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Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――  作者: 金斬 児狐
第一部 旅立ちと出会い編
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第三話 石壁の街と大胆な従者

 魔獣の巣くう樹海を抜けると、起伏の多い平原の中にそびえ立つ石造りの巨壁の姿を発見できた。

 高さはおよそ十五メートルといったところだろうか。

 壁の材質は石であるが、独特な波動を纏い黒く輝いている所を見るに、三系統の魔術によって強化され、系統色が混じった結果黒く染まったモノだと一目で分かる。

 硬化の魔術と反発の魔術、更にそれらを覆うように練り込まれた魔獣に対してのみ有効な視認妨害魔術が施された巨壁は、まさに鉄壁だろう。

 あれは単純な硬さからして生半可な魔獣では突破所か傷をつける事すら難しい。というか、認識できる事自体少ない絶対防壁。

 別名、<黒金の牙壁>と呼ばれている石壁は、今日も蒼穹の下で鈍く輝いていた。

 惚れ惚れするほど雄々しく誇らしげに。


 あまりの精巧かつ尋常為らざる偉業が未だに健在だという事に、製作者としては嬉しく思ってしまったとしても、これは仕方がないだろう。

 これを造るために、態々壁の原材料である岩鋼竜の棲息地として有名な魔界のヘルベンデス地方の地下大空洞まで赴いたかいがあったものだと思ってしまう。やたらと硬い岩鋼竜達の外皮には斬るのにかなり苦労させられたし、後から後から湧き上がってくる蜘蛛クモ蚯蚓ミミズを足して割ったような外見をした地蟲にも梃子摺らされたものだ。

 しかし何といっても一番苦労させられたのは、岩鋼竜に隙をつかれてペロリと呑みこまれた時の事だろうか。

 あの全身が唾液やら胃酸やらに塗れた時は流石に焦った。

 唾液のネチョネチョのネバネバは気持ち悪いは、胃酸で体がドロドロに溶けかけるは、大変だった事は思い出深い。腹を中から斬り開いて助かった時の安堵といったら……。


 過去の作品の製作秘話を思い出して一人感慨に浸っていると、ライオンさんに引かれる幌馬車は石壁の二ヶ所に取り付けられた門の前にたどり着いていた。円形に構築された石壁に負けるとも劣らない、特殊な金属で造られた門だ。何処となく牙に見える飾りが特徴的だった。この飾りが、牙壁と呼ばれる由縁でもある。

 門の脇には壁と同じような石で造られた小屋が建てられていたが、俺は造った覚えは無いので、どうやら後から増築されたものらしい。

 何だろうか? と思ったが、ここからではよく分からない。

 しかし何はともあれ国を出て早四日。今回の旅で初めての街にたどり着いた瞬間だった。

 この街に来たのも久しぶりなので些細な変化は有って当然だと納得する。


 今日の所は円形に造られた壁の向こうにある街の宿に泊まって、柔らかいベッドで寝たいものだ。


 とほのかな希望を抱いていたのだが、やはり早々上手くは行かないようである。


「と、止まれ! それ以上近づくな!」


 行く手を阻んだのは、頭以外を覆い尽くす銀色のアーマーを着た若い騎士。ここで一人街の門を護っていた騎士だった。

 俺たちは言われたとおりに城門から十メートル前で停止した。

 と、そこに、新たに騎士が加わってきた。

 

「なんだ一体大声を……っ! そ、その魔獣は何だ! ハ級のバルドラスに似ているが、纏っている威圧感が桁違いだぞ!!」


 若い騎士の大声が聞こえたらしく、門の横に新たに設置されていた小屋から四人の騎士が出て来た。どうやらあの小屋は騎士の待機所であるらしい。

 若い騎士以外は休憩中だったのか、と思ってみるがどうでもいいかと思考を放棄。

 ああ、面倒な事になったとため息をついて現実逃避してみたり。


 経験から無駄だとは分かっているのだけれども。


「き、貴様等は何者だ! 悪いが誰か分かるまでは通す訳にはいかん!」


 そう吼えたのは五人のなかで一番年老い、威厳に満ちた老騎士だった。老騎士の白髪に白い髭は銀色のアーマーにとても似合っていて、纏う雰囲気から察するに、恐らくは隊長だろう。それは胸に一際輝く鷹の紋章が刻まれている事からも伺える。

 その声には威厳と威嚇が込められていたが、まあ、俺達にはどうって事のないレベルだった訳で、残念ながら全然怖くない。

 そんな俺達の態度が気に入らなかったのか、老騎士は――


「っつ! 全員帯槍! 構え!」


 ――と号令を出した。

 だが、誰も槍らしきものは持っていない。

 どういう事だ? と不思議に思っていたら、五人の騎士は腰に下げたホルスターから長さ二十センチ、直径五センチ程の円柱を取り出した。

 それを騎士達は両手で掴み、眼前に掲げてる。

 すると騎士達の全身から魔力――国によっては神力やら霊力など呼び名が変わるが、この世界の人間ならば誰もが体内に宿している力――が迸り、その魔力は円柱に注ぎ込まれていった。

