序章
「俺はこんなもんじゃない」
裕介は都内のワンルームのマンションで1人呟いた。
藤原裕介、独身。今日が37歳の誕生日。
社員15名のベンチャー企業Future社のマーケティング部所属。
年収は額面で480万円。
勉強はクラスで上から数えた方が早いほどにはできたし、運動神経も良かった。
周囲の人を笑わせるのも得意だったから、いつもクラスの中心にいた。
そしてなにより、幼少期から自分は周囲の人と比べて努力をしてきたし、行動力があった。
大学受験には失敗したが、その悔しさをバネに、同世代の奴らが合コンや旅行を楽しんでいる時もとにかく勉強してきた。
面白い人と出会える機会があればとにかく参加してきたし、
ビジネス書もたくさん読んできた。感銘を受けた本があれば、著者に手紙を送って、
実際に著者と会って、教えを請うたこともあった。
結果的に、就活では周りが早慶以上の学歴ばかりの大企業に採用されて入社した。
なのに。37歳となった今日、こんな小さな部屋で1人誕生日を迎えている。
若い頃遊んでいただけだったやつも、新卒で入社した会社の同期でたいしたことなかったやつも、今ではそれなりの役職に就いて忙しくしているようだ。
海外駐在している奴もいる。
大学時代のクラスメイトがビジネス誌でインタビューを受けているのをたまたま読んだこともあった。
年収も俺の2倍以上はもらっているようなやつもたくさんいるだろう。
「まだ、37歳。人生はこれからだ」
そう自分を奮い立たせてきたが、最近はネガティブな感情になることも増えてきた。
「俺の選択は間違っていたのだろうか」