恋の章 後編 コイノチカラ 1/2
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あなたはいつ恋をしましたか?
そう問いかけられるとあたしは分かんないって答える。
だってしょうがない。
物心つく前からあたしはユースケと一緒にいたし、ほら……なんて言うの? 幼なじみに恋をするのって自然な感じしない?
まあその理屈でいくとコータもだけど、それはそれ。
だってコータだし。
いやいや、別にコータがダメなわけじゃない。
なんだかんだ言ってもあいつは良い奴だ、実のところ女子受けはユースケよりも良い。
ん? じゃあどうしてコータには恋しなかったんだろ?
改めて考えると変なの。
幼なじみに恋をするのが自然なら、あたしはコータでも良いわけだし、そもそも幼なじみに恋をするのが自然ってものバカな理論だ。そんなの人それぞれ。
つまりあたしはユースケじゃないとダメな理由がある。
何だろう? それが凄く気になる。
きっとあたしにもあるんだ。
ユースケに恋をした瞬間。
◇
二学期も始まり早二週間、相変わらず恋は早くに目を覚ます。
高校に入ってからずっと同じ時間に起きているので、仕事がなくともこのクセは変わることはない。
だからいつものように顔を洗い、歯を磨き――シャワーを浴びる。
髪を乾かしながらしばしテレビタイム。
適当にチャンネルを変えながら時間をつぶし、頃合いを見て電話に手を伸ばす。
「――もしもし、撫子学園ですか? 二年一組の宮部です」
出来るだけ自然に、体調が悪いような声音を。
「はい……今朝から頭痛が酷くて……ゴホ、だから今日は休みます」
頭痛なのに咳きはおかしくないか? と自分に突っこむも、教員は心配しつつ欠席を認めてくれた。
最後まで緊張しつつ受話器を置くと、今度はスマホに切り替える。
友人らに今日は体調悪くて休むからとライン。
すぐに何人かが心配して返してくれて、少しの罪悪感と感謝を込めて大丈夫と返信。
後は私服に着替えて八時半、朝のHRが始まる時間に家を出た。
仮病を使って学園を休み、しかも人目に付かないよう帽子を深くかぶってまで出かける理由。
昨日好子に言われた。
自分もただの恋する乙女。
もちろん否定する気はない。
自分はもうずっと優介に恋をしている。
ただ好子に指摘されて、優介と離れて改めて気になった。
どうして自分は優介に恋をしているんだろう?
気になるなら即実行。
だから恋は不正を犯してまで探すつもりだ。
「さてと……行きますか」
自分が恋をしている理由を。
◇
あたしとユースケは家が斜向かいの幼なじみ。
お互いの両親が仲良くて、特に鷲沢の両親が忙しい人でほとんど家にいなかったらしいからユースケはよく家に預けられていた。
気がつけば家にいて、あいつの方が早く生まれたからお兄ちゃんみたいな……家族、みたいなもの。
だから出会いは覚えてない。
家族の出会いを振り返るって、そんな必要はないもん。
「……そういえば、昔はお兄ちゃんって呼んでたっけ」
住居区で恋は恥ずかしげに微笑む。
ここが恋と優介が出会った場所。
といっても家族のような幼なじみ、物心つく前から二人は共にいたので出会いというのは少し違うかもしれない。
しかし優介について振り返るならやはり最初はここから始まると思った。
「でも知らなかった。たった三年で、また変わったんだ」
寂しげに恋は周囲を見回す。
四季美島へ帰りここへ来たのは二度目。
昔住んでいた頃は両親がいて、島を離れて父親が変わってしまって世界が半分になる事件が起きて。
まだ父親が優しく、父と呼んでいた思い出の場所だけに恋はここへ来ることを避けていた。
だが島に帰り、優介の変貌ぶりを心配して鷲沢家に訪問しようと一度訪れた。
あの時は自分の住んでいた家が建て替えられ、優介の家が更地になっていた事に驚いたが、今は駐車場になっている。
自分が島を離れて三年で住んでいた家は誰かの暮らす場所になり、更に三年後また景色は変わっている。
もう昔の面影はない。優介と共に生まれ育った場所は嘘のように消えている。
しかし面影はなくとも、自分の環境が変わっても思い出は心に残っている。
「まあでも、それはそれでいっか」
だから恋は悲しむことなく笑った。
◇
あたしのもう一人の幼なじみ、コータとの出会いは幼稚園に入園してから。
もちろん記憶にございません。
いやいや、コータを蔑ろにしてるわけじゃないよ?
