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第五十五話 手加減はできないシスターさんのお話

 肌寒い夜風が猛然と吹きつける中、今代の勇者リュウスケは満足そうに、先ほどの実験に対して考察を行っていた。


「風景の切り替わりと四肢欠損は無いことから実験には成功……副作用も今のところは無し、か。はははははは、やはりこのスキル法則は実に、実に面白い」


 リュウスケが先ほど実験したのは、点と点を繋ぎ物資を一瞬で超長距離まで移動させる【空間転移テレポート】と呼ばれる事象である。

 そしてそれはそれを成した、リュウスケが持つ二つのユニークスキルの内の一つ、<英雄宿すこの身の空想ヒロイック・シンドローム>の性能調査も兼ねていた。


 リュウスケに宿るユニークスキル<英雄宿すこの身の空想ヒロイック・シンドローム>は、魔力を代償にしてリュウスケが想像した事を理屈抜きで実現する。


 生物を直接死滅させる事はできない――空気を猛毒に変え殺すなどは可能だが――や、一度に大量の魔力を消費するなど幾つかある条件で能力に制約が施されているのでリスク無しの完全無欠な万能スキル、とはとても言えないのだが、リュウスケが何かを想像する限り、制約をクリアする限りはそれに際限はない。

 ただ、『想像する』と一言で言えば簡単そうで便利なように思えるかもしれない――事実、限りなく便利ではある――が、実は案外難しい事でもあった。

 『想像する』という発動条件の為に瞬発力に欠けるのは明白で、しかも漠然と何も考えずに既存の現象をそのまま想像し、具現化しただけだと多くの場合、それはリュウスケにとって不都合な結果をもたらす事となる。それは実際に体験し、既に捕虜とした敵国ドラングリムの人間を使った人体実験で想像外の結果に終わった事が幾らかあった事で判明した事実だ。

 例を上げれば火を想像した際、自分自身、もしくは味方には何の害も及ばないという条件も同時に想像しなければ、リュウスケ自身が燃やされてしまうか、輻射熱等で周囲の味方が火傷を負う事になる。

 一番最初に蝋燭の火を想像し現実化させた事でその事を経験する事ができたのはリュウスケにとって不幸中の幸いだったと言うしかない。もしいきなり三千度の炎などを想像してしまっていたら、取り返しもつかない事になっていたかもしれない。

 その為毎日のようにリュウスケはスキルを十全に扱えるように訓練を繰り返し行っていた。それはリュウスケの自力を上げるために必要な行為であり、同時にリュウスケの知的好奇心を埋めるための趣味の時間となった。

 好奇心が赴くまま、毎日暇さえあればスキルを扱う訓練を行い続け、その結果、この世界に召喚されて早二十数日、リュウスケはスキルの扱いにもだいぶ慣れてきていた。

 スキル発動の際に妨害を受けない限りは、今のリュウスケは自らを傷つける類の失敗をする事はないだろう。


 そして先ほどリュウスケが想像し現実としたスキル現象、【空間転移テレポート】――別称で【異相跳躍ジャンプ】、【超光速航行ワープ】などと呼ばれるが殆ど同じモノ――は、リュウスケが居た次元では日常生活にまで浸透している技術の一つであり、どういうものかもよく知っているだけに想像するのも容易く、制約にも引っ掛かる事が無かった為に問題なく成功した。

 【空間転移テレポート】について簡単に説明をするならば、電子手帳型やら腕輪型など様々な形式に進化した専用ツールを用い、政府が完全管理する倉庫にタオルなどを予め転移させておいて、運動後など必要な時に引き落とすなどして使用される、携帯電話のように普及したモノだ。

 昔は転移距離も限られた局地的なモノでそこまで便利と言う物でも無かったが、現在では一つの星全域までカバーできる程技術が発展しているので、リュウスケも材料集めなどの際にはかなりお世話になっていた。

 ただし、普通なら今回の様に生物を【空間転移テレポート】させる事は広大な宇宙を踏破するべく建設された大型星間船でしか行われてはいない。

 それは生物を何の処置も施さずに【空間転移テレポート】させると、転移後に身体の一部が無くなっていたり、精神が壊れてしまう事が殆どだからだ。例え処置を施したとしても何の障害も無く転移が成功する可能性は限りなく低く、つまり生物を直接転移させる事は大変危険なのだ。

