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第五十二話 天剣十二本と戦争の予感

 

 国宝【天剣十二本】

 

 それはこの世界で屈強と広く知られる程の軍事力と、それを支えられるだけの広大な土地を保有し、多数の属国を持つ事から列強国の一つに数えられている天剣国家<アルティア>が大昔から保有する十二個の至高の武具の総称である。

 勘違いを起こす前に言って置かねばならないだろうが、【天剣十二本】、とは言われているものの何故だか十二本の剣の事をさして言っている訳ではなく、と言うか、むしろ剣の形をした物はただ一本しかなかったりする。

 軽い詐欺のようなものだが制作者がそう定めたらしく、なぜそうなったかは分かっていない。もっと別の名称もあったのではないか、とは言えるかもしれないが、最早そんな話には意味はなく。

 ただ十二の武具に共通する事に、そのどれもが現在の技術では複製不可能な上に、世界が内包する理を扱う魔術でも説明できない、過程をスッ飛ばして結果だけを引き出すという目茶苦茶で摩訶不可思議な能力を内包してる、と言うのがある。

 その異能を持って幾十幾百幾千の戦場で振われ、血統ではなく実力によって世代を重ねながら受け継がれ、今尚使用され続けているそれ等が奪った敵兵の命など数知れず、また救った味方の命も数知れない。

 アルティアの歴史では危機的状況に置いて必ずと言っていい程登場し、また国の象徴であるだけあって様々な英雄譚の中でも英雄が携える武器として民間に広がったり、世界を放浪する吟遊詩人達の語りによって国内外問わずにその存在を知られている。

 その結果、自然な成り行きで国民からは羨望と信仰の対象として、他国の人間からは畏怖と恐怖の対象となっている武具。それが国宝【天剣十二本】だ。

 だが不思議な事に、代々アルティアに継承されてきたと言うのに【天剣十二本】はアルティアが保有し管理している膨大な数の歴史書の何処にも製造者に始まり、製造年月日や構成金属はおろかそれ等の生成法や能力の付加方法など、それら一切が記されてはいなかった。ただ知られているのは、単純な物理攻撃では破壊不能と言う事と劣化しないと言う事、個々の能力とその使用方法、特定条件下で発生する副作用だけである。

 アルティアで代々継承されているのだから過去にアルティアで暮らしていた誰かが造ったに違いないはずなのだが、しかし歴史書には【天剣十二本】が幾度もアルティアの危機から救ったと語るのみで、正確な事実は今尚解明されてはいない。

 その覆せない事実が、過去歴史に消えていった幾人もの研究者を悩ませ続けている。

 それは継承される国宝の正しい過去と詳細な情報を知りたいと思う感情。だけではなく、【天剣十二本】について更に深い部分に隠された秘密が識りたいからに他ならなかった。

 もし仮に【天剣十二本】の精製法が解明できたならば、それによって劣化版でも良いので複製できるようになれば、アルティアは飛躍的躍進を得られるはずなのだ。

 世界最強と名高い独立国家<アヴァロン>にも対抗できるようになる可能性すら生じるほどに。

 だから戦力拡大並びに強化の為、現代の武具の中でも強力なモノとして認知されている魔術礼装さえ及ばない程の強力な能力を内包している【天剣十二本】の精製技術を長年貪欲にアルティアは欲し、数百年にも及ぶ長き時間をかけて解き明かそうとし続けた。

 いや、それは今尚続けられている。極秘裏にだがそれを研究する為の魔術師チームが結成されている。

 しかし、得られるモノは既に知っていた事以外、何一つ無かった。

 過去の魔術師チームによって【天剣十二本】の能力は何かしらの魔術により諸現象を発現させているのではないか、とも考えられはした事もあったのだが、しかし魔術では説明できないと言う結論に至り、結局の所は相も変わらず解明できてはいない。

 つまるところ、国宝【天剣十二本】は強力無比な武具であり、広く知られている兵器であると同時に、多くの秘密を内包している謎の塊と言う事である。




 ◆ ◆




 窓の外で月が輝く深夜。

 与えられた部屋に備え付けられ一目で高級品だと分かる天蓋付きのベッドの上で、今日も獣欲と愛情とほんの僅かな慰みの為の行為を終えた。

 その甘い余韻に浸り、やがては睡魔に屈するその直前まで国宝【天剣十二本】に関する話しを艶やかに過ぎる韻律で紡ぎ、そして一糸纏わぬ生まれたままの姿を薄いシーツで隠して、愛しき女――天剣国家<アルティア>第一王女アミルティアナ・エル・ファーブルナ・アルティアは眠りについている。

