

 だがすぐさま気を引き締め直し、アヴァロンの地下深くで国内全域を密かに観測している機玩具人形六女のエスピリットゥに通信を入れた。

 一回のコール音も無く、それは即座に繋がった。

 

「エピ、何があった?」


『侵入者――あ、くぬ、僕の攻撃を避けるなんて生意気な――だよ』


「そんなのコレ見れば分かるから。で、種族と人数は?」


『人間で、たったの五人――ふふ、甘い甘い。それくらいで僕のコンボから抜けられるなんて思わないでよね――だけ。でも、心を読めたのは一人だけだった』


「……ふむ。人間で侵入してきた奴は初めてだし、エピが心を読めない相手、か。……心が読めない四体は人形かなにかか?」


『多分――って、流石クドっち。このタイミングでこのコンボを完璧に受け流すは、やるな――そうだと思うよ。でも、心は読めないのにちゃんと生きてる』


「ふむ、なら精神を壊された生き人形って所か……で、戦力的にはどうだ? 久方ぶりの侵入者だし、初めての人間だ。弱くはないんだろ?」


『うん、心が読める一人は<勇者>みたい――とう、はッ、くおおおおおお、やった、きまった! ふふ、これで234勝233負だね。さぁもう一戦!――だよ。今、外壁の上に居る。アヴァロンの風景に見惚れてるみたいだね』


「勇者? ……ああ、もう一人の方ね。なら納得。アイツのスキルなら、確かに来れるかもしれん」


 カナメはエスピリットゥの報告を聞き、ふむ、と頷いた。


 各国に密かに潜入させて情報を収集している機玩具人形三女たるシャドウキャットの報告により、カナメは既に第二の勇者リュウスケの情報は入手済みだった。それも徹底的に調べ上げられた情報を、である。

 リュウスケが持つ二つの能力の優れた特性、そしてそれらがどうしても埋められない欠陥、何ができて何ができないのか、それらの情報をリュウスケ本人でさえもまだ知らない領域で知っていると言ってもいい。

 そしてそれらの情報を元に同じ勇者であるセツナと比較してみた結果、正面から相対すれば十中八九セツナはリュウスケに勝てると判明した。だがそれら以外の事――例えば長距離の移動等だ――だとリュウスケの方が圧倒的に有利だとも分かっている。

 戦闘特化なセツナに対して、リュウスケの能力は利便性が非常に高い。

 だから本来ならば競争相手となるセツナの為に、リュウスケの元に密かに出向いて首にでも“枷”をつけておくのがいい――主に魔王関連の制約だ。まあ、アイツが殺される可能性は限りなく低いというか、相性的に負けないと思う――のだろうが、リュウスケサイドは今戦争に夢中だったのでまだいいかと考えてそうする事も無く、観察といいながら放置していた。

 動き出すにはもう少しかかると思っていたのだが、しかしリュウスケがアヴァロンに来たと言う事は、戦争は終結したのかもしれない。

 なんと面倒な。空気読めと言いたい。

 ま、今回はいい機会と言う事で。

 

「なら、テイワズかラルにでも連絡して撃退か捕獲しといてくれ。ただし、勇者は今は殺すな。そいつにはちょっと用があるから。手足の一本や二本は無くてもいいから、取りあえず殺すな」


