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Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――  作者: 金斬 児狐
第一部 旅立ちと出会い編
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第一話 旅立ちは波乱と共に

 不定期更新な作品です。

 主人公の能力はチート性能だけど戦闘面にベクトルは向いていません。

 ヒロイン最強です。

 異世界モノです。

 そんな作品です。

 主人公は一応国王です。


『どうやら最近同郷の人間が堕ちてきたようなので会いに行ってきます。それから政務に疲れたので、これを切っ掛けにお休みを頂きます。探さないで下さい。――カナメより』


「何なので御座いましょうか? この頭の悪い中等生のような文章は? 不快感しか抱きませんね。破って燃やして捨てるとします。ビリビリボウボウパラパラ」


「のうあああああああ! ちょ、俺がせっかく寝ずに書き上げた書き置きを八つ裂きにして燃やすな!」


 何と言う非道にして悪逆な蛮行か!

 パラパラと宙を舞いながら床に落ちる欠片を掻き集めるが、それは既に黒い燃えカスでしかなかった。


 襲い来る虚脱感によって膝をつき茫然とする事数秒、このような悲惨な結果を生み出したそもそもの元凶は俺の肩にそっと手を置き「因果応報というやつです」と明らかに慰めではなく嘲りであろう言葉を洩らした。

 白銀色に輝く髪は肩で切りそろえ、一切の感情を排除したような作りもののように無機質な紅い瞳。一目見たら魅入ってしまう事は確定事項であるかのような美貌の主。紫色の布をただ縦横に巻きつけたような服と言っていいのか迷ってしまう格好、黒いハイヒールを履いて姿勢よく立つ彼女の名前はポイズンリリー、俺の侍女であり秘書であり、ついでに一番付き合いの深い友達でもある。


 しかし、敵に対して猛毒にして悪魔のような存在になれ、という思いを込めてポイズンリリーと名付けたのだが、敵よりも俺の毒になる事が圧倒的に多いというのはどういう事だろうか。

 

「リリー……貴様の主人にして産みの親であるのは誰だか言ってみろ」


「御意に。私の御主人様は今より五百年前にもっとも栄えたと言われる軍事大国『アクアレギオン』の宮廷魔術師十名により行使された“大召喚魔術”により、こちらの世界に召喚された所謂異世界人であり、その時代世界を荒らしていた魔国の王を駆逐する剣となった存在でした。

 ただ、時を同じくして召喚された宗教国家『アリスマリス』の異世界人に魔王殺しの名誉を掻っ攫われたばかりか、元居た次元に帰るために絶対に必要な触媒である“魔王の心臓”を永遠に失って帰れなくなり、自棄になってこの世界に堕ちて来た事によって目覚めた勇者の能力を遺憾なく発揮し、アクアレギオンを一夜の内に滅ぼした災悪の英雄。……つまりは理不尽な運命を歩むばかりか神に見放されたように運がない御方である、貴方で御座います。カナメ様」


「………………殴っていいだろうか?」


「御自分をですか? いけませんいけませんいけませんよ? そのような面白そ……いえいえ、御自分で御自分を虐めるよりも、他者から攻めを受けたほうが両者の為になるのですから。ほら、今目の前にいる私が攻めを担当させていただきますから、どうぞ服をお脱ぎください」

 

 そう言いながら紫色の鞭を取りだすポイズンリリーにげんなりした。無論俺は服を脱ぐ訳もないし、ポイズンリリーの攻めを受けるはずもない。

 こいつとの会話はとても疲れる。まさに名前の通りに毒だ。吐く言葉一つ一つが毒となって染み込んでくる。


 俺が堕ちてきたこの世界には、特に捻りも無く人間や亜人種や魔族と呼ばれる存在が数多く存在するのだが、目の前に佇むポイズンリリーはそのどれでもなく、俺がこの世界に堕ちて来た時に目覚めた能力によって生みだした機玩具人形という存在だった。


