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Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――  作者: 金斬 児狐
第一部 旅立ちと出会い編
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第十六話 カナメのこだわりは理不尽な事が多い

 人にはそれぞれ、必ず何らかの“こだわり”というものがある。

 紅茶はどこそこのなんちゃらというブランド品しか飲まないとか、起きたらまずは牛乳を一杯飲むとか、そのこだわりはまさに多種多様で、多くの人が持つようなこだわりもあれば、その人しか持たないようなこだわりもある。

 無論個人のこだわりを万人が容認できるとか、そんなあり得ない考えを持ってる訳ではないが、されど俺個人に限定すれば、少なくとも理解する程度の度量はあるつもりだ。

 もっとも、時に行き過ぎたこだわり――宗教など――は争いを生み出すという事は、こだわりを語るにあたって知っておかねばならない事であるとは思う。

 しかし、違いこそ人間が人間たらしめている要因ファクターの一部なのだし、こだわりを持つ事自体はとても大切なものだと俺は考えている。それが例え他文化を排他的に考えているとある宗教を盲信しているとしても、だ。

 人生は一度しかない。死んだらその後は須らく“無”に帰すしかない。

 なら、何かにこだわって、人生を彩るのなんて個人の勝手であるし、俺の邪魔をしない限りは干渉するつもりもあまりない。

 だからこそここで宣言しておこう。

 俺が持つ“こだわり”とは、俺の人生の道標であり、俺が歩んだ人生の轍であり、俺自身であると。 





 さて、何故このように唐突に、脈絡みゃくらくもなく、こだわりについて語っているかというと、現在進行形で俺がとある“こだわり”を実行しようとしているからである。



 話を整頓して説明すると、以下の通りとなった。

 今から数時間ほど前、罪が自分に降りかかる特殊な土地――自由領域に存在する温泉の街<アグバウア>で無駄に長ったらしい名前をした、ヴァイスブルグ皇国軍皇女直轄近衛兵団<紫雲剣爪皇女隊アヴィルヴァ・ルートニア>の奴らに絡まれるという面倒事があった。

 その時の奴らの目的は隊員の一人を行動不能にしたサラヴィラとバジルの身柄の確保であり、俺は一応知り合いのよしみで庇ってしまったのだが、それが相手にはお気に召さなかったらしく、刃引きされていたとはいえ、鋼の塊に変わりない実剣を手にし俺達に襲いかかってきた。

 せっかく人が話し合い――しようと思っていたかはうろ覚えでハッキリとしないが、きっと話し合いをしようとしていたはずだ――で解決しようとしていたというのに、である。

 何と言う蛮行にして、何と言う横暴な行いなのだろうか。例えこの街から一番近い国だからといって、このような行いをしてもいいというのだろうか。いいや、決してこのような蛮行を許してはいけない。というのは無論建て前だ。

 襲いかかられカチンときた俺は、本来ならばその後問答無用で色々とやっちゃっていた場面であったのだが、そこはほら、犯した罪が自分に返って来る特殊区域である自由領域ですから、ちょっとだけ自重した。反抗してこれ以上不幸が降りかかってきたら溜まったものではないのだし。

 その為、罪に引っかからない方法で反撃する事にしたのであった。

 俺の掌にある“口”を使い、団員が着ていた鎧及び服と武装全てを捕食し、全員――他にも居たかも知れないが、あの場には居なかったので全員とする――を真っ裸にしてやり、公衆の面前で生まれたままの姿を晒すという生き恥を味合わせてやる事に見事成功した。

 ちなみに生き恥を晒すだけでなく、近衛兵の評判が地に落ちる事請け合いである。

 何故なら、どこの誰とも知らぬ――俺は外交の時でも変装していくので、顔は殆ど他国に知られていない――男にここまで一方的に成すがままにされた近衛兵など、笑いのネタになるのは必定。多くの国の人間に見られたのだから、この話は世界中に伝播し、ヴァイスブルグ皇国軍皇女直轄近衛兵団<紫雲剣爪皇女隊アヴィルヴァ・ルートニア>の名は、最早英名から汚名に転落するのは確定事項だ。

