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東日本大震災 被災地訪問記  作者: 放浪日和
9/10

2011年9月26日①  南相馬市(福島県)

 翌朝、相馬市を後にした私はそのまま南相馬市に向かうことにした。


 国道6号線をまっすぐに南下。昨夜の暗い時間帯では気付かなかったが、ほぼ海沿いを走るこの国道は、場所によっては明らかに津波の被害を受けている個所があった。

 一度など、道路脇に小型漁船が一隻、丸ごと転がっているのを目にした。最初は何かのオブジェかとも思ったのだが、そのリアルな破損状況から、津波によって流されてきたものと見て間違いないようだ。

 さらにしばらく走り続けると、路肩に立看板が出現し始めた。


 『この先○kmより警戒区域 関係者以外は進入できません』


 震災後しばらくの間、原子力災害対策特別措置法に基づいて、福島第一原子力発電所から半径20km圏内(海域も含む)が警戒区域に設定されていた。住民も含めて立入禁止の状態だ。

 このまま進んでも、結局は同じ道を戻ることになるかも知れない。そう思って引き返すことも一度は考えたが、単純な好奇心から「どのような形態で通行規制が行われているのか」を見たくなり、そのまま直進することにした。

 立看板はその後何度となく登場し、それとなくUターンを促してきた。6号線を走行する車両の数も、明らかに少なくなってくる。しかし、しれでも敢えて直進。


 そして…ついにたどり着いた。


 眼前の国道6号線が、工事の時のバリケードのようなもので封鎖されているのが見えた。

 そこに、簡易の検問所のようなものができており、警察官らしい人間が立っていて周囲を警戒していた。

 手前100メートルほどのところにあったコンビニに車を駐め、遠くから検問所もどきを観察してみる。

 …この国は、どこかの敵対国に占領でもされたのかな…?

 思わずそんな事を考えてしまう。まるで国境の検問のような、ものものしい雰囲気だった。徒歩でこれ以上近づけば、何かしら声をかけられ、追い返されてしまうことは間違いなさそうだ。

 聞いた話によれば、許可なく一歩でも警戒区域内に侵入すれば、罰則の対象だとか。これ以上南下することは諦めた方が良いように思えた。

 Uターンする前に、車を駐めたコンビニで軽食を購入。駐車場で食事を口に放り込む私の目に、コンビニ横から脇道へと入る細い路地が映った。

 …裏道も、検問みたいに閉鎖されてるのかな?

 ふと、そんなことを考えついてしまった。

 私はさっそく車のエンジンをかけ、目に入った路地からの南下を試みた。


 結論から伝えると、当然ながら裏道もしっかりと封鎖されていた。国道の検問所もどきのように人員こそ配置されていなかったが、しっかりとした大きめのバリケードで完全に行く手がふさがれていた。とはいえ周囲に人影もないので、今度は車から降りて、徒歩で遠慮なくバリケード間際まで近付いてみる。

 バリケードの前に設置された立て看板には大きな文字で、


『災害対策基本法により 立入禁止』(※「立入禁止」の部分はひときわ大きい赤文字)


 と、書かれていた。その横にやや小さめのフォントで、「許可なく立ち入ると罰則の対象になる」といった旨の文言も入っている。

 仕方がないので、来た道を戻ることにした。車に乗る前に、改めて周囲を見渡してみる。

 地方の住宅街といった雰囲気の、市道沿いの集落。足元のアスファルトの地面には、地震によると思われる大きな亀裂が生じていた。

 道路脇の畑にはビニールハウスがあり、中は何やら背の高い枯草で一杯だった。誰にも手入れされることがないまま越夏し、枯れ果ててしまったのだろう。


 しかし…。そんなことよりさらに気になったことがあった。

 バリケードの向こう側(原発20km圏内)が立入禁止で、住民が避難した無人の集落となっていることは言うまでもない。

 だがそのバリケードから一歩手前のお隣の家は、今でもごく普通に住民が生活し、布団や洗濯物を外に干している状態だったのだ。

 何とも複雑な、やるせない思いにかられた。

 バリケードの向こう側は「強制退去」であり、例え住民当人たちが気にせずともその場に留まってはいけない決まり。許可なくして進入すれば罰則の対象である。

 しかし、20kmより一歩でも外側ならば、住むことも、洗濯物を外干ししてもOK…と、いうことになるのか。

 …「警戒区域」とやらも、存外いい加減なものなのかも知れないな…。

 住民たちの中にも、納得のいかない人がいるだろう。せめて中間に「自己責任区域」みたいなものを設けても良いのでは…?などと思うのは、素人の浅知恵なのだろうか。


 人気のない昼前の集落は、静かだった。

 まるで、街全体が眠っているのではないかと思うほどに。


(続く)

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