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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ6 ココロノリョウリ
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もう一つのエピローグ コレカラハジマル

アクセスありがとうございます!



 一一月に入り優介が撫子学園に復帰して一週間。


「…………なんで?」

「…………やれやれ、どいつもこいつも最後に驚かしやがって」


 二年一組の教室で恋が呆然となり優介が深いため息を吐いていた。

 朝のHRで担任から転校生を紹介されたのだが。


「では、自己紹介を」

「はい」


 担任に促されて秋制服に身を包んだ女子生徒がにこやかに一礼。


「ソフィ・カートレットです。みなさんより二つ年上のお姉さんですが、お気遣いなく仲良くして下さいね」

「なんであんたがここにいるのよっ!?」


 ソフィの挨拶が終わると時間差で恋が突っこんだ。


 同時刻、一年一組の教室では。


「カナン・カートレットよ。アナタ達より一つお姉さんだけど気にせず仲良くしましょう」

「なぜあなたがここにいるのですっ!?」


 春制服の女子生徒、カナンに愛も時間差で突っこんでいた。

 ソフィとは違い日本のメディアでも騒がれている天才料理人の転校にクラス内は唖然となる。


「アイじゃない! 久しぶり、元気にしていた?」

「ええ、そちらこそ――ではなくて! なぜあなたがここへ転校してくるのです!」

「……しょうがないじゃない。ワタシの学力だと一年生に――」

「あなたのへっぽこ頭についてはどうでもいいのです!」

「事実だけどヒドくないっ?」

「なぜ日本の、四季美島の、撫子学園に転校してくるか聞いているのです!」

「お店を開くの」

「なんですって?」

「だから、この島にスイーツのお店を開くことにしたの。名前はアリス・スーリール、日本語でアリスの笑顔ネ」


 教壇前で得意げに語るカナンに今度は一同騒然。

 あの天才料理人が洋菓子店を開く。

 いつから開店するのか、絶対に食べに行こうと男女問わず盛り上がるのも無理はない。

 そんな中、カナンは勝手に愛とリナの席へ。

 ちなみに盛り上がる生徒らでHRは中断してしまい、担任は諦めたように静まるのを待っていた。


「そういうワケだから、これからヨロシク」

「どういうワケですか……!」

「リナも久しぶりね」

「うん」


 不歓迎な愛とは違いリナは戸惑いながらも友好的で。。


「でもビックリしたよ、カナンさんが転校してくるんだもん」

「アナタの師匠のせい……ううん、お陰かな」

「師匠の?」

「……フランスでユウスケに色々と教えてもらったの」


 首を傾げるリナに対しカナンは目を閉じて一息つく。

 世界一の料理、世界一の料理人としてあるべき姿勢をフランスで教わり、カナンは敗北を自覚した。

 料理人として、人としても優介は遙か先を歩いていて。

 どうすれば追いつけるか。

 どうすれば彼のように答えを見つけられるのか。

 悩んだ末、優介のようにまずはお店にくるお客さまを笑顔にすることを目標にした。


「見てなさい、いつかアリス・スーリールを笑顔で溢れるお店にするんだから!」

「ならばフランスでもどこでも開店なさい。どうしてこの島で……」

 志を語られるもいまいち愛は納得できず敵意むき出し。

 それでもカナンは譲らない、強い意志の込めた瞳を向けて。


「近くにライバルがいる方がワタシも燃えるじゃない」

「何がライバルですか」

「それに、これはソフィの提案でもあるの」

「ソフィ……? あの巨乳ドジっ子メイドまでもこの島に……」


 カナンの言葉に愛は嫌な予感を覚えた。


 ◇


「カナンも随分と悩んでいましたからね。だから私が後押ししました『あなたも優介さんのようにお店を開けばどうですか』と」


 二年一組の教室では恋がソフィから同じ説明を受けていた。

 こちらのHRは順調に進み、隣同士の席になったので堂々とではないが。


「まさか、この島にお店を持つなんて本当にカナンは姉思いです」

「……つまりあんたが焚きつけたんでしょ」


 愛と同じく恋も非友好的な態度で問いかける。

 お店を持つ理由は納得できるが、ソフィの説明ではまるでこの島にお店を開かせるように誘導した物言いで。


「バレちゃいましたか。ですがカナンもまた、優介さんを意識した方が自身の成長になると思ったからですよ?」

「あ、そう……。ていうか、あんた少し見ない間にずいぶんと捻くれた性格になったじゃない」

「優介さんと一月行動を共にすれば捻くれもします」


 もの凄く説得力ある言葉に恋は言い返せなかった。

 同時に嫌な予感がする。

 初めて会ったソフィの印象はとにかく気弱で。

 最後に会った時は可愛くなっていて。

 そして今は、芯の通った強い美しさがある。

 例えるなら小さな気持ちが大きく開花したような――


「一つだけ恋さんに教えてあげます」


 恋の心を読んだようにソフィは呟きつつ目を閉じた。

 優介の強さの秘密。

 恋や愛だけじゃなく、孝太や好子、リナ――きっとソフィも知らない島の人全ての笑顔に支えられている。

 同時に大勢の笑顔の期待に応えようと日々精進している。

 だから優介は強い。

 でもこれは伝えない。

 ソフィだけが手に入れた大切な思い出をライバルに教える必要はない。


「世界一の料理人を目指す者には世界一の欲張りさんがお似合いなのです」

「……どういうこと?」


 恋が首を傾げるも無理はない。

 ソフィの秘めた決意。

 これからも姉としてカナンを支え続ける。

 そして想い人の優介も。

 大切な二人を側で支え続けること。

 欲張りな考えかも知れないが、これ位の覚悟が出来ないと釣り合わないのだ。


「ですから――」


 意味が分からずキョトンとなる恋の耳元にソフィは口を近づけ。



「そのソフィからアイに伝言を預かってるの」


 同時刻、カナンも愛の耳元に口を近づけ。


「「負けませんよ」」


「だって」


 囁き笑顔を見せるカナンに愛は目を丸くして。


「という意味です」


 同じように笑顔を見せるソフィに恋は目を丸くして。


「「だからフランスに行くのは反対だったのよ(です)!」」


 新たなライバルの宣戦布告に恋愛コンビの悲鳴が学園中に響き渡った。


「また賑やかになりそうだな」

「……俺は静かなのを好むがな」


 その悲鳴に孝太は苦笑し優介は大きなため息を吐いた。



 日々平穏。

 四季美島にある小さな定食屋は美味しい料理と楽しい時間、温かな思い出を提供する不思議なお店。

 優しい心の持ち主が、心を込めて持て成す幸せな場所。

 そしてたくさんの笑顔に支えられる。


 世界一幸せな優しい料理人がいるお店。 



もう1話エピローグを更新して『ココロノリョウリ』は完結します。


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へお願いします!

また感想もぜひ!

読んでいただき、ありがとうございました!

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