過去編 シンジツ
アクセスありがとうございます!
翌日、起床した優介が居間へ顔を出せばそこには恋の姿。
「…………今日は休めと言ったハズだが?」
「休みにここへ来ちゃ悪い?」
ドスの聞いた問いかけにも恋は平然と返す。
「悪くはないが……こんな朝早くから何やってんだ?」
「伝票整理」
「それは俺がやると言ったハズだ」
帳簿をつける恋から伝票を取り上げようとするが、その手が空を切る。
「……おい」
「ユースケ。もうすぐ日々平穏が始まるね」
批判の眼を向ける優介に構わず、シャーペンを動かしながら恋が突然口を開く。
「準備は忙しいけどお祭り前みたいで楽しかったし、これから始まるお祭りはずっと続く。お爺ちゃんとお婆ちゃんに変わってあたし達が日々平穏を始めるんだ」
「それは以前聞いた」
「なら万全の体制で始めようよ」
ようやく視線を向けた恋は満面の笑みで
「あたしは接客と買出し、それと経理を任されてる。だからお金の動きはあたしに任せればいい。まだ分からないことだらけだけど、絶対にあんたが納得する働きをしてみせる。だからあんたは店主としての仕事をすればいいの」
「恋……」
「お店が潤滑に機能するようにあたしと愛に指示して、美味しい料理を作るのがあんたの仕事。その為にするべきことがあるんじゃない?」
「…………」
「花谷さんにリベンジしなさいよ」
その言葉に優介の眉根が動く。
「どうして花谷さんがあんなこと言ったのか分かんないけどさ、ユースケはお爺ちゃんの弟子なんでしょ? なら認めさせて、いつもみたいに偉そうに胸張って新しい日々平穏の厨房に立とうよ」
「朝食の用意が出来ました」
恋の言葉が終わると同時に居間へ愛が入ってきた。
これまでここの食事は全て優介が作っていたにも関わらず、その手には三人前の焼き魚と漬物が乗ったおぼん。
「おはようございます優介さま。あの……僭越ながら朝食を作らせていただきました」
「……愛」
「ですが以前はお婆さまが食事の用意をして、お爺さまはお店の料理に集中していたとお聞きしていたので……やはり、妻として私が用意するのは当然かと思い……」
「……ちょっと。誰が妻だって?」
「私ですが? それよりもあなたも運ぶのを手伝いなさい」
「……そうね。寝言に腹立てても仕方ないし」
視線を合わすことなく恋は台所へ行ってしまい
「この島へ来て、日々平穏がどれほど素敵な場所なのかをみなさんから……特に恋からお聞きしています。ここで食事をし、お話をするお客様は自然体で、まるで従業員とお客様が一つの家族のようだと」
同時に愛がちゃぶ台の上を手早く片付けながら独り言のように呟いた。
「ですが私は聞いているだけ。信愛するお爺さまとお婆さまの日々平穏を……良く知りません。いえ、覚えていないが正解です」
愛は幼少から身体が弱くこの島へ来たのは物心つく前に一度きり。故に記憶として残っているのは祖父母の葬儀のみで、日々平穏が営業しているのを見たことがない。
「優介さま、私は信じています」
料理を並べ終えた愛は立ち上がり、優介に顔を向けた。
その瞳は迷いも不安もない、気持ちのいいほど真っ直ぐな信頼が向けられて。
「皆が愛し、温かな家族のような場所を言葉ではなく、見せてくださること……優介さまだけが語れる本当の日々平穏の姿を、どうか私に教えてください」
一礼して愛も台所へ向かった。
残された優介はゆっくりと目を閉じる。
どうして恋が、愛が突然あのようなことを言ってきたか分かっている。
喜三郎は最後まで自分を日々平穏の厨房に立たせることはなかった。
イチ子は遺言で自分に日々平穏を継がせる気はないと書いていた。
だが喜三郎の最後の教えで料理に対する大切な心を知り、イチ子の遺言もココロノレシピに囚われず料理を続けて欲しいとの想い故の勘違いだと気づけて、自分勝手な決断だが日々平穏を再開する自信を持てた。
それでもやはり自分勝手な自信、初めて花谷に否定されて簡単に揺らいでしまった。
本当に自分はこの日々平穏の店主として、料理を提供していいのだろうか?