 例え素体が人間だったとしても生きているようで本当は生きてはいない造り物だ、だから仕方ない。こうも名前通りな性格なのも仕方がない。名は体を表すと言うのだし。


 そう思って諦めていた時期もあったにはあったが、ポイズンリリーの後に生み出した妹や弟達は毒々しい名前をつけても従順かつ忠実な下僕だったりするので、これはポイズンリリーの悪しき個性なのだろう。


 壊れているのではなく、個性なのだ。恐らく。素体の記憶が他の機玩具人形よりも多く残っているのかもしれないが、そこの所は聞いた事が無いので分からない。


 俺はため息をついて肩を落とす。


 ここは人間界と魔界の境に広がる“星屑の樹海”の丁度中心に位置する俺の城。

 世界中で俺だけが生み出せる神金鋼塊オリハルコンによって覆われた城壁が自慢の城の一室で、俺が仕事場として使っている部屋でこのようなやり取りをいつまで繰り返さなければいけないのだろうか?


 ふと窓を見れば、厚く重く圧し掛かってきそうな雲が敷き詰められた空から、身体の芯に響く重低音の爆音にも似た咆哮を上げる火竜の姿が見え隠れしていた。


 今回の一件、ケチがついたのは先ほどの事だ。


 職務放棄兼家出――もとい、久方ぶりに堕ちてきた同郷の者に会うための荷造りをここでしていたら、掃除の為に電気要らずの無音掃除機――メイドインカナメ――を抱えてやってきたポイズンリリーに発見、捕縛されてしまったのだ。

 身体に仕込んだ拷問用具――もとい戦闘機器を眼前にチラつかされながら詳しい説明を求められた俺はうなだれながら、机の上の書き置きを指で示し、その結果、冒頭の悲劇を生んだのだった。


「ちなみに今後の事を考えて言っておくのだが、リリーよ。その掃除機は主人を殴打する為の道具ではないし、お前の全身六十六ヶ所に仕込んだ武器は主人を脅迫したり拷問したりする為につけたんじゃないぞ」


「何をそのようなごく当然な事を仰られているですか? 侍女の鏡である私めが、命よりも大切な仕事道具をそのような野蛮極まりない事に使用するはずがありません」


 あ、こいつ、後半の部分スルーしやがった! 一番大切な部分なのに!


「……ああ、なるほど。ならとりあえずその無残にも砕け散って使い物にならなくなった残骸を集めて中に入っていたゴミがばら撒かれた床をどうにかしてくれ」


「御意にございます」


 ポイズンリリーがいそいそと掃除や片付けを始めた。このシーンだけを切り取って見たならば、奉公精神溢れる侍女の鏡に見えなくもない。

 実際、ポイズンリリーの手際はよく、ものの数秒で部屋は元通り以上に綺麗になった。

 本当に、こういった技術には文句のつけようが見当たらない。


「それで、何故カナメ様は自国の政治と民を置き去りにしてまで異世界人に会いに行こうと? 今までのようにここで待っていればいずれは向こうから来るはずですのに」


「いやまあ、そうだろうが俺はだな……えと、その……」


 言い訳が続かない。

 うん、冷たすぎる視線になみなみと注ぎこまれた毒が俺を侵していくようだ。

 あれだ、別にポイズンリリーが怖くてとかが理由じゃなくてだな、このまま言い訳を続けたらなかなか本題に入れないだろうと思っての事なんだ。だから言い訳は諦めたんだ。まったく、我慢強い俺に拍手を一つ送りたいものである。


 咳払いを一つついてから、今度は言い訳ではなく説明にうつる。


「いや、シャドウキャットの報告を聞く限り、どうやら今回堕ちてきたのは女らしいのだ。それもとびきりの美女で、頭の良い淑女と聞く。もっとも評価すべきは、俺と同じ肌の色で黒髪なのだそうだ。十中八九、祖国日本から来たのだろう……つまりは、そういうことだ」


「――ああ、あれは嘘です」


「な、何だと!!」

 

 返ってきた否定に、俺は思わず叫んでいた。


 ば、馬鹿な!  

