表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ4 ワスレナクッキー
61/365

アイノケツイ

アクセスありがとうございます!



 恋がいつものように仕事へ向かおうとした際、光からラインがあった。


 再び料理の超人で審査員のオファー連絡が来たらしいが、その対決する料理人がカナンと優介になっていると言う。

 どうもカナンが次の対決相手として番組スタッフに無理矢理指名したらしく、意味が分からず確認したが、恋も初耳なので慌てて報告に来たそうだ。


「なるほど、事の発端であるハルノヒカリの舌で真意を決するのですね」

「いや、愛はもっと驚こうよ」


 事情を聞き、笑みを浮かべる愛の余裕に恋は呆れてしまう。


「知っていましたから」

「……は?」

「今朝、このような手紙が届いていましたので」


 呆気にとられる恋に愛は封筒をちゃぶ台に置いた。

 それはエアメールで住所は日本語で日々平穏宛てになっているのだが


「…………なんて書いてるの?」


 封筒から数枚の用紙を取り出し目を通す恋だが全く読めない。

 まあ無理もない。恐らく封筒には日本語の読み書きをできるソフィが、手紙はカナンが直々に書いているのでフランス語だ。


「カナン・カートレットからの挑戦状です。二週間後の月末、料理の超人で決着をつけようと、まあそのような内容ですね」

「あんた英語読めるの……?」

「英語なら読めますが……恋、これはフランス語です。さすがに私もフランス語までは理解できませんよ」

「じゃあ何でわかんのよ?」

「優介さまに読んで頂きました」

「……は?」

「フランス語の分からない不出来な私の為に、隣で読み聞かせてくださいました」


 得意げに話す愛だが、それよりも別の驚きで恋は目を丸くしてしまう。


「あんたフランス語読めんのっ?」

「まあな」


 アッサリと優介は頷いた。


「爺さんの蔵書にフランス語の本があってな。生前、爺さんに為になるから読めと言われたことがある。あのジジィ……どうせ読めねぇだろと笑いやがったから一年掛かりで読んでやった。ざまあみろだ」

「あんたも相当な負けず嫌いよね……」

「しかし実に為になった。主に洋菓子について書かれていたが――」


 と、いつになく饒舌に語り始め、尊敬の眼差しで聞き惚れる愛に対し恋はワケが分からず、それでも最後まで聞き


「……で、ほんとに出るの?」

「出ると思うか」

「出ない……よねぇ」


 結論を聞いて恋はげんなりしつつ光へ返答をラインした。


 ◇


「出ないじゃ困るんだけど!」


 だが三日後の放課後、休業中にも関わらず日々平穏に光が登場、開口一番突っこんだ。


「……無駄だと分かっているが一応言うぞ。今日は休みだ。飯が食いたいなら明日にでもこい」

「そんなの知ってるっての!」

「突然お邪魔してすいやせん。ですが光さんのスケジュール上、今日しか来れなくてですね……」

「あなたも大変ですね。お茶でもどうぞ」

「あたしじゃ話にならないからってユースケに直接文句言いに来るなんて、光さん相変わらずの行動力だなぁ……」


 優介と光が言い荒そう中(一歩的に光だが)、マネージャーの和美に愛がお茶を用意、呆れつつも尊敬する恋。


「とにかく、番組もあなたが出演する方向で準備してるんだから今更別の料理人も用意できないの。つまりこのままだと番組に穴が開く、みんな困るんだからね」

「知るか」

「知るか、じゃない! いいから頷け――」

「そもそも、俺は承諾していない。勝手に決められてこっちが迷惑なんだよ」

「ぐ……っ」


 正論に光は押し黙り、ようやく店内が静かになり


「あの……リナ、喋って良いかな?」


 休業日を利用して修行に来ていたリナが恐る恐る手を上げ――


「師匠が料理の超人に出るって何のことっ?」


 時間差で突っこんだ。


 ◇


「えぇっ! 師匠テレビに出るのっ?」


 修行を中断し、改めて事情を説明されたリナが奇声を上げ、優介は大きくため息。


「ひとの話はちゃんと聞けバカ弟子が。俺は出る気はない」

「え? 何で出ないの?」

「面倒だ」

「うん……師匠らしい理由だね」

「あ~もう、どうするのよ~。優介が出ないと困るんだけど~」


 一蹴されてリナは肩を落とすが、それ以上に光がへこんでいた。

 番組サイドは天才料理人のカナンが直々に指名したこと、またその相手が同い年の料理人だということで番組が大いに盛り上がると喜んでいたが優介のキャンセルを知り、慌てて友人の光に説得を頼んだという。