 それを成す為には全身を覆い保護する強力な防御フィールドを発生させられる装置が必要になるのだが、そうホイホイと製造できるほど安価ではなく、現在それが搭載されている大型星間船にしか生物を安全に【空間転移テレポート】させる事を可能とする装置――【ブロージアの心臓】が実装されていないのはそのためだ。

 最も、あと数年か十数年も経てば装置も小型化され、生活の一部として生物の転送が行われるようになるかもしれない。技術は日々成長するので先の事は分からない。

 だが、今は大型星間船にしか無理だ。かなり無茶をすれば今でもできない事もないが、先ほども述べたように危険過ぎる。


 しかし、それをユニークスキル<英雄宿すこの身の空想ヒロイック・シンドローム>は容易くクリアしてみせた。今の技術を超越したスキルと言う法則に、リュウスケはどうしようもなく知的好奇心を刺激される。

 探究者としては、今までは捕虜とした敵兵で実験を繰り返していた結果から安全だと確信できたので、やはり実感してみたくなるものなのだろう。

 恐らく今回の戦争の最後の戦いになるだろう今宵、態々【空間転移テレポート】を使ったのはそれが原因だった。


 転移対象は自分自身。

 目的地は竜空国家<ドラングリム>の首都<クアンティス>。


 今回首都を落とした後、そのまま街を制圧する為の部隊を引き連れて近くまで一緒に来ていた軍隊の指揮官であり、天槍<轟き奔る雷鳴神の腕ブロントティンクトゥース>の継承者でもあるキグゼム・アムルタート・ラスタとの相談の結果、実戦に置けるスキルの実験と実験材料の確保、そして早々にこの戦争を終わらせて無駄な金を浪費する事を避ける、という名目の下、リュウスケがまず単独で転移し、城の警備の撹乱を行う事となった。

 派手に暴れて、注意を引く囮の役割と言えばいいのだろうか。もっとも、リュウスケならばそのまま落とせると踏んだから、というのもあるが。


 そして転移に成功した今、想像通り眼前には<クアンティス>の中心に聳える城があった。


「っと、仕事はささっと終わらせないと」


 実験成功に対する感想は一旦横に置き、リュウスケは想像する。

 想像するのは【飛翔】。重力の楔から解き放たれた身体が自由に空を飛びまわる様を。まるで背中に空想の翅が生え、天空を駆ける様を。

 



 【スキル現象<光翅飛翔>が発生しました】 




 それは二つの翅だった。透き通る様に薄く、妖精のモノに似ているだろう白い翅である。

 背中からスキルを使って生じさせたその翅を高速で動かす事でリュウスケの身体が空に舞い上がり、三十五メートルほど上がった所で停止させる。

 高度が上がった事で先ほどより強く寒い風を全身で感じるが、リュウスケの左手に宿るもう一つのユニークスキル<神堕とす忌むべき左手アンチ・ゴッドハンド>で魔改造を施している純白のコートの防寒性は非常に優れ、この程度では全く寒さを感じる事は無かった。

 ただ生身を晒す頭部はそうもいかない。

 かなり寒い。息が白く染まる程度には、気温も低い。

 だからそれを改善すべく再びリュウスケは想像する。

 煌々と燃える炎の塊を。掌に収まるそれは小さくも凍える身体を温かくしてくれるモノなのだと。




 【スキル現象<適温火球>が発生しました】




 ボウッ、と掌の上で炎が灯る。小さく、しかしそれは想像通りリュウスケを身体の芯まで温める。

 しばしそれで暖をとったリュウスケは一度、標的となる城を見る。ココに来るまでに繰り返された実験で、リュウスケはこれから繰り出す攻撃を防がれる事はないと確信していた。

 以前試しに強力な魔獣と戦ってみたのだが、天剣を二つも装備し、二つのユニークスキルを持つリュウスケの前ではゴミも同然だったのだ。あれ一体を殺すだけで中隊規模の戦力を必要とするらしく、それを苦も無く排除できる力があったからこそ、ココに至るまであった城塞都市を圧倒的な立場から落として来れたのだ。

