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序列一位

「コリンヌ様、その節はよくもやって下さいましたわね?」


夜会が始まる直前、妃候補者達の控え室でリーグ公爵令嬢ヴェロニカがソレム辺境伯令嬢コリンヌにそっと囁いた。


「……まぁ一体何がでしょう?」


コリンヌがヴェロニカに返す。

ヴェロニカは余裕の笑みを浮かべて言った。


「嫌ですわお惚けになって。先日、貴女のお家に雇われた者に私が襲われた一件でございますわ」


ヴェロニカが言っているのは庭園にてヴェロニカが庭師に扮した不審者に襲われた事だろう。


「あぁ、あの事件ですわね。我が家には全く関わりのない事ですが、お可哀想なヴェロニカ様……さぞ怖かった事でしょう……ご無事で何よりでしたわ」


「ほほ、白々しいこと。実行犯はただ金で雇われた者。その雇い入れる経緯も複雑にして真の依頼人に辿り付けないようにして騎士団を翻弄出来たと思ってらっしゃるようですが、どうやら王太子殿下は独自に影の者に調べさせて主犯格の人物を特定したようですわよ?」


「っ……」


ヴェロニカのその言葉を聞き、コリンヌの顔色が一気に悪くなる。


「私を排除すればご自分が妃に選ばれるとお思いになったのでしょうが残念でしたわね?きっと夜会が終わると同時にソレム家は罪に問われる事となるでしょう」


俯いて拳を握りしめているコリンヌを一瞥し、ヴェロニカはほくそ笑んだ。


「そうそう。妃候補者(私達)の会場入りの際、序列順に名を呼ばれて入場するそうですわよ?間違いなく私の名が最初に呼ばれる事でしょうね。そしてその順番こそが殿下とダンスを踊る順位なのだと推測しますわ。でもガッカリされる必要はございませんわよ?断罪がまだの時点ではきっと、ソレム辺境伯家は序列二位のままだと思いますから」


「………」


「まぁいつもお喋りなコリンヌ様らしくないですわね?どうされました黙ったままで……お体の具合でも悪いのですか?」


「……だ、大丈夫ですわ……」


コリンヌは俯いたまま、顔を上げる事はなかった。

それを見てヴェロニカは心の中で嘲り笑った。


――バカな女。そしてバカな一族だわ。

全てこちらの思惑通りだとも知らずに……。

毎朝決まった時間に襲い易い場所を散歩して私自らを囮にして襲撃を促したなどと、考えもしないのでしょうね。

害される可能性はゼロではなかったけれど、腕の立つ護衛を側に置いていたから無事だったし。おかげでソレム家失脚の足掛かりが出来た。

危険を冒しただけの価値はあるわね、あとの候補者二人なんて取るに足らない存在だわ。

ヴィゾネットのアンジェリックは少々食えないところがありそうだけど、ロングのフランチェスカなんて滓みたいなものだし……勝ったわね。間違いなく妃には私が選ばれる。王太子妃となりいずれは王妃となる、この私の時代がやって来るのよ……!


自ら立てた策謀が功を奏した事への高揚感で、ヴェロニカは肩を震わせた。


その時、フランチェスカの付き添いとして控え室に同席していたトーマスが候補者達に告げた。


「既に夜会会場には出席者各位が入られているとの事です。これより候補者の皆様におかれましては順番に会場入りをして頂きます。名を呼ばれたご令嬢から同伴者の方と共にご入場をお願い致します」


