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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ5 ココロノアリカタ
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恋愛の章 後編 レンアイノココロ

アクセスありがとうございます!



【日々平穏営業日報】


 ユースケは毎日お店であったこと、気づいたことをまとめた営業日報と料理で気になったことやお客さまの反応をまとめた調理日報を書いていた。

 だから今日からあたしが営業日報、愛が調理日報を書くことに決めた。

 ついに再開した日々平穏。ユースケ抜きで出来るかどうか……ううん、絶対にやってみせる。

 気合い十分で挑んだ初日……いきなり失敗。

 日々平穏は三人のお店、だから最初くらいは愛と二人で――なんてかっこつけたのが大きな間違い。

 出来る限りのことはした、でもお客さまが入ってくれなかったらどうしよって緊張しながらお店を開けたら……心配無用で次々とお客様が。

 みんなも待っててくれたんだ。

 日々平穏が再開するの、あたしの大切なこの場所を待ち望んでくれてて嬉しかった。

 なんて感傷に浸る間もなくお店は戦場に。

 だからコータとリナちゃんにヘルプを要請。

 すぐに来てくれたお陰で何とか初日を乗り切れました。

 早速反省です。

 気持ちとか、かっこつけよりもお客様に楽しんでもらうことが第一。ならちゃんと営業できるシフトを決めて、人為を確保しないと。

 これじゃユースケに笑われるなぁ『恋はまだまだのようだ』って。あ~悔しい。

 悔しいと言えば愛にも。

 予想外のお客さまで、絶え間ないオーダーをリナちゃんへの指示出しや、コータも上手く使って軽くこなしちゃった。

 その姿は凄く堂々としてて、それに忙しいのに楽しそうで凄いと一緒に悔しかった。


 だからあたしももっと頑張らないとって改めて思いました。



【日々平穏調理日報】


 再開二日目。

 昨日、そして今日とたくさんのお客さまが来て下さいました。

 本当にみなさま再開を待ちわびてくれて、足を運んでくれたことにとても感謝しています。

 日々平穏、みなさまの帰るもう一つの我が家。

 その言葉に偽りなしと私はとても感動いたしました。

 そして私の料理を美味しいと食して頂けたことにも感謝です。

 ですが昨日に引き続き今日も失敗です。

 たくさんのお客さまが来て下さったのは大変喜ばしいこと、ですが予想以上の多さに驚き。

 結果として発注した材料が早々に底を尽きてしまい、予定より一時間も早く閉店する事態になってしまいました。

 やはり私はまだまだ未熟、せっかく来て下さったお客様に料理を提供することなく終わってしまうなど料理人として失格です。

 もっと優介さまのようにその日の天候、状況を予想して無駄ない発注をしなければなりません。

 それに比べて……言いたくありませんが恋はさすがです。

 予想外の客足、混雑する店内でも慌てずリナや孝太さんに応援を要請する冷静な状況判断はまるで優介さまのよう。

 そして今日は事前に要請したのか最初から四人体制、昨日よりもスムーズにお店を回すことが出来ました。

 ですが私とて負けるつもりはありません。


 もっと経験を積み、立派な料理人を目指します。



【日々平穏営業日報】


 三日目になって少しはみんなが落ち着いてくれたようで、今日は普段より少し忙しいくらいの客足だった。

 正直助かった。毎日あんな風に忙しいとさすがに体力持たないもんね。

 うん……営業を任される身としてお客様が減ったことを喜ぶのはダメだ、反省反省。

 でも少しだけ自分を褒めたい。

 実は少なくなるって予想して、今日はリナちゃんだけをヘルプに呼んでたもん。

 島のみんなは優しいから、きっとあたしと愛に気を遣って忙しくしないようにしよう……みたいに考えるだろうなって思ったから。

 みんなありがとうございます。

 けどいつまでも気を遣われないようにあたしと愛も頑張るので。


 だからこれからもあたし達を見守って、長い目で成長を期待して下さい。



【日々平穏調理日報】


 昨日今日とお客さまの数が減り、少しだけ安心いたしました。

 もちろん客足が減ることを喜ぶわけではありませんが、あのようなオーダー量を毎日となると、私のポンコツな身体が持ちそうにないので……みなさまのお気遣いに感謝。

 そのお陰で、明日明後日と訪れる最初の山場、土日を乗り切れそうです。

 日々精進、みなさまをお迎えできるよう私と恋も経験を積み、より素敵な日々平穏でお出迎えできるよう努力していきます。

 さて先ほど記述したように明日は土曜日。

 いよいよ迎える最初の山場、島のみなさんだけでなく観光客も多くなる。

 果たして私とリナ、二人で回せるでしょうか?

