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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ6 ココロノリョウリ
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ハジマリソウソウ

アクセスありがとうございます!



 フランスの首都パリ北部の町、サルセル。


 住宅地が密集した町でもモダンな建物も多く、芸術の国と呼ぶに相応しいサルセルにあるライズナー学院。

 この学院は六歳から一六歳まで義務教育を受けるフランスの若者達でも早くから才能を伸ばせるようにと一二才から昼は教育、終了後に調理を学べるという珍しいシステムを組んでいる。

 また調理を学ぶ生徒は全寮制とし、時間を有効に使えるので早くから料理人を目指す子供達には憧れの場所、更に卒業後は専門学校と同じようなカリュキュラムを受けることが出来るので、若く才能ある料理人を多く輩出している名門として有名だ。


『だからワタシも一年前まであっちの校舎で教育を受けて、終わるとここで調理を学んだのよ』

『つまり一般教養以外は料理漬けの毎日か。実に楽しそうだ』


 隣接する建物を指さすカナンに苦笑する優介。

 二人とソフィを加えた三人は昼食後、カートレット家の送迎車でライズナー学院へ。

 散々渋りながらもカナンが連絡を取れば理事長との面会が許可されたのだが、外出中のため待ち時間を利用して学院内を案内していた。


『否定はしないけど実際やると大変よ。さっき説明した通り、最初から在籍してる子は本当にレベルが高いし、とにかく実力重視。クラスも年四回に行われる料理コンテストの成績順で振り分けられる。だから辛くて途中で止めちゃう子も多かったわ』

『そんな学院でよくカナンは頑張れましたね。偉い偉い』

『子供扱いしないでよソフィ……でも途中からの在籍だけどワタシは師匠に料理を学んでたもの。この程度の競争ワケないわ、実際首席で卒業したし』

『知ってます。でも、学業はどうだったかしら?』

『ソフィ……いじめっ子はよくない。とにかく、ユウスケは本格的に調理を学ぶワケだしここの専門生と同じ扱いよ。どう?』


 つまりよりレベルの高い生徒と肩を並べることになるとカナンが挑発するも


『さあな』

『あいっかわらず緊張感ナイ奴ね』


 気負い無く肩をすくめる優介に脱力した。


「カナン? カナン・カートレットじゃないか!」


 カナンに前方から向かっていた一人の少年が気づき駆け寄ってくる。


「ロイ……どうしてあなたがここにいるの?」


 するとカナンもフランス語に切り替え目を丸くし問いかけた。


「それはこっちの台詞だよ! 卒業して以来、一度も顔を見せなかったキミがいるんだからね」


 金髪のセミロングに切れ長の瞳で端正な顔立ちをした長身の少年――ロイは背の低いカナンに合わせて腰を丸め、友好的に両手を掴み再会を喜ぶもカナンは小さくため息。


「だからワタシの台詞。あなたまだこの学院に通ってたの? てっきりもう実家のレストランでシェフをしてると思ってたわ」

「はは、ボクじゃまだ厨房は任せないからと父に言われてね。専門教育を卒業するまで在籍するつもりだよ」

「そうなの。あなたの腕で任せないなんて、お父さまは厳しい方ね」


『……なんだコイツは』


 遠巻きにカナンとロイのやり取りを見つめる優介に、これまで二人の会話を通訳していたソフィが日本語に切り替え説明。


『彼はロイ・シュタイナー。カナンや優介さんより一学年上であの子と同じく首席卒業をしていると聞いたことがあります』

『つまりカナンと同等の腕、というわけか』

『在学中のコンテストでは五勝四敗でカナンが勝っていたらしいですけど。確かご実家がフランスでも老舗のレストランだそうで、一人息子として後を継ぐ為にご両親の推薦でここに在籍しているとか』