 腕にかかるアミルの存在感――つまりは腕枕と言う奴か――に僕は安心しているのだろう、召喚されてからアミルと一緒に寝るようになって僕は安らかに眠れるようになったのだから。

 傍らで可愛らしい寝顔を無防備に晒すアミルを起こさないよう、ゆっくりと優しく、まるで最高級の絹のような手触りをした金色の髪を右手ですくい上げる。毎日丁寧に手入れがなされているのだろう、全く指に絡むことなく滑るように手から零れいくその感触を確かめた。その直後、彼女の匂いが鼻孔をくすぐった。

 男では決してあり得ない、女性特有の甘い匂い。愛しき者の匂いならば、いつまでも嗅いで居たいと思う魅力を宿したそれ。

 もっと嗅ぎたいと思いアミルに顔を近づけ、先ほどの行為が鮮明に蘇る。若さ故か、再び元気を取り戻し始めた身体が本能のままに暴走しないよう、リュウスケはアミルの身体をそっと抱きしめた。

 しかしその行為は逆に悪化させる結果になってしまい、急遽今にも暴れ出そうとする気分を落ちつかせる為に、リュウスケの思考はアミルが語ってくれた【天剣十二本】へと向けられる。


 伝説の武器。至高の武具。十二の神具。

 それが【天剣十二本】。

 アミルから聞き、幾つか実際に見せてもらったその能力は、たった一つを見ても凄まじい。

 どういう原理なのか、好奇心をかき立てられるのに足る不可思議さがそこにはあった。


 天剣<天地統べる天空神の理スルタン・シュチェルビェツ>は【天剣十二本】を束ねる【王者】の能力を有し、ただ持つだけで敵には“恐慌”と“畏怖”の状態異常バッドステータスを付加だけでなく軍指揮に補正が発生する【軍略】の能力を持つ。しかもそれだけでなく、【隷従】の能力によって近くに他の【天剣十二本】があればその力を自らのモノとして実際に使用する事ができる。

 つまりは天剣<天地統べる天空神の理スルタン・シュチェルビェツ>こそが【天剣十二本】の根幹であり、その強力無比な能力だけに、継承するのは王族と決められているらしい。

 話を聞いた時に僕は残念だ、と素直に思った。そんな伝統がある限り、僕が天剣を貰う可能性は皆無だろうから。

 男ならやはり剣を、勇者ならば至高の剣を携えてみたいと思っていたからこそ、僕の落胆ぶりは察してもらいたい。


 天魔杖<紡ぎ滅す暗黒神の知フレイザー・ウォンド>は魔術が齎す様々な効果を高める【肥大】の能力を有し、また仕込み刃にはどんなに厚い金属でも抵抗力を下げて斬り伏せる【弱防】の効果が付加されている。

 確かに強力な能力と言えるけど、スキルでそれらを代用できる僕には無用の長物だろう。それに既に継承者は決められていて、アルティアの魔術師長エグンサ・ギグル・バルトロメロイが保有しているとか。


 天槍<轟き奔る雷鳴神の腕ブロントティンクトゥース>はまさに電光石火の一撃を放つ【雷鳴】の能力を有し、その一撃は【天剣十二本】の中でも最速。その速度を十全に発揮すればまるで雨のような連続攻撃を放つ事ができる。また雷の如き投擲を行っても、【帰還】の能力で自動的に手元に戻るらしい。

 ただ能力が強力な分扱いが難しいらしく、また継承者は槍の名家でもあるアムルタート家の当主・キグゼム・アムルタート・ラスタで、今もココから遠い戦場で使用され、敵兵の命を狩っているそうだ。


 天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>は炎熱を纏い万象を燃やす【愚焼】の能力を有し、一薙ぎで十数名の敵兵を燃え散らす事もできるとか。それに魔術やスキルで強化しても重過ぎてマトモに扱えないような重量なのに、継承者だけには小枝みたいに扱えるよう【剛腕】の能力を付加するとか。

 継承者はアミルの伯父にあたるアブルナ大公だったらしいけど、つい先日病死してしまったので今は継承者が決まっていない。


 天槌<万象砕く大地母神の拳マグマテルイデア>は撃ちつけた対象を砕く【圧砕】の能力を有し、また投擲すれば一定時間だけとはいえ目標を追尾する【追跡】の能力を持っている。

 数日前に僕に近接戦の手解きをしてくれた、女性なのにアルティアで最も強いと名高い破鎚隊大隊長の位にまで昇進した武人、メリッサ・マーブル・ベラがその継承者。彼女には実際にあっているのでその能力を見せてもらったけど、凄かったの一言に尽きる。


