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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ4 ワスレナクッキー
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レンノチョウハツ

アクセスありがとうございます!



 三日後の日曜。


 日々平穏を特別定休日にして優介と恋愛コンビ、リナは朝早く島を出発。

 昼過ぎにテレビ局へ到着すると光に出迎えられプロデューサーも交えて番組進行の説明を受けた。


「んじゃま、せっかくだし局内を案内してあげる」


「「わーい!」」


 リハーサルを前に光から提案され恋とリナのテンションがあがる。


「……面倒だ」


 対しカナンに対するドッキリもあるので仕方なくリハーサルに参加させらることを知った優介のテンションは絶賛低空飛行。


「…………」


 そして愛は終始無言で四人の後を付いて歩いていた。


「そうそう和美さん。今日の宿泊先はバッチリよね?」

「もちろんです。みなさんの為に特別な場所を押さえておきやした」


 先導する光に和美は親指を立てる。

 収録が何時までかかるか分からないので今日は近くのホテルで一泊。

 光も一緒に泊まることになっているのでどことなく修学旅行気分だ。


「あ、優介は別の部屋で一人ね。残念でした」

「知るか」

「…………」

「あれ?」


 いつもならここで愛のとんでも発言があり恋と言い争うと思っていたが無反応、まさかな状況に光は首を傾げる。

 また恋も愛を気にした様子もないことにおかしく思ったのだろう。


「……ねぇリナちゃん。もしかして恋と愛ちゃんケンカ中?」

「いつもケンカしてるけどね……」


 様子のおかしい二人に光が小声で問いかければリナは苦笑しつつ頭をポリポリ。


「でも愛ちゃんと恋ちゃん先輩少しおかしいんだ。だってここに来るまでぜんぜん言い争ってないもん」

「え? それってマジゲンカじゃないの?」

「ケンカしないのにケンカって……でも――」


「フフン! よく来たわね!」


 呆れつつリナが何かを言おうとするも、自信満々な声が遮った。


「ユウスケ。待ってたわよ」

「……俺は待ってねぇ」

「ついにワタシが世界一の料理人と知る日がきたわね」

「まあ聞いてるわけねぇか」


 意気揚々に歩み寄るカナンに優介はため息。


「ごぶさたしております優介さん。あの……本日はお嬢さまのご無理を叶えて頂きありがとうございます」


 カナンの隣で相変わらずのメイド姿のソフィが礼儀正しく挨拶。


「恋さん、愛さん、リナさんもご苦労さまです。……お嬢さま」


 続いて三人にも頭を下げるとカナンに目配せ。

 するとカナンはわざとらしい咳払いを一つ。


「たしかリナ……だったかしら」

「へ?」


 突然名前を呼ばれて首を傾げるリナにカナンはもう一度咳払い。


「このあいだはその……わるかったわね。ワタシも感情テキになりすぎてたわ」

「あ……ううん。リナ気にしてないよ」


 謝罪の言葉にリナの表情が綻び、カナンも安堵するもすぐさまそっぽを向く。


「とにかく! ワタシは謝ったんだからね!」

「だな……俺もすまなかった。謝罪しよう」


 催促してないのに優介まで頭を下げるのでカナンは面を食らってしまう。


「アナタは謝る必要ないじゃない……だって――ま、まあいいわ! これで文句ないでしょうソフィ!」

「はいお嬢さま」

「じゃあもうヨウはないわ! 行くわよソフィ。ユウスケ、カオを洗って待ってなさい!」

「では、失礼いたします」


 踵を返すカナンに続き、ソフィも一礼してスタジオへ。


「カナンさんっていい人だね、師匠」

「さあな。言えることは首を洗うだ」

「にしても、なんて言うか……滑稽というか。この後、どんな顔するんだろう」


 後の運命を知らぬカナンに同情しつつ光は腕時計を確認。


「と、そろそろリハの時間ね。んじゃ、私たちは行きますか」

「面倒だが仕方ねぇ。バカ弟子、よく見ておけよ」

「は~い!」


 スタジオに向かう光に優介とリナが続く。

 残ったのはリハーサルに関係ない恋と愛。二人は楽屋で待機することになっている。


「…………」


 だが楽屋に行くでもなく愛は既に見えなくなった優介の背を名残惜しそうに見つめるのみ。

 また恋も付き合うように動こうとしなかったが、我慢できなくなり口を開いた。


「で? あんたはなに考えてんのよ」


 リナや光が二人の違和感を覚えていたが、恋としては自分ではなく愛の様子がおかしいので巻き込まれた気分。

 おおよそは理解しているがあえて本人から聞こうと端的な問いかけだった。