 いえ、恋がなんとかするでしょう。


 私はまず、美味しい料理を作るよう集中します。



【日々平穏営業日報】

 やっぱり土曜になるといつもとは違う忙しさ。

 顔なじみのお客さまだけじゃなくて観光客も来るから精神的にも疲れました。

 でも新たにヘルプを頼んでた椿ちゃんが来てくれて、今日も無事に営業終了。

 愛とリナちゃんだけだと正直きついと思ってたからもう一人、厨房の人手がいると前もって頼んでたのよね。

 椿ちゃんは中学生だけど、去年の冬にユースケと一緒に厨房に立ったこともあるから出来るかなって、ダメ元で頼んだらオッケーしてくれた。


 ◇


「今日も忙しかったね。お疲れさま」


 土曜の営業を終え、最後のお客さまを見送った恋は一息つく。


「椿ちゃん、今日はありがとう。これはお給料ね」

「こちらこそ貴重な体験をさせて頂き、ありがとうございました」


 撫子学園中等部生徒会長、吉本椿は給料の入った封筒を恋から受け取り満足感で笑みを浮かべた。


「こうして働いてお給料を頂くと嬉しいものですね」

「なら明日も頑張ってもらいましょうか。楽しく働いて嬉しいお給料……少ないけど」

「いえ、こうして労働の大変なことや大切なことを教えて頂くこともお給料の一つです。だから明日もお願いします」

「相変わらずしっかりしていますね。リナ、あなたも見習ったらどうですか?」

「うぅ……リナの方がお姉さんなのに……」


 愛の指摘にリナもションボリ、たまらず店内に笑いが起こる。


「さてと、まかないだけど椿ちゃんは何が食べたい?」

「そのことですが私はご遠慮させて頂きます。もう遅いですし」

「そっか。リナちゃんよりしっかりしてるけど椿ちゃんは中学生だもんね」

「恋ちゃん先輩も酷いよ~!」


 しれっと弄られてリナが突っこむが。


「じゃあ今度お客さまとしてお店に来た時は一食無料ってことで。取りあえずコータに送ってもらう? どうせ使えなかったからまかない抜きで暇だろうし」


「初耳っ!」


 元祖日々平穏の弄られキャラ、孝太の扱いはもっと酷かった。

 その楽しげな様子に名残惜しみつつ、椿は帰宅準備を済ませる。


「平気です。もうお迎えが来てるみたいですから」

「お迎え?」

「そうですよね。お兄ちゃん」


 首を傾げる恋だったが、店の戸を開けるといつの間にか椿の兄、吉本大和が立っていた。


「まったく、心配性の兄でして。そんなに遠くないのに迎えに来るって聞かないんですよ」

「…………誰がそんなことを言った。僕はただ散歩のついでに寄っただけだ」


 無理矢理な言い訳に椿は微笑み、兄の隣へ。


「とまあ素直じゃない兄と帰ります。明日もお願いします」

「ふん……どうでもいいが、宮部」

「はい?」


 突然呼ばれてキョトンとなる恋に大和はメガネのブリッジを持ち上げた。


「いくら学園長の許可を得たとはいえ、中学生にバイトをさせるのは感心しないな」

「あはは……ごめんなさい」

「私は好きでお手伝いをさせて頂いてるのでそのような――」


 椿が抗議するが、大和は無視で。


「人手が足りないならボクに声をかければいい。受験勉強の息抜きにでも手伝ってやる」

「お兄ちゃん……」


 思わぬ申し出に椿が嬉しげに微笑む。


「と、とにかくそういうことだ。行くぞ、椿」

「はい! では宮部先輩、気が向いたら寂しがりの兄にも声をかけて下さい」


 恥ずかしげに去って行く大和を椿は追いかける。

 仲の良い兄妹を見送り恋と愛、孝太とリナは顔を見合わせ笑った。


 ◇