 一応武装だけ捕食し、無力化する事も訳なかったのだが、そこはほら、敵に任命した相手に俺は一切容赦しない主義なので理解してもらいたい。

 話を戻すが、その後、俺とポイズンリリーはこのような事態は慣れているので報復を目論むであろう<紫雲剣爪皇女隊アヴィルヴァ・ルートニア>にとって、驚愕を通り越して尊敬に値するだろう速さでアグバウアから退避し、街道の上を時速五十キロ程度の速さで逃走する事に成功したのであった。

 ラーさんの膂力と脚力を持ってすれば、追手を振り切る事など実にイージーな任務でしかない。


 なのだが――


「うは、マジでウザい。ドロドロとした執念を感じるなこれ」


 俺達が進んでいるのは土の上ではなく、街と街を繋ぐ、人工的に整備された石造りの街道上だ。

 別に他の舗装されていない道を進めない事も無いのだが、ぬかるみ等に車輪が嵌るかもしれない。一応言っておくが、俺が造ったこの帆馬車とラーさんの膂力からすれば、別にぬかるみから抜け出す事は造作も無い事だ。

 なのだが、抜け出すという行動が一々面倒なので、他の道はできるだけ避けたいというのが心情である。

 だというのに、これから俺達が進む三百メートル先――五本の街道が交わる大街道上――に、ヴァイスブルグ軍の旗が幾つも見える。

 人数はそこまで多くなさそう――といっても一つの旗の下に軽くニ十人は存在するし、旗は軽く見て十旗以上ある――なので強行突破するなど造作も無い事だが、強行突破すると執念深い事で知られるヴァイスブルグ皇国軍にしぶとく追われそうで凄く嫌だ。

 こんな奴らを引き連れてオルブライトに居る大和撫子であろう勇者に会いに行きたくはない。というか、態々会いに行っても付いてくる兵士のせいで、無駄に警戒されそうで嫌過ぎる。寧ろ会えない可能性大だ。

 いやまずその前に、ヴァイスブルグ皇国の領土を抜けるまで追いかけ回されるという事を考えただけで面倒くさい。


「という事で、残念ながら行動不能になって頂きます」


 帆馬車から地面に降りて寝転び、遠くから造った双眼鏡を覗き込んで兵士の動向を観察してみると、街道を張っている軍の奴等は詳しい経緯を教えてもらえず――最も、国の恥を態々言いたくは無いだろうから当然ではあるが――、ただこの場で不審者を捕えろとか、そんな感じの指令にそって動いているだけのようだった。

 何故こんな事をしているのだろうか? と疑問に思っているのが顔つきで丸分かりである。

 

 ならば、まあ、とりあえず気絶させるだけでいいでしょう。

 直接敵対していない訳だし、多めに見て上げましょうか。


「んじゃまずは合掌を」


 ゆっくりと掌の口と口を重ね合わせ、脳内で立体的な設計図を組み立てその完成形を空想する。

 今から造るのはここから一方的に軍隊を駆逐する事ができる狙撃銃スナイパーライフル。脳内で三次元的に紡いだ基本設計を元に、使う素材を零から造ったり、蓄えていた金属をそのまま流用したりしながら重ねた掌の中で物質化させていく。

 造っているのはサラヴィラ達を気絶させた時に使ったモノと殆ど同じ狙撃銃だ。あの時同様もちろん俺好みなオプションをもり込んだワンオフ品で、ハイスペックならぬ廃スペック仕様。幾度も造り慣れているだけあって、前回同様一秒弱という僅かな時で造り上げた。

 これで合掌を止めれば、これは物質としてこの世界に生まれ出る。

 だから俺は合掌を解いて物質化する時に起こる発光現象を細目で見ながら、ずっしりと重たい狙撃銃を手にした。

 細長い銃身に、長い銃身を支えて狙いを安定させる二脚のアタッチメント。今回は狙う人数が人数だけに、当然ながら一回一回装填しなければならないボルトアクションではなく、自動装填オートマチック方式を採用。そしてマガジンには弾数重視で、星屑の樹海で造った軽機関散弾銃に用いた百五十発から二百発は入りそうなボックスマガジンをチョイスした。

