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ただのフランチェスカ

誤字脱字報告、ありがとうございます!

レンブラントの妃候補として暮らした王宮を出て二週間。


ロング侯爵令嬢フランチェスカ(18)はただのフランチェスカとして下町暮らしを謳歌していた。


簡素な建物に慎ましやかな食事、何か必要な物があれば自分で買いに行かなくてはならないし、自分で荷物を持たねばならない。

でもそんな事も全て、フランチェスカには新鮮で楽しかった。


しかし今までスプーン一つ洗った事もないフランチェスカにいきなり家事など出来る筈もない。

なのでロナは昔馴染みのメイドを手配して身の回りの世話をやいてくれるよう手配もしてくれていた。


ロナは何かの妨害工作とやらで忙しいらしく、そのメイドにフランチェスカの世話を託し自分は王都内を駆け回っているようだ。


フランチェスカは手始めにロナが依頼引き受け代行として貰って来てくれた翻訳の仕事に手をつけている。


とは言え得意分野の精霊文字の仕事はなかなか無いらしく、とりあえず古代文字(エンシェントスペル)の翻訳作業を行なっているのだが。


でも今までは趣味でやっていた事でお金が稼げる。

生まれて初めて自分の稼ぎで生活するという体験はフランチェスカの心を高揚させた。


まぁ夜になるとレンブラントや彼の実母である側妃様の事が恋しくなってホームシックに罹ってしまうのだけれども。


それも時が経てば平気になる、今はそれを信じて日々を過ごすしかない、フランチェスカはそう思った。


何事も勉強だと、メイドに教えて貰いながら家事も覚え始めている。

使った食器を洗ったり、洗濯物を畳んだり。


――ふふ、わたしのこんな姿を見たら、きっとレン様は驚くわね。


と、またレンブラントの事を考えてしまった。

まだ事ある毎に彼を思い出してしまう。


今まで生活の全てがレンブラント一色だったのだから仕方ない事だけど。



そういえば王太子妃候補が出奔したと報じられている話は聞こえて来ない。

捜索隊が編成されたとか、街中に人相書きの貼り紙がされているとかそういった類のものもない。


――まぁ取るに足らない脆弱令嬢の出奔など、公にする必要はないですわね……


きっといつの間にか消えていたと処理されて終わりなのだろう。


――レン様は少しは寂しいと思ってくれたかしら。

近頃は接する機会も減っていたし、そんなに違和感は感じないのかも……



それにきっと他の候補者令嬢たちとの交流や公務で忙しいのだろう。


そしてまたレンブラントの事を考えていた事に、フランチェスカは自嘲した。


「こんな事ではいけませんわね。気持ちを切り替えて頑張りましょう」


フランチェスカはそうひとり言ちて、気晴らしに市場に行ってパンやお菓子を買おうと鞄を持った。


鞄はもちろん肩から斜め掛けが出来るショルダータイプ。

市井での暮らしにまだ慣れていないフランチェスカが引ったくりやスリに遭わないように、必ず出掛ける時はショルダーバッグでとロナに言われているのだ。


そのバッグをしっかり肩から下げて、フランチェスカは玄関のドアを開けた。


「…………!?」


そしてそっと閉じた。


ドアを開けたは良いものの、ドアの向こうに意外な人が立っていて思わず閉じてしまったのだ。


「……………」


ドアの向こうにレンブラントが立っていたような気がする。


「……………?」


いやまさか、そんな筈はない。

彼がこんな所へ来る筈がない。


レンブラントの事ばかり考えてしまっていたからきっと幻覚が見えたのだろうと、フランチェスカは再びドアを開けた。


「……………」


するとやはりレンブラントの幻覚が見えるのだ。


――わたし、疲れているんだわ。


そう思い、またドアを閉じようとした時、「おいっ」と言われドアと壁の隙間から足を差し入れられた。


その軽い衝撃でやはりこれが現実なのだと思い至らせられる。


フランチェスカはまじまじとレンブラントの顔を見た。

他人の空似か。

いやしかしどう見てもレンブラントだ。


「……レンブラント……殿下?」


確認するように名を呼ぶ。


すると返事をするように今度はフランチェスカの名が呼ばれた。



「フラン、見つけたぞ」



どうしてここが分かったのか……

出奔して二週間目、フランチェスカはレンブラントに捕獲された。



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