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水晶玉が見せたものは

 あたしが部屋を貰ったその日から、占いを希望する訪問者が後を絶たなかった。


 翌日は朝から部屋の前に列ができており、急いで着替えを済ませたあたしは朝食を食べる暇も無く占いをさせられた。当たり前だが、訪問者は城勤めの者ばかりだ。


 無くした結婚指輪を探してくれ。恋人との相性を占ってくれ。そろそろ転職したいんだがタイミングとしては間違っていないだろうか。健康運を占ってくれ。運命の相手はいつ現れるのか。など、失せ物探しをはじめ、恋愛相談や人生相談が多数。しまいには、『夫の浮気相手を呪ってくれ』という依頼者まで現れた。流石にそれは『自分でやってくれ』とお断りしたが。


 訪問者が途絶えたのは、正午を過ぎた頃である。

 疲労と空腹で、座っている事さえ億劫になったあたしは、水晶玉があるテーブル席からよろよろと立ち上がると、ベッドまで移動して突っ伏した。


「忙しすぎ。こんなの割に合わないわ」


 枕に顔を埋めて呻いたあたしに、昼食が乗ったトレーを部屋の中央にある低いテーブルに置いたアミリアが「ごくろうさま」と労ってくれた。カップにお湯を注ぐ音と共に、紅茶のふっくらとした香りが漂ってくる。

 

「商売繁盛ですね。侍女たちの中でも話題になってますよ。城に占い師が雇われたのは、五十年ぶりの事だそうで」


「みんなあたしが魔女だって知った上で来てるんでしょ? 怖いもの見たさってやつかしら」


 皮肉を言うと、アミリアが「もう、ロゼさん!」と声を荒げた。振り向くと、袖が大きく膨らんだベージュのワンピースを着たアミリアが、仁王立ちに腰に手を当ててあたしを睨んでいた。

 アミリアの私服がどれも清楚で機能的なのは、仕事着でもあるからなんだな、と昨夜の彼女との雑談を思い出す。

 

 あたしを拾った事に対する責任感からか、アミリアは昨日から、食事を運んだりお茶やお菓子を持ってきてくれたり、ちょくちょく様子を見に来てくれていた。


 親切な侍女は、自信満々に胸を張って言う。


「城勤めをする者には、振る舞いに品格が求められます。これから魔界との交流を深めていこうって陛下が動いておられる時に、魔物だからってだけで意地悪するような人はここにはいません!」


「……ひんかく?」


 昨日会った隊長二人の顔が、たちまち蘇る。

 あいつらの振る舞いのどこかに品格なんて大層なものは存在していただろうか。


「朝から酒の匂いをぷんぷんさせて、初対面の相手を勝手にライバル視して脅迫するのが騎士団の品格なわけ?」


 途端、アミリアの目が泳ぐ。


「ああ~、あの二人ですか」


 声を裏返らせたアミリアは、アダンとユウリは元々、リュークの喧嘩仲間だったのだと説明した。


 お忍びで街へ出てはゴロツキと喧嘩を繰り返していたリュークは、いつの間にか『元締め』と呼ばれる存在にまで登りつめてしまったのだそうだ。

 そして、リュークが将軍に就任した時に、空席だった隊長の席に信頼のおける戦友二人を据え置いたのだという。

 勿論、騎士団からは講義の声が上がったが全員、二人が拳で黙らせたらしい。


「でもまあ二人とも、悪い人じゃないから大丈夫ですよ。クローエンさんが上手く手綱を取ってくれてるし」


 そういえば昨日、勝負でユウリに勝てば敵対心を抑えられるといった事をクローエンが話していたが、こういう事だったのかと納得した。どうやら聖騎士団は、気持ちがいいくらいに実力社会のようだ。


