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そしてプロローグに戻る

フランチェスカが王宮を出て行ってもうすぐ二週間が経とうとしていた。


その間レンブラントは睡眠も碌に取らずに、街へ出てフランチェスカを探し続けた。


フランチェスカ出奔の事実を公にしていない為、政務が終わった後の夜のプライベートな時間しか捜索に当てられなかったからだ。

当然、自ずと寝る時間が削られる。


しかしレンブラントにとってそれは瑣末な事にすぎない。

フランチェスカが心配でどうせ眠れないのだ。

それなら王都中のアパートやホテルや宿などの名簿をチェックし、例え偽名を使われていたとしても入った日付けと照らし合わせて怪しい人物に的を絞ってゆくという作業をした方がよい。


日中はもちろん暗部が秘密裏に探索に当たっている。

しかし報告によると、ロナ一人に手玉に取られているようなのだ。


囮の情報(エサ)を巻き、それに辿り着かせるも更に偽の情報で混乱させる。


それならばと、こちらはその更に裏をかこうとすると却ってそのまた裏をかかれて翻弄させられるのだという。


(相手)の性格が悪いというだけでこんなにも引っ掻き回されるのかと痛感しております……」


と、ロナの兄である暗部の男が言っていた。


同じ暗部同士…身内同士、手の内が解られているというのが厄介らしい。


その他の捜索の手として、王宮魔術師団所属の魔術師に探索魔術でも掛けさせるという方法もあるのだが、フランチェスカの不在を決して知られてはならないのでその手は選べない。


従って地道に足を動かして探すしかないわけなのだが……


一向に掴めない足取りに、レンブラントは疲弊と焦りの色を濃くしていった。


その中でも必死に考える。


……そうだ、フランチェスカがこれから平民として生きていこうとしているならば、何かしらの仕事をしなくてはならない筈だ。


王宮のフランチェスカの部屋にはレンブラントや実母が贈った装飾品やドレスはほとんど残されていた。


持ち出されていたのは生家から体裁程度に持たされた宝石や、ドレスのみである。

それらを売って生活するのには限度がある筈だ。


定期的に収入を得る為には働かなければならない。

かといってフランチェスカに肉体労働など絶対に無理だ。

となると……必ず特技を活かした仕事に就く筈。


「……代筆業や翻訳業か……」


レンブラントはすぐにそれらの仕事を斡旋するギルドの登録者名簿を内々に入手させた。


そして一人、怪しげな人物を見つけ出す。


つい最近登録した新人。

古代文字(エンシェントスペル)や精霊文字の翻訳を請け負える、と名簿に記載されている。

名は“ブランシュ=オーリー”とあるがこれは偽名かもしれない。


「臭うな……」


無駄足でもいい。

可能性があるならとにかくじっとしてはいられない。


レンブラントはその日の政務の予定を変更して、さっそくそのブランシュ=オーリーなる者の住居へと向かった。


そうしてレンブラントはその目的の住居、フランチェスカが住むアパートへと辿り着く。


馬車を降りて建物を見上げると、ふいに少し離れた所から声がした。


「……意外と早く見つかりましたね、この場所は殿下御自らお気づきに?」


レンブラントが声がした方に視線を向けると、建物の陰からこちらを窺うロナがいた。


「ロナか……お前にはしてやられた。が、フランチェスカの立場で思うとお前を彼女に付けて正解だったという事だな」


「そうですね。ワタクシの主人は殿下でいらっしゃいますが、お味方をするのはフランチェスカ様です」


「まあいい。お前はそれでいい、これからもフランを頼むぞ」


「勿論でございます。しかしながら殿下、此度は下手を打たれてましたね。本当にお嬢様の事を思われるのであれば全てを打ち明けられるべきでした」


「……そうだな。今となっては悔やまれて仕方ないよ」


「それで?暗部を動員してまで探され、御自らお迎えに出て来られるという事はまだお嬢様の事を大切に思われていると判断してよろしいのですね?」


「無論だ。後にも先にもフラン以外を欲する事は絶対にない」


「それなら最初からお嬢様には全てお話しされるべきでしたね」


「……面目ない……」


「このカッコつけ。頼れる男を演出したかったんですか」


「返す言葉もない……」


「お嬢様がのほほんと禁書の翻訳をしてその後のウンタラカンタラでばばーんとジャジャーンとしてドヤりたかった訳ですね」


「……申し訳ない」


「でも結局誤解されて逃げられて泣きベソかいて追いかける……カッコ悪っ……」


「いやはやホントにもう…ってそこまで言うなっ」


「ふっ、……とにかく二度はありません。今度お嬢様を泣かせたら、ワタクシの全てを懸けてお嬢様を連れ去りますから」


「肝に銘じておくよ……」


「208号室です。早くお嬢様を迎えに行って差し上げて下さい」


「!……感謝する」


「まぁお嬢様は帰りたくないと仰るでしょうけどね」


「………」


レンブラントは何も言い返す事が出来ず、大人しくアパートへ入って行った。


階段を上がり、フランチェスカが居る部屋の前へと辿り着く。


ノックをしようと手を上げたその時、ドアがガチャリと開き、偶然にもフランチェスカが出て来たのであった。


――フランっ!