 そして光学照準スコープは俺の意思一つで見える距離が変えられるようにした、遠距離から敵を確実に駆逐できる一品だ。

 既に狙撃銃という姿ではなくなっている気もするが、この際その事については思考の横に放置する。

 いや、そもそも、目的を遂行するにあたって狙撃銃にする必要性は全くなかったという事は認めよう。寧ろこの場面では無駄な事をしていると言っても言い過ぎじゃない。

 しかしわざわざ狙撃銃にしたのだって、少なからず意味はあったのだ。

 

「グッバイセニョリータ」


 とりあえず意味不明な事を言ってから、トリガーを引いた。ノリは大事だと思う。

 銃口からマズルフラッシュが迸り、高速で螺旋を刻む弾丸が空を切り裂いていく。弾丸は前回と同様に、非致死性のSRRB弾を使用。スタンガンとゴム弾が融合したSRRB弾は、スコープ越しに狙いを定めた哀れなる兵士の一人の頭部に炸裂した。

 勢い良く頭部が弾かれ、意識が無い為に体制を立て直せない兵士の身体は地にガクリと崩れ落ち、それを見た周りの兵士に驚愕が広がるのがスコープ越しに分かる。

 それに構う事なく二射、三射、四射、五射、六射七射八射九射と連射して一気に畳みかけた。

 スコープから覗く視界の中で、面白いように兵士達の頭部が横に弾け、その場にガクリと崩れ落ちていく様を観察する。

 正に操り糸を切られた操り人形のようだ。その様子に、思わず笑みが零れた。

 ちなみに、初弾以外は適当に狙いを定めて撃っているだけなのであるが――本来ならば風の流れや空気抵抗、湿度と温度や装薬の燃焼速度、銃と弾頭の膨張度といった事などを考え計算し撃つモノである――、今の所特に問題はない。

 俺の腕が良いから、ではない。

 種を明かせば、SRRB弾自体が自動追尾するように造られているからだ。そのため特に狙わなくても弾丸自体が勝手に当たりに行ってくれているのが現状。

 それならマシンガンを乱射したらいいんじゃないの? と思うかもしれない。だが先に言っていたように、狙撃銃の形にしたのにも少なからず意味はある。





 ただ単純に、狙撃って、カッコいいだろ?


「馬鹿ですか? 馬鹿なんですかカナメ様」


「見た目は大事なんだよ!! 気分が大事なんだよ!!」


「死ねばいいと思いますよカナメ様。寧ろ初撃で一網打尽にしなかったがために、他の兵士の相手をしなくてはならなくなった私を労うのは今がチャンスですよ? というか態々面倒事を増やさないでください」


「なんで罵倒されて褒めにゃならん!? だが安心しろ。今回は、まあ、俺に落ち度があったかもしれないのだし、リリーは黙って見ていればいい」


 俺の攻撃に気が付いたようで、ヴァイスブルグ軍が一斉に動きだした。

 その動きは予想よりも迅速で、馬に乗る騎馬兵十数名を先頭に、矢じりのように尖った陣形で向かってくる。まるで一本の槍にようになったヴァイスブルグ軍は突貫力を増し、その上細部に渡って統制が執れているようで隙が少ない。

 数百という人数が一斉に奏でる足音が、地鳴りとなって押しかけた。

 慣れない人間なら迫ってくるヴァイスブルグ軍の気迫に負けてしまうだろうし、震えている事だろう。

 しかし、だけれど、まあ、全く問題にならないという事実に俺は一人涙した。

 無論演技で。

 一通り嘘泣きと憐憫に震えてから、俺は狙撃銃を地面に置き、ゆっくりと立ち上がった。


「しかしまったく、このまま何も分からずに気絶されればいいものを……。優秀ってのも考えモノだなまったく。アチラがやる気満々なんだからさ、仕方ないんだよこれが。こちらも意識を切り替えるしかないんだないや本当に」


 誰に対してのいい訳なのか知らないが、無意識の内に出ていた言い訳は置いといて、俺は先ほどまで、獲物である兵士を、

 『狙撃』

 『一撃必倒』

 『安全領域からの一方的な撃滅』

 『不敵不殺』

 という四つのこだわりをもって遊んで――狙撃し気絶させていた訳だが、敵は完全にこちらを敵と見做したので、こちらも獲物ではなく、敵と見做みなした存在と対峙する時に使うこだわりに切り替える。