 シャドウキャットの情報が間違っていただと! 他国に潜入させたアイツの報告ではお淑やかで絶世の美女というはずだぞ!! 大和撫子最高! とか完全防音の自室で叫びながら心躍らせていた三日前の俺は一体何をしていたんだ! 恥ずかしすぎる!!


 そうやって俺が四つん這いになって激しく自己嫌悪に陥っていると、頭の上から澄んだ声が響いた。声の主は勿論、ポイズンリリー。


「というのは嘘で御座います。その情報は概ね間違いございません。ただ、一点ほど訂正がありますが……」


 鋭角な顎に手を添えて悪びれも無くそう言ってのけるポイズンリリーは、本来なら無表情であるはずの美貌を微かに歪ませ、見下すように俺を笑っていた。

 

「…………」


「どうなさいましたか御主人様? そのような私を焦がしつかせそうなまでに熱い視線は……ハッ! よもやこのような早朝から情欲を持て余しておいでなのですか? それはいけませんいけませんいけません。僭越ながらこの私がお相手を……」


「どこをどう解釈したらそんな勘違いをするんだ! と言うかその脱ぎ易すぎる服をさっさともとに戻せ!」


「畏まりました」


 上半身を覆い隠さなくなっていた布のような服をもとに戻しながら、無表情で俺の指示に従うポイズンリリーに対して、俺は先ほどまで抱いていた怒りや憤りの感情が綺麗さっぱり消え去っているのを感じた。何だか、そういう風に誘導された感じがする。


 しかしこういったやり取りもいつもの事だ。だから気にしないでおく。一々気にしていたら身が持たない事であるし。


 まあ、偶に気分次第では夜に抱く事もあるが、今はそんな気分ではない。そんなことよりも俺としては一刻も早く同郷の女と向こうの話がしたいのだ。


 ああ、懐かしき我が故郷日本。


 俺が居た時代は既に五百年も前の頃なのだが、それでも、既に帰る事を諦めているとしても、絶対に帰れないとしても、懐かしいものには変わりない。寧ろ帰れないからこそ故郷を思う念は強まるばかりと言えようか。

 向こうでどのような変化があってどのような進化を遂げているのか、俺は堪らなく知りたいのだ。

 ああ、早く会って話がしたい。


 ――しかし、だ。


 俺は俺が作り上げたこの国の政務を投げ出して会いに行くには正面に居るポイズンリリーがどうしても邪魔になる。こいつは置いていこうとすれば実力で俺を止めにかかるというのは既に予想済みだったのでできれば避けたかったのだが、現状、既に計画がばれてしまっているので今更隙を造るとも思えない。それこそこれからは二十四時間監視される事だろう。風呂からトイレまで全てだ。想像だけで嫌になる。


 隠れながら逃げ出せない以上、戦って昏睡させてから出て行くという強引な方法もあるにはあるのだが、遠距離戦ならばともかく接近戦では俺はこいつには天地が逆になっても勝てはしない。俺には格闘センスは皆無であるし、俺の肉体的性能はあくまでも一般人レベル。


 魔物なんて凶暴で凶悪な生き物の存在するこの世界では俺の肉体的性能はあまりにも頼りなかったので、それを補うために造ったポイズンリリーは徹底的に肉体強化・改造を施した近距離戦専用の機玩具人形だ。


 土台正面きって接近戦で勝てと言うなど無理無謀無茶極まりない。


 あれだ。接近戦なら人間と戦車ぐらいの戦力差があるだろう。もっとも、その戦力差は近接戦闘に置いてのみだが……。

 しかし遠距離戦が無理である今の状況では、俺はこのまま待つしかできないのだろうか? 


 ――いや、待てよ? 


 ポイズンリリーを置いていくという発想を変えればいいのか?

 もともとは一人気楽な小旅行の気分だったし、今なら御供の一人くらいどうってことは無いか? この際大臣達と政治を任せようと思っていたポイズンリリーも連れて行って、俺の仕事を若い書官達に振り分けて実務経験を積ませるというのも有りと言えば、有りか?

