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焦燥

フランチェスカが王宮から出奔して早三日。


王太子レンブラントはこの事を公にせず、秘密裏に動いていた。


幸い不在に気付いたのは側近中の側近であるトーマス=ワート。

フランチェスカとも幼馴染であり、この王宮で数少ないフランチェスカの味方でもある。


それを幸いとして、フランチェスカは風邪を抉らせて伏せっているという事にしたのだ。


影の薄いフランチェスカの姿が見えなくなったからといって誰も不審がる事はなく、今のところ上手く誤魔化せている。


妃候補が置き手紙一つを残して出奔したなど、喧しい上位貴族共に知られたらフランチェスカがどんな責めを負わされるか容易に想像出来る。


そして候補者(ライバル)は一人でも少ない方が良いと、途端に候補者の名簿から除名されるだろう。


なので、大至急、可及的速やかにフランチェスカを見つけ出し、この王宮に連れ戻さなくてはならないのに王宮を出た後の足取りが全く掴めないというのだ。



「何故だ。何故未だに見つけられん」


焦りを露わに言葉を押し出すレンブラントに、王太子直属の暗部の一人が答えた。


「此度のロング侯爵令嬢の出奔、間違いなく侍女のロナが手引きしたものと思われます。ロナは性格に難あれど暗部としてはかなり優秀な者です。そのロナが本気で令嬢を隠しているのであれば、これはなかなか直ぐには見つけられないかと……出奔に気付くのが遅れたのも、ロナの巧みなトリックです。魔術により自分のコピーを一定時間作り、令嬢の食事を運んだり下げたり。その姿を他の者に見せる事により不在発覚を遅らせたのです」


レンブラントはその者を一瞥し、言った。


「こちらは複数人の暗部が動いているというのに、たった一人の女性暗部に振り回されているという事か」


「面目次第もございません……」


(けい)の妹だったか?」


「……昔からかくれんぼが得意な妹でして……」


レンブラントは手紙に書かれたフランチェスカの文字に指で触れた。


「見つけ出せ。必ず、絶対にだ」


「御意」


気配が揺らいだのを感じ、もう一度男のいた方を見やったがそこに姿はもう見当たらなかった。


近くに控えていたトーマスがレンブラントを気遣うように声をかける。


「殿下……」


レンブラントはフランチェスカが残した手紙に目を落とす。


【貴方の人生が幸多きものである事を祈っております。今までありがとう。どうかお元気で。フランチェスカ】



「………」


まさか王宮を出て行くとは。


帰る場所なんてもう無い筈なのに。


のんびりおっとりマイペースなフランチェスカにこんな行動力があったとは……


侍女のロナの手助けがあったからこそ成し遂げた出奔であろうが。


今回の事は完全に自分の落ち度だ、レンブラントはそう思った。


フランチェスカは自身の半身といっても良いくらい大切でかけがえのない存在だ。

常に互いを支え合い、寄り添って生きてきた。


だからどんな時もフランチェスカは自分の側に居て、目の前から消えてしまうなんて考えもしなかったのだ。


他の妃候補者やその家門の者達から害されぬようにと、そればかりに気を配り過ぎた。


フランチェスカにはちゃんと話しておくべきだったのだ。



最後に姿を見た夜。

「レン」と不意に呼ばれて振り返るとフランチェスカは笑っていた。


その笑顔がたまらなく愛おしくて思わずキスしたくなったのを懸命に堪えたのだ。


いっそキスをすれば良かったか。

そうすれば彼女をここに縫い止める事が出来たか。


いや、もしその姿を奴らに見られたらフランチェスカの身が危険に晒されるやもしれない。


フランチェスカの事は、力も後ろ盾も何も無い取るに足らない令嬢……奴らにはそのくらいの認識でいて貰わねばならない。


その間に計画を進めてゆく。


焦らず、慎重に事を運ばなければ奪われ、失ってしまうかもしれないのだから。


不覚にも今失っている状態だが……



レンブラントは己が拳を握りしめる。


「必ず、必ず取り戻す」


「え?」


レンブラントがそう呟いたのを、よく聞き取れなかったトーマスが聞き返した。


レンブラントはトーマスに告げた。


「昔からフランの事をよく知るお前だ。お前自身の思い当たる筋を当れ。フランが見つかるまでは休みは無しだ」


「えぇっ……不眠不休で捜索しろと仰るのですか……?」


「眠るなとまでは言っていない。しかし俺はこれから政務が終わった後、睡眠時間を削ってでもフランを独自に探すつもりだ」


「で、殿下はなりませんっ。尊き御身に何かあったら如何されるのですっ?」


「ぽやぽやのフランが市井に居ると思うと気が気でならん、心配で気が狂いそうだ。ロナが付いてるなら大丈夫だと思うが、それでもあいつの身に何か起きたらと思うと……クソッ」


レンブラントはバンッと力一杯、机に両手を突いた。


「殿下……」



――フラン、お前は今どこにいる?


どこで何をしている?




レンブラントは机に手を突いたまま、両方の拳を握りしめた。





さてそのフランチェスカだが、


彼女は王都の下町の一画、ロナが用意したアパートに居た。


簡素なワンピースに簡単に編んだ髪。


その姿はもう、街娘そのまんまである。



「わたしったら、平民の素質があったのかも?」



意外にも下町暮らしをエンジョイしているフランチェスカであった。







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