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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ5 ココロノアリカタ
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もう一人のエピローグ カナタノシンユウ

アクセスありがとうございます!



『営業していない日々平穏を見れば嫌でも気づく。俺がそうだったようにな』


 とまあ、そう聞いてたから宮部を日々平穏に連れてった。


 新学期が始まって、宮部はずいぶんと無理して楽しんでた。

 まあそれはそれでいいんじゃね? ってほっといたけど。

 宮部もずっと自由な時間なかったし、今は存分に楽しんで、結局自分が一番楽しい場所は一つだけって気づけばいい。周りがとやかく言わなくても、自身で気づけるならそれに越したことないし。

 でも学校を休んだ時はさすがに焦ったな。病気程度で休むような根性無しでもないから、マジでそんなにヘコんでんのって。

 だから仮病を使って早退、慌てて家に行ったけど留守。

 探し回ってようやく見つけたのは俺たちが通ってた幼稚園。

 ワリと元気そうで安心したけど、何してんのか気になって後をつければ昔よく遊んでた神社とか山ん中とか公園とかうろちょろしてて、ようやく分かった。


 鷲沢との思い出に逃げてるってな。


 まさかここまで追い込まれてると思わなくて、さすがにヤバイと俺は鷲沢が言ってたように強引に日々平穏へ連れていった。

 お前が一番笑えるのはここだろ?

 お前の一番大切な場所が今、どんだけ寂しい光景か見れば黙ってねーだろ、動くしかねーだろって思い知らす為に。

 まあ結果はツメの甘さがありまくり。

 そ~なんだよなぁ。

 普段は強気で姉御肌の宮部だけど、実は昔っから臆病者だったりする。いつまで経っても鷲沢に告らないのがいい証拠。

 そんな宮部が営業してない日々平穏を見れるわけない。かと言って強引に見せるわけにもいかないし……さてどうすりゃいいんだ?

 でも結果オーライ。

 恵美ちゃんのお陰で宮部は臆病者の自分に打ち勝った。

 そうだよな。


 宮部を動かすなら、鷲沢のことで挑発すりゃいいだけだった。


 ◇


『あいつは気づいてないだけだ。自分がどれほど料理に惚れてるかをな』


 宮部が復活してくれたおかげで愛ちゃんは俺が何かするまでもなく動き出した。

 さすがにずっと家から出ないのにはやばいんじゃね? って思ったけど、リナちゃんが毎日通ってくれてるみたいだったからひとまず安心。

 愛ちゃん、リナちゃんにお礼言っとけよ。

 後は鷲沢が言ってたように愛ちゃんに足りないもの、相手だけじゃなくて自分も料理が好きなんだーって気持ちに気づけば自信を持って厨房に立てる。

 だけどまあ、愛ちゃんは真面目すぎ。どーして自分の好きなことを素直に楽しもうとしないかねぇ。

 仕方なしに行動開始。

 宮部みたいに思い詰めた顔でフラフラどっか行く愛ちゃんの後をつけた。

 さすがは愛ちゃん、あっけなく尾行に気づかれた。しかも俺の企みに気づき始める始末。

 んで、焦った俺はド直球なアドバイスを口にするし……更に全然伝わらないし。

 そーだよなぁ。

 そもそも俺の言葉で何かを感じ取るならリナちゃんや鷲沢が料理してるとこ見た時点で気づけるだろ?