 確かにリュウスケの存在は厄介の種になるだろうが、しかし、直接敵対していない存在を一方的に殺すのは流儀に反する。

 アヴァロンに来た事で敵対した、と言えなくもないが、それはこじ付けっぽいので却下。

 そしてリュウスケの行動には多少なりとも共感できてしまう部分もあったので、今回は撃退させるか、捕獲する程度が妥当だろう。


『分かった――クヌッ、いきなり攻めてくるかクドっちめ。しかしその程度で僕は落とせない! ――よ。兄ちゃん達にそう伝えとくね』


「ああ、結果報告は正確にな。じゃ、あまりやり過ぎるなよ」


『クドっちが疲れたら休憩するつもりだし、動きたくないからこれするしかないんだもん』


「ふむ。なら今度皆で旅行にでも行くか。エピもその日は強制だからな」


『えー! そんなの横暴だー! 絶対動かないからねェ!』


 エスピリットゥの少々怒り気味の言葉を最後にブツリ、と小さく音を立てて通信は切れた。

 精神接続型のエスピリットゥはハッキリ言って引きこもりのゲーマーである。アヴァロンの監視役という重要な役割を与えているからまだマシな部類なのだろうが、既に数十年単位で外に出ていない。本物の陽の光を浴びていない。

 そんなエスピリットゥは日々飽きることもなく、機玩具人形だから寝ることもなく、ただひたすらにカナメが世界中にばらまいた魔力ネット対戦ゲーム<アヴァロニアン戦記3>をし続けていたりする。

 それだけ聞くと引きこもっているのはカナメが原因なようにも思えるが、そもそも性格的にエスピリットゥにはその資質があったので現状はなるべくしてなったと言うしかないだろう。

 ちなみにクドっちとはエスピリットゥのオンライン仲間であり、好敵手ライバルである。

 今年で四年の付き合いになるのだがリアルで会った事は未だ無く、ゲーム上の友人でしかないが、どうやらどこぞの国の王子様であるらしい。クドが国名を語らないのであえて調べていないので何処の国なのか分からないが、カナメがその話を聞いた時には『その国大丈夫か?』と思ったものである。

 ただ話によると優秀な兄が居るので問題ないそうだ。何と言うダメ人間か。


 はぁ、と何だか色々考えたら疲れたのでため息が自然ともれた。


 そのすぐ後、じとりと少々黒っぽい視線を感じ、カナメは恐る恐るそちらを見る。視線の先に居たのは、何時の間にか三歩分の間隔をとっていたセツナの姿があった。

 セツナは腕組みし、背後に薄らと黒っぽいオーラを漂わせながら、カナメを見つめている。


「カナメ、先ほどの会話はどう言う事だ?」


「え? ……あ~、アヴァロンに侵入者って事だよ。でも大丈夫、すぐ片付く事だから」


「そう言う事を、聞いているのではない」


 普段のセツナらしからぬ、静かながらも確かな憤りにも似た感情がその声には宿っていた。

 初めて聞くと言ってもいい声音に、長年の経験からかカナメはただならぬ危機感を覚える。即座に先ほどの会話を思い返し、セツナが何故こうなったのか、その原因に今更ながら気がついた。


「あ、と。……セツナ以外にもう一人、勇者が堕ちて来たって話、してなかったっけ?」


「そんな話は聞いていない」


「そうだったっけ? いや、でしたっけ?」


「私は確かに、確実に、絶対に、カナメからも誰からも、そんな話は聞いていない。今初めて知った。何でカナメは、そんな大切な事を、私に、言っていないのだ!」


 最後にはセツナの声は荒々しいモノとなり、冷静だった表情もやがて大きく変化していた。

 先ほどまで三歩分ほど僅かに開いていた距離は既に無い。

 むしろ連絡が入る前よりも密着していると言ってもいいだろう。

 言葉を区切るごとに一歩近づいてくるセツナに押されてカナメは後退していたのだが、やがて心底面白いと言っているかのような微笑みを浮かべたポイズンリリーに退路を断たれて、その結果怒り顔のセツナと正面から対峙する事となった。

 十数センチも離れていない距離にあるセツナの顔。

 こんな状況なのにちょっとドキドキしながら、カナメは説明という名の言い訳を決行。


「いや、セツナが不安にならないようにと思って時期を見てたんだ。ホントホント、隠す気は無かったんだけどさ、タイミングがなかなか合わなくて」


「それとまだ魔王に連絡すらしてなかったから余計に不安になるだろうと思って教えなかったんですよね、カナメ様」


「そうそう、実は……おい、リリー。今このタイミングでなんだそれは」


「いえ、後々の事を思えば今一気に発散しておくべきではないかと」


「いや、確かにそうだけど……ハッ!」


「…………」


 すぐ近くにあるセツナの表情は、怒りではなくただ微笑を浮かべていた。

 しかし眼が笑っていない。とても冷たい、まるで刀剣のような美しい微笑みは、カナメをただ震えあがらせた。心なしか背後の黒っぽいオーラの濃度が増しているように思えるし、カナメの危機察知能力は静かに、しかし確実に警鐘を鳴らしている。

