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第五十三話 崩壊と始まりと、二番目の存在

 【浮遊石】と呼ばれる特殊な鉱石が、この世界アルカディアスには存在している。

 どこぞの名作アニメに出て来そうな名称であると同時に、その魔石の能力も似通ったモノである。ただ、装着者を護るため半ば自動的に浮遊力場を造って保護したり、なんの加工もせず空気に触れると力を失うと言った事はない。色は無く、まるで透明なガラス片のようにも見える。

 その能力は名称に浮遊とついているだけに、また前振りした通り、物理法則を無視して物体を宙に浮かせる事。小石程度の大きさでも武装した成人男性一人分程度の重量は浮かす事が可能だ。

 その他の特性の一つとして大きくなればなるほど浮かせられる重量は増大し、五メートルクラスにもなると、一都市程の大きさの岩石を浮かべる事も可能になる。その場合は【浮遊石】ではなく、【浮遊島】と呼び名が変化する。

 魔界だと【浮遊島】の上に街を造り住んでいる種族も存在しており、【浮遊石】はアヴァロンでも地下と地上を行き来するエレベーターに使用されているし、その他にも飛行車やエアラダーなど様々な場所・魔道具に使用されている。


 しかし、それはあくまでも魔界とアヴァロンの話だ。


 【浮遊石】は自然魔力が充実した魔界ではさして珍しいモノではないが、比較的自然魔力が少ない人間界では【浮遊石】の絶対数は少なく、【浮遊島】と呼ばれるのも数えるくらいにしかない。人間界で【浮遊石】は大変貴重な鉱石に分類されている。

 が、完全に無い訳ではない。魔界に比べて規模が小さくなりはするものの、それが採れる国も人間界にはある。

 その一つが竜空国家<ドラングリム>だ。


 ――いや、ドラングリムの場合はかつて採掘できる国だった、と言う方が正確だろう。


 ドラングリムは【浮遊石】を採掘する為に集った人間によって生まれた国で、建国当時は宙に幾つか小さな【浮遊島】と【浮遊石】の塊が幾十ほど浮かんでいた。それらを魔術や魔道具を用い、長い月日をかけて少しずつ少しずつ採掘し、採掘した【浮遊石】を使ってドラングリムはだんだんと発展していった。

 短時間ながら空に浮かぶ魔道具を開発する事に成功したのにもそれは拍車をかける事になる。効率が飛躍的に上昇したからだ。

 しかし地下資源にも限りがあるように、空に浮かぶ資源は無限ではなく有限である。

 採掘技術が高くなれば高くなるほど残っていた宙に浮かんでいる【浮遊石】の数は激減し、徐々に徐々に宙に浮かぶ影は消えていった。しかしそれでも他国よりは多かった事と、小指の爪程度の大きさでも非常に高額だった事もあり、当時は大して気にすることなく採掘し続け、月日は流れて、結果として最も有名な交易品である【浮遊石】が枯渇しようとし始めてようやくドラングリムの上層部は危機感を覚える。

 いや、目を背けていた問題と向き合ったと言うべきだろう。

 だから当然何とかしようと対策を練り、改善しようと躍起になった。以前から問題に対して対策を練っていた少数の存在もあって、それを用いた話し合いを繰り返した結果、ある程度の見通しはたった。

 後は徐々に方向を修正する事となり、以前よりは若干の衰退はあるものの、国としての体制を崩すことなく存続する筈だったのだが、しかしそこで問題が起こった。

 何処からともなくやって来たロ級の火竜種【レッドテール】が、残っていた最後の、小さくも空にデンと君臨していた【浮遊島】に住み着いてしまったのだ。しかも住み着いた火竜は巣穴に近づく外敵を排除する習性を持つ。

 それは少ない例外を除いた竜種全てに当てはまる事だ。

 その為他の【浮遊石】を僅かばかりも取れなくなったばかりか、首都<クアンティス>上空に火竜が住む結果となり。それがどれ程の問題を内包していたか、想像するのは容易い。