 お前らどんだけ料理が楽しいんだよ! って。


 さて困った。

 そもそも好きなことを好きだって気づかすにはどうすりゃいいんだ? んなの自分で分かるだろ? まあ自分のことほったらかしで誰かの為ってのは愛ちゃんらしい。

 かと言って鷲沢がこう言ってたぞってのはダメだ。それはあいつが望む愛ちゃんの成長じゃない。

 まあここでも結果オーライ。

 千香子ちゃんのお陰で愛ちゃんの迷いは晴れた。

 そうだよな。


 純粋な愛ちゃんには純粋な言葉こそ伝わるわ。


 しかし宮部のことや愛ちゃんのことを任されてはみたけど、変に気を遣う必要もなかったか。

 別に俺がどうこうしようと思わなくても、あの二人はちゃんと鷲沢の願いを叶えてくれるもんな。

 つーか無理。

 鷲沢の真似してみようと大切なことを気づかせる為にお膳立てをしてみたけど、こんな面倒で損な役回りはしんどいだけ。

 あいつもよく相手の気持ち考えて、必要なこと、するべきことが思いつくもんだ。


 ◇


「――は?」


 日付も変わろうとする夜遅く、静かな公園で孝太は目を丸くする。


「何度も言わせるな。明日、俺はフランスへ行く」


 面倒げに告げる優介に孝太は頭をかき


「観光に……じゃねーよな?」

「バカがバカなことを言うな」


 ため息を吐かれて取りあえず孝太は納得。

 以前、カナンにフランスへ修行に来いと誘われていたので、つまり優介はその誘いに乗ったことになる。


「なんでまた急に」


 突然の心変わりに孝太が尋ねると優介は苦笑した。


「俺個人だけの問題なら見送るつもりだったが、少し気になることがあってな。まあ一石二鳥だ、行ってくる」

「……相変わらずお前の説明は分かりづらいな」


 端的な返答に孝太はしばし思案。


「つまりお前がフランスに行くことでお前自身の問題と、他の問題も解決して一石二鳥ってわけか」

「お前も相変わらず無駄に理解が早くて助かる」

「無駄ってのは余計じゃね? まあどうせお前の問題ってのは教えてくれねぇから聞かないとして、その他の問題ってのはなんだよ」


「…………日々平穏だ」


 意外にも素直に教えてくれて孝太は呆気に取られた。


「カナンにこの話を持ちかけられた時、恋と愛は俺がいなくなると日々平穏を営業できないとぬかしやがった」


 珍しく優介は本気の苛立ちを露わにする。

 だが孝太は親友の気持ちをすぐに察した。

 悔しいだけ。

 日々平穏は優介の店じゃない。恋と愛、そして優介三人の店だ。

 優介は誰よりもその事実を大切にしている。

 自分は一人じゃない、恋と愛がいるから続けていられる。

 喜三郎とイチ子の愛した場所を守っていけると信じていた。

 なのに二人はその信頼を裏切った。

 いくら恋愛感情を抱く相手がいなくなる恐怖があるとは言え、自分たちが大切にしている日々平穏を理由に引き留めようとしたのだ。

 恋と愛、二人の気持ちに気づいていない優介には特に残酷な引き留めだろう。


「俺がカナンの誘いに乗った時、恋と愛が行ってこいと、後のことは任せておけと送り出せば行くつもりはなかった。それなのに……あげく恋はその程度なのかとキレやがった。それは俺の台詞だ。お前にとって日々平穏は俺がいないごときで守れねぇ程度のモノか」