 だからリュウスケの一撃が不意打ちだったとしても、予め予告していたとしても、コレから発生する結果には変わりがないだろうし、例え変哲の無い農村だろうが最も防御が厚いだろう首都と言えど大した差異ではない。

 ノーマルスキルとレアスキルの間には覆し難い差が存在するように、レアスキルとユニークスキルの間は絶対に埋められない溝がある。レアスキルでさえ持つ者が少ないこの世界で、ユニークスキルを持つ事の意味を、リュウスケは正確に把握していたのだ。


 だから、想像できなかった。圧倒的なまでの力を手に入れたからこそ、それ以上の存在がこの世界には居ないのだと無意識の内に思っていたが為に。


「取りあえず、一撃で気力を削ぎ落そうか」


 掌で揺らめく炎を見ながら、リュウスケは再び想像する。

 この炎が百メートル程にまで巨大化し、しかし当たった対象を燃やすのではなく押し潰すのだと。【燃やす】という炎本来の特性を無くし、それを破壊力に変換する。

 燃やさないのは城に保管されているだろう金銀財宝が目的なのに、それら全てを燃やし尽くしてしまっては意味が無いからだ。

 だから、破壊力も多少調節して壊すのは城の表面近くまでに留める。深部まで完全に壊さなければ、リュウスケのスキルで幾らでも補修できるだろうという考えでもあった。


 


 【スキル現象<肥大化><無燃焼化><性質変化>が発生しました】




 スキルが発動し、その変化は劇的だった。

 掌サイズの炎は一秒ごとにその大きさを増し、三秒もしない内に百メートル近くにまで巨大化した。想像通りこれほど大きい炎の塊だというのに熱くはない。煌々と輝き夜闇を切り裂く光量は、これから滅びゆくこの国に手向ける聖光とでもしようか。

 火球が完成するのを見届け、リュウスケは再度城を見る。

 紅球の光に照らされ、どこか不気味ながらも威厳に満ちた様を。

 滅びる直前の最後の姿を。

 その姿を記憶に留めた後、リュウスケは肥大化した火球を投擲した。


 それはまるで隕石のようで。

 それはまさに隕石の如く。


 轟音と共に城を砕いた。










 ■ Д ■









 突然起きた敵襲に城が俄かに慌ただしくなっていくのを感じながら、デスフィールドは爆心地に居たのにも関わらず無傷でその場から動く事無く佇んでいた。

 機玩具人形次女であるデスフィールドがこの程度の攻撃でダメージを負う事は無かったが、多少なりとも交流のあったクロワザの死に黙祷を捧げる為にその場から動いてはいなかった。

 デスフィールドにとってクロワザは態々助けるような存在ではなかったものの、その死に祈りを捧げるのは修道女シスターでもある彼女の性分と言った所だろうか。

 肉片も残す事無く死んでしまったクロワザからすれば恨み言の一つや二つあったかもしれない行動ではあるが、そうするくらいなら助けてくれと言いたかったことだろうが、デスフィールドからすればむしろ祈りを捧げてあげるだけマシだと言うに違いない。

 クロワザは自国の民でもなく、また裏では小細工を行っていた事をデスフィールドは知っていたのだ。なのに助けろと言う方がどうかしていると言えよう。

 

「……さて、では【火竜石】の回収に赴きましょうか」


 黙祷の時間が終わる。銀色の双眸が頭上に浮かぶ【火竜石】を見つめる。

 いまだ撒き上がる粉塵を腕の一振りで散らし、その華奢な体躯を人外の脚力でもって夜空に打ち上げる。

 それはまるでロケットのようだった。衝撃で床が更に崩壊したが関係はなく、そもそも既に崩壊していたのだから何を言われる筋合いもない。


「……いい星空ですね。とても、綺麗です」


 空を駆けるデスフィールドは、視界一杯に溢れた夜空を見て率直な気持ちを零していた。一つ上の姉、ポイズンリリーとデスフィールドはよく星空を見に行くのだが、雲も無く、季節的に今は一層美しく見える時だった事もあって、本当に綺麗な星空がそこにあった。

