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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ6 ココロノリョウリ
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エピローグ フタタビツドウ

アクセスありがとうございます!



 一〇月下旬。


「ありがとうございましたー!」


 最後のお客を見送った恋はそのまま暖簾を外しプレートを休憩中へ。

 日曜午前の営業を終えてこれから日々平穏は一時間の休憩に入る。


「あ~疲れた。愛、まかないよろしく」

「言われなくても分かっています」


 腕を回しつつ恋が催促するも厨房の愛は既に調理を始めていた。


「今のうちにあたしは売り上げ確認、と……リナちゃん、テーブル拭いたら備品チェックお願い」

「はーい!」


 指示を受けたリナは手を上げてふきんを用意。

 恋と愛が日々平穏を再開させて早一ヶ月、最初は戸惑いや失敗もあったが順調に続けている。

 現に今では休日をヘルプ一人で回せるほどで、優介の穴を二人は協力して埋めようと努力を怠らなかったたまものだ。


「……で、あんたはいつまでいるのよ」


 レジチェックを終えて帳簿を手にしつつ恋はカウンター席に視線を向けた。


「いつまでかな」


 休憩時間にも関わらず今だ席を占領しているのは孝太で、食事もせず開店から入り浸りだ。


「ほんとに……呼んでもないのに席占領しないでよ」

「その呼んでない俺をラッシュ時にこき使ったのは誰ですかね!」


 嘆息する恋に孝太は突っこみ。

 孝太は何故か休日の営業は必ず顔を出し、最初から最後まで居座り続けている。

 ヘルプを頼んでないにも関わらずだ。

 だが恋と愛は知らない。

 休日は主に観光客が中心、故に孝太はこうして優介との約束を守っていることを。


「ま、俺のことはお気になさらず」

「無理言わないで下さい。孝太さんがいるだけで異臭がします」

「俺そんなに臭いのっ?」

「じゃあトイレ掃除お願い。少しはマシになるんじゃない?」

「しかもトイレの方が良い香り!」


 愛と恋のコンビネーションに孝太は肩を落としつつも素直に立ち上がる。


「……ま、いいか」


 だが表情は笑っていて。


「あ~まだ売り上げ伸びてない。ちょっと愛」

「調理中に話しかけないで下さい……何ですか」

「材料費のことで言いたいことがあるんだけど」

「文句ばかりうるさいですね」

「文句じゃないって。ここのさ――」

「どこのです?」


 厨房で恋と愛が帳簿に目を通しつつ相談をしている姿。

 いつしか二人の間に優介が加わり、より良い日々平穏にする為、三人で意見を出し合う。

 これこそ優介の望んでいた光景で。

 早く孝太が眺めたい光景だ。


「今頃なにしてんのかねぇ」


 遠く離れたフランスにいる親友を孝太が思っている中、店の戸が開かれた。


「あの、今は休憩中で――」


 休憩中にも関わらず来店するお客を一番近くのリナが声をかけようとするが、入ってくる人物に目を見開いた。



「帰ったぞ」


「「……え?」」


 その声に恋と愛は同時に視線を向けて呆然となる。


「ユースケ……?」

「優介さま……?」


「久しぶりだな」


 まるで夢を見ているように呟く二人に優介は微笑みかけた。


「遅いお帰りで」

「いやいやメッチャ早いよっ?」


 トイレブラシを手に茶化しを入れる孝太にすかさずリナが突っこんだ。


「なんだバカ弟子……早くて悪いか」

「いえ滅相もございません!」


 二ヶ月ぶりに感じる師匠の威厳にリナは慌てて謝罪するが、突然の帰郷で混乱してしまうのも無理はない。