『料理界のサラブレッド、とでも言うべきか』

『かもしれませんね。お二人の話を聞く限り、彼は現在専門生でもトップの成績を収めているようですし』

『いちいち通訳せずともわかっている』

『え……? それはどういう――』


 嘆息する優介にソフィが首を傾げてしまう。


「そうだ、再会を記念して久しぶり勝負といこう。ボクがこの一年、どれほど腕が上がったかプロとして活躍するキミにも見てもらいたいんだ」


 その間にライバルとして歓迎の余興を提案するロイだが、カナンは首を振った。


「残念だけどワタシも忙しいの。それにもう勝負とか興味ないし」

「興味ない……? 昔はお互いの腕を認め、切磋琢磨したはずなのに……」


 一年前とは違う雰囲気のライバルに唖然となるロイは、ようやく周囲に意識が向いたのかソフィと優介に気づく。


「…………もしかしてキミがユウスケ・ワシザワか?」


 カナンと対応していたフランクな少年とは思えないほど威圧的な目つきで睨みつける。


「理事長から聞いているよ。日本から凄腕の料理人がここへ転入してくるとね、歓迎するよ」


 言葉とは裏腹にロイは嘲笑を浮かべ――


「だけどこの学院に何のようだい? 定食屋の料理人風情が」

「え……?」


 その言葉に律儀に通訳していたソフィが口を閉じてしまう。


「理事長も酔狂なことをする。わざわざ日本の、定食屋程度の、キミみたいな料理人が果たしてこの学院の生徒として相応しいのかな?」


 更に続ける罵倒にソフィは呆気に取られてしまう。


「ユウスケは素晴らしい料理人よ!」


 代わりに反論したのはカナンだった。


「カナン……?」

「彼はワタシたちと同等の腕を持つ素晴らしい料理人なんだから!」


 ライバルの激怒にロイは呆気に取られるも、声を大にして笑った。


「なにが可笑しいのよロイ!」

「ははは……いや、キミが勝負をしたがらない理由が分かった。彼がボク達と同等の腕を持つ? この一年、プロとして活躍しているようだけど、なるほど……キミの腕は随分と落ちたようだ」

「なんですって……っ」

「だがボクは違う。この一年、血の滲むような努力をしてきた。こんな料理人と一緒にしないでくれ」

「あ、あんたねぇ……! ひとが黙って聞いてれば――」

「カナン! 落ち着きなさい!」


 拳を振り上げるカナンに慌ててソフィが止めに入るがロイは無視、優介の元へと歩み寄る。


「まあいい、理事長のせい……いや、お陰と言うべきかボクとキミは同じクラスになる。思い知らせてあげるよ、日本とフランスの料理の差。キミがどれほど場違いなところへ来たかをね」