「ねぇ、私の顔を立てると思ってここは一つ――」

「関係ない」

「よねぇ……はぁ」


 再度の懇願もきっぱりと否定されてしまい光はテーブルにうな垂れた。

 その姿に同情したのか、恐らく目障りなだけか、しばし思案した優介が面倒げに告げた。


「ならバカ弟子を出演させれば良いだろ」

「へ? リナ?」


 思わぬ指名に目を丸くするリナ。


「リナちゃんを……? でも、この子だと腕に差がありすぎじゃ……」

「事実だけど光さん酷い!」

「お前らは話題作りが必要なだけだろ。バカ弟子なら歳も近いし条件は似たようなモノだ」

「う~ん……それいいかも」

「いいのっ?」

「なにより師に変わって弟子が出る。これもまたいい話題だ」

「だよね!」

「ちょっと師匠も光さんもリナ無視して話進めないでよ! ねぇ愛ちゃんも恋ちゃん先輩も止めてよ! このままじゃリナ恥かいちゃう!」

「リナの体裁よりも優介さまのご指示です」

「リナちゃんの犠牲で光さんが助かるなら」

「二人も酷いよ!」

「優介、プロデューサーからオッケーもらったよ。やっぱ師匠の前に弟子が立ち向かうのが王道だって。なによりピチピチの女子高生なら花もあるし面白そうだってノリノリみたい」

「軽いよプロデューサーさん!」

「おい光、そいつに出演変更をカナンには秘密にしておけと伝えろ。またギャーギャー文句言われるとうるさいからな」

「なるほど。ドッキリもありか、りょーかい」

「了解しないで! リナ嫌だよ! 絶対負けるの分かってるもん恥かくよ!」

「まあまあリナちゃん。かませ犬の気持ちで気楽にね」

「なんの慰めにもなってないよ!」


「……何でしょう。リナを見てると孝太さんを思い出します」

「あの子も根っからのいじられキャラだからねぇ」


「うわぁぁぁん! みんなしていじめる~!」


 怒濤のやり取りについには泣き出してしまうリナだが


「……バカ弟子、一流の腕を見るのもまた修行だ。これも良い経験になる」

「ふぇ……師匠?」

「なによりお前は心をこめてお前の料理をすれば良い。それを笑うような奴がいれば……俺が黙らせてやる」

「うぅ……ありがとう師匠。リナ頑張るよ」


 先日のカナンの一件を思い出したのか、力強い師の言葉にアッサリ了承。


「美しき師弟愛……いい話ですぜ」


 そのやり取りに和美は感動してサングラスを外して目を拭う中


「……でもさ、今回に関して言えばカナンさんが一番コータっぽくない?」

「彼女もまた、ピエロの素質があります」

「張り切ってるのに、蓋を開ければリナちゃんだもんね」


 恋愛コンビと光はカナンに同情していた。


 その頃――遠く離れたフランスで


「――ふふふ、ついにワタシが世界一の料理人になるのよ! 見てなさいユウスケ!」


 孝太、リナに続く新たなピエロこと、カナンはやる気に燃えていた。


 そして翌日。


 閉店を一時間早めて、リナの料理の超人に出演する為の修行が始まった。

 今回のお題はハンバーグ。

 澁谷の時と同じく、今度はカナンに有利な洋食でもリナの腕では関係ないので問題はない。


「では始めるぞ」

「はい師匠!」


 まかないを愛に任せて優介とリナは厨房に立つ。

 特にリナはわざわざ閉店時間を早めてまで教えてくれる師の心意気に気合い十分。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……何してんだ。さっさと作れ」

「? だってまだ何も教わってないよ」

「なに言ってんだ。ハンバーグのレシピは以前教えたろ」

「うん。でも普通のだよね」

「……なに言ってんだ?」


 しかし話がかみ合わず一向に進まなかった。

 取りあえず改めて互いの主張を確認。


「これまで通りお前が調理するのを横で指導する。これの何が問題ある」

「問題はないよ? でもリナが作るのは普通のハンバーグなの?」

「ハンバーグに普通も特別もあるのか?」

「ないの?」

「……口を挟むようで恐縮なのですが優介さま、恐らくリナは番組に出演する為により試行を懲らした新しいハンバーグを教わるつもりではないでしょうか」


 やはりかみ合わない二人にカウンター席で試食役として待つ愛が説明に入る。


「ほら、例えば見た目が凄くて『これがハンバーグなのかっ?』とか、予想外な味付けをして『うーまーいーぞー!』って海を走ったり、服がびりびり破れるやつ」


 恋も漫画的な例えで加わりようやく優介は理解した。


「つまり俺なりに試行錯誤したレシピを教わりたいのか」

「うん! それで――」

「却下だ」

「なんでっ?」


 理解して否定されリナが噛みつくも


「俺の心をこめたレシピをお前が調理することに何の意味がある」

「……そうでした」


 理由を聞いて納得。

 料理における心を何よりも重んじる優介が、そんな意味のないレシピを教えるわけがない。


「じゃあリナ、普通のハンバーグを作ればいいの?」

「それの何が悪い」

「悪くないけど……それってテレビ的にどうかな~て」

「料理にテレビなんざ気にするな……と言いたいところだが、更に美味い物を作ろうとする向上心は認めてやろう。ならお前が試行を懲らし、考えた新しいレシピを生み出せばいい。助言くらいはしてやる」

