第三十五話 二日目 王女と親衛隊と、魔獣の混沌
フェルメリア親衛隊に所属している弓兵のクリス・イェーガーは息を殺したまま、十数メートル先の疑似魔獣に狙いを定めた。獲物の警戒心が薄れる瞬間を狙い打つ。
(……今ッ!)
木と金属によって造られた愛弓から放たれた矢は、魔術師である少女――パティーに予め付加してもらっていた貫通力強化の魔術の効果とクリスの射撃技術が相まって、狙い通り真っ直ぐ疑似魔獣の眉間に突き刺さり、そのまま肉体を貫通して後ろの樹に深々と突き刺さる。
貫かれた疑似魔獣は断末魔の叫びをあげられるはずもなく、標的は重低音を響かせながら倒れこむ。
「よし」
「相変わらず、いい腕やんなぁクリス」
仕留めた獲物に満足していると、一見すれば山賊か盗賊にしか見えない顔付が特徴的な、同僚であり先輩でもある聖典騎士ルシアン・エステルハージが傍に居た。ルシアンに頭を軽く叩かれた衝撃で乱れてしまった金髪を整えつつ、誉められた気恥ずかしさでクリスは笑みを溢す。
つられてルシアンも笑みを零すが、一変して真剣な表情になった。
「しかし今日で二日目やけど、今だ信じられんなぁ。これ、カナメってヤツがつくっちまったんだよな? ハッキリ言って、常識外やってここは」
周囲――草原ステージと呼ばれるここの広大な景色を見ながら、ルシアンはため息を漏らした。
それにクリスも同意する。
「現在十二階ですが、こんな空間が後百階以上もあるんですよね……ほんと、どういう理論で造られているんでしょうかね、ここ」
普通では考えられない馬鹿げた光景を見やりながら、クリスはあははと声を零しつつちょっと前の過去を振り返った。
祖国の宮廷魔術師十名と門の一族出の召喚師が膨大な量の魔力と長い時間を掛け、ようやく完成させた勇者召喚の儀によりこの世界に召喚された今代の勇者――セツナ様の護衛という誇りある任務を命ぜられたあの瞬間は生涯忘れる事は無いだろう。
自分の命が旅の途中で消えてしまう事も十分に考えられたが、しかしそれでも構わないと思ったモノだ。というか、このような案件に関われるだけでも自分には過ぎた事なのである。だから命断たれようが望むところだと、死んでも大丈夫なように覚悟を決めて国を経ってからたった数日しか過ぎていない。
だが、何故か今は魔王が待つ魔界ではなく、世界最強と名高い独立国家<アヴァロン>に来ているのはなぜだろうか。いや、言い訳は無用。
セツナ様に付いて行くと決めたのだから、これは今更掘り返す話題では無いだろう。
しかしながら、いざ着いてみれば想像以上の常識外な光景を目の当たりにしてしまった時に起こる、“開いた口が塞がらない症候群”に感染してしまったのは致し方ない事だと思う。
空を疾走する不可思議なボードに乗った少年少女の姿。本来ならば高難度であるはずの飛翔魔術を事も無げに、呼吸するかのように使用している老若男女。地面を高速で駆ける見た事も無い大きな箱に乗る大人達とそれ専用らしい通路。
これだけでも驚愕にあたいすると言うのに、アヴァロンはまだまだ驚きが溢れていた。驚きしか無かったとも言えるが。
人間の女性に案内されながら歩行者専用らしい道を歩いて行くと、道を行き交うのは人間だけではなく、明らかに魔族であろう異形達とすれ違うのだ。生まれて初めて魔族を間近で見た衝撃は、忘れられないだろう。
それにしばらく観察しているとどうやら魔族には様々な種族があるらしく、牛の様な角を生やした巨躯の男や、犬のような動物の耳と尻尾を生やした褐色の美女、頭が二つもあること以外は普通となんら変わらない子供が友達と共に笑顔で走り回る姿、竜翼に酷似している赤き一対の翼を背中に生やした鱗を持つ老人など、見ていて飽きる事が無い者ばかりである。
