コウフクナデシ
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夜遅く、日々平穏の厨房で優介が日課の修行をしていると戸を叩く音。
「いったい誰だ……」
「こ、こんばんわ……」
面倒げに優介が出迎えると、カナンが一人で立っていた。
「こんな時間に何の用だ」
「だってソフィが怒るんだもん……」
「あん?」
「だから……ソフィに叱られたから仕方なくホテルに行ったのよ」
「……なんの話だ」
「そう言えばアイとリナ、それとレンだったかしら? あの子達にもお詫びにマカロンを持参したのよ。それでそのマカロンを食べたアイがなんて言ったと思う?」
「知らん」
「『この料理は真似できませんね』だって。どう? 凄いでしょ!」
つまりカナンはこれまで失礼な言動と迷惑な行為に対する謝罪をするよう叱られてソフィに教わったアリスの虹色マカロンを持参してホテルに。
そこでマカロンを食べた愛にリベンジを果たせたことで嬉しいのだが――
「結局のところ……テメェは何しに来たんだ?」
関係ない自慢話に優介は苛ついた。
「アナタが帰ってたからわざわざここまで来たんじゃない!」
対しカナンに逆切れられ、ようやく優介は自分に謝罪へ来たと理解できた。
「特にユウスケにはお礼を言うようソフィに言われたの」
「礼を言われる筋合いはない」
「いいから素直に礼を言われなさい!」
どうでもいいと拒否する優介に突っこみ、カナンは姿勢を正す。
「……ユウスケのお蔭でワタシとソフィは姉妹に戻れた。ユウスケがソフィを叱ってくれたからソフィがワタシを叱ってくれるようになった。だから……ありがとう」
そして素直に頭を下げた。
「やはり礼を言われることじゃねぇが、来るなら明日にでもいいだろ」
「明日フランスに帰るから仕方ないじゃない」
苦笑する優介に頭を上げたカナンは恥ずかしげに微笑む。
「もう一度……師匠に伝えたい言葉があるから」
「そうか」
「だからユウスケも早く受け取って!」
と、カナンは優介の胸に包みを押し込んだ。
「なら心していただこう」
「そうなさい。そのマカロンはワタシの師匠の特性マカロンなんだから」
包みを手に優介がカウンター席に座り、隣りに腰掛けながらカナンが得意げに自分の師匠がいかに素晴らしい料理人だったかを話す。
そもそもこのマカロンのレシピは優介が読み取りソフィに教え、アリスのことも知っているが知らぬふりでカナンの話に耳を傾けマカロンを口にする。
「なるほど。確かに素晴らしい料理人のようだ」
「当然よ。ワタシが目指す世界一笑顔を生む料理人だもの」
「笑顔を生む……か」
「何よ? 文句ある?」
「いや」
「……アナタ絶対ワタシのことバカにしてるでしょ」
マカロンを食す優介にジト目を向けていたカナンだったが、厨房にある料理に気づく。
「この料理はユウスケが作ったの?」
「ん? ああ、俺ならどう作るか試してみた」
「ふ~ん……」
興味深くカナンが見つめる料理はハンバーグ。
しかし本来日々平穏で提供しているモノとは違い、ジャガイモのスライスを焼き上げにした器に一口サイズのハンバーグがいくつか添えられている。
また形も星やハート、クローバーなど全て変えている優介なりに試行を懲らした一品だ。
「アナタ、顔に似合わず可愛い料理を作るのね」
「顔は関係ねぇ。ここへ来る客でハンバーグを求めるのはほとんど子供だ。ならいかに夢に溢れた楽しい料理を提供するかを模索するのが普通だろ」
「そう……さすがね」
不機嫌そうに答える優介にカナンは素直に感心した。
自分の芸術的な見栄えに比べて子供っぽい料理。
しかし自身のお店を持つ優介はニーズに合わせ、美しさよりも可愛さを追求したハンバーグにした。
加えて子供の好むフライドポテトをアレンジした器、野菜もとれて食べられるのも面白い発想だ。
「だがこの料理も師には遠く及ばない。俺もまだまだ未熟だ」
しかし優介には不満のようで自ら不服を漏らしているが、カナンは別のことに興味を持った。
「へぇ……アナタにも師匠がいるのね。どんな人?」
自分にアリスという師匠がいるように優介にも師と呼ぶ人がいる。
愛やリナが尊敬するほどの優介の師はどんな人か興味を持った。
「一言で言うならクソジジィだ」
「……は?」
「偉そうで、一言目には文句を言うわ声も出けぇ。色ボケして素直じゃねぇし足もくせぇ」
「本当に師匠なの……?」
一言と言っておきながら次々と文句ばかり口にする優介に、カナンは呆れてしまうが。
「挙げ句、俺に色んなもん押しつけて逝っちまった……テメェ勝手な師匠だ」
「……そう」
最後に吐き捨てた無念の言葉にその師匠がこの世にいないことを知り、優介もまた自分と同じ立場なのだとカナンは不思議な共感を持った。
「なら……アナタの師匠に代わってワタシが試食してあげるわ」
故に少しでも何かしてあげたくなりカナンは努めて明るく試食役を買って出た。
「頼んでねぇよ」
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
「減るだろ」
優介は呆れるも止めようとしないのでカナンはフォークを手に取り、スペード型のハンバーグを一口。
瞬間、口いっぱいに広がる味は――
「これ……本当にアナタが作ったの?」
「そう言ったはずだが」
当然の質問にも優介は律儀に返すがカナンはただ驚愕。
見た目や形は凝っているモノの普通のハンバーグ。
なのにその味は冷めていても、試行を懲らした自分のハンバーグよりも――
「なるほど……あの子が納得いかないのも分かるわ」
カナンはあれ程まで優介の料理にこだわっていた愛の気持ちを理解した。
「何か言ったか?」
「なんでもないわ。それよりアナタの師匠も素晴らしい料理人なのね」
「さあな」
やはり素直じゃない優介にカナンは微笑む。
そう、自分も優介もまだまだこれから。今は敗北を口にするのは早すぎる。
例え尊敬する師が居なくとも、二人には支えてくれる人がいる。
そしてお互い目指す目標は違っても、同じ気持ちで、追いかけ続ける。
互いの目指す存在は果てしなく大きい。
「偉大な師を持つと、お互い苦労する」
「でも幸せよ。ワタシもアナタも」
しかしそんな師を持つ二人だからこそ分かち合える幸福だった。
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