 以前からセツナには輝かしく毅然とした、例えで言うなれば勇者や聖女に必須とされる光の属性があるのと同時に、怨恨とか怨念などと言った負の面である闇の属性を持っているとカナメは思っていた。

 しかしそれは人間として当然持ち合せるモノで、さして気にしなくてもいいものだが、しかしセツナの場合は少々特殊なのである。


 セツナは不本意極まりない手段によってこの世界に堕とされた。


 そしてそれはカナメも同じ事だからこそ分かる。よく分かる。体験談として解答に近い答えを導き出せる。

 大前提として、普段はヒマワリのような微笑みを浮かべ気丈に、まるで騎士のように凛々しく振舞っているセツナも、所詮十代の少女でしかない。

 現在のようなイレギュラーな状況下において、幾ら表面上は回復したかのように見えたとしても、奥深くの所では常に不安定で、一度均衡が崩れれば、容易くその属性は反転する。


 つまり、今、セツナは徐々に光から闇に変化している最中なのだ。


 そしてその果てが今のカナメと言ってもいい。狂って反転して捻じれてもいるので、正確には四百年以上前のカナメと同じなのだ。

 だからもしこれ以上ミスをすれば、セツナは――。

 そこまで考え、カナメはもう今更隠せないし、隠す事でもなくなったと判断する。

 事ココに至ってまで隠そうとする方が、明らかに不利益しか生まないのだから。


「分かった、セツナ。全部話すよ。でもその前に、」


 黙っててごめん、と語る前にまず、深く頭を下げたカナメはセツナに謝罪した。

 それと同時に数百メートルは離れた場所で、四肢が斬り落とされた黒銀のゴーレムが空に打ち上げられる爆音が響き渡る。

 

 模擬戦争は、今だ進行中なのだった。







 ■ Д ■






 【仮面舞踏会マスカレード


 そう名付け、喜怒哀楽とそれぞれ異なる表情を浮かべた四種の仮面を被る四人の専属護衛を背後に立たせながら、リュウスケは装備の最終点検に余念が無かった。

 大きな鏡を前にし、自らの姿を見ながら思考する。

 リュウスケが手にするのは本来の大きさよりも二周りほど縮小させた事で持ち運びが便利となった二つの宝具。今現在のリュウスケのスキル熟練度では能力の根本的な改変は未だ困難を極めているが、大きさならば今のリュウスケでも弄る事が可能だったのだ。

 その為持ち運ぶ際に邪魔になる大きさから今現在の縮小サイズにしているのである。

 転移で常時持ち運ぶこと無く必要な時に取り寄せる、という手段もあるにはあるが、今から【仮面舞踏会マスカレード】を引き連れて赴くのは世界最強と謳われし独立国家<アヴァロン>だ。

 昨日の夜、ココ<クアンティス>の王城跡地の上空にてリュウスケの攻撃を苦も無く灰燼と化してみせたデスフィールドが所属している国である。

 そのため武器を取り寄せる転移が一瞬とはいえ、それを発生させるにもイメージする僅かな時間が必要になる。それすらできなかった場合は、無手で敵と対面する可能性があるのだ。ユニークスキルの特性上無手でも問題はないかもしれないが、万が一、身を護る際には壊れる事が無い宝具は堅牢な盾とする事もできる。