「でもさ、まだ二ヶ月だよ? 確か一年はフランスにいるって……」

「俺は納得するまでと言ったハズだ。それともテメェは一年帰って欲しくなかったのか」

「いえいえ滅相もございません! わ、わ~い師匠に会えて嬉しいな~」

「……相変わらず調子の良いバカ弟子だ」

「確かに」

「で、俺がいない間、テメェも少しは使えるようになったか」

「どうだろうな」


 弟子、親友との久しぶりに会話を交わす優介に、孝太はそろそろと指をさす。


「俺たちよりも最初に話す相手がいるだろ」

「……だな」


 諭されて優介は再び店内の奥、厨房へ視線を向ける。

 自分がいるべき場所を守るように、恋と愛がカウンターの前にいて。


「……もう、納得できた?」

「まあな」

「ではもう……どこへも行かないのですね?」

「俺はこの店の店主だ。どこにもいかねぇよ」


 短い会話を交わし、恋と愛は涙を浮かべる。

 どうして早く帰ってきたかは分からない。

 何を納得したかも分からない。

 でも、知る必要はない。

 優介が日々平穏にいる。

 ならば伝える言葉がある。

 その言葉を恋と愛、二人は同時に口にした。


「「おかえりなさい」」

「ただいま」


 二人の笑顔は本当の意味で帰ってきたことを、優介に教えてくれた瞬間だった。


 ◇


「いやいや、優介も少しは成長したようさね」


 その後食事にありつこうと現れた好子も優介の帰郷を喜んだ。

 と言うよりも優介が恋と愛に渡したお土産に対してのようで。

 恋のは白いハートの、愛のはピンクのハートのお揃いのネックレスだが、初めて優介からもらったアクセサリーに二人はペアなど気にした様子は全くない。


「似合ってんじゃん」

「あなたも似合っていますよ」


「うう……何でかな? 凄く怖いよ」


 しかも互いを褒め合う様子に普段の二人を知るリナは不気味に思えてしまう。


「まさか優介がねぇ……いやいや、好子さんは驚いた」

「……うるせぇ。ほら、テメェの土産だ」


 意味深な笑みを見せる好子を尻目に優介はバッグから瓶を取り出した。


「……孝ちゃん先輩。あんなワインとかあるの?」

「つーか一〇〇パーワインに見えん」

「バカ同士でバカな会話をするな」


 リナと孝太に対して優介はため息を吐くが二人の反応の方は正しい。

 好子の手にあるのは『乙女心』とのラベルが張られた一升瓶、つまり日本酒。

 どう見てもフランス帰りの土産ではない。

 この適当な扱いにさすがのリナも同情するも。


「いや~ん! 優介分かってる~」


 怒るどころか好子は一升瓶を抱きしめて頬すり。

 それはもう恋愛コンビ以上の喜びよう。


「これは知る人ぞ知る信州限定の日本酒だ」

「なぜ信州……」

「好子はワインよりも日本酒を好むからな」

「そーなにょよ」

「さて、次はバカ弟子だ」

「えっ? リナにもあるの?」


 ワクワクと目を輝かせるリナに優介が取り出したのは――


「これもまた信州で知る人ぞ知るまんじゅうだ」

「また信州っ?」


 若草色の包みにリナが突っこんだ。


「どーしてリナはおまんじゅうなのっ? フランスのお土産の方が良かったのに!」

「仕方ねぇだろ。急な出費で手持ちのユーロがなかったんだ」

「だからって信州はどうかなっ? そもそもなんで信州っ?」

「寄り道だ」

「なんでっ?」

 突っこみまくるリナを無視して優介は好子へと視線を向けた。


「んじゃ、庭で待ってな」


 理解したのか好子は微笑を浮かべて居間へ入ってしまい。


「こいつを取りに立ち寄った」


 優介が財布から取り出したのは、中型二輪の免許証。


「「…………へ?」」

「どういうことっ!?」

「ちょっと待て! お前いつから日本に帰ってたっ!?」