迷いに気づいた二人が心配したのだろう。
だが信じている。
鷲沢優介だけが日々平穏の厨房に立てることを疑わずに、自分の出来ることを模索している。
「……情けねぇ」
なのに自分は強がっているだけで何もしない。これではどちらが店主か分からない。
花谷の言うとおりだ。こんな情けない自分を喜三郎は厨房に立たせないだろう。
日々平穏の店主として認めるわけがない。
恋と愛に信頼される資格もない。
「資格が無いなら……手にいれりゃいいだけだ」
だが目を開けた優介に迷いも動揺もなく、いつもの強い眼光を取り戻していた。
「まったく、あなたに手伝わせた私が愚かでした」
「だから謝ってんじゃん!」
同時に廊下から賑やかな声。
いつもは不快に聞こえる恋と愛の言い争いも、不思議と気にならない。
「ねぇ聞いてよユースケ! 愛ったら――」
「聞いてください優介さま、恋ときたら――」
ふすまが開き同時に愚痴をこぼす恋と愛だが
「恋、愛、俺の変わりに清掃の立会いをしろ。手を抜いていたらやり直しをさせてよし、何なら伝票整理でもさせておけ」
「「……え?」」
その宣言にキョトンとなるが構わず続けた。
「急な用ができた。飯を食ったら俺は出かける……文句あるか」
最後に微笑を浮かべる優介に恋と愛は顔を見合わせ――笑顔になる。
「ありませーん」
「優介さまの言葉に不服などございません」
◇
日々平穏には恋と愛の他にもう一人、白河孝太が雇われている。
だが彼はバイトとしてで、あくまで手伝い感覚。故に開店準備に一切関わらないようにしていた。
これから始まる日々平穏は優介を中心に恋と愛、三人の店。
このスタイルを壊したくなくてあえて傍観者を選んだが、事情を知らない恋と愛には散々なじられた。
ただ一番文句の言いそうな優介が気にすることなく『開店したら死ぬほどこき使ってやる』と述べたのみ、さすがと思ったものだ。
故に言葉にしなくても察してくれた親友の計らいに遠慮なく、来る開店日に向けてダラダラと過ごしていた。
「どうした? バカがバカ面して」
「…………いや、なんで?」
孝太はデジャヴを感じていた。
今日もダラダラ過ごそうと思い二度寝を楽しんでいたのだが、インターフォンに起こされて玄関に行けば優介の姿。
三年ほど前にも同じようなことがあった。確か優介が復活した日で。
「まあお前がバカなのはいつものことか。爺さんはいるか?」
「…………」
「……さっさと答えろ、使えねぇ」
やはり同じことを言われてしまった。
あの時は親友の変貌振りに混乱していたが、この三年で鍛えられているので理由も聞かず返答。
「留守だよ。昨日から婆ちゃんと本土に行ってる」
「孫も爺さんも肝心なときに使えねぇ。まあいい、爺さんは後回しだ。台所を借りるぞ」
「は?」
しかし鍛えられていると言っても限度がある。
急展開過ぎて付いていけない孝太を無視して優介は台所へ向かう。
昔なじみ、それに数ヶ月住んでいた家なのでまさに勝手知ったるなんとやらだ。
「いいけどさ……何するんだ?」
取り合えず後を追い問いかけると前を歩く優介から呆れたため息。
「ついにバカも極めたか。台所で鉢植えすると思うか?」
「……料理、だよな」
相変わらずな毒舌を吐く優介の両手には食材の入った袋。台所を借りると聞いた時点で分かっていたが、何故わざわざ白河家の台所を使うのかが分からない。
「今日は清掃業者が入るんで厨房が使えねぇんだ」
「でも店とは別に台所あるんだろ」
「恋と愛の邪魔になる」
「どゆこと?」
「……どうやら、順を追って説明しないと理解できねぇか」
「バカなんで」
「テメェのことは理解できるのか」
台所で食材を取り出しながら優介がほくそ笑み、ようやく説明を始めた。
数日前、喜三郎と十朗太の友人、花谷が来店したこと。
そこでココロノレシピを使い持て成したが不完全と指摘され、ついには日々平穏の料理人として失格の烙印を押されたこと。