 すなわち、

 『一撃必殺ワンアプローチ・ワンダウン

 『見敵必殺サーチアンドデストロイ

 『安全領域からの一方的な大火力による殲滅』

 『高笑いは悪魔の如く』

 といった四つのこだわりだ。

 他にもこだわりはあるが、今はこの四つのこだわりを実行する事に決めている。


「では冥福を祈って合掌を一つ」


 パン、と今度は軽く音を鳴らしながら合掌する。

 掌の口の歯と歯が軽く衝突し、カチン、と甲高い音が響く。

 目を瞑り、脳内で空想し思い描くのは立体的な作品の設計図。それに掌の口で捕食してきた物質を混ぜ合わせ、五百年の経験と長き月日のなかで練磨され培われた技法により、ものの二秒で物質化に成功する。

 ふと五百年前を思い返し、一つ作品を造るのに一日以上の時間をかけていた若き日を懐かしく思う。

 それからフラッシュバックした思い出を振り返っている自分に気が付いて、いやいや今は思い出に耽っている時じゃないかと頭を振った。

 気を取り直して前方約二百メートルまで迫ったヴァイスブルグ軍に目の焦点を合わせ、哀愁漂う笑みを向ける。

 これより弔う若き命達の冥福を祈って。


「聞こえないだろうが、ワンポイントアドバイスだ。敵を見て、喧嘩を売りましょう。来世ではそれを教訓にしてくれ」

 

 憐れみの言葉を呟いてから、手にした作品を大地に突き立てた。

 俺が今回造ったのは何時ものように銃、ではなく、一見何の変哲もないように見える金属製の杖。杖は全体的に灰色一色に染め上がり、老人が歩く時に使うような取っ手のある杖にしてはやけに重量感のある一本だ。

 ただし、他ならぬ俺が生み出した作品である。それがただの杖なはずがない。

 知らない者にとってこれはただの重そうな杖でしかないだろうが、知っている者にとっては、金貨千数百枚以上の財宝に匹敵する【宝具】シリーズの最新作。

 杖の名前を付けるとすれば、この国ヴァイスブルグの古語で<流動する大地の巨人イブルウィエ・アレサンドゥーラ>と言った所だろうか。

 

 <流動する大地の巨人イブルウィエ・アレサンドゥーラ>の概念効果は、その名前の通り、突き刺した地面から大地の巨人を生成し意のままに使役する事である。

 早い話が、土人形ゴーレム生成装置。


 今尚こちらに向かってくる兵士達の足音は止むどころかどんどん大きくなっているが、その音の中に、明らかに足音ではない響きが混じった。

 ドドドドドド、というのが足音なら、地面の奥底から響いてくるズゴゴゴゴゴゴゴ! という重低音の異音は、実際に大地が形を大きく変貌させ、人の形になろうとしている音なのだろう。


 柔らかく大量にある土は肉に変わり、冷たく地中深くを流れる地下水は血に変わり、硬く重い岩盤が骨に変化している音。


 もう一度前を見る。

 こちらに向かってくるヴァイスブルグ軍と俺達の距離は、既に百メートルと離れていない。

 俺とポイズンリリーはここから動く気は無いので、後数秒後には兵士達が完全に包囲する事だろう。そしてヴァイスブルグ軍は問答無用で真剣を振りかざし、俺達の命を狩ろうとする。

 だが、全ては遅かった。彼らにとってこちらまで到達する数秒は、致命的な遅さなのだ。

 そして兵士達との距離が五十メートルをきった時、唐突に変化は起こった。否、起こさせた。


「――ッ! な、何だこれは!」


「魔術!? いや、これはただの魔術なんかじゃないっ!」


 先頭を走る騎馬達の足元で、地面が大きく盛り上がった。突然の事態に酷く驚いた馬を必死で御そうとする兵士達を尻目に、地面の膨れは驚くべき速さで進行していく。

 さながら、トウモロコシがポップコーンに変貌する瞬間のように!

