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スーパー侍女ロナにお任せ

不要の妃候補となったと自ら判断したフランチェスカ。


レンブラントの御前を辞して王宮から下がるのは良しとして、その後は何処に行ってどうすればいいのか皆目見当も付かないフランチェスカは、自身の専属侍女ロナに今後の事を相談してみた。


王宮から出て行きたいという胸の内を全てロナに話したはいいが、話の途中からロナの滂沱の涙と嘆きの言葉が止まらなくなった。


「お、お嬢様ぁぁっ、なんてお労しいっそしてなんて健気なっ……!ええ、このロナも薄々と感じておりました、レンブラント殿下の心変わりをっ……酷いっ酷すぎまずぅぅ……!」


王宮に住まうようになってからレンブラントにより充てがわれた侍女のロナはフランチェスカよりも一回り年上の三十歳になる。

男に養って貰いそれにより振り回される人生なんて真っ平だと言って独身を貫いている職業婦人だ。

少々喜怒哀楽が激しいが、優しく頼りになるフランチェスカの強い味方なのだ。


「心変わりというのは少し違うかしら……?レン様と私は恋人同士でもなんでもないのだし?それよりもロナ、私はこの先どうしたら良いと思う?」


ロナはフランチェスカの手を握り、力強い口調で言った。


「何の心配も要りません!全てこのロナにお任せくださいませ!お嬢様を無事にこの王宮(伏魔殿)から脱出させ、住むところも今後の身の振り方も全てご用意して差し上げます!ワタクシの大切なお嬢様を路頭に迷わすつもりは毛頭ありませんっ!!」


「ありがとうロナ。さすがだわ、よろしくお願いするわね」


「まかせんしゃいでございます!」


その日からフランチェスカとロナは周りの者に気取られぬよう、秘密裏に地道にこつこつコソコソと王宮を出る為の準備をした。


因みに先に種明かしをしておこう。


ロナはフランチェスカの専属侍女でもあるが、実は暗部所属の護衛も隠密行動もお手の物というスーパーなウーマンなのである。



フランチェスカは装飾品やドレスなどを売って資金を作り、ロナに頼んでアパートを借りたり家具や生活用品を買い求めたりした。


今は国から支給される王太子妃候補者の為の公費を頂いているが、王宮を出て妃候補でなくなればその収入は得られない。


従って何か仕事に就かなくてはいけないのだが、ロナはそれも見繕ってくれた。


「お嬢様は精霊文字のエキスパートでいらっしゃいます。その特技を活かして翻訳のお仕事をされれば良いと思います。古代文字や外国の言葉など、翻訳業を専門に扱うギルドとの契約は既に済ませておりますから、何の心配も要りませんよ」


完璧だ。さすがはスーパーなウーマンである。


「何から何までありがとうロナ……。それなら不用品の私でも役に立てそう。不用品の再活用というわけね♪ロナには足を向けて寝られないわ。ロナの部屋の方角はどっち?私のベッドの足の方でないといいのだけれど……もしそうなら私、これからは立ったままで眠るわ」


「なりませんよお嬢様、そのような事をなされたら足が浮腫んでパンパンになります!そのような事を思われる必要はございませんっ。ワタクシはお嬢様の為に存在している者なのでございますから、お嬢様の為に動くのは当然の事なのでございます!それにお嬢様は不用品などではございませんっ、まだまだ活用出来る必需品です!」