「リナに出来るかな……」

「出来る以前にやる為の修行だ。基礎を疎かにしては試行もクソもない、分かったらさっさと始めろ」

「はーい」


 ◇


 リナが調理するのを優介が指導し、恋と愛が試食。日によっては好子や孝太、十郎太から楓子まで参加。

 そしてリナが考案した調理法を試したり、優介がアドバイスを加えたりと時間は過ぎ――本番まで残り三日となった夜。

 自分の料理修行と入浴を済ませ部屋に戻った優介が授業の予習をしているとノックの音が。


「入れ」

「失礼します」


 ドアが開き、湯飲みを乗せたおぼんを手に愛が入ってくる。


「こんな時間に珍しいな」

「はい……あの、お茶を用意しました。リナの修行、お疲れ様でした」


 普段は優介の邪魔にならないようこのような気遣いをしない。


「……なるほど。いいだろう、お前も付き合え」

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちだがな」


 手を休め机から離れつつ苦笑し優介が座る。

 今日でリナのハンバーグは納得の出来となり、当日まで休むよう指示しているので一区切りが付いた。

 故に本番前に、愛はどうしても聞いておきたいことがありこうして訪れたのだが気づいているようだ。


「優介さま……リナは大丈夫でしょうか」

「これもいい経験だ」


 湯飲みを口にし優介は端的な言葉を返す。

 もう何を聞きたいか気づいている。

 だから早く話せと言っているようで、愛はやはり聡明な人だと感心してしまう。


「どうしてカナン・カートレットと勝負をしないのです?」


 恋も以前、同じようなことを質問した。

 そもそも料理に対し誠実な優介は味で勝敗を決めることを無粋と思っていない。むしろ料理人同士が心と技を競い合い切磋琢磨することに肯定的だ。


「必要ない勝負だからだ」


 その答えで愛は納得する。

 勝負をすることに否定的ではない優介がどうしてここまでカナンとの勝負を拒否するのか。

 恐らく優介はその相手を、己を高め合う相手を喜三郎以外ないと決めている。

 故に日々平穏の料理人として師を超える為、心と技術を磨いているのだ。

 それが天国にいる喜三郎とイチ子を笑顔にすることだと信じている。

 だから必要ない勝負。


 しかし――


「では優介さまとカナン・カートレット。どちらが優れた料理人ですか?」


 どうしても納得できないことがあった。

 優介がカナンに劣っているということ。

 料理人として心と技を競い合い、負けるという敗北宣言が愛の中でずっとモヤモヤしていた。


「あの時は画面越しでカナン・カートレットという料理人の技術のみを目の当たりにしていました。ですが何度か顔を合わせ、為人を知りました。優介さまが怒りを露わにしたように、技術は一流でもカナン・カートレットの心は未熟。それでも優介さまはご自分の方が劣っているとお思いですか?」

「心が未熟なのは俺も同じだ」

「優介さまと彼女とでは全く違います」

「どちらが優れているかなんざ、俺には興味ない」

「私はあります」

「優れているというのも味のことか。俺はカナンの料理は食したことがない」

「味もですが料理人として、どちらがかと言うことです」

「……そもそもこの押し問答に何の意味がある」

「私が納得できないからです」


 面倒げに問いかける優介に愛はハッキリと自分の気持ちを口にした。

 以前の自分には出来なかったこと。

 だがこの一年、彼と共に暮らし、恋と同僚になり、リナという親友が出来た愛には出来ること。


「いくら優介さまのお言葉でも納得できません。優介さまの心を投影したような、あの優しい味を超える料理などこの世にありません。私は優介さまこそ、世界一の料理人だと信じています」

「俺も随分と買いかぶられたモノだ」

「事実を言ったまでです」

「……そうか」


 ため息を吐く優介だが表情は柔らかい。

 優介もまた愛の変化を喜んでいるようで、またここまで自分の料理を信じてくれることが嬉しいのだろう。


「どうすればお前は納得できる」

「勝負にならないのではなく、ご自身とカナン・カートレット。どちらが上なのか謙虚なく、優介さま自身が思う回答を教えて頂ければ」

「どちらが上か……そんなもの言うまでもないが――」


 お茶を飲み干し優介は愛の目を真っ直ぐ見据え


「カナンだ」


 今度は濁すことなく完全な敗北宣言。

 これには愛も予想外なのか言葉が出ない。


「納得したなら話は終いだ。もう寝ろ」

「…………はい。夜分に失礼しました」


 再び背を向ける優介に頷き愛は部屋を出る。 

 負ける気はない――謙虚で奢らず、努力を続ける優介なら勝つとまでは言わなくても強気に言ってくれると信じていた。

 なのに勝負をしないから勝負にならないのではなく、濁すことなく負けを認めてしまった。

 つまり本当に優介は負けると思っているからで。


「そんなの……納得できません」


 結局、愛は首を振り否定し。


 ある決意をした。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へお願いします!

また感想もぜひ!

読んでいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