 

 その変化はすぐに起こった。


 円柱は魔力を受けてその形状を変化させ、爆発的に増加した体積は長さ二メートル、直径は一番細い所では約一センチ、一番太い所で約三十センチにもなる重槍の形に落ち着いた。槍の色は鎧と同じ銀色で、槍身は螺子のように螺旋状となっている。

 穿たれれば抜けにくいだけでなく、深く深く肉に食い込んでくる事だろう。槍身を回転させながら突進すれば螺旋の力も加わって、とんでも無い威力を叩きだしそうだ。

 

 なるほど、外の装備はそうなってきていたのか、収納し易くて効率的だな。と時代の進歩に感心しつつ、あれ? どこかでその変化の仕様見た事あるぞ? と疑問が浮かんだ。

 腕を組んで思案する俺を余所に、五人の騎士は城門前に横一列に並んで、意地でも通さないと言うかのように俺達を睨んでくる。

 そして陣形が形成されると共に、門の前で半身になっている銀色のアーマーを装備した騎士五人は、手にした銀色に輝く重槍の穂先を俺たちに突きつけて来た。

 槍先が微かに震えているからまったく怖くは無いが、その行動は自殺行為だと思うぞ?


「グルルルルルルルルルルル……」


「敵対行動と見なし、排除します。よろしいですか?」


 ライオンさんを幌馬車に固定していた拘束具は膨れ上がった筋肉に半ば壊れるようにして外れ、解き放たれた獣はナイフのように鋭利な牙を剥き出し、獲物に襲いかかる寸前のように状態を低くして、押し殺した唸り声を発する。

 流石元は上位の魔獣。

 俺の能力で全体的にパワーアップした今、最高位のイ級レベルの竜種にも迫りそうな迫力がある。

 そして俺の横で座っていたポイズンリリーは既に幌馬車から地面に降り立ち、一瞬だけ展開した右手首から紫色の片手直剣を取り出して、剣尖が地に付くようにだらりと構えた。

 一見隙だらけだが、隙はない。ワザと作られた隙など隙と呼べるはずがないからだ。

 思いっきりカウンター狙いですねポイズンリリーさん。


 一人と一匹の放つ殺気に押されて五人の騎士は数歩後ずさったが、何とか逃げ出さずに押し留まった。

 その姿に、正直、感心させられた。だってライオンさんの殺気だけでも生物的に狩られる側だと直感できているはずだ。その上、ポイズンリリーの軍隊を彷彿とさせる重圧感を正面から受けて尚、逃げ出していないのは称賛に値する。てかマジすげー。


 ココで死なしてしまうのは、ちょっとだけ惜しくなった。


「待て二人とも。そんなに殺気を出してしまっては相手も怯えてしまうだろうに。命令だから、落ち着いて殺気を消せ。それから、ほら、騎士さん達もこれを見せれば満足だろう?」

 

 彼らは騎士だ。

 彼らが命を賭けて街を護るという使命に基づいて殉死するというのもありかもしれないが、俺は無用な殺生はできるだけ避けていく生き方をしている。敵対すれば容赦しないが、彼らはただ仕事をしているだけだ。だから潰すつもりは無い。コレを敵対とは認めれない。

 今回は簡単に終わらせる術があるのだから、それを使わせてもらう事にした。


「そ、そのカードは、まさか……っ!」


 俺が懐から取り出して見せた一枚の金板が何かを悟り、五人の中で一番年老いた騎士は青醒めている。金板には空を舞い、豪火を息吹く竜を貫く稲妻の紋章エンブレムが刻印されていた。

 これは傭兵業斡旋施設ギルドホームで発行される、身分証明書兼通行書だ。

 金、銀、銅と三つの種類があり、色や刻まれた紋章エンブレムによってそのランクは区別されている。ちなみにランクは全部で十二段階。絵柄は金が【竜を貫く稲妻】、【鬼を殺す獄炎】、【巨人を潰す巨岩】、【怪鳥を濡らす豪雨】、銀が【獅子に乗る老人】、【熊を踏みつける若人】、【狼の首を締め付ける男】、【狐を追う女】、銅が【鋼鉄の剣】、【巨大な盾】、【両刃の斧】、【長大な槍】となっている。

 在り来たりだが、上に行けば行くほど受けられる依頼の難易度も上がる代わりに、入って来る報酬の桁が違ってくるといった仕様だ。

 そして今回俺が見せたのは、金の最高位である金竜の金板。

 世界中に数人持っているかいないかというシロモノだ。

 金板にもなれば、とりあえず傭兵業斡旋施設ギルドホームが設置された街や村ではこれを見せるだけで通行料も検査も無しで入る事ができるし、大体の場所で最高級の接待が受けられるという特典付き。それに傭兵業斡旋施設ギルドホームが経営する様々な店を格安で使用する事ができる。