「承知いたしましたわ」


さも自分が答えるのが当然といった態でヴェロニカが言う。

気持ちの上ではもう王太子妃になったつもりでいるようだ。


トーマスは笑顔を崩さず声高らかに最初の者の名を呼んだ。



◇◇◇◇◇◇



会場では各門閥の有力な諸侯や古くからこの国を支えてきた貴族達が夜会の開始を待っていた。


既にレンブラントの父である国王や王妃。

そしてレンブラントの実母を始めとする側妃達も壇上の上に座していた。


あとは王太子の妃候補者達全員が揃うのを待つのみである。


この国の筆頭公爵家であるリーグ公爵ヴェルドルフは娘の入場を今か今かと待ち構えていた。


事前に掴んだ情報では先だっての襲撃事件により上手くソレムを排斥出来る運びとなっているらしい。

今夜の夜会が終われば直ぐにでも罪に問われる事になると報告を受けていた。


日和見主義のヴィゾネット家などどうとでもなるし、生家に見放されたロングの小娘など論外だ。


間違いなく娘が王太子妃に選ばれる……

リーグ公爵は内心声高らかに嘲り笑っていた。

あの娘にしてこの父親ありである。

いや逆か……


その時、王太子付きの侍従が一人、リーグ公爵に近付いてそっと耳打ちをして来た。


何度か見知った侍従なので、公爵はそのまま耳を傾けた。


「っ…………!?」


一体聞かされた内容は何だったのか、公爵の顔色が一瞬で真っ青になった。

公爵に何やらを告げた侍従は軽く一礼をしてその場を去る。

後には冷や汗を垂らし、ガクガクと震えるリーグ公爵が残された。



丁度その時、

王太子の右腕と名高い側近のトーマス=ワートの声が会場入り口付近から聞こえた。


彼の口から待ち望んでいた筈の娘の名が声高らかに告げられる。


「リーグ公爵家ご令嬢、ヴェロニカ=クレマレス様、ご入場!!」


途端に会場から響めきの声が上がった。


ヴェロニカは一番に名を呼ばれた事により、他の妃候補者達にドヤ顔じみた微笑みで声を掛けた。


「それでは皆様、これで決着が付いたようですから申し上げますわね。この夜会が終わる時には私は王太子妃となり皆様とは立場が変わってしまいますでしょうから……この二ヶ月ほど、皆様と共に王宮で暮らせてとても楽しゅうございました。皆様、王宮を去られる際はお忘れ物など無きようお願いいたしますわね。ではお先に失礼いたしますわ。また後ほど会場でお会いいたしましょう」


ヴェロニカは勝ち誇ったようにそう言い残し、同伴者と共に部屋を後にした。


そして会場と控え室の間の扉から、ヴェロニカが堂々たる優雅な足取りで入って来る。


国王の玉座がある壇上の下、妃候補者達の席までゆっくりと歩いて行く。


勝者は自分だと、あの美しい王太子は自分のものになるのだと周りに知らしめるように。


しかしそうやって歩きながらもヴェロニカはふと気になった。


喜色満面で出迎えてくれると思っていた父の顔色が極端に悪い事と、

王家の面々が居る壇上に自身の夫となる筈の王太子レンブラントの姿が見えない事。

この二つにヴェロニカは違和感を感じた。


――何故かしら。


怪訝に思いながらもヴェロニカは待ち構えていた侍従に指示された場所に立つ。

その位置まで来ると、エスコートしていた同伴者は他の者がいる場所へと戻って行った。


そして次々と他の候補者の名が告げられていった。


「ソレム辺境伯家ご令嬢、コリンヌ=ソレム様ご入場!!」


「ヴィゾネット侯爵家ご令嬢、アンジェリック=デュボア様ご入場!!」


二人の候補者達も同伴者と共に静々と歩き、特にコリンヌは悔しそうな表情を浮かべながらヴェロニカが立つ場所へと向かっている。


ヴェロニカはその様子を高みの見物といった様子で眺めながら思った。


――まぁ予想通りの順列ね。ロングの娘が最下位なのが当たり前過ぎて笑ってしまうわ。

さっさと会場入りさせて夜会を始めて欲しいものね


そんな事を考えているうちにコリンヌとアンジェリックがヴェロニカの隣に並んだ。


そして最後に、フランチェスカの名が告げられる。



「ロング侯爵家ご令嬢、フランチェスカ=ロング様。そして……王太子アトラス=オ=ルイ=レンブラント殿下ご入場っ!!」



「「…………え?」」



同時に発せられたヴェロニカとコリンヌの声が重なる。


そして最後にトーマスが会場の皆に聞こえるように告げた。



「尚、この順番は序列の最下位からとなり、最後に入場した者が候補者筆頭、序列一位と位置付けするっ!!」



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