「……そうかもな」

「なら行くしかねぇだろ。俺は俺の問題を片付ける、その間に恋と愛も気づけばいい。自分にとって日々平穏はどういった場所なのかをな」

「少々荒療治かもしれないけど……ま、いい機会か。日々平穏が三人の店であるために」

「そういうことだ」

「でもお前がいない間にあの二人が気づかなかったらどうするよ? お前のことだ、どうせきっつい突き放し方したんだろ。ヘコんだまま帰国ってのもありえるぜ?」


 なにより惚れてるし――と、心の中で孝太が付け加えた。


「恋は俺たち三人の中で、もっとも日々平穏を大切にしている」


 その問いかけに優介は微笑を浮かべた。


「なら営業していない日々平穏を見れば嫌でも気づく。俺がそうだったようにな」


 過去、優介が喜三郎とイチ子のいない日々平穏を目の当たりにした時、気づいたように。

 恋もあの物悲しい光景を見れば日々平穏がどれほど大切で、自分のように行動を起こすと確信した口ぶり。


「恋が動けば必ず愛も動く。そして気づくだろうよ、あの厨房に立つ理由は一つしか無いと」


 そして今、優介が厨房に立ち続ける理由。


「あいつは気づいてないだけだ。自分がどれほど料理に惚れてるかをな」


 愛も料理が好きだから、楽しいから厨房に立ちたいと願うようになると確信した口ぶり。


「なら後は簡単だ。俺がいなくとも日々平穏を営業すればいい」

「こうして日々平穏は本当の意味で三人の店になりましたとさ、めでたしめでたし――ってわけだ」

「めでたいかどうかは知らんがな」


 優介は苦笑し、孝太も納得。

 これまで優介は恋と愛、どちらかが休んでも営業をしていた。

 だが決して一人で営業はしていない。孝太やリナというバイトがいても恋と愛、両方の代わりをさせなかった。

 一人が欠ければ二人で補えばいい、だが二人欠けると一人では補えないという単純な計算。

 もちろん二人で無理なら誰かを呼ぶ。

 しかし三人で助け合えるならしない。

 それが三人の日々平穏だから。


「まあ話は分かった。けど一つ、質問いいか?」


 だが孝太には分からないことが一つ。


「なんで俺にこんな話してんの?」


 わざわざ呼び出してまで愚痴を吐き、あげく自分の考えを口にするは優介らしくない。

 必要なことはする、だが必要ないことはしないのが優介。ならば必要なことだと思うが孝太には真意が分からなかった。


「……テメェ以外の誰に任せられる」

「は?」


「テメェ以外の誰に、恋と愛を任せられると言ったんだ」


 その本音に孝太は呆気に取られ――笑った。


「笑うんじゃねぇ」

「いや、だってよ……! そーだよな、鷲沢もまだまだ未熟だもんな」


 笑いながらも孝太は嬉しかった。

 どれだけ強がろうと優介も不安なのだ。

 これから一人でフランスへ行くことや、自分の問題を解決する不安でもない。

 恋と愛を置いて日本を旅立つことが。


 二人の側に居ることができない不安――ただ恋と愛が心配なのだ。


 しかもそんな二人を唯一任せられるのは自分だと。

 孝太以外に任せず旅立てないと言っている。

 実に親友冥利に尽きる真意、もう孝太は嬉しくて笑うしかない。


「でもま、そんな大役いつまでも俺に押しつけるなよ」

「当然だ。さっさと済ませて帰ってくる。良く考えればお前じゃ頼りねぇ」

「わかりゃいいんだよ。んじゃ、土産として帰ったらフランス料理のフルコースな」

「使えないくせに贅沢な土産頼みやがって……まあいいだろう」

「しかしまぁ……ホントお前は、宮部と愛ちゃんが大切で仕方ないんだな」

「……ふん」


 否定しない優介に孝太は覚悟を決めた。

 親友のなによりも大切な二人を守る覚悟。

 安心してフランスへ行けるよう送り出す為に孝太は拳を突き出した。


「お前は何の心配もせず、フランスで暴れてこい」

「いってくるさ」


 優介も拳を突き出し、誓いの拳が合わさった。


 ◇


 とまあ、かっこつけて送り出してみたものの、いいところは小学生コンビに全部持ってかれた。

 果たして俺は土産をもらえるんだろうか?

 いやいや、まあこれは俺が勝手にやろうとして失敗しただけで、あいつとの誓いを破ったわけじゃない。

 とにかく俺がすべきことは一つだけ。

 鷲沢が安心して暴れてこれるように。

 あいつが大切で仕方ない二人に、悪い虫が付かないようバイトとして使われながら目を光らせてりゃいいんだよな。

 しかし……必要なことかねぇ? 心配しなくても宮部と愛ちゃんがお前以外に靡くかっての。

 例え強引なバカがいても、島のみんながゆるさねぇし。

 なんたって恋愛コンビはみんなのアイドル、あいつも心配性だ。

 でもいいさ。

 それで安心できるなら。


 だからま……早く帰ってこい。


 お前の大切な二人が首長くして待ってるからよ。

 それに俺も待ってるぜ。


 フランス料理のフルコース!


今回更新でココロノアリカタ完結です。

次回から『ココロノリョウリ』の更新開始。

つまり主人公サイドの内容、お楽しみに!

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へお願いします!

また感想もぜひ!

読んでいただき、ありがとうございました!

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