「ロナ……」


「お嬢様……」


ツッコミどころは多々あるが、ここはそっとしておこう……


二人ひしと手を握り見つめ合っているその時、フランチェスカの自室のドアがノックされた。


「どちら様でしょうか」ロナが対応する。


するとドアの向こうから、くぐもった聞き馴染みのある声が聞こえた。


「僕です。トーマスです」


「まぁトーマス?ロナ、入って頂いて」


「かしこまりました」


ロナはそう言ってドアを開けた。


姿を見せたのはレンブラントが第二王子だった頃からの側近、トーマス=ワート伯爵令息だ。


フランチェスカとも子どもの頃からの付き合いで家臣というよりは友人に近い感覚である。


「お久しぶりねトーマス」


「こちらこそご無沙汰しております。フランチェスカ様もお変わりなくお過ごしでしたでしょうか」


「ふふ、トーマスは相変わらず律儀で真面目ね。幼馴染でもあるのだからもっと気軽に接してくれていいのに」


「王太子殿下となられたレンブラント様の大切なお妃候補の方ですからね、いつまでも甘えた態度ではいけません」


トーマスの言葉を聞きフランチェスカは心の中で、


――もうじきその立場ではなくなるのだけれどね


と呟いた。


「それで今日はどうしたの?」


「はい。レンブラント殿下より、フランチェスカ様へのご伝言を承って参りました」


「まぁ伝言?何かしら?」


「明日から文書室にて、手付かずで保管してある古代書の翻訳をするようにとのお達しでございます」


「古代書?古代文字(エンシェントスペル)の翻訳かしら?」


「いいえ、精霊文字の古代書だとお聞きしております。王家の禁書であり、精霊文字の翻訳が出来る者がそうそう居らずに今まで放置…コホン、保管するのみだったのですが、精霊文字をマスターされたフランチェスカ様に翻訳を依頼したいと仰って」


「精霊文字!王家の禁書!」


途端にフランチェスカは食いついた。


幼い頃に生家の図書室で精霊文字について書かれた本を読んでからというもの、

精霊界で用いられているという文字に強く惹かれ独学でマスターしたフランチェスカ。


それは彼女にとって、もの凄く興味深い依頼であった。

しかも王家の禁書。

限られた者しか見る事はおろか触れる事も許されないその禁書が見られるなんて……!


――でも……


でもフランチェスカはこの王宮を去ると決めたのだ。

レンブラントとは関わりのない人生を歩むと決めたのだ。


その為の計画も着々と進み、あとは王宮を出る算段を付けるのみである。


「話は分かりました。でも少し風邪気味だから、翻訳作業はそれが治ってからでもいいかレン様に確認してくれる?」


本当はもんの凄く禁書に後ろ髪引かれる。

引かれるが、王家とは関わりが無くなる者が禁書に触れるなどとんでもない。


フランチェスカは時間を稼ぐ為に風邪気味だと誤魔化した。


心優しいトーマスはフランチェスカが風邪気味だと聞くや否や、侍医を呼んで来るとかレンブラントに可及的速やかに報告せねばとか慌てふためいた。


しかしロナに大丈夫だからさっさと戻れと半分追い出される形で退室して行ったのだった。


フランチェスカはそのトーマスの背中に「嘘を吐いてごめんなさい」と心の中で詫びておく。


トーマスが去った後、フランチェスカはロナに尋ねた。


「もう住む所も色々と整っているのよね?」


ロナは頷く。


「はい。もういつでも王宮を去れますよ」


「そう……」


出来るだけ早くがいい。


出来るだけ早く、新しい人生を歩みたい。


「でもロナ、上手く王宮から出られるかしら?」


「認識阻害魔法や変身魔法を掛けても王宮に施された結界の所為ですぐに破られてしまいますからね、こういう場合は却って堂々と大きな顔で出て行く方が良いのです。もちろん、物理的に変装はして頂きますけども」


「まぁ!変装するのね」


――それならどんな変装がいいのかしら


変装というワードを耳にし、少しだけわくわくするフランチェスカだった。




その夜。


夕食も湯浴みも終わり、ロナも今日の勤めを終えて退室した後の事だ。


寝る前に少し本でも読もうと夜着の上にガウンを着た時、ふいにテラスへ繋がる窓をノックする音が聞こえた。


「あら?」 


気のせいかしら?と思いながらカーテンを少しだけ開けると、なんとそこにはレンブラントの姿があった。


「レンっ?」




誤字脱字報告、まことにありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] うわあ、レン王子ってフランを便利使いする為に側に置いてるんですね〜。それなら妃候補にしなきゃよかったのに。 今からモヤモヤしてたらダメですよね。 はあ、辛いターンになりそう
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