 だが他の者が居れば星空にではなく、デスフィールドにこそ見惚れてしまうだろう。

 月光に照らされた金色の髪はキラキラと煌めき、質素ながら仕立てのいい黒と白を基調とした服が今はまるで天の衣のようであり、空に舞い上がるその様は幻想的で。


 ただただ、美しかった。神秘的で、魔的に、魅力的だった。


 やがて跳躍も終わり、デスフィールドの身体は【火竜石】に到達する。

 【火竜石】の周囲の重力は歪められているのか、まるで頭から地面に落下するような錯覚を覚え、デスフィールドは反射的に身体を半回転する事で無事着地する事に成功した。

 第三者から見ればまるで蝙蝠のようだと思うだろう。見上げれば頭上に地上がある。

 美しかった星空とは違い、崩壊した城に慌ただしげな喧騒に包まれだした城内は見ていて気持ちのいいモノではない。

 騒がしい事を嫌うデスフィールドは一瞬全てを消滅させてしまおうか、とも思ったが、それを成すには唯一無二の主であり生みの親であるカナメの許可が必要だ。

 カナメが敵と定めたならば躊躇いも無く殺し尽くせるが、そうでないのならできる限り自重しなければならない。

 ただ、余波で壊れるのは仕方が無いとだけは先に言っておかねばならないが。


「こんばんは、今代の勇者リュウスケさん」


 デスフィールドの美声が空間に浸透する。

 スキルで姿を消し、静かに近づいていたリュウスケにとってそれはまさに不意打ちだった。


「……貴女は、何者だ?」


 姿を隠す事が無意味だと悟ったのか、何も無かった空間から、まるで滲み出てくるようにリュウスケの姿が現れる。

 手には既に転移させた白銀に輝く大弓――天弓<猛り狂う暴風神の嵐ラウドラ>と、同じく白銀に輝く斧槍――天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>があった。

 

「私の名は死滅領域デスフィールド。独立国家<アヴァロン>内での最大宗教【カナメ教】を信仰する修道女シスターです」


 二コリ、と冷たくも美しい微笑みを向ける。

 それは確かに美しかった。美しく、魔的な魅力を帯びた微笑み。

 それに見惚れると同時に、リュウスケの中で何かが警鐘を鳴らす。圧倒的な上位者を前にしたような、草食動物が肉食動物の接近を悟りいち早く逃げだす寸前のような、何か。

 本能と言えばいいのだろうか。

 逃げねば殺されると、早く殺さねばコチラが殺されると錯覚してしまうほどの、恐怖心とも言えるかもしれない。


 だからそれは無意識だった。

 右手に持った天弓<猛り狂う暴風神の嵐ラウドラ>に天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>を番え、撃ち出したのは。


 天弓<猛り狂う暴風神の嵐ラウドラ>は撃ち出した矢を幾千幾万にも増やす【増殖】という能力があると恋人であり王女でもあるアミルに説明され、今まで受け継がれてきたそうだが、実際の所それは違った。一定時間で消失する紛い物である事には変わりないが、撃ち出したものならばなんであろうが増やす事ができるというのが本当の能力なのだ。


 ただ弓であったが故に、矢以外のモノを撃ち出すと言う思考の選択肢が無かっただけで。


 その事に気がついたのは、【天剣十二本】全てに付加されていたリスクアビリティ【生命搾取】をリュウスケがどうにか無くそうと思考錯誤していた時だった。

 結局の所【生命搾取】で吸い取られる量を大幅に減らす事しかできてはいないのだが、その時に知ったこの方法を実際に試したのは最初の街<アールマティ>だった。

 天剣を二本も使用したその攻撃は強力無比で、降り注ぐ幾千幾万の天斧槍の全てが纏う【愚焼】は全てを燃やし尽くした。まさに圧倒的だった。ただの一人も逃がさず殺し尽くすのには十分すぎる程に。

 この攻撃の前に逃げ場など無い。広範囲に分裂する事で面を制圧し、また一撃一撃が一撃必殺である上に、掠るだけで炎の追加ダメージが付与されるのだ。しかも一度燃えたら燃やしつくすまで消える事の無い炎は敵を確実に殺すだろう。