優介にとってその烙印がどれほど重いものか孝太は理解できるが、全く心配していない。
「誰がなに言おうと俺には関係ない。だが、このままほおっておくのは逃げるようで性に合わん」
辛い告白をしているのに優介の瞳は揺らいでいない。三年前とは違い、彼は強くなっている。
「認めねぇなら認めさせるまでだ。あのジジィが満足する料理を作ればいい」
何より今の優介には恋と愛がいる。
当時なにも出来なかった名ばかりの親友とは違い、心から思い続けている頼もしい恋愛コンビが側にいるのだ。
あの頃のような醜態はもう表さないだろう。
「そんで気持ちよく日々平穏の復活だ、違うか?」
「違わないねぇ」
ならばと孝太は心配せず、優介の親友として見守ることにした。
「んで、その花谷って爺さんを認めさせるためにここで料理修行をしにきたのか」
「少し違うな。ココロノレシピを見つめなおす為だ」
「あん?」
「爺さんから受け継いだこの能力、正直俺は気にいらねぇ」
師より最後に受け継いだ能力を優介は快く思っていない。
その証拠に彼はこれまで孝太と恋に能力を教える時と、一月前に愛が引っ越してきた際に仕方なく使用しただけ。
「だが今回の客はこの能力がないと満足させられない。なら気にいらなくとも理解する必要がある。どうして俺の能力が不完全なのか、爺さんのと何が違うのか」
「だから爺ちゃんに色々聞いてみようとしたわけか。でも前も聞いだけどほとんど情報なかったろ?」
「それでもだ。爺さんの知ることをどんなことでもいい。些細なことでも全て聞き出すつもりだったが、孫と同じで肝心なときに使えねぇ」
「それさっき聞きましたけど……じゃあこの大量の食材は?」
「これからお前にココロノレシピを使う」
エプロンを付けつつ優介が宣言。
「爺さんの料理で印象に残っているもの何でもいいから口にしろ。それを俺が読み取り、二人で試食して再現率を調べる。分からないことだらけだが、使って初めて分かることもあるだろう」
「あんなに使うの拒んでたのに……随分な心境の変化なことで」
不用意に使おうとしなかった能力を自ら使おうとする優介の心境の変化に疑問を持つ孝太だったが
「タダ飯食えるのに文句言うんじゃねぇ。いいからさっさと言え」
「へいへい。んじゃ――」
メニューを口にして食べるだけで協力できるのなら楽な話。
ちょうど朝食もまだなので、喜んで従った。
だが――
「…………すんません、マジ勘弁してもらえませんか」
「うるせぇ黙って食え」
テーブルの上には出来立ての酢豚、ココロノレシピで再現した喜三郎の料理だ。
さすが世界一を豪語していた喜三郎だけあり見た目だけでも美味そうで、食欲をそそるが物事には限度がある。
もっと言えば胃袋にも限界はある。
「食えねぇよ……朝っぱらからどんだけ食ってると思ってんだ?」
うな垂れる孝太を睨みつけ箸を手に取る優介の顔色も悪い。
最初の料理から数えてもう一五品目、いくら一人前を二人で分けているとは言え胃袋が悲鳴を上げていた。
「チッ……なら少し休憩だ」
不服そうでも優介が箸をおくので孝太は安堵する。
「んで、乱発して何か分かったか」
「そうだな……」
優介は箸の変わりにノートを手に取った。このノートにはこれまで再現した料理のレシピが書かれている。
基本的にココロノレシピは優介が『見る』と意識すればレシピを読み取り、調理にかかる前に『再現する』と意識すれば作れるようになる。
そして一度読み取った料理は再び意識すれば何度でも再現が可能だ。
故にこうして記録する必要はないが、文字にすることで新たな発見があるかもしれないとまとめてみたのだが――
「……能力についてはさっぱりだが、気になることならある」
「へぇ? なんだよそれ」
「調味料の量だ」
ポンと投げ出されたノートを孝太が手に取り開けば、酢豚のレシピが書かれていた。
「…………むちゃくちゃ細かいな」
その内容にただ驚くばかり。
