フタリノハジマリ1/2
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三月下旬。
四季美島にも温かな風がそよぎ始め春の訪れを予感させる。
しかし春になろうと日々平穏は営業中。
特に春の行楽シーズン、気合いを入れてフル回転――でもなく。
「ここでいいか」
住居エリアの外れ、川沿いの一角に到着すると恋はいそいそとレジャーシートを敷いていく。
「優介さまの意見を聞きなさい。これだから駄犬は」
その様子に愛はため息一つ、しかし恋は止まることなく反論を。
「誰が駄犬よ。ていうかどこでも良いでしょ。ね、ユースケ」
「好きにしろ」
「ほら」
「優介さまがそう仰るのなら」
恋のどや顔に苛立つも優介の言葉は絶対の愛は手伝うことに。
今日は撫子学園の終業式、三人は敢えてこの日を休業日(恋の発案だが)にしてお花見に来ていた。なので三人とも制服姿なのだがそれはさておき。
お花見なら観光エリアや住居エリアの真ん中にある大きな公園がお約束、にも関わらず敢えて人気のない山間まで来たのは賑やかな場を好まない優介の希望を踏まえてのこと。
それに四季美島は四季を楽しめることで有名な観光地、桜を愛でる場に事欠かない。
なにより普段は学業と仕事を兼任する忙しい身、たまには従業員同士水入らずの時間を過ごすのも良いとお花見が決定した。
「さてと……後はお弁当と飲み物用意して」
「ですね……優介さま、もう少々お待ちください」
「俺も手伝おう。つーかなにやってんだ……おい、荷物持ち。早く来い」
「早く来い、じゃねぇよ!」
もとい従業員とバイトの水入らずの時間を過ごすお花見が決定、つまり唯一正式なバイトとして雇われている孝太も参加しているが。
「俺は紳士だからこの際宮部や愛ちゃんは良いとしてお前も少しは持てよ!」
その孝太は通学バッグの他、三段重ねの重箱が入った紙袋(ちなみに二袋)、取り皿や箸、紙コップの入った紙袋、更には飲み物の入ったやはり紙袋(一・五リットルのペットボトル三本)を一人で運んでいた。
しかも優介ら三人は日々平穏に立ち寄り通学バッグを置いているので手ぶら。そこで荷物の全てを孝太に持たせていたりする。
「あん? 普段から使えないのでせめて荷物持ちとして使われるとテメェが言い出したんだろ変態紳士」
「誰が変態紳士じゃ! そして言ってねーよ! お前が無理矢理持たせたんだろうが!」
「知らんな」
「そもそも優介さまのお慈悲で特別に、仕方なくお花見に参加できるのですから文句を言わないでください」
「そこまでっ? いや、声かけてくれたのは嬉しいけどそれでもこの仕打ちはどうかと思わない?」
「思わん」
「思わない」
「思いません」
「……そーですか」
店主と正式な従業員三人の見事なハモりに孝太は諦めた。
まあ立場以前に日々平穏を再会させてもうすぐ一年、こうした扱われに馴れもあるし、やはりバイトの自分も仲間に入れてくれたのは嬉しく――
「終わったら連絡してやるからさっさと帰れ」
「荷物持たすだけ持たせて帰れとなっ? しかも参加させずに帰りも持てとっ?」
親友の無慈悲な扱いに思えなかった。
「冗談を真に受ける暇があるならさっさと用意を手伝え」
「……へいへい」
とにかく四人で重箱を並べ、囲むように優介、恋、孝太、愛が着席。
それぞれ紙コップに飲み物を注ぎ――改めて。
「乾杯」
「「「乾杯!」」」
優介の音頭でお花見が始まった。
「ん~! やっぱユースケの料理は美味しい!」
「美しい桜に優介さまのお弁当、最高です」
「そりゃどうも」
「でもリナちゃんは残念だったよな」
「綿引が明日帰省するなら無理に誘えんだろう」
「そういや来月になったらリナちゃんも正式なバイトとして雇うのか?」
「そのつもりだが」
「リナも楽しみにしていましたね」
「コータより使えるからあたしも楽できるし」
「何度も急に呼んでよく言うぜ……」
それからは昼食を兼ねた楽しい時間。
もちろん桜を愛でるのも忘れず四人は(主に恋愛コンビと孝太だが)お喋りに花を咲かせていた。
「それにしても来月からあたしも二年生か……なんだかこの一年あっという間だったわ」
しばらくして、片方の世界で満開の桜を見上げつつ恋は慨深く呟いた。
中学三年時、先代の喜三郎とイチ子が亡くなり一度は厨房の火が完全に消えてしまった日々平穏。