 天鞭<快楽溺れし嗜虐神の性サドマゾ・パラフィリア>は、もう、何だかネタの様で強力無比な幻術能力である【快楽】を有しているらしい。【選別】で攻撃対象者が加虐性欲者か被虐性欲者なのかを判別し、加虐性欲者には一方的にコチラを攻め立てると言う幻を見せ続ける事で意識を奪い、被虐性欲者には身動きを取れなくしたうえで一方的に攻められるようになる、らしい。

 継承者は拷問殲滅官のコメット・トトロ・メイ。戦場の死神と呼ばれる筋肉マッチョのホモでドSな怖い人だとか。


 天弓<猛り狂う暴風神の嵐ラウドラ>は射出した矢を幾千幾万にも増やす【増殖】の能力を有し、一矢空に向かって打ち出せば、それだけで敵には死の雨が降り注ぐ。また【装風】の能力で移動力や防御力も上昇し、まさに移動砲台になれるらしい。

 継承者は弓兵隊大将であり、幾千の戦場を踏破した老将ティア・フラット・ガンマ。つい先日会った時には、もう戦えないだろうと思える程のお爺さんだった。でも、その目だけは死んでいないのは記憶に新しい。


 天砲<唸り吼える獣神の咆哮フォール・バリスタ>は魔力の塊を放つ【絶咆】の能力を有する大砲だった。その大きさのせいで瞬間的な機動力は絶無と言っていいものの、しかしその一撃は天剣を除く他の【天剣十二本】と隔絶しているらしい。もう一つの能力でもある【装弾】によって予め弾丸をセットしておけば、後は戦場にセットし放つだけで、敵を殲滅できる。

 これは個人での運用というよりも軍隊規模の大人数でなくては迅速にセッティングできないらしいが、しかしこんな世界に大砲がある事自体、興味をそそると言うしかないだろう。


 天盾<諌め遮る戦女神の拒絶ライオットスクトゥム>は敵の攻撃を【拒絶】する能力を有し、前面だけとはいえ、その絶対防御を崩された事は今まで一度も無く、また継承者には【祝福】の能力によってスタミナも体力も回復し続ける。

 現在の継承者は一度も治める都市を落とされた事が無い事から防壁卿と呼ばれている大男のカザリック・エマ・ハーン。防御系のレアスキルを保有するヒトで、カザリックと天鎚継承者のメリッサが行ってくれた模擬戦は凄かった。圧巻、と言うべきか、まるで映画でも見ているような気さえした。

 ただそこで少し分かったのは、【天剣十二本】同士だと、どちらの能力も相殺し合って片方だけが破壊される、となる事は無かったと言う事だった。

 そこが何を意味する、謎を知りたいと欲望が沸き上がる。


 天鎧<苦行遮る戦神の皮膚フリューテッド・セグメン>は鎧と言うよりもラバースーツのようなシロモノで、動きを阻害することなく全身を完全に覆い隠し、攻防一体となる【破走】と【感知】の能力を有しているとか。不可思議なオーラを纏う【破走】は触れるだけで相手を血の海に沈め、敵の攻撃を察する【感知】は先手を取るそうだ。

 継承者は女性でありながら類稀な武を魅せ、十九歳と言う僕と二歳しか変わらない若さで王族親衛隊総隊長となっている、メバル・カーティス・グレン。彼女の剣舞は、純粋に凄いとため息が漏れる。


 天手甲<守手仕る鍛冶神の膂力イルアン・グローベル>は単純な膂力を上昇させる【狂膂】を有し、初めて触れる武器だろうとも達人の如く扱う事ができる【熟練】を有するそうだ。

 武器を扱うだけでなく、純粋に殴るだけでもヒト程度ならば爆散できるそうなのだから凄まじい。

 現在の継承者は前線で今も働き敵を屠っているであろう、天槍継承者のキグゼムの護衛を務める、アビルダー・グレース・エデン。僕よりも若い彼女はしかし、その力を遺憾なく発揮して戦況を有利にしているそうだ。


 天足具<讃え広めん救世主の脚メルシアロート>は攻性能力を有してはいないが、しかし伝達系の能力である【瞬足】と【伝心】を持ち、主に戦場と司令部や街と街を繋ぐ連絡手段に使われているらしい。

 しかしそんな地味な仕事だけではなく、その速さから接近戦では最も恐ろしいとされているそうだ。天槍の雷のような突きも恐いが、視覚外から高速で繰り出された斬撃を防げるものは、予め知っていなければ存在しないとも言われるほどだ。