一般的なレシピ本は材料の量や切り方、後は料理工程なのに優介は食材を切る角度やその投入順、更には調味料を入れるタイミングが秒刻みで書いていた。
「料理は科学に近い。食材の繊維に合わせて切る角度、火加減、調味料を投入する順番やタイミング一つで味が変わると爺さんに教わっている」
「マジかよ……」
「もちろんその細かな味の変化まで分かる奴はまずいねぇ。味覚なんざ曖昧なものだ」
「じゃあ何で書いてんだ?」
「クセみたいなもんだ。爺さんにレシピを教わる時は出来るだけ細かく書けと言われている。知って損はないとな」
「奥深いな料理……で、話は戻るけど調味料の量がどうしたって?」
「少し多いんだよ。俺が教わったレシピに比べて、味付けが濃い目だ」
それは本当に微細な量だが確かに味付けは濃くなっている。
レシピを細かく記入させるように喜三郎の料理は基本に忠実で、技術が高いからこそ優介が同じ料理を作っても味に差が出ると思っていた。
なのにワザと味付けを変えているなら理由は一つ――
「……まさかな。あの忙しい中で合わせられるワケがない」
「あん?」
「なにより、白河がバカなだけかもしれん」
「あれ? 何でいきなりバカ呼ばわり?」
「とにかく確かめてみる価値はある。行くぞ」
「無視ですか……で、どこに?」
「さっさと来い」
「やっぱり無視ですか……」
料理のことになると夢中になる親友に呆れつつ、孝太も後を追った。
◇
向かった先は商業区、昼過ぎなので活気に溢れる町並みを黙々と歩き続けていた優介は商店街にある電気屋に入るなり声をかけた。
「少しいいか」
「ん? お、優ちゃんじゃねぇか」
カウンターで新聞を広げていた店主が優介を見るなり気さくな笑みを向ける。
「なんだいなんだい、もうすぐ店始めるのに二代目が油売ってていいのか?」
「その為に必要なことだ。爺さんの料理で何が一番美味かったか教えてくれ」
「……は?」
突然の質問にキョトンとする店主だが、そこは気のいい島の民。
優介の不躾な態度も気にせず笑って答えた。
「喜三郎さんの料理か……何でも美味かったが野菜炒め定食が印象に残ってるな」
「…………」
「なんつーか以外っすね」
黙りこむ優介に代わり孝太がつぶやく。
割腹のいい店主にしては実にヘルシーなメニュだが、理由はあるようで
「俺も野菜はあんまし好きじゃねぇけど、何でか喜三郎さんの野菜炒めは絶品でな。野菜の臭みがないって言うか……よくわかんねぇや」
「どないやねん……」
あるようだが実に曖昧で孝太が肩を落とすが
「なるほど……感謝する」
「「は?」」
満足げに礼を言う優介に二人が呆気に取られる。
「邪魔したな。次行くぞ」
「は? え? ちょっと待てよ!」
そしてもう用はないと店を出て行き慌てて孝太は追いかけ、残された店主が首を傾げて見送った。
しかし優介の奇行は終わらない。
近くの店にて当たり次第入っては同じ質問、答えをもらうと理由も聞かずに礼を言ってはの繰り返し。
その度になぜか孝太は頭を下げたりと忙しかった。
それだけでは飽き足らず道ゆく人にまで声をかけ続けること十分――
「……で、何なの?」
バス停に戻り一息つくとようやく孝太が質問できた。
「いきなりアンケート調査始めてさ、まさかメニューの参考に――」
「ようやく全て理解できた」
「……は?」
「俺と爺さんの決定的な違い……さすが我が生涯唯一の師、口先だけじゃない」
「えっと……」
「それに比べて……情けない弟子だ。理解していたつもりで、全く理解してねぇ」
「…………すまん、いい加減俺にも分かるように説明してくれ」
悔しげに呟くも苦笑している優介に改めて質問すると
「爺さんは全ての客に味を合わせてやがった」
とんでもない事実を口にした。
これまで声をかけたのは日々平穏の常連客を始め、お客として見覚えのある人物。
孝太に対する味付けに疑問を持ち、予想をして調べてようやく確信した。