 ただ幸運にも火竜は縄張りに入らない限り一日の大半は深い眠りにつき、数日に一度だけ食事を必要とする珍しいタイプだったので、即狩り場として首都が襲われる事は無かった。それがなければ首都は壊滅、運がよくて諸機関に大打撃を受けつつも火竜に痛撃を与えて撃退、となっただろう。ただどっちみち被害が拡大するのは必至だった。

 しかし、猶予ができたのは最後の救いであり、しかし同時に絶望を噛み締める時間となる。

 火竜が動き出すのが何時になるのか分からないが、そう長い事は無いと思われた。逃げるにせよ戦うにせよ、時間は限られている上に、状況は如何ともし難い。

 制空権は取られ、近づく事さえ許されない。よしんば近づけたとしても、鋼鉄以上の強度を誇る竜の鱗を貫く事は容易くなく、またその下にある強靭な筋肉は重要な器官まで武器を届かす事が無い。そして十数メートルはある巨躯から滲み出る圧倒的存在感で兵は怯み、全身に纏う強力な<対魔力>が魔術による攻撃を減衰・無効化してしまう。

 それに確実に殺せる手段が無いまま下手に手を出して刺激すれば、破滅は即座にやって来る。逃げるにせよそれが刺激となって火竜が襲ってくるかもしれない、という恐怖もあった。そんな状況を、当時のドラングリムは自力で解決する事ができなかった。

 ただ単純に、火竜を殺すだけの手段を持ち得ていなかった為に。いや、火竜を殺せる程の実力を持つ者は俗に英雄などと崇められるような存在なのだから、それも仕方が無い。そこ等に英雄など転がっているワケが無い。


 だから、苦渋の決断が成された。


 遥かに優れた軍事力を持つ他国に頼んだのだ、火竜を殺してくれと。どんな条件でも良いから、早く殺してくれと頭を下げた。土下座した、と言ってもいい。

 それは屈辱だったのだろう。現に後のドラングリムの歴史書からはその事実が完全に消し去られ、今は王族と一部の人間しか知る者はいない。そうしなければならなかった彼らの感情は、最早知る事はできないが、そうしなければ何かを保つ事はできなかったのだとは察する事ができる。

 そして一時プライドを捨てた事により、彼らの願いは聞き遂げられ、危機は去った。

 それも呆気なく、採掘し保管していた【浮遊石】と、唯一残り火竜が住み着いていた【浮遊島】、それ等全てを差し出す事で、火竜は殺された。駆逐された。ものの数分程度で、ドラングリムに絶望を齎した火竜は圧倒的強者の前に屍を晒す事になった。

 殺したのは二人の男女だったと記録されている。一人は黒を基調とした質素ながらも仕立てのいい服を着た中年で筋肉質な男性で、もう一人は紫を基調とした露出度の高い服を身に纏った美女だったそうだ。

 その後、火竜を容易く駆逐した男女に対してやはり耐えきれない矜持でもあったのか、約束を破り報酬を渡す際配下の騎士を使い暗殺しようとした結果、返り討ちとなり生首と成り果てたドラングリム王の残骸を踏みつけ、騎士だった大量の肉片と鮮血の海の中に佇みながら、竜殺の男の気紛れか、とある交渉をする事になる。

 それが、竜空国家<ドラングリム>が特殊な軍事力を保有するきっかけになったと言うのは、また、別の話で。








 ■ ■ ■




 





「くそッ! 勇者と言う者はこれほどまでに強力なのかッ!!」


 竜空国家<ドラングリム>の首都、クアンティス。

 あらゆる外敵の進攻を阻む為に三百年前に名を轟かせた天才魔術建築家マーブルによって建築された四重の円を描く堅牢な石造りの城壁は未だ破られたことはなく、城下町は攻め込んできた敵兵を惑わす迷路の如き様相を見せる。緻密な計算の上で配置された家屋は実は大規模魔術を発動するための魔術陣を描いており、また侵入して来た敵兵の虚を突く際に活躍する隠しルートが幾つか存在しているなど、実はかなりギミックに富んだ都市である。

