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東日本大震災 被災地訪問記  作者: 放浪日和
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2011年9月24日④  気仙沼市(宮城県)

 陸前高田市は、岩手県のほぼ最南端にあたる。国道45号を少し南下すると、道はほどなく宮城県に入っていった。


 既に完全に日は暮れていたので、ひたすら夜の国道を走った。そうしてしばらく車を走らせていると、道は気仙沼市へと入った。

 市街地は、45号線から少し離れるらしい。道路が左側に分岐して下っており、その行先の看板が「気仙沼市街」となっていた。

 時間的には、ぼちぼち夕食の時刻にさしかかっていた。車は既に食事を済ませているので、ドライバーの方もこの気仙沼で食事休憩を取ろうと考え、私はその分岐を左に下りることにした。

 この下った県道だか市道だかをしばらく走れば、市街地まで行くはずだった。しかし、下りた道は街灯ひとつない暗い道で、道路も充分に舗装されていない凸凹道だった。

 …ずいぶんと、酷い田舎道だな…。

 内心でそう思いながらも、私は車を走らせ続けた。

 しかし、道路状況は悪くなる一方だった。仮にも市街地へとつながる道路なら、もう少しきちんと舗装するか、せめて街灯の整備をして欲しいところなのだが。生憎と、私の愛車はオフロード車ではないので、このまま走っていては、車のシャフトが歪んでしまいかねない。

 私はこの道路に見切りをつけ、他の道を探すことにした。そばの月極らしき駐車場をちょっとお借りし、Uターンすることにした。

 駐車場に入り、方向転換を行う。

 その時、私の車のヘッドライトが、そこに駐車されていた車両を照らし出した。


 「…!」


 それを目にした私は、ぎくりとして身体を硬直させた。

 それまで暗がりでよく見えなかったのだが、ヘッドライトに照らさし出された自動車は、津波の被災車両だった。

 原形を留めぬほどにひしゃげ、海水で赤茶色に錆びたボディ。破れた窓ガラス。絡みついた海藻…。

 全身にゾワッと鳥肌が立つのが分かった。


 さしもの鈍い私も、ようやく気付くことができた。これまでの凸凹道は、決して田舎道ゆえの未整備だったわけではない。

 津波で破壊されていたのだ。この周辺一帯、丸ごと…。


 何も知らずに、心霊スポットにでも迷い込んでしまったような錯覚を覚えた。

 背筋にぞくりと悪寒が疾り、私はもと来た道を逃げるように戻って行った。

 帰りがけに、来る時に何気なくくぐった歩道橋を改めて良く見てみると、それがいくらか傾いていて、上の方にまで海藻のようなゴミが絡みついている事がわかった。また登り口はロープで閉鎖され、歩道橋自体が使用禁止になっていたことにもようやく気付いた。

 真の夜道は、本当に何も見えない。


 その後国道に戻った私は、別の無事な道路から回り込み、ようやく気仙沼市街に入ることができた。当初はここで夕食をとる予定だったのだが、先程の衝撃のせいかだいぶ食欲が減退していた。しかし、取り敢えず何かしら胃に入れておかなければと思い、道路沿いにあったコンビニで軽い食事を購入した。

 …どこで食べようか…。

 コンビニの駐車場で食べるのも何なので、どこかにパーキングでもないものか、カーナビで検索してみる。

 何箇所か候補があったが、現在いる場所から数分程度のところに、『海が臨める駐車場』とかいう名前の場所があった(正式名称は違うかも。うろ覚え)。

 夜の海を眺めながらコンビニ飯、というのも乙かも知れない。そう思った私は、そのパーキングを目的地に指定し、ルートガイドを開始した。

 コンビニから出てしばらく道路をまっすぐ行き、突きあたりを右に曲がる。

 「!」

 曲がった先の風景を目にした瞬間、私は思わず急ブレーキを踏んだ(後続車がなくて良かった)。


 曲がったその先は…廃墟だった。

 陸前高田市でもさんざん目にした、空襲の後かと思うような破壊された街。それが、唐突に目の前に現れた。

 …あれ?だって、さっきまで…。

 バックミラーで背後を確認する。そこには、綺麗に道路が舗装されて街灯に明かりがともる、ごくごく普通の地方都市の風景があった。

 しかし前方を見れば、真っ暗な廃墟。


 …津波が、ちょうどここで止まったらしい。


 前を見れば、津波で破壊されて電気すら通っていない、瓦礫ばかりの廃墟。

 振り返れば、何の変哲もない市街地。


 地獄と現世の狭間を見たような気がした。

 カーナビを見ると、ほんの数百メートル先が目的地、と告げている。しかし、そこにまともなパーキングエリアがあるとは、とても思えなかった。


 茫然としたまま、私はルートガイドをキャンセルして先程のコンビニの駐車場へと戻って行った。

食欲は完全に失せていたが、車を駐め、黙々とコンビニ飯を押しこむようにして食べた。

 …今日は、もう寝よう…。

 さほど遅くもない時間だったが、今日はこれ以上、何らかの活動をする気がおきない。私は国道まで戻り、トラック専用パーキングがあるもっと大きなコンビニの駐車場に車を駐める。

 明日、明るくなったら、あの市街地の奥の方を見に行ってみよう。

 そう心に決め、私は早々に寝袋の中へと潜り込んでしまった。


(続く)

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