三歳の頃に誰とどんな出会いをしたかなんて覚えてる人います?
まあいるかもしれないけどあたしの頭じゃ無理なんだよね。
だから年長組の時に『そーいえばコータと仲良かったな』って感じで。
あたしとユースケとコータ、三人でよく遊んでた。
楽しかったなって思い出。
四季美島には小中高一貫性の撫子学園が中心にあり、幼稚園は東側の住居区と南側の商業区に一つずつあり、それぞれ近くの幼稚園に通うようになっていた。
「ここは全然変わってないや」
記憶通りの景色に恋の表情が綻んでいる。
もちろんあの頃より成長しているので建物や遊具が小さく見えるが些細なことだ。
住居区に住んでいた恋と優介は東側のここ、風鈴幼稚園に通っていた。
もう一人の幼なじみ、白河孝太も。
出会いは覚えていないが、気づけば三人でいることが当たり前でいつも一緒に遊んでいた。
「そういえば、コータはあの頃からコータだったなぁ」
グラウンドにある遊具を見つめ恋は苦笑する。
優介は昔から何でも出来る子共で、ブランコ乗りや登り棒も一番上手く出来た。
それが幼なじみの恋は誇らしかった。
もう一人の幼なじみはハラハラさせてくれた記憶がある。
みんなのリーダー的な優介にいつも対抗心を燃やして、でも上手く出来なくて怪我ばかり。
一見仲が悪く聞こえるがあの二人は勝負することが遊びで、良いライバルのような関係。
優介が勝って孝太が負けて、なのに楽しそうに笑いあう男の子二人に女の恋は疎外感を覚えたものだ。
「だからって恋をした……のも変か」
物心ついた頃から三人一緒、なにをするのも一緒の、性別を超えた友情を感じていた仲良し三人組。
あの頃はまだ異性を意識していなかった。
なら当時の恋にとって優介を初恋の対象として見ていない。
「あ! おねーちゃんだ!」
突然の声に恋は我に返った。
幼稚園の休み時間か、お遊戯の時間なのか気づけばグラウンドに園児が出ていた。
「やば……!」
笑顔で駆け寄ってくる園児達に恋は焦った。
今日は平日、現在絶賛学園サボリ中なので保育士さんらに顔を合わせたら色々と面倒だ。
「どーしたのおねーちゃん!」
「おさんぽしてるのっ?」
島の名物、日々平穏の従業員として恋は顔が広く、また面倒見の良さから子供達に好かれているのでどんどん園児達が増えていく。
「あはは、そんなとこ」
無邪気な園児達に手を振り、早々に立ち去ろうとする恋だったが――
『ばいばーい! れんあいこんびのおねーちゃん!』
「恋愛コンビって……」
一斉に手を振る園児達の声に恋はずっこけた。
◇
あたし達三人の関係に少しだけ変化が起きたのは小学校に上がってから。
といっても思春期みたいな変化じゃない。
ユースケの妹、明美ちゃんが成長したから。
それまではあたしとユースケ、コータの三人は一緒で、なにをするのも一緒だったけど明美ちゃんが成長するにつれてユースケの顔がお兄ちゃんになっていた。
だからかな?
