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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ3 カタリベオハギ
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現在編 トウチャク

アクセスありがとうございます!



「師匠の師匠さんって、凄い料理人さんなんだね……」


 本土に到着して二時間、電車を乗り継ぎながら途切れ途切れに聞いていた話にリナはもう驚くしか出来なかった。

 優介がココロノレシピで失敗したことも衝撃的だが、彼の師である喜三郎の味の秘密がそれ以上に信じがたい。

 当時の日々平穏の集客率がどれほどかは知らないが今より少ないことはないだろう。

 あの目まぐるしい中、相手の好みにあわせた味付けをするのも大変なのに体調面も考慮した食材選び、更には観光客にまでの心配り。

 まだ未熟なリナですら、その調理法が神業的なことか充分理解できる。


「じゃあ師匠も師匠さんと同じようにしてるの?」

「せいぜい常連客の好みや観光客の出身地を予想して味付けを合わせている程度だ」

「程度って……」


 不服気に答える優介だがそれを果たしてどれだけの料理人が真似できるだろう?

 改めて自分の師が、そして優介に生涯唯一と言わしめる喜三郎の背中の大きさ、遠さをリナは理解する。


 日々平穏のような店を持つ――やはり自分には無謀な夢なのかと不安になる。


「言いたくないが……お前は俺よりも可能性がある」


 気持ちを察してくれた優介が励ましてくれる。


「俺は師に皿洗いや掃除ばかり指示されて不満ばかり抱いていた。だがお前はその中でも客を見て、俺の味の秘密に気づいただろう。ココロノレシピに頼らず、テメェの目でな」

「でもリナは師匠に心の大切さを教わってたからで……それに恋ちゃん先輩に言われてたからたまたまだもん……」

「……もし叶わないとすればその原因は心の持ち方だな。お前は夢を語るとき恥ずかしいと口にした、今も自信がねぇ面でしょぼくれている。そんな弱い心の持ち主が夢を叶えられるハズがない」

「…………うん」

「やれやれ。普段はムダに自信過剰のクセに、肝心なところで弱い奴だ」


 呆れられてしまうが仕方のないこと。

 リナも今まで自信過剰の一面はあったが、根拠のない自信では意味がないことを知った。それを師である優介が教えてくれた。

 普段の自信満々な発言とは裏腹に優介は努力を怠らない。

 学生にして店主、勉学と仕事を両立してなお料理人としての修行、弱音を吐かず当然のように続けられる心の強さ。

 リナにとって優介は料理人としてだけでなく、人としての目標だ。

 だが高すぎる目標ゆえに自信を無くす。

 比べてしまい自分の心の弱さを痛感する。

 今もこうして師匠の高みに怯える自分とは違い、優介は師匠の偉大さを知りなお臆せず突き進んでいる。

 喜三郎の日々平穏を超えると誓い、口だけじゃなく努力を続けている。

 歳の差はひとつ、なのにこれほどまで心の成長に差があるのはやはり生き方の違いか。

 今まで不自由なく優しい両親に育てられた自分と、あの悲しい過去を経験した優介とでは――


「……ぼけっとするな。着いたぞ」


 不意に立ち止まる優介にリナは我に返った。

 駅からどれほど歩いたか分からないが目の前には普通の一軒家。

 その表札を見てリナは納得していた。

 木製の表札に書かれている苗字は『花谷』。

 これまで聞いた昔話で約束していた人が誰なのかは予想できていたので驚くことはない。


「ねぇ師匠。何でリナ連れてきたの? 料理修行って言ってたけどお爺ちゃんと約束してるのって、お料理するとか?」


 ならば弟子として不安を感じている暇はない。

 料理は心、ならばと気持ちを切り替えて勤めて明るく尋ねたが――


「爺さんはいねぇよ」


 そう呟かれてキョトンとなる。

 留守にしているのなら何故訪ねたのか?

 そもそもどうして留守なのを知っているのか?

 訝しむリナに優介は大きく息を吐き


「いねぇんだよ……あの役者バカは」


 寂しげに口を開いた。


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