 継承者は僕と同い年の青年、バツ・レイス・クーロン。年も近い事もあって仲良くなってはいるんだけど、なかなか解析させてくれない。なんでも如何に勇者とて国宝を無用に触れさせていいのか自分では判断できない、らしい。

 まあ、仕方ないかとも思わなくはないけど、見せてくれたらいいのに、と思ってしまう。



 これら超絶の能力を秘めし【天剣十二本】。

 ただし代償とも欠陥とも言えるのだが、能力使用の際に継承者の生命力を吸っていく、という特性がある。そして他国に攻め入る時ほど生命力の消費は激しく、もし天剣など使おうものならば、ただ一度でその命が枯れてしまいかねかほどだとか。

 それさえなければ、アルティアはもっと勢力を拡大させていたのは間違いないだろう。

 だがしかし、その欠点があっても天剣国家<アルティア>が誇る至高の武具には変わりなく。その欠陥は仕方が無い事だと諦められているそうだ。

 でも、とリュウスケは思う。 

 見つめるのは、自らの左手。

 物質の性質を改変する能力であるユニークスキル<神堕とす忌むべき左手アンチ・ゴッドハンド>を宿した、自らの左手だ。

 

(コレを使えば天剣の能力も変更できるかもしれない。できる可能性は、高い、よな。まだ、分からないけど)


 触れる事ができれば、と思う。しかし未だ触れさせてもらえていない自分を歯痒く思いながら、リュウスケにもやがては睡魔が舞い降りた。

 薄れていく意識の中で、リュウスケはまるで何かに縋るようにぎゅっと、しかし優しくアミルを抱きしめて、ゆっくりと眠りに落ちた。

 










 ◆ Д ◆










 ついこの間に百数十年ぶりに勇者を召喚した同じ列強国の一つである神光国家<オルブライト>に若干の遅れはありつつも、<アルティア>は今代の勇者リュウスケを召喚してみせた。

 それは偉大な快挙であり、召喚に成功したと言うだけで様々な価値が付加される事になるのは、過去の歴史が物語っている。国内は勇者召喚による歴史的な出来事を切っ掛けに更に活発に動き出し、旅商人はここぞとばかりに商品を売るため首都へと赴く。

 一時とは言えアルティアはこれまで以上に活発な動きを見せ、また戦争中と言う事も相成って兵達の士気は高揚し、敵兵の士気は下がると言った効果もあった。

 ただオルブライトの時のように美少女の勇者ではなく、黒髪黒眼で知的な顔立ちをした美少年だった為か規模は若干小さく感じられるモノの、しかしそんな事はどうでもいいと言える些事だった。

 そんなアルティアの王城。厳かな雰囲気で満ち満ちる洋風の謁見の間。

 そこにリュウスケは頭を垂れて膝をついていた。


「お呼びでしょうか、国王様」


 リュウスケが頭を垂れるのは、アルティアの国王シュハザム。

 白髪の上に王冠を乗せ、白い髭を蓄えた八十にはなりそうな老人。顔には皺が目立ち、豪奢な服から見える手は肉が削げたように細くしわくちゃで、しかしその青い双眸だけは力強さが宿っていた。

 一見すればか弱い老人でしかない国王だが、しかしレアスキル<服従眼>を持つ国王シュハザムの瞳は何の構えもしていない者が見れば服従を強制する能力を持っている。

 ユニークスキルに目覚める前は十七という月日しか生きていなかったリュウスケではそれに抗う事ができず、自分の祖父ほども年が離れていそうな国王が放つ王者のオーラに屈服するしか無かった。

 ただ、その精神的拘束も最近では綻びを見せる。

 リュウスケがユニークスキルに目覚め、この世界について知識を蓄えだしたからだ。リュウスケがその気になれば、シュハザムのスキルを無効化する事も容易い。

 しかし、リュウスケはかかったままという演技をする事にしていた。

 理由としては色んな事があるが、第一に、そう思わせていた方が色々楽だからである。


「うむ……。汝に国宝の内の二つを授ける故、呼んだのじゃ。授けるのはティアが退いた事により継承者が決まっておらなんだ天弓<猛り狂う暴風神の嵐ラウドラ>と、今は亡き我が弟が振っていた天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>じゃ」


 言葉の一つ一つがリュウスケに重く圧し掛かる、そんな錯覚。

 レアスキル<服従眼>がリュウスケの精神を揺さぶり、そう感じさせているのだ。


「そして命令する。この二つの国宝を持ち、我が国を愚かにも攻めてくる竜空国家<ドラングリム>を殲滅せよ」

 