喜三郎は全ての料理を注文する者の好みに合わせた味付けをしていた。
濃い味が好きなら濃く、薄味を好むなら薄く。
開店中の忙しない中、客の好みを調べ合わせた味を提供するだけもで驚愕に値するのに、ココロノレシピで読み取った喜三郎の心が更に信じられない真実を教えてくれた。
電気屋の店主のように野菜嫌いなら、野菜を美味しく味わえるように、しかし他の野菜炒め定食と味の誤差がないよう細かな調整をしていた。
また体調が悪そうなら栄養価も考えた材料を選んだりと、喜三郎は常に相手を想いながら調理をしていた。
ただ美味い物を提供するだけじゃなく、食す者の状態や心境に合わせた食材選び、味付け。
これほど臨機応変に出来るのは基本を怠らず、どの材料を、どの調味料をどれだけの量で加えれば味が壊れないか理解している故。
だから優介に細かくメモを取るように教えていたのだ。
料理は心――喜三郎の口癖だったが、優介は改めて師が口だけでなくまさに料理で証明していたことを知った。
「もちろん爺さんだけの力じゃない。婆さんが居てこそだ」
真実を知り今だ信じられない孝太だが優介は確信している。
いつも『いらっしゃい』と笑顔で出迎えるイチ子が席を案内しながら、注文を取りながら、お冷を用意しながら必ず来客と何気ない会話をしていた。
その会話を厨房で聞いた喜三郎が来客の状態を感じって料理をする。
まさに二人の日々平穏。
喜三郎の料理経験とイチ子の接客術が長年愛された日々平穏の味を生み出していた。
「恐らく観光客にも似たようなことをしていただろうな。そいつがどこから来たか、出身地に合わせた味付けくらいあの爺さんならやっていてもおかしくない」
「島の奴なら顔見知りで好み分かるだろうけど……知らない相手にまさか……」
「婆さんがどこから来たか尋ねれば不可能じゃない。いや、そいつの言葉遣い、方言やイントネーションで充分推理できる」
「…………凄すぎてもう、言葉にできねぇや」
「上等だ……やってやるよ。あんた達の味を俺が守る。いや、それ以上の日々平穏の味を生み出してやるよ……恋と愛、俺たち三人がな」
大きな師の背中、そしてあまりに大きな日々平穏の味という壁に臆することなく優介は決意する。
その表情は日々平穏二代目店主として名乗っても恥ずかしくない、一人の男のもので。
また一つ、大きく成長した姿に孝太は置いて行かれる寂しさよりも、親友として心から喜んでいた。
「ほんと。たいした奴だよ、お前は」
「あん?」
「何でも。それより熱くなんのは良いけど、まだ目的は達成できてないのをお忘れなく」
喜三郎の味の秘密は分かった。
だが今はココロノレシピについて調べている。
優介が満足させたい花谷は普通のお客ではなく特別なお客。
これからのことより目先の目的を達成しなければ、本当の二代目店主とは呼べない。
なにより優介自身が納得しないだろう。
親友として釘を刺す孝太だが――
「言ったハズだ。全てを理解したと」
いつもの不機嫌顔に戻っていた優介が平然と答え、キョトンとなる。
「分かったんだよ。俺と爺さんの決定的な違い、ココロノレシピが不完全な理由もな」
「マジかよ! それってなんだよ?」
「知らん」
「は?」
矛盾する答えに呆気に取られる孝太と同時にバスが到着。
「だからまずはあのジジィに会う必要がある。会って、今度こそ満足させてやる」
「意味分からんがちょっと待て!」
そして花谷に会う為、優介はバスに乗ろうと立ち上がるが慌てて孝太が止めた。
「なんだ? 別にテメェは付いて来なくて――」
「じゃなくて! その花谷って爺さんがどこにいるのか知ってんの?」
「…………」
「……お前、料理のことになると本当に夢中な」
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へお願いします!
また感想もぜひ!
読んでいただき、ありがとうございました!




