エピローグ トウトツナ
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七月最初の日曜。
テストが始まるので優介と恋愛コンビは一時間早く昼営業を終えてテスト勉強中。
「どうして休業中なのっ? まだ三時になってないじゃない!」
休業中の札が掛かっているにも関わらず戸が開かれ、来客が不満を叫んだ。
「……フランスに帰ったんじゃないの?」
「相変わらずうるさい方ですね」
ため息を漏らす恋愛コンビよりも大きなため息を吐き、優介が出入り口に向かい――
「試験前は一時間早く閉める。じゃあな」
問答無用で戸を閉めた。
「せっかく来たんだから入れなさいよ!」
だがはいそうですかと引き下がるわけもなく再び戸が開かれる。
カナン・カートレット。
美しく長いブロンドをリボンで一束にまとめシンプルながら上品な白いワンピースを纏った、若干十七歳ながら世界各国で行われる料理コンテストで無敗を誇る天才料理人。
先月の料理対決で愛を負かしたものの、料理人としての在り方で敗れ、更に本人が知らないところで日々平穏の裏メニューを食したお客さま。
しかし忘れていた純粋な夢を思い出しても相変わらずなカナンだった。
「カナン。勉強の邪魔をしたらダメですよ」
そんなカナンを共に来ていたソフィが窘める。
ソフィ・カートレット。
彼女もまた日々平穏の裏メニューを食したお客さま。
カナンの専属メイドとして仕えていたが、忘れていた姉としての心を取り戻したことで随分と印象が変わっている。
これまでメイド服姿しか見たことがなかったが、ソフィもまたシンプルながら上品な白いワンピースを纏っている。
「やはり優介さまのお客さまで、幸せにならない者などいませんでしたね」
「当然と言えば当然か……でもさ」
お揃いの服を着た二人は仲の良い姉妹のようで、今は自然な関係を築いていることに安堵する恋愛コンビだが――気になることが恋にはあった。
「それで? フランスからわざわざ何のようだ」
優介もまた、二人の関係を喜ばしくも面倒げに問いかければ
「ソフィがアナタの料理を食べたいってうるさいのよ」
「カナン! 私はそんなこと言ってません!」
さらりとカナンが暴露、ソフィは即座に否定するも顔は真っ赤。
「ウソ言わないでよ。フランスに帰ってからワタシばかりユウスケの料理を食べてずるいって言ってたじゃない」
「そ、それは……」
「なんて言うかさ……」
「嫌な予感しかしませんね……」
もじもじするソフィに恋愛コンビは危機感を覚える。
メイド服を脱ぎ、姉としてカナンの側にいるソフィの変化は服装だけじゃない。
以前は前髪で目が隠れていたのに、今は短く切ってハッキリと見えるようになっている。
その為か本当に印象は変わり、何というか美人だ。
髪型を変えれば女は替わると言うが、彼女の場合もっと別の理由で変わったようで――
「それにユウスケに綺麗な目だって褒められて髪形変えたし、ていうかソフィってユウスケ好きなの?」
「「やっぱり!」」
あえて認めたくなかったのに空気を読まないカナンがバクダン発言。
そう、女の子は恋をすると変わるもの、当然というか恋愛コンビは驚愕した。
「そ、そそそそそそんなことないでふ!」
「否定してもそれだけ慌ててれば認めてるようなものよ。なら妹として応援してあげてもいいわよ? ユウスケって凶悪犯罪者みたいな目つきだけど料理の腕は確かだし……結構イイ奴だからソフィを幸せにしてくれそうだし」
更に何となくカナンまでも不穏な雰囲気を醸しだすので――限界だった。
「ちょっと待ちなさいよ! 幸せにするってどういう意味っ?」
「そうです優介さまに幸せにして頂くのは妻であるこの私です!」
「てぇ! また愛は……いやいや、それよりもねぇソフィさん?」
「あなたもまた、優介さまに近づく目狐になるおつもりですか?」
慌てて詰め寄る恋愛コンビの迫力にソフィは涙目。
「い、いえそんなつもりは……ただ優介さんは私たちの恩人で……その、お優しくて素敵な人だと尊敬しているだけであってお慕いしている……ワケでは……」
しかし否定の言葉は最後まで続かず、むしろ甘い香りで溢れていた。
「だーもう! 毎度毎度どーしてこう!」
「これだから優介さまが私以外の女性に優しくするのが気に入らないのです!」
「ですから! そういった意味ではなくてですね……!」
「はいウソ! トマトみたいな顔して否定しても説得力ないし!」
「気に入らない気に入らない気に入らない……! なんですかちょっと……いえかなり胸が大きいからと言って色仕掛けですか!」
「そんなことしてません!」
「でも残念でしたー! 胸大きい人がワンピース着ると太って見えるんですー!」
「故に恋のように残念な方が似合うのですよ!」
「ちょっと愛! あんたも似合うじゃない!」
「え? え?」
「ふ、あなたには負けますよ恋」
「愛の方が似合う!」
「恋の方が似合います!」
「あの……お二人とも素敵ですしお似合いだと思うのですが……」
「あんたが言うな!」
「あなたが言わないでください!」
「「嫌味に聞こえる!」」
「ひうっ!」
と、相変わらず仲が良いのか悪いのか、名物の恋愛コンビの言い争いに発展。
気づけばソフィは巻き込まれてしまった。
「凶悪……犯罪者」
ちなみに渦中の優介は落ち込んでいた。
「相変わらずあの二人はウルサイわね。ソフィも無視すればいいのに」
「……お前が言うな」
既に他人事と呆れるカナンに復活した優介が突っこんだ。
「とにかく飯を食いたいなら午後の営業に来い」
「ああ、それはソフィの用事。ワタシもユウスケに話があって来たの」
「何の話だ」
賑やかな店内で若干苛立ちつつ優介が問いかければ、カナンは人差し指を立てた。
「ユウスケ、フランスで料理の修行をしてみない?」
今回でワスレナクッキー完結です。
次回更新からレシピ5『ココロノアリカタ』が始まります。
当初の作風と違い特別なお客さま、特にレシピノキオクが使用されていませんが本編を進めるに辺りやはり優介らがメインの内容になるので構成上、どうしても……。
もちろん特別なお客さまを迎える短編は今後もありますが、当面は優介らの物語を楽しんでいただければと思います。
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