 椿ちゃんと吉本先輩、相変わらず仲の良い兄妹で安心した。

 でも最後は驚いたな~。まさかあの吉本先輩がバイトに入ってくれるなんて。


 でも人材は貴重だし、ここは素直に協力してもらおっと。



【日々平穏調理日報】


 日曜日になると観光客も増えてきます。

 これが私の最初の試練。

 常連客やたまにお越し頂けるお客さまだけでなく、日々平穏へ初めて訪れるお客さまも多いということ。

 それはつまり、私の料理がその人々にとって日々平穏の味だと認識される。

 お爺さまが守り、優介さまが受け継いだ日々平穏の評判を私が下げてしまっては、お二人に顔向けできません。


 ◇


「そうなんですか。優介くんがフランスへ……」


 お昼のピークが過ぎ、一時落ち着いた日々平穏に訪れた花谷一美は恋から事情を聞いて感慨深く呟いた。

 公演の関係上遅くなったが春先に家族で訪れるとの約束を守り、こうして家族揃って訪れてくれた。

 だが久しぶりの再会を楽しみにしていただけに優介の不在を知り肩を落とす。


「でも若い内に世界を知るのはいい経験だ。キミも大変だと思うけど頑張りなさい」

「お気遣い、ありがとうございます」

「あ~あ。お父さんが自慢する優介さんの料理楽しみにしてたのに」

「春奈、失礼なこと言わないの」

「だって……」


 一美とその妻、香澄の前に座る小さなポニーテールの少女はテーブルに顎を乗せて残念アピール。

 花谷春奈は以前、優介とリナが訪問した際会えなかった二人の娘。

 父親にとても美味しいと聞いていたのか、その料理人が不在と知り期待してただけに不服げだ。


「確かにユースケはいないけど、でも愛の料理だってちょっとしたものだから。楽しみにしててね」

 そんな春奈にも恋は笑顔で対応、自信を持って厨房へ。


「そういうわけだから、しっかりやんなさい」

「……あなたに言われるまでもありません」


 オーダーを通しつつ挑発する恋に愛はため息を吐きつつ調理開始。


 そして――


「なにこれっ? めっちゃ美味しい!」

「当然です」


 一口で感激する春奈に平然と返す愛だったが、小さく拳を握っていた。


 ◇


 花谷さまご一家だけでなく、他の初めて拝見するお客さまも私の料理に喜んでくれてひとまず安心です。

 ですが花谷春奈に帰る際、言われました。

 私の料理がこんなに美味しいなら優介さまの料理はもっと美味しいのでしょう、次に来るのが楽しみだと。

 確かに優介さまに比べるとまだまだですが、悔しく思います。

 優介さまに嫉妬だなんておかしな話です。


 私は本当に料理が好きなのですね。



 営業再開 一週間


「ふむふむ、二人ともよう頑張っとるな。島のみんなも褒めておったぞ」


 土日を見事に切り抜け、初の恋愛コンビのみの日々平穏に白河十郎太が来店。


「褒めてくれる前に早く食べて下さい」

「同感です。閉店間際に顔を出すなんて、孝太さん並みに空気が読めませんね」

「二人とも冷たいのう……」


 しかし恋と愛から非難を浴びて十郎太は肩を落しつつ食事を始めた。


「じゃが二人とも本当にようやっておる。楽しい時間と美味い飯、優坊抜きでよくぞ日々平穏を切り盛りした。あっぱれじゃ」

「まだまだこれからです」

「ええ。まだ一週間、本番はこれから」

「ふむ、その心意気や良し」


 二人の返答に十郎太は満足げに頷き


「しかし……日々平穏の隠れたウリ、温かな時間はどのようにするつもりじゃ?」


 優介のココロノレシピと愛のレシピノキオクで体現できる不思議な料理。