その頃にはもう、あたしはユースケをお兄ちゃんと呼ばなくなった。
四季美島には北側に山神神社、南側に海神神社と二つの社があり、古くから島の山と海の守り神が住んでいると言い伝えられている。
毎年夏には海神神社、秋には山神神社で催される大きなお祭は観光名物の一つ。
「……ここで遊んでた時だったなぁ」
山神神社へ続く長い石段を登り終え、広い境内を見回しながら恋は思いだす。
三人で遊んでいたある日、優介の妹――鷲沢明美が突然ここへやってきた。
小学生に上がった恋達は行動範囲も広くなり、四歳下の明美には大変だからと遠出の際はいつも母親とお留守番をしていた。
だが明美にとっては仲間はずれのようで面白くなかったのだろう。
だから母親の目を盗み一人でやってきた。
鷲沢兄妹は本当に仲の良い兄妹で、優介は明美を可愛がり、明美もまた優介に甘えていた。
もしかすると明美は仲間外れにされたからではなく、優介に置いて行かれることが寂しくて、大好きなお兄ちゃんに会いたかっただけなのかもしれない。
なのにそんな明美を優介は叱った。
明美もまた家へ預けられることが多かったので恋にとっても妹のような存在で、一人で来たことを心配するだけだった自分に対し、母親を心配させている妹の勝手な行動を優介は厳しく叱った。
もちろん明美はわんわん泣いて、でも叱られたことをちゃんと謝ると今度は優介が謝った。
寂しい思いをさせてごめん。
でも一緒に遊びたいなら言ってくれてもいいから――
「明美は俺の妹なんだから、お兄ちゃんにはわがまま言って良いんだぞ……か」
その言葉はこれまで兄と慕っていた優介の本当の妹は明美だけだと、恋に言っているようで。
妹が間違ったことをすればちゃんと叱るのは兄の責任。
でも兄として甘えられるのは妹の明美だけの特権だと教えられた。
事実、その日は疲れて眠った明美を優介はおぶって帰った。
大変だから交代しようと申し出た恋や孝太の言葉に耳を傾けず、最後まで兄の意地を見せた。
汗を流しながらも大切な妹を起こさないよう優しく背負う優介と、頼りになる優しい兄の背中に安心して眠る明美。
兄妹の絆を目の当たりにして以来、恋は優介をお兄ちゃんと呼ぶのをやめた。
「だからユースケに恋をした……?」
これまで兄と慕っていた優介を異性として自覚したのは間違いない。
だが、だからと言って恋をしたのは何か違う気がする。
むしろ自分もしっかりしないと、明美にとっていいお姉ちゃんになりたいと感じた記憶がある。
再会して以来、優介は明美の名前を口にしたことがない。
恋もまた明美の話をしようとしない。
だが思い続けているのは間違いないだろう。
自分が今も忘れずにいるように。
「明美ちゃん……何してるんだろ」
今はもう会えない妹を心配しながら恋は石段を下りた。
◇
お父さんの転勤が決まったのはあたし達が小学六年生になった秋の頃。
本土へ引っ越すことを知ってあたしは凄く泣いた。
泣いて泣いて、でもどうにかなるわけもなくあたしは島を出ることになった。
大好きな島を離れること、友達みんなとお別れをすること。
でも一番悲しかったのはユースケと会えなくなることだった。
「引っ越すことが嫌で、あたしはここで泣いてたっけ……」
住居区の古ぼけた児童公園のブランコに揺られながら恋は呟く。
五年前の秋、学校から帰った恋は父親に引っ越しの話をされた。
突然の別れが悲しくて、泣きながら抗議して、でも子供の自分にはどうにも出来なくて。
最後の反抗で家を飛び出し、この公園にたどり着き今のようにブランコに座って泣いていた。
そんな自分を最初に見つけてくれたのが優介だった。
心配した父親が優介の元へ行き、一緒に探してくれて。
恋のことは何でも分かってる――そう言いたげに、簡単に見つけてくれた。
それが恋には嬉しくて、でもそんな優介と別れることになるのが悲しくて、泣きながら引っ越すことを打ち明けた。
引っ越したくない、ずっと緒にいたい。
駄々っ子のように泣き続ける恋の側に優介はずっと居てくれて。
俺たちが会いたいと思い続けていれば、必ず一緒に居られる日が来る
そう励ましてくれた。
今思うとこの時、自分は優介に恋をしていた。
優介と離れることが嫌だった自分。
優介がまた一緒に居られると教えてくれたから、引っ越すことを受け入れられた自分。
お互いが思い続ければ、また一緒に居られると安心できた。
この寂しさや心地よさを恋と呼ばずに何と呼べるか?
