プロローグ セカイハカワル
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世界は大きく変わっていた。
七四八――日にすると途方も無い時間に思えるけど、単位を変えたら二年くらい。
たったそれだけの時間で私の世界が変わってしまった。
言うなれば最高から最低に。
一人で頑張ったのに、辛くても悲しくても頑張った私に対するご褒美がこれなの?
ホントに最低。
『お嬢様、もうすぐです』
神への抗議を心で叫んでいると不快な声。
私の変わった世界のひとつが気分を害する。
でも受け入れる。
別に彼女が悪いわけじゃない、悪いのは……まあいいわ。
『そう』
短く答えて彼女の後を歩いていると開けた場所に出る。
夕日が綺麗に見える丘は悪くない。
あの人が眠る場所なんだから最高の景色であるべきだもの。
いくつかある墓標の中の一つの前で彼女が止まる。
刻まれた文字にあの人が――私の師匠が本当にこの世に居ないことを痛感させた。
不思議と涙はない。
ここに来る前に流しすぎて……枯れたのかな。
どうして待っててくれなかったの?
楽しみにしてたのに……師匠に成長した私の料理を食べてもらいたかったのに。
でも……私が悪いんだよね。頑張りが足りないから間に合わなかったんだ。
『お嬢さま……これを』
『あなたが添えなさい』
『……え?』
彼女の持つ花束は必要ない。
私が添えたいのは……ただ一つ。
『師匠……もう一度約束します。私は――』
最後の約束を果たす。
その称号が私の添える師匠への花だから。
◇
「お疲れさまでしたー!」
スタジオを後にするなりハルノヒカリは楽屋に向かいつつ大きな伸びを一つ。
「あー疲れた……」
「光さん……その顔止めてください。イメージが……」
「だって疲れたのはホントだし」
マネージャーの坂城和美が注意するもハルノヒカリ――改め春日井光はアイドルに夢見る視聴者に現実の厳しさを突きつけるほどオッサン臭い表情をしていた。
「そもそも和美さんが悪い」
「私……ですかい?」
「何でこんな仕事取ってきたのよ。ずっと待て状態は地獄だしほんの少ししか食べられないし――」
「どんな仕事でも文句を言わないでください」
「別に仕事を選んでないわよ。ただ、美食家謳ってるわけじゃないのに場違いじゃないってこと。正直さ、料理人に失礼――」
「待ちなサイ!」
愚痴を遮る声に光と和美は同時に振り返れば、真っ白な調理服に映える金色の髪。
青い瞳と白い肌をした少女が。
「さっきの採点はなんなのよ! アナタ、ワタシの料理が美味しくないって言うのっ?」
「あなた日本語上手いわね」
「ワタシの質問に答えなサイ!」
質問とは全く関係ないところで感心されて少女が地団駄を踏む。
「私はどっちも美味しかったから同じ点数をつけただけ」
「そん――!」
「だいたいさ、美味しいなら美味しいでいいじゃん」
「……なんで味の分からない素人が審査にデルのよ」
無邪気な笑みに怒りよりも呆れがまして少女は盛大なため息を吐く――が
「そう思うよね。私は女優だけど料理に関しては素人、なんで審査したんだろね」
「……ハ?」
嫌味を込めた言葉に同意されてキョトンとなる少女を尻目に光は和美へウィンク一つ。
「ほらね、怒られた」
「正直光さんの態度が失礼だと思いますがね」
反論しながらも和美は仕方無しの表情。
以前は清純派がウリだった光は一年前に本性をカミングアウトしたが、意外にもサバサバした性格はもとより多かった男性層だけでなく、女性層のファンを増やした。
また同業者からも裏表ない態度が受け入れられ仕事も増えている。
その分面倒ごとも増えたが、受け持ちのタレントに人気が出るのはマネージャーとして嬉しいこと。
故に和美も自分の仕事が増えても苦労は無い。
「ヘンな人ね……。でもま、世界一の料理人の味を知れたことはアナタにとって最高の経験になったでしょう」
「私にとって世界一の料理は健――」
「光さん!」
少女の自信満々な発言に即座反応、暴露で返そうとした光を慌てて和美が制した。
「……場所を考えてください」
「あ、そうだった。ゴメンね和美さん」
やはり少しは苦労を減らして欲しいとお腹を押さえる和美に光は手を合わせる。
「それにあいつは料理人じゃないし」
「……そう言った問題ではなくてですね」
「? なんの話ヨ?」
そのやり取りを訝しむ少女に光は話を逸らした。
「私にとって最高の料理を教えてくれた料理人は他にいるって話よ」
「それってどういうことかしら……?」
しかし少女の余裕が不快に変わってしまう――が、光は気づかず
「つまり、そいつの料理の方が私には美味しいてこと」
「ナ――っ! それって誰よっ?」
「味のわかんない私の意見なんか無視すれば」
顔を強張らせて問いかける少女に手をヒラヒラさせて光は楽屋へ。
だが――
「そうはいかないわ! 世界一の料理人であるワタシの料理より美味しいって納得できナイ! 訂正なさい!」
「だから、素人の意見なんか無視すればいいじゃない」
「素人だろうと関係ないの!」
声を張り上げながら少女は後を追い、更には楽屋で着替えを済ませて次の仕事に向かう間も離れない。
「……光さん。お願いしやす」
さすがに周囲の好奇な視線に和美が懇願し
「日々平穏って定食屋の料理人よ。これで満足でしょ?」
光としてもこれ以上は面倒になると返答した。
「ヒビヘイオン……? 定食屋?」
「そ。じゃあ私は仕事あるから」
呆気に取られる少女のスキをついて二人は早足でテレビ局を後にした。
「フン……やはり素人ね。定食屋の料理人がワタシより上だなんて」
残された少女はあざけ笑い、身を翻した。
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