 今後の事を考えれば、そんな考え方も選択肢の一つではあるのか。うむ、どうしよう。


 とりあえず、ポイズンリリーに付いてくるかどうか訊くとしようか。

 

「リリー。この際仕方がない、お前も俺と一緒に……」


「はい、ぜひともご一緒させていただきます。この身はカナメ様を護る為だけに在るのですから」


 予想していたが、即答だった。それも俺が言い終わる前に言いやがった。早過ぎだと思わずにはいられない。それから主人の言葉は最後まで聞くのが普通だとは思うのだが、相手はポイズンリリーなので俺は何も言わないでおく。なんと言っても面倒だから。


 しかし、本当にこいつのファザコンっぷりにも疲れさせられる。いつも話すだけで疲れるし、言葉の一つ一つが毒々しいものであるが、俺から離れたがらないこいつはファザコンと呼べると思う。見た目同い年そうだけど、俺がこいつの産みの親だから、あしからず。


 ――――ん? まてまてまて。やっぱりファザコンって表現は無しだ。俺が父親で在るのと同時に母親という事になるのだから、それだと俺は近親相姦を行う変態で鬼畜って事になっちまうからな!


 などなど、内心で取り乱しながらも外には一切洩らさず、俺は俺が一番凛々しいだろうと思っている真剣な表情を造り、静かに指令をだした。


「そうか。ならば命令だ。三十分以内に俺とお前の支度を済ませ、俺が出かけた後の政治等の様々な仕事はアレクセイ達第一班に、人間界の各地に設置されている傭兵業斡旋施設(ギルドホーム)の仕事はリードリュード達第二班に、魔界の傭兵業斡旋施設(ギルドホーム)はアナキス達第三班が執るように手配しろ。

 あいつ等にもいい経験になるだろうしな。……ああ、そうそう。損害をだしたら給料から引くといっておいてくれ」


「畏まりました。ところで、此度の移動手段はどうなされますか?」


「今回はゆっくり行こうと思う。歩きだな。そのつもりで居てくれ。久しぶりに外に出るんだ、急いでも仕方がない。観光気分が丁度いいだろう」


「畏まりました」


 こういった返事には素直に頷く癖に、何故常時こんな殊勝な態度を取ってくれないのか。

 ちょっと遠い目をして虚空を眺めて現実逃避してみたり。


「所で、御主人様」


「ん? なんだ?」


「そのような気持ちの悪い御顔はお止めください。まさに踏み潰されて内臓が飛びだした大斑蛙ビックフロッグのようで御座います」



 こいつは、最後にそんな毒を吐いてから部屋を出て行った。それもとびきりの毒だ。俺が凛々しいと思っていたモノの全否定。それは俺の価値観を否定されたに等しい。その心理ダメージの大きさなど、語れるものではない。



 ああ、本当に、なぜポイズンリリーなんて名前をつけたのだろうかと、俺は静かに涙を流しながら思わずには居られなかった。

 静かに閉じていく扉を見ながら、俺はポイズンリリーを誘った事を早くも後悔していた。 


「ああ、神様なんてクソ喰らえ」


 いや本当に、もしも神様とやらが目の前に現れたら一発と言わずに万発でも殴りたいね。


 ああ、最初から不安になる旅とか、魔王を殺せ! そしてその証である黒き血の流れ出る心臓を持ってこい!! そうしたら還してやらなくもないぞ!? って言われて僅かな路銀と自作の片手直剣を片手に未知の世界に放り出されたあの頃――召喚されて、一か月ほど訓練されて城を追い出された時――以来だろうな。


 まあ、あの時は俺が出立して一週間も経たずに例の召喚者が魔王を殺しちゃって、それを知ったのはそいつが還った後で、つまりは戻れないと悟っちゃって、絶望しつつも死にたくなかったからどうしようかと悩んだ末に、行くあても無かったからすぐに城に帰ったんだけどね。


 さて、今回の旅はいつまで持つのかな?

 俺的には、手早く終わりそうな気がするんだけど。


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