故に引っ越した後も恋は優介を忘れなかった。
再会した時はもっと成長した自分を見てもらいたくて色々始めたりもした。
空手も弱いままの自分で再会するのが嫌で、強くなろうと考えた安直なもの。
なるほど、だから精神的に一番辛かったあの時、四季美島に帰りたいと思ったのか。
まあそれはあのオムライスを食べた時に気づいているし、優介に恋をしていることを自覚したのもその時だ。
「今日のあたし……何やってんだろ?」
だが結局のところ、当初の目的は何も達成していない。
優介に恋をした瞬間を知りたくて島中を巡ったのに何も思い出せなかった。
そもそもどうしてこのようなことをしているのか?
好子に指摘されて、優介と離れたことで改めて気になったとは言え、この行為に何の意味があるだろう?
いや、もう認めよう。
気になるのは本当。
だがそれ以上に優介と会えない寂しさ、女々しい気持ちから、思い出に浸りたかっただけ。
若気の至りとは言え、自分探しならぬ自分の恋探し。
つまり今にして思うと――
「あたし……凄く恥ずかしい子だ」
今更ながら勢い任せの行動に恋は赤面して顔を埋めた。
「まあ、それだけ腹鳴ってりゃ恥ずかしいわな」
突然頭上から聞こえる呆れた声に恋は勢いよく顔を上げれば、制服姿の孝太が立っていた。
「うっす、サボリ」
「うっす、じゃない! なんでコータがここにいんのよっ?」
時計を見ればまだ五時間目の最中、なのに当然のように現れたことを指摘する。
「正直、俺も何でいるのかよく分からん」
「意味不明!」
「にしてもさっきの宮部は実に珍しかったぞ。悩める恋する乙女って感じで」
「どういう意味よ!」
とても失礼な物言いに恋は顔を真っ赤にして突っこんだ。
「しかしやっぱ宮部だよな。せっかく良い感じだったのにグーグー腹鳴かしてるし」
「どういう意味だ!」
更に失礼な物言いに再び突っ込むも、その勢いはなくなりブランコに身体を預けた。
ただでさえ恥ずかしい時間を過ごしていたのに、それを見られてしまった。
乙女としてどうかと思うが空腹でお腹を鳴らせていたのを聞かれてのは相手が孝太なのでどうでもいい。
しかし優介のことで思い出に浸っていた自分を見られたのが何より恥ずかしい。
「んで、飯も食わず学校サボってなにやってんの?」
「それを聞かないで……」
「まあ大方、鷲沢恋しさに思い出に浸ってたってところか?」
「分かってるなら言うな!」
さすがは幼なじみというべきか、図星を付かれて思わず言い返す恋だったが
「え……マジで?」
「当てずっぽうだった!」
見事な自爆に恋は完全に沈黙。
思い出に浸っていた自分を見られただけでも恥ずかしいのに、心の内を知られてしまいもう穴があったら入りたい。
意気消沈する恋の姿に孝太は笑うことなく、小さく息を吐き。
「マジで宮部らしくないよな。なんつーか、乙女らしいっていうか」
「……あたしが乙女でなにが悪いのよ」
「いや、悪くないけど……まあいいや。鷲沢との思い出を浸るなら、もっといい場所があるんじゃね?」
と、背を向けてちょいちょい手招き。
「幼なじみとして、とびっきりの場所を教えてやるよ」
「……それってどこ?」
「う~ん……たぶん、宮部が忘れてる大切な場所」
「あたしが忘れてる……?」
その響きに恋は惹かれていく。
孝太も幼なじみで、二年間離れていた自分とは違い優介と共にこの島で過ごしていた。
なら自分の気づかない大切な場所を覚えていても不思議じゃない。
成果のない半日を過ごした恋は期待を胸に孝太の後を追った。
のだが――
「はい、とうちゃーく!」
「うん……コータを信じたあたしがバカだった」
たどり着いたのは日々平穏だった。
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