「……納得いかないのです」


 しばしの間を置き、ようやく愛は答えた。


「カナン・カートレットが優介さまより上だということ……たとえ優介さまのお言葉でも納得できません」

「勝負にならないって話? それはあんたも理解してるんでしょ」

「理解しています、あなた以上に。ですが、先日優介さまはハッキリ負けると仰いました。これがどういった意味か、あなたでも分かるはず」

「あんた以上にね。ふ~ん……ユースケがねぇ。なら納得するしかないんじゃないの?」

「出来ません。優介さま以上の料理人など、この世にいるはずありません」

「ま、それについては同感。あたしもあいつが負けるとは思ってない」


 だからと恋は愛の背中を押すように叩いた。


「あたしはあんたに興味ないから好きにすれば?」

「…………恋?」


 その言葉に愛は唖然とした表情で振り返る。

 間違いなく恋は気づいている。

 自分がどうしたいか、何をするつもりか。

 心に秘めた決意を見抜いている。


「もし叱られたらさ、あたしが一緒に謝ったげる。だから……気の済むまで納得してきなさいよ!」


 更に笑いながら挑発され、最後の最後で揺らいでいた愛の決意は固まった。


「あなたの力を借りるつもりはありません」

「あたしも力になるなんて言ってない」

「そうですか。安心しました」


 今日初めての笑顔を愛が見せると恋は楽屋へ入ってしまう。

 一人になり、愛は小さく拳を握り


「お許しください優介さま……私は優介さまの命令に背きます」


 表情を引き締めた。


 ◇


「やれやれ、ようやく解放された」

「お疲れさま」


 本番まで後僅かになり、楽屋へ顔を出す優介を出迎えたのは恋。


「愛はどうした?」


 楽屋内に愛がいないことを優介が問いかければ恋は苦笑し


「さっき出てった。リナちゃんが心配なんじゃない」

「にしては見かけなかったが……まあいい」

「何か飲む?」

「茶を頼む」


 楽屋に備え付けのティーセットを手にする恋に礼を言い、優介は椅子を引き寄せ腰掛けた。


「で、ここでもスタジオの様子は確認できるんだな」

「うん。そこのテレビから収録映像が映せるって」

「ならバカ弟子のお手並み拝見といくか」

「あんたも何だかんだ言ってリナちゃん可愛がってるよね。ほい、お茶」

「……すまない」


 眉間にしわを寄せつつも否定しない優介に苦笑しつつ恋も自分のお茶を用意して隣に座り、教えられた通りリモコンを操作。

 するとテレビ画面にスタジオ内の風景が映り


『今宵、あなたを美食の世界へ誘いましょう』


 司会役の男性がおきまりの台詞と共にゆっくりと光が広がっていく。

 そこから見えてくるのは白い布が惹かれた大テーブル、上には様々な食材が並べられ中央に生けられた美しい花々をも魅了している。

 そして、両サイドを囲うのは銀色の輝きがまぶしい大型キッチン。


『では参らん、我が名は――!』


 両手を広げて演説する司会の声に応えるように、大勢の声が続いた。


『料理の――超人!』


『それでは今回の超人を紹介しよう』


「……愛はまだ戻らないのか? もう始まるぞ」

「まあいいじゃない。まだオープニングだし……あ、カナンさんだ」


『まずはフランス料理界の新星、天才料理人――カナン・カートレット!』


 司会者のテンション高い声に合わせて、白い調理服を着たカナンがセットの下からゆっくりと上がってくる。


『あの澁谷一を打ち破って以来、三戦無敗! 美しいその両手から繰り出す包丁技術はまさに料理の芸術! 天才の名に恥じぬカナン・カートレットに対するのはなんと! 現役の女子高生です!』

『おぉ~!』

『では紹介しよう』」


 司会者の情報に会場内がざわつく。


『無名の現役女子高生にして、謎の天才美少女料理人――鳥越リナ』


『……へ?』


「謎の天才美少女……?」


 リハーサルと違う紹介に画面からカナンの呆け顔が映り、恋が首を傾げれば優介から呆れたようなため息。


「店の名を出さないよう紹介するコールをバカ弟子が勝手に決めた」

「リナちゃんも勇者ねぇ」


 微妙な空気の中、進行は続きセットのセリが上がり、スポットを浴びつつ登場したのは白い調理服に髪の長いメガネを掛けた少女。


「……あん?」

「あれで変装してるつもりかしら」


 今度は優介が面を食らい、恋は苦笑い。


 多少の変装をしているが間違いなく、ここにいない愛の姿だった。



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読んでいただき、ありがとうございました!

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