 しかし、あたしがあんなバケモノ連中を相手にして、拳で勝てるわけがない。ならば戦法は一つである。

 あたしはベッドから飛び起きた。


「それじゃ、今のうちにやっとかなきゃ」


 何をです? というアミリアからの質問にあたしは、三隊長の弱みを探すため『遠見』をするのだと説明しながら水晶玉の前に座った。


 アミリアが苦笑う。


「どうしてまた、弱みなんか」


「他人の弱みを一つでも多く握るのが長生きする秘訣じゃないの」


「そんな秘訣が通じるの、魔界だけだと思うけど」


 ぶつぶつ言いながらも、アミリアはあたしの隣にしゃがんで水晶玉を覗きこむ。何のかんの言いながら、興味はあるらしい。


「『魔女の水晶玉よ映しておくれ。天馬騎士隊隊長、ユウリの姿を』」


 いつものように水晶玉に命じると、玉に映っている部屋の映像がぐにゃりと歪み始めた。歪みは次第にぐるぐると渦を巻き、それはやがて、黒髪ショートボブ童顔女顔の男を映しだす。

 驚いた事に、そこにはユウリだけでなく、アダンとクローエンもいた。訓練を終えたばかりのようで、三人は動きやすそうなシャツとパンツ姿で、簡単な皮鎧を身につけている。

 三人は並んで椅子に腰かけており、揃って正面をみつめていた。三人の前にはもう一人、誰かがいるらしい。表情から察するに、真面目な話をしているようだが。

 

 もっとよく見ようと顔を近づけると、驚いたように目を見開いたアダンが口を開いた。


『ロゼがラグラスの血縁? 本当ですか!?』


 これはまずい!


 アミリアに知られてはならないと、慌てて水晶玉に覆いかぶさった。

 が、残念なことに映像は隠せても、聞こえてくる会話までは塞ぎきれない。静かな占い部屋に、あたしの胸の下からもれる音声が、虚しく響きわたる。


『創造の技を使うラグラスはエル・アケルティの中でも上位の魔族だったと言われている。ここに二人も三人も、そんな存在がいるわけがないさ。ロゼはラグラスの子の一人とみて間違いないだろう』


 聖王の声だった。

 目玉を作った時に随分驚いていたけれど、その理由がやっと分った。


 そうなのね。あたしの特技、魔王とお揃いだったわけね。


 しかも、あのバカ親父がエル・アケルティから来た魔族でしたとか、とんでもない事実まで知ってしまったけれど、そんな事はどうでもいいくらいの自己嫌悪に、あたしは浸っていた。


 目玉なんか作るんじゃなかった! 目玉なんか作るんじゃなかった! 目玉なんか作るんじゃなかったーっっ!


 あたしは水晶玉に覆いかぶさりながら、とてつもない後悔を心の中で繰り返し叫んだ。


 あたしの特技がラグラスの専売特許だって知ってたら、世間様に披露したりしなかったのに。


 どうせあたしは世間知らずだよ、こんちくしょー! 


 心の中では色々叫んでいたが、実際口から出ていたのは「ううう」という情けない呻き声だけである。


「ロゼさん……ほんとに?」


 アミリアが恐る恐る確認してきた。


「娘ですがナニカ……」


 絶望の心境で答えると、「いえ。だいじょうぶです」という答えが返ってきた。

 何が大丈夫なのか皆目見当もつかないが、もうアミリアはあたしに構ってはくれないという事だけは確信できた。

 覚悟を決めて斜め後ろにいるアミリアを見る。

 彼女は困ったような笑顔をあたしに向けていた。

 笑顔の意味が分らず戸惑っていると、アミリアは少し俯いて小さく笑う。

 

「大丈夫。私、人を見る目だけは自信あるんです」


 そう言いながら、部屋の中央にあるテーブルに移動した彼女は、紅茶のカップを持って戻ってくる。


 アミリアは、赤茶色の液体がたっぷり入ったカップをあたしの横にそっと置くと、目を細めて微笑んだ。

 

「とりあえず、座って落ち着きましょうよ」

 

 肝っ玉が太い聖女付きの侍女は、あたしの後ろにある椅子の背もたれを、掌でとんとんと叩いて着席を促した。


次話は明日、投稿します!

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