 

「く――っそ! 何なのだこれは一体!」


「一体何なんだ! 誰か魔術でこれを抑えろ!!」


「――っそ! 変だぞこれっ。土系統魔術に特化させた俺の魔術が少しも効きやしない!」


 兵士達の悪態が響く。それでも何とか逃げ出そうと、様々な策を巡らせる。

 だが悲しいかな。最早彼らに逃げ道は存在しなかった。

 既に本来の地面と彼らが今居る隆起した地面の高低差は、軽く六メートルを越えている。

 一秒ごとに高低差は大きくなる一方――大体一秒で一メートル程離れていく――で、重い鎧を着たまま飛び下りてしまえば怪我をする可能性が格段に高く、重い装備を捨てる時間さえ俺は彼らに与えていなかった。

 

「にげ――ぐぎゃああああ!」


「ば――来るなあああああ!」


「――ッ! ――ギィガ……たす、け――」


 何とかその場から逃げようとした騎馬兵の一人が、大きく隆起した地面の動きで安定しない馬の操縦を誤り、現在は八メートルはある大地から多少は柔らかくなって地面に落下した。

 ズシャッ! と鈍い音が響いたが、うめき声が微かに聞こえたので、死んではいないようだった。どうやら馬がクッション代わりになったようだが、それでも鎧という荷物があるために受けたダメージは大きいと推測できる。

 だが不幸は続くもので、積み重なるものだ。

 落下した騎馬兵同様馬の操縦を誤ったがために、落ちた騎馬兵の上に別の騎馬兵が落下していった。馬の重さだけでなく一人の成人男性と重い金属製の鎧の重量をもった一つの物体が、八メートル程の高さから落ちる事によって加速し本来の重さの数倍に匹敵する威力を叩きだし、無慈悲に容赦なく騎馬兵の命を奪い取っていく。

 それと同じ事がその後数度繰り返され、あっという間に屍の山が形成されていった。

 

「これでもまだ頭の部分しか出てないんだけどな~。いや、大きいの造り過ぎたか」


 ポツリと、地面を隆起させている杖――<流動する大地の巨人イブルウィエ・アレサンドゥーラ>を扱うカナメは、事もなげにそんな事をぼやいた。

 直径十メートル程の円状の範囲が九メートル程の高さまで隆起して止まり、その周辺には虫の息か、既に事切れている兵士の屍の山がちらほら見える。

 隆起した地面にはカナメ達がいる方向からは見えないのだが、カナメ達へと向かっていたヴァイスブルグ軍から見た方向からは、四つの虚空が晒されていた。

 人間で言うと、両目と鼻と口にあたる部分がぽっかりと空いているのだ。

 ただ巨大な土の塊に丸く穴ができているだけで、一見するともの凄く間抜けな顔に見えるのだが、しかし、今のヴァイスブルグ軍の兵士にとって、この上なく恐怖を抱く魔人に見えたのであった。


「後は上半身だけで事足りるか……」


 頭部が出来上がった所で一旦作業を止めたカナメは、そう簡潔に結論を出した。

 頭部ができるまで僅か八秒未満。

 丸々一体の巨人を造ろうと思えば残り三十秒もあれば事足りるだろうが、作業工程を半分にして上半身だけ造っても十分外敵を屠れると判断したのだ。


「んじゃまあ、上半身を造ってさっさと終わらせますかね」


「カナメ様カナメ様、もの凄く悪い笑みなのですが。ハッキリ言って、どこからどう見てもカナメ様が完全に悪役です」


「いいじゃん悪役で。悪が居ないと成立しない脆弱な正義なんて滅びればいいんだよ!!」


「…………」


 何時になくキッパリと断言するカナメの勢いに押され、ポイズンリリーはそれ以上何も言わずに黙り込んだ。

 それを横目で見ていたカナメは、再度眼前で隆起している巨人の頭を見てから、地面に突き刺した杖を握った。

 それと同時に停止していた巨人の頭は再び動きだし、その巨体を地面の中から顕現させる。

 ズドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! と盛大な地響きが鼓膜を振わせ、まるで地震が起きたかのように周囲一帯が大きく揺れた。

 目の前で膨れ上がっていく巨人を前に、ヴァイスブルグ軍の兵士は血の気が失せた顔色で、ただただ茫然とその様子を見上げ続けるのだった。


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