 思わずリュウスケは顔を上げた。

 覚悟していたとはいえ、流石にヒトを殺した事も無いリュウスケには気分が重くなる話題ではあった。

 しかし、コチラに向かってくる二人の従者が持っている品を見た瞬間、そんな考えはすっ飛んでしまった。

 

「勇者リュウスケ様。コチラが国宝、天弓<猛り狂う暴風神の嵐ラウドラ>で御座います」


 それは身の丈ほどもある巨大な弓だった。素材が何であるのかは見当もつかないが、白金色の金属で出来たそれは美しく、また細かい装飾が施された見た目は、武器と言うよりも芸術品に近かった。

 従者に差し出され、立ち上がり、それを緊張した面持ちで、右手で握る。巨大な見た目に反して、圧倒的に軽いそれはまるで羽毛の様で。

  

「……握っただけで、身体が軽くなった?」


 ただ握るだけで内包する能力が発動したのか、リュウスケの身体はまるで重力がなくなったかのように軽くなった。

 これが【装風】の能力なのか、一体どういう原理でこうなっている、どこからエネルギーを捻り出している? 等々、リュウスケの内心で謎が謎を生みだし続けていく。

 

「はは……本当に、凄いな」


 結論から言えば、今は分からないと言う事だ。まだ、もっと落ちついた場所でじっくりと調べなければ分かりそうにない。


「勇者リュウスケ様。コチラが国宝、天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>で御座います」


 もう一人の従者から差し出されたのは、同じく白金の金属で造られた斧槍――所謂ハルバートと呼ばれる奴だ。長さは軽く二メートル以上あり、弧を描く巨大な刃は岩でもバターのように斬れそうな迫力がある。

 ただ先ほどの天弓とは違い、それは従者が持ってはいなかった。浮いていたのだ。腕の上数センチ程で滞空していた。

 何故だろうと一瞬考え、ああ、と次の瞬間には納得する。

 アミルから聞いた話だと、天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>は途轍もなく重かったはずだ。なら、魔術か何かでそうしているのだろう。

 なんて考えていたら、差し出す従者の額にうっすらと汗が浮かんでいるのに気が付いた。無理をしていたのだろう。内心で謝罪しつつ、今度は空いた左手で握り締めた。



 【ユニークスキル<神堕とす忌むべき左手アンチ・ゴッドハンド>が発動しました】



 No.■0■■075 【天剣十二本】 天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>

 ■久:■ 魔■:E ■力:■ 属■:炎、力 

 ■力:A 技■:B ■度:■- ■包■念:■

 ア■リティ:【愚焼】【剛腕】

 リス■■ビリ■ィ:【生■搾取】【■■■攻■■■】

 ■史:■物主■■■によって■■■■年に製造された■■であり、■■■からすれば■■のような■■だが、友好的だった■■■■■■に■■形で■■■■れている。

 ■具としては■レベルの■品。■歴史とも■う。



 途端脳内に流れ込んでくる天斧槍<猛り燃える暴炎神の波ハルムベルテ>の情報。とは言え、まだ断片的なモノばかりな上、文字化けでもしたかのように情報の大部分が隠されていたが。

 時間さえあれば、どうにかなりそうな雰囲気ではあった事だけを心に留める。


「有難う御座います」


「よいよい。では、用は済んだ。我が命、汝の全力を持って遂行せよ」


「畏まりました」


 少々大げさだが敬意を払って頷き、リュウスケは謁見の間から退出すべく身を翻した。

 国王に背を向ける形になってようやく、一歩自らが夢想する幻想に近づいて、リュウスケの顔は歪な笑みを造る。両手に持つ二つの国宝の重さと存在感を確かめ。自然と口角はつり上がり、未来の栄華を幻視する。

 既にリュウスケの中では他者を蹂躙する事に対しての忌避感は欲望によって掻き消され、ただただ勇者として自らが崇められる様を、未知の知識を抱え込む様を思い描くばかりで……。





 リュウスケが召喚されて一ヶ月もたたない間に、世界中を震撼させる戦争が――否、一方的な虐殺が、始まろうとしていた。

 運命は、エゴと欲によって加速する。


 えーこれだけ書けば分かっているとは思いますが、新勇者リュウスケのコンセプトは厨二です。スキルも国も周囲もそんな感じで書くのでうだうだと説明を書き連ねる事を危惧し、今後面倒な説明を省略する為にこの回を説明につぎ込んだみたいな。

 だからそこら辺はご了承ください。

 というか、流石に一気にゴテゴテな十二の宝具を考えるのはキツかった。主に精神的な意味で。もう吐血しまくりな意味で。

 え? 今更? ソンナバカナー。


 まあ、今後はきちんとストーリーを進めていく所存であります。


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