 思わぬ資格に恋と愛は唖然とし、リナと孝太が同時に突っこむが、優介は得意げにふんぞり返り。


「三週間前だ」

「「「「三週間っ?」」」


「日本を発つ前に俺が免許を取得したら古いバイクを譲ってもらうと好子と約束していてな。合宿とやらで取得した。当然、一発合格だ」

「「「「…………」」」

「以前から足が欲しいとは思っていた。色々と便利だしな」


 四人の視線に優介は免許を戻しながら苦笑を浮かべる。


「なにより頼れるようになったんだ。少しはやりたいことをやるのもいいだろう」


 その言葉に恋と愛は顔を見合わせた。

 やはり一月前の決断は間違ってない。

 優介に初めて頼ると言われた。

 本当の意味で三人の日々平穏になった。

 この事実に感動し手を合わせようとするが――


「しかし原付じゃなくて中型とは……まあ二人乗りできるし便利か」

「「…………」」


 孝太の呟きに互いの手が触れる寸前で止まった。


「優介さまの後ろに最初に乗せて頂くのは妻の私に決まっています」

「いっきにまくし立てるな! ユースケの後ろに最初に乗るのはあたしでしょ!」

「ふ、愚かな恋。あなたのような駄犬は私が乗せて頂くのを待っていなさい」

「誰が駄犬か! そもそも愛みたいな運動ダメッ子さんがバランス取れるのっ?」

「誰がドジっ子メイドですか!」

「言ってないわ!」

「…………実に不本意だが、ようやく日々平穏ここに帰った気分だ」


 突如始まる恋愛コンビの言い争いに懐かしさを感じながらも優介はうな垂れる。


「これにて本当に日々平穏の復活ってか」

「ていうか……二人とも最初に拘るだけで、お互いを乗せないって選択ないんだね」

「どうでもいいが、テメェらそろそろ午後営業の準備を始めろ」


「だいたい愛は――!」

「そもそも恋は――!」


「聞いてねぇ……もういい」


 忠告も無視して続けるのもお約束と優介は諦めたように立ち上がる。


「白河、家のキッチンを貸せ」

「ん? ああ、喜んで」

「どうして考ちゃん先輩の家? お腹空いてるなら厨房で作ればいいのに」


 リナが首を傾げるのも無視で優介は店を出て行く。

 変わって孝太が笑顔を浮かべて返答。


「俺の土産は鷲沢特製フランス料理のフルコースなんよ」

「どうして孝ちゃんにはまともなお土産っ? ここは孝ちゃん先輩にはお土産なしがお約束なのにっ!」

「そんなお約束嫌ですけどっ?」

「さっさとしろ。置いていくぞ」


 抗議するリナにたまらず孝太は突っこむ間に、バイクを押しながら優介が店の前に。


「俺が最初でいいのか?」

「誰でも同じだ」

「んじゃ、遠慮なく」


 ヘルメットを受け取り孝太はバイクの後部座席に座ってしまう。


「ちょっと待ってよ! リナも食べたい!」

「残念。これは親友としての特権なんで」


 慌てて詰め寄るリナに対し、孝太は得意げに微笑んだ。


「ていうか、愛ちゃんと恋ちゃん先輩どうするのっ?」

「テメェが何とかしろバカ弟子。これも修行だ」

「何の修行っ?」

「白河、落ちるんじゃねぇぞ」

「あいよ」

「リナの話聞いてよ!」

「バカ弟子、危ねぇぞ」


 結局、リナの抗議は最後まで聞いてもらえず排気音と共に優介と孝太を乗せたバイクは発進してしまう。


「一つだけ言っておきますが私はあなたが嫌いです!」

「あたしはあんたが大ッ嫌いよ!」


 店内では今だ恋愛コンビが言い争っていて。


「どーすればいいのーっ!」


 残されたリナは途方に暮れてしまった。


 ちなみに。


 午後営業は開店遅れ新記録樹立をしてしまい、優介が帰国して三人での日々平穏はさい先不安なスタートとなった。



                          

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