人間とは違う事に若干の恐れを抱いたのは事実であるし、幼少の頃から敵対すべき者として教育を施されてきたのだが、しかし今回は驚愕の方が圧倒的に勝っていたので敵意を覚える事は無い。
覚える暇がないのだ。
驚愕し観測しつつも何で魔族と人間が笑いあっているのか、と一瞬だけ思いはした。だが、アヴァロンは人間や魔族関係無く共存している唯一の国だというのは有名な話なのだから、よくよく冷静になって考えてみれば、それほど不思議な事ではないと理解できる。
今はまだ見慣れていないのだが、けれどこれが不思議な事ではなく普通なのだと思えてきているあたり、もしかしたら俺は既に知らない内に洗脳されているのかもしれない。などと空想を広げると怖くなるのでその思考を一時停止させる。
戯れ言はさておき、魔族はともかく流石に魔獣まで堂々と闊歩している光景には度肝を抜かれ冷や汗を流したのは記憶に新しい。
あれを見た時の驚きは魔族が居る以上のモノが在っただろう。ト級やヘ級などの低級魔獣ならばともかく、ホ級やニ級の中・上級魔獣まで普通に歩いている――あまつさえ普通に誰かを乗せている――のだからこれは一体どういう事か。すれ違うだけでいきなり襲われるんじゃないかと、恐怖で膝が震えたのは情けないながら事実。
正直言って、ニ級レベルにもなると俺はまったく勝てる気がしないのだ。というかそもそも弓兵である俺が近距離で敵うはずが無い。
先ほど仕留めた魔獣<子守り豚>も、ヘ級と低級ランクに分類されている。それでも貫通力強化の魔術を付加された矢じゃないと一撃で殺せないというのだから、魔獣という存在がどれだけ恐ろしいか分かると言うモノだ。
まあ、その恐怖も襲ってこないと説明されれば若干ながらも減少したし、これは情けない話なので今は横に置いておくとしよう。情けない話などしていても楽しくは無いのだし。
閑話休題。
俺がアヴァロンで驚かされた事は多々あれど、その中で一番衝撃的だったのは、様々な案内と夜食をとった後に通された俺達の部屋で見た、アヴァロンの夜景だった。
夜だというのに光りの絶えない都市はまるで宝石の様な美しさで、思わず見惚れたモノである。その美しさに言葉は奪われ、世界にはこんなにも美しいものがあるのだと教えられた。寝るまで夜景を見続けたもので、今もそれは続いている。
確かにここまでは、アヴァロンに来てよかったと思えた部分ではあった。
が、しかし現実は幻想のように甘くは無い。どうやら我々はセツナ様を除く全員――これには王女であらせられるフェルメリア様も含まれている――が最低限度の生活費しか支給されないようで、嗜好品や武器の手入れには各自でお金を稼ぐしか無いらしい。
つまりは贅沢したければ、働いて稼げと言う事である。
乗って来た様々な装備付きの馬車を換金すればそれなりの金になるとは説明されたが、流石にあれを売るのはまずいと判断されたフェルメリア様の命により、こうやって地道に疑似魔獣を殺したり、隠されている宝箱を探したりしてレアアイテムを集めるなどして金を稼ぐというのが、現在の疑似魔獣狩りをしている理由だった。
疑似魔獣を倒すと一定の確率で入手できるレアアイテムが換金されて、それなりの金額となって右手に装備したオプションリングなるものに振り込まれるようになっている、らしい。
まだ何かを買った事が無いので、そこの所は不明である。
「クリス、ルシアンさん、次に行きますよ」
「おう、了解了解。んで、次はどこにいるん? シェルティナ」
「二時の方向、草むらの向こう側に五体です」
ルシアンとクリスが無駄話をしていると、フェルメリア親衛隊の一人であり数少ない女性騎士であるシェルティナ・ハーテェスが声をかけた。レアスキル<感知者>を持つ彼女は親衛隊の索敵レーダーのような役割を担っているので、感じた疑似魔獣の情報を知らせに来たのである。