 そんなクアンティスの中心に聳える白亜の王城、その中でも高い位置にあるとある一室。

 そこで高級な素材をふんだんに使用した、朱色の糸で竜翼のような模様が描かれている衣を身に纏う二十代後半から三十代前半だろう男性が苛立ちをぶちまけていた。白銀に輝く髪は後ろで一本に纏められ、まるで尻尾のようにも見えるそれは苛立ちからか激しく揺れている。


「それに、【天剣十二本】を何故こうも国外で多用できる!」


 男性の名前はクロワザ・ネフェルト・アインテェル・ドラングリム。

 幼い時より武芸や政治、芸術や乗馬など多方面に対して抜きん出た才覚を示した神童として知られ、その為に幾度も謀殺されかけはしたものの、その全てを自力で退け続けて八年程前に王位についた男である。

 昔から列強として知られる天剣国家<アルティア>の侵略をその手腕でもって退け続けた前王ハクワザの後を継ぐに充分な能力とカリスマを有し、また自国を大きくするためなら如何なる手間を惜しむことなく、あらゆる手段を使う意地汚さを持っている。

 その溢れんばかりの才能は王になると同時に惜しげも無く注ぎ込まれ、ここ数年では大規模な侵攻ではなく国境間の小競り合い程度と大人しくなっていたが、再び攻め込んで来るのは分かりきっていたアルティアに対して、その奥深くにまで極秘で教育・訓練させてきた諜報部隊“蜥蜴”を潜入させる事に成功した。

 その際アルティアで最も恐ろしい兵器である国宝【天剣十二本】の絶大的な能力と、そして決定的な弱点と言うべき欠陥を集められた様々な情報から纏め、答えを見出すに至る。その上更には継承者の一人だったアブルナ大公を長期計画で毒を服用させ、病死に見せかけて暗殺させる事にも成功していた。

 もし仮にクロワザの思い描いた道筋通りに行っていれば、列強国が入れ替わっていた可能性もあっただろう。

 だが、現実は、勇者と言う存在は、クロワザのように才能を持つ上に努力する存在を蹂躙する化物である。


「たった二日で三つの防衛都市が陥落、都市の住民は皆殺しになり、兵の士気は低くなり続ける……か。ふざけるなッ!」


 クロワザは此度の戦争に際し、以前から幾重にも用意していた策を発動させ、万全の態勢で臨んだ。

 一度は内乱の援助もしたアヴァロンから兵を養う食料を素知らぬ顔で買い求め、高額だが戦争時だから、と幾分値下げされた魔術礼装を溜めていた金貨で大量に購入し、それを使って防衛都市の守りを強化までした。

 それにクアンティスの王城の上空に浮かぶ、とぐろを巻いた竜の様な形をした【火竜石】――かつて味わった屈辱そのものであり、恥辱を忘れる事を許さない為の楔であり、国内最強の戦力を確保する為に必要な生産機でもある、国の象徴だ――から、二ヶ月に一度――つまり一年に六回――だけ産み落とされる【火竜卵】から適合者が近づくと自動的に孵化する飛火竜レッサーワイバーン、それに選ばれし竜騎士で構成される火竜騎士団の増員並びに魔術礼装の装備も以前よりも遥かに良くなった。

 これならば例え【天剣十二本】が数本出てこようとも、地と空の空間的で流動的な連携でアルティアの大戦力とも対等以上に渡り合えるはずだったのだ。


 だがそんな彼の目論見は、既に破綻したと言ってもいい。


 確かにクロワザの策はアルティアに痛撃を浴びせ、【天剣十二本】継承者を打倒しえるものではあった。だが、卓上の外から投下された“勇者”と言うファクターは彼の策を粉々に叩き壊し、確実に領土を侵食しながら迫ってきている。それも相当な早さで。

 彼の手元にある報告書によれば、アルティアとの国境近くにあるだけに常に熾烈な防衛戦を強いられ、しかし落とされた事がなかった防衛都市<アールマティ>は天から幾万幾億と降り注ぐ爆炎を纏った斧槍による絨毯爆撃によって蹂躙された。

