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ドレスの色

「王家主催の夜会?」


「アラお嬢様お忘れですか?来月に開催される夜会の事、先月お話ししましたでしょ?」


フランチェスカの自室で、専属スーパーなウーマン侍女のロナがお茶を淹れながらフランチェスカに夜会の話をしていた。


「そういえばそんな話があったような……でもあの時は王宮を出るから関係ないと思っていたの」


「あのまま下町のアパート暮らしを続けていたらそのまま無関係でしたのに」


「ごめんなさいねロナ、貴女には色々と力になって貰ったのに結局は無駄になってしまって……」


フランチェスカは王宮に戻ってからというもの、事ある毎にロナに謝り続けていた。


アパートの手続きから仕事の手配まで何もかもお膳立てして貰ったのに、結局それら全てを置き去りにしてしまったのだ。


フランチェスカの言葉を聞き、ロナは何でもないような口調で言った。


「とんでもない事でございますよお嬢様。ワタクシは常にお嬢様が一番幸せだと思う選択をなさって欲しいのです。ヘタレ王太子が泣きベソをかきながら追いかけて来たのをもう一度チャンスを与えて差し上げたお嬢様のお心の広さに、このロナは感動しているくらいなのですから」


「ふふ、レン様はヘタレでも泣きベソかきでもないけれど、ありがとうロナ」


「でもホントにあのアパート、そのままワタクシが頂戴してもよろしいのですか?」


「もちろんよ。ロナの良い様に使ってくれたらわたしも嬉しいわ」


「ありがとうございます!お嬢様!」


嬉しそうな顔をするロナに、フランチェスカも思わず笑顔が綻ぶのであった。





フランチェスカは今日も文書室へと足を運んでいた。


翻訳を始めて一週間。

すっかりカメ室長ともリズム女史とも打ち解けたフランチェスカは、毎日楽しく文書室通いをしている。


「王宮勤めのメイドから聞いたんだけど、今度の夜会の為に王太子殿下が妃候補一人一人にドレスを贈るんですって?」


休憩中、お茶を飲みながらリズム女史が言った。


「え?そうなのですか?」


フランチェスカは目をぱちくりさせてリズム女史の方を見た。


「そうなのですかって貴女、ご存知なかったの?」


「ええ。初耳ですわ」


フランチェスカが王宮に住まいながら王宮での出来事に疎いという事を察し始めているリズム女史が自分が聞いた話をしてくれた。


「ドレス選びで要らぬ争いを防ぐ為だと噂されているわ。候補者が(こぞ)って殿下の瞳の色のドレスを纏えばユニフォームみたいになりそうだし」


「ふふふ!それは楽しそうですわ!チーム妃候補~ズ♪是非とも皆さまと同じドレスを着たいですわ。澄みきったアイスブルーのドレス。わたしにも似合うかしら?」


フランチェスカがころころと笑いながら楽しそうに言う。


リズム女史は「まったく貴女には毒気が抜かれるわね……」と言いながら、優しく微笑んだ。


「されど殿下の本当の思惑は、要らぬ争いを防ぐ事ではないでしょうな」


バリンッ!と見事な音を立てて、カメ室長が東方の国から自ら取り寄せた“センベイ”なる菓子を食べながら言った。


「アラ、カメリオ室長もそう思う?」


「殿下の本当の御心を知る者なら当然気付くであろうよ」


「なるほどね」


リズム女史はそう言ってから、カメ室長に負けじとセンベイをバリンッ!と小気味いい音をさせて噛み割った。


――レン様の本当の思惑?



それってなんだろうと思っていたフランチェスカだが、そうこうしている間に(くだん)のドレスが届けられた。


「まぁ……!素敵ね……!」


王太子から妃候補へのささやかなプレゼントだというドレスは流行のデザインを取り入れた柔らかいアイボリー色のドレスであった。


浅めのオフショルダーに短めのパフスリーブ。

オフホワイトのオペラグローブを着用する事を想定したデザインだ。

トレーンはふんわりと薄いシフォン生地が幾重にも重ねられていて歩くたびにサラサラふわふわとした動きが加わりとても素敵だろうとフランチェスカは思った。


ロナがドレスを見ながら言う。


「他の妃候補者の方々には家門カラーのドレスを贈られたそうですよ」


それぞれの家門にはその家柄や系譜を象徴する色があるのだ。


例えばリーグ公爵家なら赤。

ソレム辺境伯家ならグリーン。

ヴィゾネット侯爵家ならオレンジ。


そして王家は黒と金色だ。


「そうなのね。でもあら?わたしの生家であるロング侯爵家は菫色よ?何故わたしのドレスはアイボリー色なのかしら?」


フランチェスカのその言葉を聞き、ロナはドレスを一瞥してから答えてくれた。


「お気付きになられませんか?殿下の魔力の色が淡い温かみのある白い光でしたでしょう?全く……あからさまにご自分の瞳の色のドレスを贈れないから魔力の色のドレスにするなんて、こじつけですよね!独占欲の強い王太子だこと!」


「レン様の……魔力の色……」


言われてみれば確かにそうだ。


レンブラントの魔力量はそんなに高くないが簡単な治癒魔法を使う際に可視化される魔力の光はこのドレスのような色合いだった。


フランチェスカはそっとドレスに触れる。


まるでレンブラントの魔力に触れた時のような温かさを感じた。


「ちなみにお嬢様、一つお知らせしておきますと、殿下自らが選んだドレスはお嬢様のドレスのみでございます。他のご令嬢のドレスは側近のトーマスが選んだらしいですよ、ナイショですけどね。ホントに殿下はお嬢様以外のご令嬢はどうでも良いのですね~」


「まぁ……そう、なの……?」


嬉しい。

でもなんだか恥ずかしい。


――レン様ってそんな性格だったかしら?


隠れた独占欲と所有権の主張を匂わせるドレスを見ながらフランチェスカは思った。


確かに今までのレンブラントならそんなストレートな真似はしなかっただろう。


しかし一度フランチェスカに去られ、想いは常に伝えてゆかねばならない事を学んだレンブラントは変わったのである。


そんな事とは知らないフランチェスカ。


だけど嬉しくてたまらないフランチェスカ。


さっそくお礼のメッセージカードを届けようとペンを取ったのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そしてその届けられたメッセージカードに劣化防止の保存魔法を掛けて、レンブラントの自室に大切に保管されている事を知らないフランチェスカ。




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[一言] ꉂꉂ(˃▿˂๑)爆笑ꉂꉂ(˃▿˂๑)爆笑ꉂꉂ(˃▿˂๑)爆笑 劣化防止、ドレス、独占欲強いなあ
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