普段は氷のように冷たい雰囲気を纏っているシェルティナだが、実は小動物好きという事を知っているクリスは以前から彼女の事が気になっているのだが、それは誰も知らない秘密である。
「あいよー。んじゃ、今回は俺がいかせて貰おうかねー」
「感覚からして、ルシアンさんなら十分に可能かと。ですが、最低でもホ級レベルの疑似魔獣ですよ」
「おーいいねー、やっとマトモそうなのが出て来たじゃねーか」
そう言いながら嬉々とした表情を浮かべ、ルシアンは腰に佩いた愛剣を一息で抜刀した。
イ級の大海竜より得た素材を使って名匠が打ちだした水の魔剣<水竜報剣>が、溢れ出る魔力を抑え込んでいた鞘という封印から解き放たれ、その荒々しくも澄んだ魔力を溢れださせる。
澄んだ青色の刀身が空を斬る。
膨大な魔力が一瞬だけ周囲に重圧感として圧し掛かるが、その全てをルシアンは慣れた動作で一瞬で掌握。掌握した魔力を<水竜報剣>の刀身に集約させ、通常時でも岩を斬れる切れ味を飛躍的に上昇させる。すでに一片の魔力も乱れていない。
だが一瞬だけでも溢れた魔力は本能を刺激するのには十分だったらしく、シェルティナが感知した疑似魔獣に動きが生じる。
姿を隠していた草むらを跳び越え、ルシアン達の前に踊り出た。
「ギヤキャキャキャキャ」
「グキャキャ? キャキャッキャキャ」
出て来たのは百五十センチ程の身長をもち、異常に発達している両腕で握り拳を作りそれを地面につけて歩くナックルウォーキングと呼ばれる動きで近づくゴリラのようなサルだった。全身を覆う毛皮を下から押し上げ自分の存在を教えている大きく隆起した筋肉は敵を無言で威圧し、何より敵を見つけるとその身に炎を纏う事が特徴的であるホ級の魔獣――炎輝猿が奇声を上げながらクリス達を威嚇する。
体表が燃えているので普通なら近づく事も困難であり、さらには火系統魔術に似たモノまで攻撃手段として扱ってくる厄介な魔獣として知られている炎輝猿なのだが、しかしルシアンとの相性は最悪と言えた。
無論最悪なのは炎輝猿が、であるのは言うまでも無い。
炎輝猿の生体属性は名の通り火であり、ルシアンが振るう<水竜報剣>の素材から発生する生体属性もまたそのまま水。属性とは関係なしに力が強い方が勝る魔術とは違い、火や水と言った属性がより深く関係する生体属性の性質上、火は水に弱い。
それに炎輝猿よりも遥かに上位であるイ級の大海竜より造られた水の魔剣<水竜報剣>が、たかがホ級の炎輝猿が纏う炎に負けるはずがそもそもあり得ないのだ。
「最近はセツナにボロクソに負けてたんやけど、ここでちょっとは名誉挽回といかせて貰うかいなぁ」
水の魔剣<水竜報剣>を手に、ルシアンは大地を踏み砕かんばかりに蹴る。それにより得たエネルギーを使って風の様な速さで疾走し、炎輝猿との距離を瞬きの間に詰めた。
詰めて、水平に<水竜報剣>を一閃。ただそれだけの単調な攻撃で、一番近くにいた炎輝猿の胴体は抵抗もできずにあっさりと両断された。
断末魔の叫びを上げる事無く、炎輝猿の身体が宙を舞ってから地に転がり、疑似魔獣が死んだ証拠である灰となる。
水の加護を受けたルシアンには本来あるはずの炎による火傷の状態異常が起こる事は無く、ライフポイントには一ドットの減少も見られない。
相性の問題が、顕著に表れた例だろう。
そしてそれを離れた場所から見ていたクリスとシェルティナは、もはや自分達の出番は無いと判断し、三つに分かれて効率良く疑似魔獣狩りをしているフェルメリア達と合流する為に、予め決めていた合流ポイントまで、制限時間の区切りがよかったので移動する事にした。
どうせ二人が居ないと分かれば、炎輝猿を駆逐したルシアンも合流してくるだろうと考える。
後方で響く戦闘音を聞きながら、クリスとシェルティナはその場を後にした。