そして事態はこの物語の冒頭(プロローグ)部分に至るわけなのだが……


レンブラントはフランチェスカが住むアパートの部屋に入り、室内を物珍しそうに眺めた。


最側近のトーマスも一緒で、彼も伯爵家の令息(ぼんぼん)なので、庶民の暮らしに興味津々で見回っている。


レンブラントは驚愕した。


――こんな無防備な場所でフランのようなか弱くて可愛い女性が一人で暮らしていただと……?


ロナが守っていたとしても危険な事この上ない。

そんな状況に追い込んだ自分にますます腹が立つ。


しかしそれよりも……


このような生活でもフランがイキイキとしている事に少なからずともショックを受けるレンブラントであった。


フランチェスカはメイドに教えて貰ったばかりのお茶の淹れ方で二人にお茶を出す。


王太子殿下にこんなものお出ししてもいいのかしら?と思いながら対面するソファーに座ると、レンブラントはなんの躊躇いもなくお茶を口に含んだ。


「お毒見は?宜しいのですか?」


「お前が俺に毒など盛るわけがないだろ」


「もちろんですわ」


変わらず信頼してくれているのだとキュンとする。

いやフランチェスカ、そんな場合ではないぞ。


カップをソーサーに置き、レンブラントが言った。


「なんで勝手に城から出て行ってるんだ?しかもこんなボロアパートで一人暮らし?フラン、お前気は確かか?」


「殿下こそわざわざどうされましたの?もしかして視察か何かでこちらまで?」


「俺に断りもなく勝手に城を出て行ったお前を迎えに来たとは思わんのか?」


「???」


「……思わんのだな」


迎えを心待ちにされていたとまでは思っていなかったが、全く期待されていなかった事にこれまたレンブラントはショックを受けた。


「だってわたしはもう殿下の妃には…「もういい」


フランチェスカの言葉を遮ってレンブラントは徐に立ち上がり、そしてフランチェスカを抱き上げた。


「へ?殿下?どちらに?「それやめろ、以前と変わらず“レン”と呼べ」


「でもわたしはもう……「お前が妃候補から外れる事はない、諦めろ」


何度もフランチェスカの言葉を遮ってレンブラントが言う。


そしてスタスタとアパートから出て行き、狼狽えるフランチェスカを馬車の中へと押し込み、自身も乗り込んだ。


フランチェスカ達の後を付いて来ていたトーマスも馬車に乗ろうとしたが、レンブラントに「悪いが二人で話がしたい、お前は御者の隣に乗ってくれ」と言って扉を閉めた。


「待ってレン様、どこに行くの?」


無情にも馬車の扉が閉まり、フランチェスカは慌ててレンブラントに尋ねる。


「無論、王宮に戻る」


「イヤです、わたしは蠱毒の虫には向いてませんわっ」


「なんだそれは……もう黙れ……」


そう言ってレンブラントは隣り合わせに座るフランチェスカを抱き寄せた。


「!」


一瞬何が起きてるのか理解出来ず、フランチェスカは固まった。


ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられる。


理解は遅れてやって来て、フランチェスカはレンブラントの腕の中で小さく身動(みじろ)いだ。


「レ、レン様っ……」


「………心配した……」


苦しそうな声を押し出すようにレンブラントが呟いた。


「俺が悪かった……」


「え?」


「お前にちゃんと伝えておくべきだった。俺は最初からお前しか妃に迎える気は無かったという事を」


「ええっ?」


――今、レン様は何と……?


レンブラントがアパートに現れたのは幻覚ではなかったが、今フランチェスカの耳に届いたのは幻聴なのか。


フランチェスカは只々目を丸くしてレンブラントを見つめた。



誤字脱字が多くて本当に申し訳ないです。゜(゜´ω`゜)゜。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロナさんの言うとおりですし、こういう風に黙っているヒーローは嫌いです。 しかし、レンさんに関しては気持ちは分かりますし、黙っていて正解でもあったかなと感じます。 悪魔が3匹部下を大量に…
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