 懐かしい料理と温かな時間があって始めて本当の日々平穏、それは恋と愛も理解していた。


「その時はその時です」

「だね。もし必要なお客さまが来た時、その時に考えます」


 しかし十郎太の意地悪な問いかけに愛と恋は顔を見合わせて微笑んだ。


「なによりあたしと愛、それにユースケがいて初めて本当の日々平穏だもん」

「ですから今はただ、高望みせず来て下さるお客様に集中すればいい。違いますか?」

「はっはっは! これは一本取られたわ!」


 以前にはない、二人の強さを目の当たりにした十郎太は豪快に笑った。


 その日の営業後。


「……あ~疲れたぁ~」

「何をだらしないことを……と言いたいところですが、確かに疲れました」


 湯船につかりグッタリする恋に呆れつつも、身体を洗っていた愛もため息を吐く。

 店内の清掃を終えた二人は食事も採らず疲れを癒やす為に入浴中。

 初日こそどちらが先に入るかジャンケンをしていたが、蓄積する疲労に勝てず相談無しで二人一緒に入浴するのが日課となっていた。


「とにかくやっと休みだ~。明日は久しぶりに家に帰ろっと」

「では、明日は久しぶりに私も安息できますね」

「そーなさい。あんた身体弱いんだから休んでもらわないと困るし」

「あなたこそ。あれだけ集中していれば右目も疲労しているでしょうしご緩りと。それで恋、この一週間の売り上げはどうでしたか?」


 愛の問いかけに恋は伸びをしつつ即座に計算。


「予想以上に良かったかな~。この調子でいけばひとまず売り上げは黒字確保って感じ」

「それを聞いて安心しました。優介さまがいない間、売り上げを下げてしまっては妻として失格ですから」

「はいはい。でも本当の勝負はこれからよ、今は島のみんなが喜んで来てくれるけど、続けて来てもらうにはあたし達が失敗しないことが大事」

「分かっています。私とあなた、どちらかが倒れるようなことがあれば無理していると心配させてしまいます。そうなれば客足は減っていまいます。では予定通り、今後は週二で定休日としましょう」

「当然よ。一週間ぶっ続けで営業なんて今回だけ」


 再開させる時、二人で決めたことがある。

 あえて厳しい条件をつけて、これからやっていく自信をつける為にまずは一週間、休み無しで営業することを決めた。

 そして見事クリアすることが出来たが。


「ユースケって……やっぱ凄いね」

「……自分がどれだけ優介さまに甘えていたか、改めて思い知らされました」


 こうして一週間、二人で営業を続けて分かったこと。

 これまで優介はたった一人でお店を運営させる為に努力をしていた。

 三人のお店なのに、二人に無理はさせないようお店のことを考え、料理をし、売り上げを考え、業者とやり取りをして。

 それに気づかず恋と愛はただ楽しんで、なのに優介がいなくなると知れば不安になり反対した。


 でも――ギリギリだろうと一週間乗り切ったのだ。


「んじゃ、早く上がって好子さんのところに行きましょうか」

「ですね。あなたと入浴など疲れるだけですし」

「あっそう。ならお詫びに背中でも洗ったげる」

「止めてください。あなたのバカ力で擦られては私の美しい肌が傷だらけになってしまいます」

「安心なさい。優し~く洗ってあげるから。ていうか、早く洗ってよ。あたしも髪洗いたいんだから」

「こら恋! や、止めてください……擽った……!」


 小さくとも自信を得たことで恋と愛はようやく心が軽くなっていた。




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