 次の防衛都市<フルティーダ>は<アールマティ>同様、空からの奇襲が始まりだった。ただ今回降り注いだのは大小様々な氷塊であり、留めとなったのは防衛都市の中心を引き裂く巨大な地割れだった。空と地の二重攻撃によって<フルティーダ>はこの世から消滅した。

 三番目の防衛都市<アルルティ>は腐臭を漂わせ、腐った肉体を持つゾンビとなってこの世に舞い戻らされたドラングリムの兵士達による物量により制圧され、住民は骨の髄まで犯されてしまった。食糧にされた者も、アルティアの兵士に犯された者もいただろう。先の二つの都市とは違い、<アルルティ>は明らかに略奪が目的だったように思える。

 こんな馬鹿げた被害が、たった二日で起こったのだ。

 それまでは奇襲強襲策略等でアルティアの大戦力に打撃を与えて士気を高めていたというのに、勇者が出てきてからは連敗に次ぐ連敗となり、天を突くほど高かった士気は最早巻き返し不可能なまでに下がってしまった。

 

「これが……勇者、か……」


 勇者。魔術の到達点である継承魔術によってこの世界に召喚されし異世界の住人。

 魔界の住民たる魔族を統べし絶対王にして、人類の敵対者である魔王を撃ち滅ぼす一本の槍。

 その能力の凄まじさは伝説や書物で知ってはいたが、まさか自らがそれに穂先を向けられるとは、流石のクロワザも予想する事はできなかった。

 そして百数十年召喚される事無く、と言うか巨大なリスクが存在しながら召喚する準備さえできるかどうかも分からなかった勇者を召喚しようなどと、クロワザ自身一片たりとも思った事は無かったが、今になってその存在の異常さを、そして勇者という存在の影響力について深く思い知らされる。


 だが、と諦めで思考を止める事無くクロワザは考える。


 まだ、勇者ですら殺せるだけの存在がこの世界には居る。

 それが、失敗に終わったものの、内密に内乱の支援をした国――独立国家<アヴァロン>だ。

 例え勇者と言えども所詮は一人。アヴァロンという強大な国を相手取れば、流石に致死は確実だろう。それに所詮列強国<アルティア>とは言え、<アヴァロン>を相手にしてまで戦争しようなどとは思うまい。

 アヴァロンが少し本気になれば国営は滞る事になり、また簡単に瓦解させる事だって可能だろう。

 古くから国に張り巡らされたギルドホームは傭兵という金で雇える戦力を統括するだけでなく、国民の生活の支えとなってしまっているからだ。

 それを取り除く事は大変体力を要するモノであり、また国内から一斉に排除するにも、職員の戦闘力は厄介極りない。まだ王になる前に一度、“蜥蜴”を造る前にあった諜報部隊“蝙蝠”に追跡させてみたが、夜道を歩くあどけない少女のようなモノでも、あっさりと隠密に長けた蝙蝠の追跡を看破し、碌な抵抗も許す事無く打破してきた。

 後日その報告と共に一通の手紙が来た時は、流石にキモが冷やされた。

 最も救いだったのは、少女が実はギルドホームの管理者――ギルド長であり、まだ王子だった事もあって、見逃してもらえた事だ。過去こういった事はあったらしく、情けをかけられた結果である。

 確かに当時は悔しかった。その悔しさをばねに“蝙蝠”よりも優れた“蜥蜴”ができたのだし、驕りも多少小さくなったのだから勉強になったのは間違いない。

 話を戻すが、アヴァロンの影響力は絶対だ。だからアヴァロンがコチラに軍を出し、勇者を殺してくれさえすれば、まだ、どうにかなるだろう。

 コチラは勇者が消えた事により萎えた士気はこれまで以上に高まり、アチラは勇者が消えた事により士気は下がる。戦場に置いて兵の士気程戦況を変えうる要因は無い。確かに戦略も重要だが、それを実行する兵の士気程ではないと考える。