「…………」

「と言っても、フランス語は伝わらないか」


 優介の肩をポンと叩くとそのまま通り過ぎ去って行く。


「あいっかわらず偉そうな奴! ソフィ、どうして止めたのよっ?」

「確かに彼の発言は許せません。でも暴力はもっとダメです」

「だけど――!」

「所詮は定食屋の料理人、誰かさんも同じようなことを優介さんに言いましたよね」

「うぅ……」


 料理勝負を挑んだ際、自身が口にした台詞でカナンは口籠もってしまう。


「あ……うぅ……あ! 電話だ!」


 そこでカナンのスマホが鳴り響き、天の助けと言わんばかりに通話ボタンを押した。


「どうしてあの子はこうも感情的なんですかね……あ」


 呆れつつも優介の存在を思いだし、ソフィは頭を下げた。


『すみません優介さん。通訳を止めてしまって……ですが』


 続けてどう説明するか悩むも優介はため息を一つ。


『俺のクラスは決まっているのか』

『へ……? どうしてそれを?』


 なぜか理解しているので問いかければ、返答は電話を終えたカナンが遮った。


『ユウスケ、理事長がお呼びよ』


 ◇


「やあカナンくん! 久しぶりだね、待たせて済まなかった」


 カナンの案内で理事長室に行けば、陽気に出迎える短い白髪に整えた白いひげを蓄えた老紳士。

 ジュダイン・ライズナー。

 ライズナー学院の創設者であり、自身も一流の料理人として活躍するフランス料理界の重鎮。


「こちらこそご無理を叶えて頂き、ありがとうございます」


 先輩料理人に敬意を払い、カナンが礼儀正しく一礼するもジュダインは可愛い孫娘を迎えるように抱きついた。


「こちらこそありがとうと言いたい! キミはワタシの学院でも特に優秀だった。そして今も立派な料理人として活躍している、自分のことのように嬉しいよ!」


「光栄ですが……あの、そろそろ離してもらえないでしょうか」

「うんうん! 私の夢は世界に通用する素晴らしい料理人を育て上げること、まさにキミは私の夢そのものだ」

「本当に光栄です……でもワタシの話を聞いて頂きたいです……」


『ずいぶんと陽気な爺さんだ』


 二人のやり取りに優介は呆れてため息を吐けば、慌ててソフィが制する。


『優介さん! 爺さんだなんて失礼ですよ! この方は――』

『まるで白河のジジィだな。自分勝手で人の話しは聞かない無駄に元気な爺さんだ』

『優介さ~ん!』

『はっはっは! いいんだよソフィさん』


 料理界の重鎮相手にも相変わらずな優介に心臓が止まりそうなソフィを余所に、ようやくカナンを解放したジュダインが日本語混じりに首を振る。


『ほう? 日本語を喋れるのか。さすが料理界の重鎮』

『ここにはヨーロッパ以外からの生徒もいる。それにワタシも仕事柄世界中を飛び回っているからね』

『なるほどな』

『ユウスケ・ワシザワ、我が学院へようこそ!』

『来てやったぞ』


 名実共にお偉いジュダインにもっと偉そうな態度で優介は握手を交わす。


「ねぇソフィ……冷や汗が止まらないんだけど……」

「私もです……いくらジュダインさまが気にしなくても見ている方は心臓に悪いです」


 その様子を気が気で無くカナンとソフィが見守る中、ジュダインが座るよう進める。

 来客用のソファに優介とカナンが腰掛け、対面にジュダイン。

 一応お付きの者として立ったままのソフィと一息ついたところで早速ジュダインが切り出した。


『それでユウスケ・ワシザワ、この学院はどうかな?』

『どうもこうも俺はまだ通っていない。故に知らん』


「「ユウスケ(さん)……!」」


 相変わらず不躾な態度の優介にカナンとソフィは胃を押さえるが、相変わらずジュダインは気にした様子も無く豪快に笑った。


『確かに。だが見て回ったんだろう? ならそれなりの印象もあるはずだ』

『そうだな……。俺は調理学校というものを知らないが、設備もしっかりしているようだし料理に集中できそうだ』

『そうだろうそうだろう! 何せここは私の夢を現実にした場所、若者達に料理という素晴らしい文化を知ってもらい、早くから才能を伸ばし、互いに切磋琢磨し腕を磨き上げることを目的にしているからね』

『たいそうな夢だが、共感は出来る』

『そしてカナンくんのように、世界に通用する素晴らしい料理人を育てること。それが私の夢、故にキミのような才能にあふれた若き料理人を招待することが出来てとても嬉しいよ!』

『世辞はいい。俺はあんたと雑談しに来たわけじゃねぇ』


「ごめんソフィ……胃薬持ってない?」

「私が欲しいくらいです……」


 グロッキー状態のカナンとソフィを余所に、優介はふんぞり返る。


『あんたは招待したと言ったな、つまり俺は誘われた側だ。なら俺の要望は通してもらう』

『要望……?』


「ワタシ……もうダメ……」

「優介さん……どこまで……」


『先ほどここの生徒から聞いたが、俺のクラスは決まっているらしいな』

『決まっているよ。専門生の中でも成績上位者が集うクラスにキミと……そしてソフィくんが通うことになる』

『ソフィが?』


 初耳の内容に優介が目を向ければ、弱々しくもソフィは頷いた。


『その通りです。優介さんが授業について行けるよう、カナンが通訳として事前に許可を頂いて……たのですが』

『ここはフランスなんだからフランス語が分からないと不便よ、だから特別に許可を頂いた――』


 もっと感謝の態度で――と、カナンがお説教をしようとするも


「誰が話せないと言った」

「なんで喋ってんのよ!」


 流暢なフランス語で否定する優介に思わずフランス語で突っこんだ。




最後の表現がしたくフランス語での会話の「」と日本語での会話の『』を使い分けていました。

なので次回からは基本「」でいきます。


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また感想もぜひ!

読んでいただき、ありがとうございました!

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