 そして各国の王族や貴族にすら直接謁見できたりするというのだから、金板を持つ者は破格の待遇を受けられるという事は分かっていただけるだろうか。 

 大抵の事はこれ一つで大体の文句を封殺する事ができる。

 改めて、権力の偉大さを再確認した。

 そこまでノシ上げたのは自分だけれども。

 

「ま、こういう事だから。なに、一泊すればすぐに出ていくさ」


 外交の初歩は善良そうな笑顔から、というのが俺の常套手段である。未だ地面に座りこんだライオンさんを警戒して近づいてこない騎士に、金板を投げ渡して真偽を確かめさせながら、俺は朗らかに語った。

 彼等は未だ警戒を解いてはいないが、それでも、金板を見せた今俺達は邪魔される事無く街に入る事ができるだろう。


 ああ、しかし門でこれだから、中に入ればもっと面倒になるんだろうかと内心鬱になってみたり。




 ◆ ◆ ◆ ◆




 煉瓦造りの家が立ち並ぶ街並みは、古臭い雰囲気ながらもどこか懐かしい空気に満ちていた。幅の広い中央通りには様々な屋台や店が立ち並び、多くの人々が買い物に興じている。


 この街の名前は牙壁都市<メサイティウス>。


 俺の造った独立国家<アヴァロン>が存在する星屑の樹海から、人間界のある東に下って一番近い小国<アルテア>の、領土の八分の一を占めるカンテラ平原に存在する街だ。

 魔獣は強く希少になればなるほど肉体部分一つで巨万の富に変わる存在である為、その魔獣が世界一多く生息する星屑の樹海にもっとも近いここは、狩りをするために一流のハンター達や傭兵が集まる場所であり、<アヴァロン>が運営する傭兵業斡旋施設ギルドホームに人が多く集まる重要なポイントでもある。

 つまりは稼ぎ場だ。

 大体二百年ぶりにきたのだが、やはり街並みの変化はあれど、漂う熱気にも似た雰囲気に変わりは無いようだった。

 魔獣を狩る事を目的とした連中が多く屯しているので血生臭いとも言うが。


「うんうん、なかなか見物しがいがありそうじゃないか」


「そうですね。……ところで、かなり注目されているようですが、鬱陶しいので不快感の元を滅殺してもよろしいでしょうか?」


「……止めとけ。一応国の利益になってくれる奴らだからな。手を出してくるまでは、こちらから手を出すな」


 ライオンさんに引かれて幅の広い中央通りを俺達の幌馬車が進んでいるのだが、道脇に立ち並ぶ屋台が多いココは、屋台に比例するが如くやたらと人が多い。それだけ人が集まれば珍妙奇天烈な人間も多々見受けられる。

 だというのに、これから狩りに行く為の道具や薬を買い求めているハンターやら街の住人やら見るからに旅人といった服装の人間達全員が、俺達に注目している状態にある。

 立地条件的にココ、メサイティウスには調教された魔獣に荷物を引かせている風景が日常的に見受けられる場所ではある。

 その為あまり深い知識のない街の住人達にはライオンさんを「珍しい魔獣だな~」という程度にしか見られていないのだが、命を賭けて魔獣達を狩るハンター達は、ライオンさんの異常さに気が付いて顔を青ざめている状態にある訳で。


「しかし、落ち着かないというのも納得はできるな」


 そのライオンさんを使役している俺達はまさに変人を見るような視線に晒されている訳だ。

 しかもポイズンリリーの扇情的すぎる服装と目も眩むような美貌が相まって、不躾というか値踏みするような視線も混じってきている。

 そんな視線の主は大体ここの住人のようだった。良い女に視線を奪われて鼻の下を伸ばす馬鹿面が多くて笑える。笑えるが気持ちが悪くなるのは確かだ。

 ポイズンリリーが鬱陶しげにするのも仕方が無い。


 まあ、手を出してこないなら気分が悪い程度で済ましてやるのが、年長者のすることだと思うので何もしないのだけれど。


「とりあえず、ここのギルドホームにでも行くか。視察もかねて」


「そうですねカナメ様。私もそろそろお風呂に入りたいと思っていた所です」


「そうか……」


「御一緒にどうですか? 以前よりも磨きのかかった私の肉体でご奉仕して差し上げますが? そうですね、私のこの胸で絶頂を迎えてはどうでしょうか」

 

 胸という部分をやたらと強調してきた。

 いやまあ、大きい美乳ではあるが。


「……せめて発言には場所を選んで貰いたいんだが?」


 ポイズンリリーの一言で、俺達に向けられた視線の中に嫉妬と殺意が込められた。正確に言えば、微かにあったそれらが増幅したといった所だろう。無論矛先は俺だ。ああ、ここでも俺の毒となるのかポイズンリリー。


「もちろん、ワザとで御座いますが?」


「……もう何も言うな」


 何時も通りなポイズンリリーにげんなりした。

 というか周囲までも利用しているのでいつもよりタチが悪くないか? 


 確信犯的なポイズンリリーを睨みつつ、俺達を乗せた幌馬車はゆっくりと進んでいくのであった。

 






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