 だからこそ今の状況が絶望的で、挽回するには最早それしかない。

 とはいえ、アヴァロンに真正面から助けを乞うても動く事はないだろう。それは考えるまでも無く歴史が教えてくれている。

 しかし、その内部の人間からアヴァロン王に直訴してくれたらどうだ? それも近い立場の人ならば尚いいだろう。私情で動く王は実際自らの立場からしてどうかとも思うが、彼女・・から話を聞いた限り、アヴァロン王は気紛れな所がある。

 それに女に弱いとも。

 なら、彼女を説得すれば十分可能性はある。丁度、夜の食事にも誘っていたのだ。タイミングも良かった。

 溜まった怒りを発散したクロワザは、どのように話そうかと考えつつ、少年のように高鳴る心音をあえて無視し、自室から出ていった。

 






 ■ Д ■







「大変美味しゅうございました。……して、話とは何でしょうか、クロワザさん?」


 長テーブルで対面しながら食事をする二人の間には遠い空間が空いていた。

 上座にはこの城の主たるクロワザが座り、その反対には客人として現在王城に来訪していたアヴァロンの重鎮の一人である女性が座っていた。

 女性の年は十代後半か二十代前半とかなり若く、また美しかった。修道女を思わせる服は控えめな雰囲気を醸し出すが、まるで陽光のように煌めく金髪と見られただけで魂が掌握されてしまいそうな魅力を宿した銀色の瞳はただそれだけで一国の主でさえも黙らせる力を持っている。

 まるで女神が現実世界に顕現されたかのような美貌を前に、男女問わず言葉を無くしてしまうのも仕方が無い。現に今、この部屋で待機している侍女も衛兵も、クロワザでさえもその美に引き込まれてしまっている。

 彼女の王を敬う事無く、ただの友人程度の扱いしかしていない言動を正す事さえできないほどに。

 だが王としての矜持か、クロワザは内心の感情をにじませる事無く言葉を紡ぐ。


「ええ、簡単な話ですよ、フィールド嬢。アヴァロンに勇者の暗殺を依頼したいのです」


「やはり勇者の暗殺、ですか。まあ、縋りたくなる気持ちが分からなくもありませんけど。それに私も、一度帰って来いと言われていますし、話すだけなら問題は無いでしょう」


「本当ですか」


 予想外に進む話に思わず腰が浮きかけるクロワザだったが、しかし次いで響く声で落ち着きを取り戻す事になる。


「ただ、王はそう簡単に動く事は無いでしょう。何れは何かするでしょうけれど、即座に動く可能性は低い。それに、コチラに益がありません」


 その言い分はもっともだと思い、クロワザは一瞬何を言うべきか迷い――


 そして、全てが手遅れだったと知る。


「それに……全ては最早手遅れです。ドラングリムは今晩中に崩壊します。ああ、それと私達の妹――【火竜石】は回収させて頂きますので。

 残っている飛火竜レッサーワイバーンは、どうぞそのままお使い下さい」


 彼女の言葉の意味がクロワザには一瞬分からなかった。

 ドラングリムが崩壊する? 馬鹿な、と否定する言葉が出てきそうになって、しかし窓から見える外の異変に気がついた。


「あり、えな……い」


 それは最初、小さな点だった。夜空に輝く星のようだったそれは、しかし一秒ごとに大きさを増し、増し、増し、ついには太陽のような光量をもって夜の闇を切り裂いた。


 それは直径百メートルはあるだろう火球だ。


 魔術で造られたにしては巨大過ぎるそれは、茫然としたクロワザに構う事無く王城に撃ち込まれた。丁度この部屋を直撃するルートであり、このまま行けばクロワザは死ぬだろう。確実に。

 レアスキル<魔術師>を持っていないクロワザでは防ぐ事はできず、また唯一防げるだろう存在に視線を向けて――


 そこにあったのは、冷たい微笑だった。


「貴方の来世の幸せを祈らせてもらいましょう」


 彼女――機玩具人形次女にして広域殲滅型として造られたデスフィールドの美し過ぎる微笑が、クロワザが最後に見たものになった。 

 火球が直撃し、王城を圧倒的な破壊が蹂躙する。


 竜空国家<ドラングリム>の崩壊は、今。


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