 その上にスキルの補助も施したリュウスケの攻撃は、一国の兵全てを一度に焼き滅ぼせる。

 

 しかし、相手が悪過ぎた。


 高速で射出された天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>。

 距離が近かった事もあって【増殖】の能力で増えたのは五百六十七本だけだったが、それでも十分、だと思えた。

 リュウスケからすれば、これで何とも言えぬこの感情から解放されると安堵できる程度には、自信のあった一撃だ。

 されど、デスフィールドはその唇を僅かに震わせるだけで事足りる程度の事でしかなかった。


「――<炎神の戯れフラッシュオーバー>」

 

 それは黒い爆炎だった。

 何処からともなく発生した黒い爆炎は、デスフィールドに向かっていた五百六十六本のハルムベルテを包み込み、全てを燃やすとされた概念能力【愚焼】の炎ごと燃やし尽くした。

 炎が炎に燃やされていく様は何とも表現し難いモノであるが、そうと言うしかない光景だった。

 スキルで支援まで施した一撃、それを完膚なきまでに打ち砕かれた事でリュウスケの思考が一瞬凍結してしまったのも仕方が無い。

 しかしその間にも物事は進み、ただ一本だけ残された本物オリジナルのハルムベルテはデスフィールドが苦も無く片手で受け止めていた。

 全体が燃えているハルムベルテの炎で服も肌も焼かれる様子は全く無く、それに驚愕すると同時に、ただつまらなさそうにリュウスケを見るデスフィールドの双眸に何とも言えない感情を抱く。

 何と言えばいいのか分からないが、ただ強く思うそれに似た感情は――


「この程度ですか……期待外れにも程がありますね。しかし、ふむ、成長すればカナメ様の暇つぶしにはなる、のでしょうか?」

 

 答えを出す前に紡がれたその言葉に、出かけた言葉が引っ込んだ。

 今から思いだそうにもすぐに思いだせず、一旦それを思考の片隅に追いやり、リュウスケは転移させた普通の矢をラウドラに番えながら、問いかける。


「アヴァロン……確か世界最強と言う国家、だったか。貴女は、そこの人間だそうだけど、貴女のような事ができる存在が何人も居るのか?」


 もう少ししたらアヴァロンに行ってみようとリュウスケは思っていた。

 しかしまさか、もし仮に、こんな事ができる存在が後何人も居るとなると……。


「さぁ? 私が質問に答える義理はありませんけど。ですが、私の信仰する神はこう言うでしょう。

 『知りたかったら来たらいいじゃん』、と。また、

 『動かない奴に知る権利はない』、とも言うでしょう」


「…………」


 どう言えばいいのか困った。

 一瞬間抜け面を晒してしまったリュウスケを無視し、デスフィールドはポイっと掴んでいたハルムベルテをリュウスケに投げ戻した。それと同時に、デスフィールドの影から二つの人影が現れる。

 地面で煌々と燃える炎に照らされた事で現れたのは双子だと分かる二人の少女。

 髪はくすんだ朱色のウェーブヘアで、小さな青い花の髪飾りが付いている。身にまとうのは黒と白を基調としたフリルが多めの可愛らしいメイド服。

 まつ毛の長い大きな眼、すこしだけ丸く小さな鼻、そしてとても愛嬌のある童顔をした、複製したかのように細部まで同じ顔。

 それは空間湾曲跳躍型として造られた双子、リリヤとアリヤだった。デスフィールドの意思を感じ、迎えに来たのである。

 小さく可愛い二人の妹の頭を慈しむように撫でてから、三人はリュウスケに軽く一礼をした。


「では、後はどうぞご勝手に」


『御機嫌よう』


 デスフィールドに続く形で、リリヤとアリヤの重なった声が響く。

 そしてリリヤとアリヤの能力が発動し、デスフィールドと【火竜石】が忽然と消失した。

 後に残るのは、黒い爆炎の巻き添えでも喰らったのか轟々と激しく燃える城と街の一部と、茫然としたリュウスケだけだった。


「アヴァロン……か。行く価値は、ある……のか」


 ポツリと呟かれたその声は、星空に溶けて消えていった。




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