 つまり早い話が、できうる限りの用心はしておくべきだろう、と言う事だ。

 そして装備は二つの宝具に加えて、実験で殺したロ級の竜種の鋭牙を研磨し生成した名刀<雷鳴竜の牙イルル・ヤンガッシュ>を佩き、腰に下げた魔道具<ポケット>の中には爆弾の特性を持たせた金貨が百数枚程入れられている。

 無論他にも実験で生み出した武器だけでなく、回復薬ポーション等の消費アイテムも入れられるだけ入れている。


「武器はこれで問題無し。アイテムも最高の品ばかりだし、問題があるとすれば防具か……」


 人体に置いて重要な器官が集まっている胴体を護るのは高硬度を誇る金属――トロイビア鉱石で造られた黒い胸甲きょうこうつきのもみ皮の上着バフ・コート。そして脚を護る同じくトロイビア鉱石製のすね当てと、同じ素材で造られた籠手。その上から更に隠蔽ハイデイング効果付きの黒いマントを羽織る。

 これらは全てスキルの実験で造っただけの試作品だが、用意させた素材を加工するのにユニークスキル<英雄宿すこの身の空想ヒロイック・シンドローム>を使用し、完成した品に左手に宿るもう一つのユニークスキル<神堕とす忌むべき左手アンチ・ゴッドハンド>を使って能力を付加した品ばかりだ。だから見た目からは考えられない能力を秘めたレアアイテムである。

 バフ・コートは着ているだけで筋力、防御力、回復力、俊敏性と言った全体的な身体能力の飛躍的に上昇させる効果を持っているし、籠手は膂力と防御力を強化、すね当ては俊敏性と機動力上昇と言った効果を持つ。黒いマントは先ほども言った様に隠蔽ハイデイング能力持ちだ。

 <神堕とす忌むべき左手アンチ・ゴッドハンド>で自分自身に何か付加する事はできないが、あらかじめある物に新しい能力を付加する事はできる。そうして物を媒介にすれば、弱点と言ってもよかった肉体の強化は容易かった。


 暫く思案した後、自らの装備に問題は無いと判断して、リュウスケは背後で直立不動を貫く【仮面舞踏会マスカレード】を見る。

 【仮面舞踏会マスカレード】を構成するのは全てユニークスキル<神堕とす忌むべき左手アンチ・ゴッドハンド>で精神を一旦壊され、能力値が元々高かった肉体を更に改造されて、リュウスケの為なら自己の安否など構う事無く動くようになった、元死刑囚か重犯罪者だった者達である。


 喜の表情を浮かべる仮面を被るのは、国内で燻っていた反乱軍のリーダーだった青年だ。

 歳は二十前半と若く、かつて傭兵だった経歴を持つ彼の体躯は無駄な贅肉ぜいにくをそぎ落とした結果細く引き締まっており、身長も百八十と大き過ぎる事はないが目の前にすると身長の倍以上にも感じる程強い威圧感を漲らせている。

 手にするのはまるで炎のように揺らめく刀身をした紅い片手剣フランベルジュと、逆三角形を伸ばした様な形をした盾<カイトシールド>。

 防具は魔獣の皮で造られた服の上に立派な胸当てブレスト・プレートを取り付けたモノと、手足を保護するすね当てや籠手のみ。些か軽装だが、手数と速度を基本とした彼本来の戦闘スタイルを活かす為に防具全てに軽量化と速度倍加の能力が付加されている。カイトシールドもあるので防御面でも問題は無いだろう。

 ただ、三日月のような笑みを浮かべる仮面が、最早笑うしかなくなった彼の心境を表しているようんだった。


 怒の表情を浮かべる仮面を被るのは、捕虜とした敵将兵だった男。

 本来ならば彼が所属していた国――<ドラングリム>が滅びたのだから見せしめも兼ねて殺す筈だったが、戦場の前線で両手斧を振り回し、コチラの兵士をまるで雑草の如く斬り殺していた様は凄まじく、その為リュウスケが自らの護衛として採用したのでる。

