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東日本大震災 被災地訪問記  作者: 放浪日和
2/10

2011年9月24日②  平泉~陸前高田市(岩手県)

 栗原市を後にした私は、一般道をさらに北上することにした。

 岩手県に入った通りすがりに、世界遺産に登録されたばかりの平泉があった。見学したい気持ちはやまやまだったが、この日は土曜日。世界遺産登録から間もないこともあいまってか、この辺りは大変な混雑になっていた。有名な中尊寺に至っては、臨時駐車場まで満車状態。やむを得ず、諦めて側を素通りするかたちとなった。

 その代わり、やや迂回して一関市の厳美渓をちょっと観光。

岩場の渓流が美しかったり、美味いそば屋があったり、団子が空を飛んでいたりもしたが、この辺りは震災の影響も低く、今回の日記の趣旨とは異なるので割愛。


 来た道を一旦戻り、内陸から太平洋方面へ向かうことにした。国道343号から真っすぐに東方へ。地図で見るとすぐに見えるが、実際に走ればなかなか長い。

 だがしばらく走るうちに、やがて前方の道がようやく開けてくるのが見えた。

 どうやら鉄工所かスクラップ工場の前に出たらしい。廃車にされたと思われる自動車や、鉄骨などの鉄屑が、山のように積み上げられている。


 …。


 …いや、違う。


 次の瞬間、ようやく状況に気付いた私はギクリとして身体が硬直した。

 走ってきた国道から海沿いに抜けたその場所は…岩手県陸前高田市。

 そう、今回の地震で甚大な津波被害を受けた、あの街だった。


 スクラップ工場に集められた鉄屑だと思っていたものは全て、津波に押し流された自動車や瓦礫なのだった。見渡す限りにうず高く積み上げられた瓦礫の山は、TVで見たものとは全く異なる迫力で、私の目を奪った。

 思った以上に自分が動揺していることを自覚した私は、前方に道の駅らしき建物を確認し、そこで休憩をとることを決めた。

 しかし…。

 近くまで辿りついてはじめて、その道の駅すらも津波に破壊され、外壁だけの廃墟になっていることに気付くのだった。

 これが、私の古い道路地図にも載っている「道の駅 高田松原」だった。

 もちろん人影はなく、道の駅としての機能などしていない。しかし、立入禁止にはされていないようだったので、駐車場だったところに車を駐め、半壊した建物内部に入ってみる。

 形が残っていたのは、あくまで外壁だけ。内部で原形を留めているものは、何ひとつ残っていなかった。壁も天井板さえも押し流され、柱だけが立っているがらんとした空間。配線コードだったらしき細長い線が、破れた天井から無数にぶら下がっているのが見えた。

 建物の裏側に回り、海に面している側に回ってみる。

 海を見渡す展望台のような階段があったのだが、そこを昇る途中で、白っぽい丸い物体がひとつ転がっているのが見えた。近付いてよく見てみると、海面に浮かんでいる、フロート(ブイ)であることがわかった。

 ちなみにこのブイの周囲には、漁だか養殖だかに使われていたと思われる、網が散乱していた。また、粉々に砕けた貝殻のようなものも散らばっていた。

 つまり、この高さ…建物のおよそ2~3階に当たる部分にまで、津波が押し寄せたということになる。

 ブイを乗り越えて最上段まで上り、眼下に広がる陸前高田の街を眺めてみた。

 …何も、ない。

 津波で破壊された街は、見渡す限り瓦礫で覆われていた。

 元は学校や病院だったと思われる、大型の鉄筋コンクリートの建物が、辛うじて何箇所か目に付く。しかし、それも近くまで寄って見ればここと同様、外壁だけが残っている状態なのだろう。


 …もし「あの日」、私がこの場所にいたとしたら。


 眼下に広がる街を眺め、ひとり自問してみる。

 私が立っている場所の少し下…ブイのある場所で、津波は止まっている。つまり、この道の駅のte展望台の屋上でじっとしていれば、津波にさらわれて命を落とすことだけは免れることができたことになる。

 あくまで、結果論では…の話だが。

 現実問題として、あれだけの地震の後にこんな海沿いの建物の屋上でボンヤリしているような奴がいれば、それはただの愚者だろう。

 しかし、ここから車か何かに乗って避難を開始しようにも、おそらくは停電でTVなどの情報は入らなかったと考えられる。さらに同じことを考えている人々と車で、街は半ばパニックになり、道路はかなり渋滞していたに違いない。

 津波が街に押し寄せたのは、地震からわずかに数十分後のことだったと聞いている。

 果たして、無事に安全な場所まで逃げ切れたものかどうか。

 何度となく脳内でシミュレーションをしてみたが、無事に逃げ切れるビジョンはついに見えてこなかった。


 振り返ると、本日の海は穏やかな凪。

 水面に反射する陽の光が眩しく輝き、皮肉なまでに美しかったことは、今でもよく覚えている。


(続く)

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