「シェルティナ、これだけ狩ってお金は幾らくらい貯まったのかな?」
「そうね……疑似魔獣を倒した数じゃなくて、得たレアアイテムの種類と数が問題だから、正確な計算は難しいわね。でも、私達の給料一ヶ月分は、確保出来ていると思うわ」
「あーなるほど。確かにレアアイテムの獲得数と値段の違いは計算し難いよね、そもそも価格が詳しく分からないし。疑似魔獣を倒した分だけお金が入ると楽なんだけどな」
「ルールはルール。そうなっているんだから、文句を言っても何も始まらないわ。なら、動いた方が有意義よ。それになにより、死ぬ心配がなく限界まで挑戦できるこの状況、活用しない方が勿体ない。
訓練だと思えば、これほどいい訓練もないからね」
うな垂れた弟のような態度を示したクリスに微笑みを向けつつ、シェルティナはそう諭した。
普段あまり見せないシェルティナの笑みにどぎまぎしつつ、しかしまだ自分が一人の男として見られていない事も気が付いているので、態度を改める。
「確かに、そうだね。俺としても、ルシアンさんみたいな強さが欲しい。まあ俺は弓兵だから、到達するべき場所は大きく違うんだけど」
「そうね。でも強さの根源って結局精神の強さだから、クリスじゃ何時までもルシアンさんには届かないかもね。貴方、精神的に弱い所があるし」
「勝手に言ってろ。俺は絶対強くなってやる。強くなるって、決めてるからね」
そう、なら楽しみにしているわ、と呟いて、シェルティナは穏やかな表情から緊張した顔付に一変させた。表情の急激な変化に一瞬焦りはしたものの、忙しなく周囲を鋭い目付きで伺うシェルティナの態度で、何か脅威が迫っているのだとクリスは悟る。
既にパティーによって貫通力強化の魔術が施された矢が無い事に舌打ちしつつ、残る通常の矢を愛弓に番えながら周囲に視線を走らせる。しかし草原ステージには草むらなどといった障害物が多く、シェルティナのようにレアスキル<感知者>を持たないクリスでは、シェルティナが感じた何かの正体の影すら見つけられない。
嫌な予感がして、冷や汗が頬を伝うのを感じた。
「どうした!?」
「分からない。けど間違いなく、何か……来る! 途轍もなく強烈な何かがッ!!」
たまらず叫んだクリスに、焦った声音でシャルティナがそう叫んだのとほぼ同時に、草むらから飛びだしてきた何かの影が二人の頭上に現れた。
咄嗟にクリスは飛びだした何かに向けて矢を放ち、狙い違わずその身を捉えた。だがその何かを矢が貫く事は無く、まるで小枝を折る様な軽い音と共に、矢は呆気なく弾かれてしまったのだ。
それに驚愕し、さらに驚愕が続く。
● Д ●
「いや~やっぱり人形みたいな可愛い女の子ってのはいいんよな~。ウチのリリー姉さんは見た目はもうドストライクやし優しくて大好きなんやけどな、やっぱこう、護りたくなる愛らしさっての? がちょっと欠けてるんよな~。リリー姉さんは何でも御座れの完璧超人やし。
あ、完璧超人形? が正しいんかな? ま、それはどうでもいいか。意味が伝わればいいんやしな。しかし、あ~ホンマこの子は小さくて可愛いなぁ~。アンタもそう思うやろ? 思うよな? 思わない筈が無いよな~。ん~グリグリグリグリ~」
「あ、あの、ちょ……こま、困りま、困り……た、助け……頬ずりしないで……」
「は、はぁ……」
聞き手を無視しているかのような速さで言われた事だったので、話の内容が半分程しか聞き取れなかったフェルメリアは、頷くしか選択肢が無かった。パティーの助けを請う視線を自然と受け流している辺り、状態異常で言えばまさに【混乱】状態であると言えよう。
そしてそれは他の親衛隊達も同様であった。
