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夜会当日

「め…女神が……女神がここにおられますっ……!」


夜会当日、レンブラントから贈られたドレスを身に纏ったフランチェスカを見て、侍女のロナが慄いた。


「大袈裟よロナ」


「大袈裟なものですかっ!殿下の魔力の色という癪なドレスをここまで完璧に着こなされるなんてっ……!さすがはお嬢様でございますっ!!」


「このドレスを選んでくれたレン様のセンスが良いのよ」


「そう。お嬢様には何が似合うかよく分かっているというところが余計にムカつくんですよねー」


「ロナったら……」


レンブラントに対し毒を吐き続けるロナにフランチェスカは苦笑する。


「とにかく!今日の夜会、お嬢様が一番お美しいのは間違いなしでございます!」


「ふふ。それはないわ~」


その時、部屋の扉がノックされる。


「あ、お時間ですね」

ロナがそう言って扉を開けた。


そこには盛装姿のトーマスが二名の近衛騎士と共に立っていた。

トーマスがフランチェスカに礼を執る。


「お迎えに上がりましたフランチェスカ様。不肖トーマス=ワート、本日はフランチェスカ様のエスコートを誠心誠意、心を込めて務めさせて頂きます」


「ふふ。ありがとうトーマス。今日はよろしくね」


「はい!それにしてもフランチェスカ様……なんとお美しいっ……!そのお姿を殿下よりも先に拝見してしまって……これは後で絶対ネチネチと恨みつらみを言われますね」


「あらトーマス、いつの間にそんなにお世辞が上手になったの?」


「上手というか本心が口から溢れただけでございますよ」


トーマスはそう言ってフランチェスカに手を差し伸べた。

フランチェスカはその手にそっと自分の手を乗せる。


「では参りましょうか」


「ええ。ではロナ、行って来るわね」


「いってらっしゃいませお嬢様。素敵な夜となられますよう……」


ロナが頭を下げて見送ってくれた。

ロナは今夜は暗部として陰に徹するらしい。

不審なヤツはバッサバッサと斬り捨てる、とそう豪語していた。



フランチェスカはトーマスと近衛騎士に守られて夜会が行われる会場へと向かう。


妃候補者達の控え室に着くと、そこには既にヴェロニカやコリンヌ、そしてアンジェリックの姿があった。

皆それぞれ、家族や家門(ゆかり)の縁者にエスコートをして貰っているようだ。


「まぁ……皆さまなんてお美しい……!」


華やかに着飾った他の候補者達を見て、フランチェスカは思わず感嘆の声をあげた。


「そうですね。皆様とてもドレスがお似合いです。ドレスを選んだ者はなかなかのセンスですよ」


「ふふ、トーマスったら……」


そのドレスを選んだのは実はトーマスだと知っているフランチェスカはトーマスのもの言いに吹き出した。


入室したフランチェスカにチラと目線だけ向けたヴェロニカとコリンヌが、直ぐさま二度見をしてこちらをマジマジと見てくる。


驚いたように目を見開き、次の瞬間には悔しそうに歯軋りをしていた。


その様子を見てトーマスがこっそりとフランチェスカに耳打ちをした。


「リーグ公爵令嬢とソレム辺境伯令嬢の顔が見ものですね。フランチェスカ様のお美しさに今ようやく気付いたような驚きっぷりです」


「これはドレスに驚いておられるのよ」


「確かにドレスの格も他のご令嬢とは段違いのものですからね」


「え?そうなの?」


「はい。殿下がご自分のポケットマネーで特注された最高のドレスですから」


「レン様が……」


フランチェスカは自身のドレスを見た。

温かいレンブラントの魔力の色のドレス。

着ているだけでレンブラントと一緒にいるようなそんな気持ちになる。


「今夜のフランチェスカ様の晴れ舞台にぴったりなものとなりましたね」


「え?晴れ舞台?」


それはどういう事かと訊こうとしたその時、ヴィゾネット侯爵令嬢アンジェリックがフランチェスカに声を掛けて来た。


「こんばんはフランチェスカ様。良い夜ですね」


「こんばんはアンジェリック様。ええ、素敵な夜です」


アンジェリックが目を細め、眩しそうにフランチェスカを見た。


「今夜のフランチェスカ様は本当にお美しいですわ。レンブラント殿下のご寵愛の深さが窺えます」


「まぁ……アンジェリック様はご存じでしたのね、わたしとレン様の事を……」


フランチェスカの頬が朱を刷いたように染まる。


「ふふ。自分たちの都合の良い事しか見ようとしない者には分からないでしょうが、純粋にお二人を見ていれば分かる者には分かりますよ。我が家門はバランスの為に私を候補者として挙げましたが、次期王妃の座を欲してはおりませんし」


小声で告げられた内容に、フランチェスカは驚いてアンジェリックの顔を見た。


「そ、そうなのですか?」


「ええ。そうなのです。そんな望みの薄いポストよりも、確実に我が家門が繁栄する道を選択しとうございますの」


「それは……?」


「フランチェスカ様の、将来の王妃殿下の腹心、という立場ですわ」


「わ、わたしの……腹心?」


「フランチェスカ様はお嫌ですか?私が王妃を常に側で支え、補助してゆく“腹心”という立場になる事を」


「……いいえ。嬉しいです。でも、腹心という役職ではなく……」


「ではなく?」


「“親友”になって下さる方が嬉しいですわ」


「!……勿論、ええ勿論喜んで」


「ふふふ」「ふふ」


二人はまた互いに微笑み合った。


アンジェリックは言う、先日のお茶会でフランチェスカがジョークにジョークで返してくれた時から友達になりたいと思っていたと。


今まで接した令嬢達にはジョークが通じず、通じたとしても冷笑されたというのだ。


――何故?ジョークって楽しいものなのに。


そう思えるフランチェスカだから、アンジェリックは気に入ったのだという事を本人は気付いていない。


アンジェリックがフランチェスカに言った。


「それにしても今夜の夜会。何やら起こりそうですわね」


「無事に楽しく終わるといいのですが……」


フランチェスカが心配そうにそう答えると、アンジェリックはすっ…と澄まし顔で言った。


「良い事と()()な事が起きそうですわよ、()()なだけに……ぷっ」


「ぷっ……ふふ、ナイスジョークですわ」



二人のそのやり取りを後ろに控えていたトーマスが微笑ましげに見守っていた。


フランチェスカに友人と、将来の腹心が出来た事をレンブラントに報告せねば。


きっと殿下はとても喜ばれる事だろう。


だけどその前に、なんとか無事に夜会が終わって欲しい、そう願わずにはいられないトーマスであった。



いつもお読みいただき、また誤字脱字報告もありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほんと腹心ができて良かったです。フランさんポヤポヤしているのでアンジェさんがフォローすればいい感じですね
[良い点] 良かった味方が増えて!
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