しかし優介が再び厨房の火を灯すと決めて自分が雇われ、後に愛が加わり三人の日々平穏が始まった。
勝手の分からない始まりでも訪れるお客さまが喜び、温かく見守ってくれてと、忙しくも楽しいこの一年は一瞬のようで――
「ねぇユースケ、一周年記念は何する?」
振り返る中、ふと思いついた提案を恋は口にする。
「あん?」
「いや、あん? じゃなくて。あたしたちの日々平穏が始まってもうすぐ一年でしょ。なにか記念イベントしようよ」
そう、来月の二日は三人の日々平穏が始まった日。
お祭りのような楽しい時間を過ごしたからこそ、大切な記念日もやはりお祭りのような楽しい思い出を作りたいと思った。
「しねぇよ」
「でもさ、いつも来てくれるお客さまに日々の感謝を――」
「日々の感謝なら俺たちが無理をせず、心を込めて持てなすことが何よりの返しだ」
「……そーだけどさ。愛はどう思う?」
だが店主の優介から否定と正論を言われて反論できず、珍しく愛に助け船を求めた。
「なにがです?」
「だから記念イベント、あんたもしたいでしょ?」
「そうですね……良いかもしれません」
「でしょ? ほら愛も――」
そして愛も珍しく賛同してくれてこれで二対一と恋は再び優介へ提案を――
「優介さまと私の結婚記念日を提案するとは。恋もたまには良いことを言うではないですか」
出来なかった。
「言ってないし! ていうか誰と誰の結婚記念よ!」
「ですから、優介さまと私の――」
「だーもう! いっつもいっつも妄想ばっか! 春だからって頭に花でも咲いてんじゃないのっ?」
「誰が妄想をしていると?」
「あーそうね。春関係なくあんたの頭は年中花咲いてるか」
「この……毎回赤点ギリギリ三つもある年中お花畑頭に言われる筋合いはありません!」
「だいたい愛は――」
「そもそも恋は――」
「……白河、腹ごなしに散歩でもどうだ」
静かなお花見を楽しみたくて場所を選んだのに、ある意味観光名所以上の賑やかな恋愛コンビのお約束が始まり優介は諦めたように立ち上がる。
「今日はうるせぇって説教しないのか」
「誰かに迷惑掛からんのなら構わん。ま、俺が散歩から戻れば説教するがな」
「敢えて人気無い場所が功を奏したと。んじゃ、コンビニでアイスでも買いにいくか」
恐らく五分は続くと予想し、恋愛コンビが説教されないよう孝太は散歩コースを提案した。
五分後――
「たく……毎度毎度」
「それはこっちの台詞です」
孝太の予想通りさんざん言い争った二人は渇いた喉を潤すためにジュースを注ぐタイミングでお約束を終了。
「とにかくさ、再開一周年だしお客さまに何かしたいと思わないの?」
「優介さまが仰っていたでしょう。私たちが無理をせず、心を込めて持てなすことが何よりのお返しだと」
「いや、分かるんだけどさ……でもそれとこれとは別じゃない? やっぱお客さまが居てこその日々平穏だし」
「まあ……分かりますが。それでも優介さまがしないと仰るのなら、私たちでというのも違うでしょう」
「そうだけどさ……」
「そもそもあなたはどのようなイベントを考えているのですか?」
「そりゃあ……パーティーとか?」
「お店で、お客さまを交えてですか?」
「個人の記念日やお誕生日ならたまに貸し切りでやるけど、規模的に……無理か」
「常連のみなさまを呼ぶだけでも全く足りませんからね」
結果落ち着いたのか今度は冷静なやり取りで分かるように恋と同じく愛も何かをしたい気持ちはある。
優介を思い四季美島へ訪れ日々平穏の従業員となったが、それだけでなく敬愛する祖父母の愛した場所、温かく見守ってくれて応援してくれるお客さまは愛にとって大切なのだ。
故に普段の感謝をこの機会にどんな形でも示せればと二人で悩んでいたが。
「個人の記念日ならあり……」
「感謝を示すパーティー……」
お互いの呟きを聞いた瞬間、同時にハッとなり。
「……愛」
「……恋」
やはり同時に目の前にいる相手の名を呼んだ。
ただ二人の表情は妙案を思いついたにしては微妙なもの。
なぜなら恐らく同じ妙案にいきついたと予想したからで。
つまり同じが嫌なのだが――
それでも同じ繋がりでこの一年を過ごした恋愛コンビ由縁。
フタリノハジマリ更新開始!
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