確かに、数名に別れて広範囲で疑似魔獣狩りを行っていたクリスとシェルティナが予め決めていた時間になって戻ってきたかと思えば、そこにはルシアンではなく見知らぬうさ耳を生やした魔族の少女が共に居て、オルブライトの王女であり第二位王位継承者である自分を前にしても萎縮や媚びる事のない態度を見せただけで、フェルメリアが混乱するに不足は無いモノであった。
その上更にフェルメリアと共にいた優秀な魔術師の少女――パティー・クリプトンを見るや否や、空に向かって伸びる向日葵を彷彿とさせる満面の笑みを浮かべて抱きしめ頬ずりしているこの状況、混乱するなというほうが難しいだろうし、とりあえず無意識に内に適切な反応を行えるほど、フェルメリアは応用性に長けてはいなかった。
本当ならば、とりあえず見知らぬ少女から抱きつかれ頬ずりをされているパティーを開放するのがベストな選択なのであろうが。
「いやーしかしアンタもなかなか可愛いなー。というか綺麗って表現がいいんかな? ま、可愛かろうが綺麗だろうがウチが手を出すんに関係ないしええんやけど。で、肝心の勇者ちゃんはどこにおるん? なんかメッチャ可愛い子が勇者やて噂で聞いて、急いで国に帰って来て、態々ココまできたんやけど~」
キョロキョロと周囲を見回す魔族の少女の姿を、フェルメリアは何者か見抜くために観察する。
頭部からはウサギの耳がピョコリと生えてピコピコと動き、彼女が魔族であると一目で分かるように誇示している。ゆるふわウェーブな橙髪は彼女が自由気ままで奔放なのだろうと思わせる要因の一つであり、ウサギみたいな赤い瞳が少しでもジッとしている事を嫌うかのように忙しなく動いている。
そこには警戒心よりも好奇心に満ちた光が宿っており、彼女が自分たちに敵意を抱いていないのだと分かる。
着ているのは危険な疑似魔獣やトラップが点在している迷宮には似つかわしくない、激しい動きをするのには不向きであろう、白とピンクが基調となっている肩が出たワンピースとミニスカートと黒いショートブーツ。晒された白く細い脚が同じ女性として羨ましく思う部分があるものの、セツナと同じ美少女である事には違いなかった。
それも、男性よりも同性――つまりは女性の方が、このウサ耳少女は好きらしい。それも小さく保護欲をかきたてられる女の子が好みらしく、なるほど、それだと未だ学徒であるパティーは彼女のストライクゾーンに入っているのか、と納得した。
「ええと、セツナなのですが」
「うん、何処に居るん?」
「セツナは私達と分れて、この国の王と共に居るはずですが……」
「なん、やて……?」
そんな馬鹿な、とまるでこの世の終わりとでも言いたそうな表情で氷りついた魔族の少女に思わずくすりと笑みが零れる。
「やら……れた。あの天邪鬼親父め。チャッカリキープしとんかいッ。悔しいなぁ、ほんま。ま、後で見せてもうけどなー。でもやられたなー悔しいわぁ」
態々来たのに空振りかー、と少女は吼える。
フェルメリアは、どうしても先ほど彼女が言った天邪鬼親父、という言葉が気になった。セツナを連れて行ったのはこの国の王。名をカナメというらしい黒髪黒眼の同い年くらいの平凡な容姿をした男だったはずだ。
なのにそれをさして天邪鬼親父とは、何故?
「王をさして天邪鬼親父ですって? 貴女は、一体何者なのですか?」
気が付けば、疑問が口から飛び出していた。
「ウチ? ウチは機玩具人形十一女にして魔獣内包使役型として造られた、混濁する魔獣の因子やけど? ま、親父の娘とかみたいな感じなんかな? そこのあたり実はハッキリと決められてへんから、気にする必要はないで。ウチはウチや。あ、そうそう。ウチの事はセリアンって呼んでな?」
え、とアヴァロンに来てから既に何度目かも分からない驚愕の息を零し、悪戯が成功して嬉しそうにしている子供の様な笑みを浮かべていたセリアンスロピィを、フェルメリアはジッと見つめた。