 鋼の筋肉を全身に搭載し、二メートル近くまるで熊のような彼を包み込むのは赤色の全身装甲鎧フルプレート・アーマー。背には彼と同じ大きさもありそうなほど巨大な両手斧がある。

 味方とは分かっていても、彼の姿は見るモノを圧倒していた。

 それに怒りを浮かべた仮面は、彼の誇りも信念も全て奪い取ったリュウスケをまるで睨みつけている様にも見える。


 哀の表情を浮かべる仮面を被るのは、その豊満で妖艶な肢体で多くの貴族や軍人を虜にしていた、革命軍の幹部の女だ。

 牢獄で鎖に繋がれていたのを人材発掘の際に見つけ、その身体を存分に堪能した後、リュウスケは彼女の色香に迷う事無く精神を破壊した。ただもったいなかったとは思うが、しかし壊され生きる人形と成った今でも彼女の美しさは損なわれてはいない。

 濡れているような光沢のある綺麗な黒髪に、悲しげな形を造る仮面の目の孔から覗く瞳の色はエメラルドのようで、しかし精神を壊され光がなくなった眼だからこそ、無機質な美しさが窺える。

 体にぴったりとフィットした黒革の鎧を身に付け、形のいい乳房や豊かなヒップのラインがより一層際立ってていた。武装は腰に差した二本のハンティング・ナイフと、ベルトに挟まれた投げナイフのみ。

 仮面を被っていたとしても薄れる事の無い彼女の色香とその艶やかな肢体を晒す露出過多の装備は、きっと敵の虚を突くに適しているだろう。そしてハンティング・ナイフによる二刀流は、女性特有のしなやかさで敵を翻弄するだろう。


 楽の表情を浮かべる仮面を被るのは、夜な夜な街を徘徊して娼婦などを数十名も残酷に斬り殺した元快楽殺人者だ。

 元々城下町で肉屋を経営していた彼は、動物の肉を切り裂いていく内に“肉を分ける”という行為自体に快楽を覚えるようになり、生きた小動物から段々と大きな生き物を殺していった結果、ついには人間を殺すようになったそうだ。そしてその結果は先も言ったとおりである。

 ダラリと力無く垂れ下がった手に握られているのは彼が人間を切り分ける際、実際に使用していた鉈の様な肉切り包丁だ。彼が殺した被害者達の血で錆びた包丁の切れ味は見るからに鈍そうで、実際に鈍い。斬るといよりも潰し斬る、という表現が近いだろう。

 刀身から窺える殺人行為の名残りはあまりにも生々しく、しかも恨みの残滓が消える前に上書きしていった結果、ある種の呪いまで付加されている曰くつきの一品だ。

 そしてまるで調理人のような白い服の上に、解体の際の返り血で濡れた皮製のエプロンをつけ、楽の笑みを浮かべる仮面は不気味の一言に尽きる。

 見ていて気分がいいモノでは決してない。


 自らが製作した作品を装備した【仮面舞踏会マスカレード】にも問題は無いと判断し、リュウスケは一言、今は<クアンティス>の完全制圧を行っているだろうキグゼム・アムルタート・ラスタに告げるべく周囲を窺う。

 しかし視界内にはその姿は見られず、ならば仕方ないと傍に控えていた兵士に言伝を頼んだ。


「ハッ! 畏まりましたリュウスケ様」


 敬礼の後に走り去る彼の後ろ姿を見送った後、リュウスケは一度大きく深呼吸してから、スキルを発動。




【スキル現象<集団転移>が発動しました】




 リュウスケと【仮面舞踏会マスカレード】の姿が、一瞬で消失した。






 リュウスケは知らない。

 行った先で待ち受ける存在の大きさを。


 リュウスケは知る事になる。

 世界の広さと、自分はこの世界では新参者でしかないと言う事を。

 ことわざにもあるように、好奇心は猫をも殺すと言う事を。


 リュウスケは、ただ、無知だった。ただ、無知だったのだ。

 しかし無知だからこそ、知識を欲する彼には避ける事の出来なかった未来なのかもしれない……。



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