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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ2 ハジマリレシピ
38/365

スナオチョコ2/4

アクセスありがとうございます!



 二日後の日曜日、いよいよチョコレート作りをする為に花織は恋と昼ごろ日々平穏へ。


「おっはよー」

「あの、今日はよろしくお願いします」


 玄関で出迎える優介に恋は明るく、花織は緊張気味にお辞儀をした。


「よく来た」


 素っ気なく返し居間へと向かう優介に二人も続く。


「愛はまだ寝てんの?」

「朝早くに出かけた」

「愛がっ? あたし傘持ってきてないんだけど!」

「……どうしてそんなに驚くの?」


 驚愕する恋を不思議に思う花織だが、基本優介にべったりで滅多に外出しない愛を知らないからだろう。

「せっかくの自由な時間だ。あいつも色々やりたいことがあるんだろう」

 プライベートを尊重してか詮索してない優介は特に気にした様子もなく呟いた。


 ちなみに愛は白河家、つまり孝太の家にいた。


「しかし本命と同じ家に住んでるのは大変だねぇ。チョコ作ってんのバレバレだもんな」


 台所の様子を見に来た孝太が声をかけると、黙々と調理を続けていた愛が手を止める。

「一つ屋根の下で暮らすのは夫婦として当然ですから」


 お決まりの台詞に孝太はツっこむことなく苦笑した。

 昨日家の台所を使わせてほしいと愛に頼まれた時は驚いたが理由を聞いて納得。

 つまりサプライズ感が薄れるので、こうして優介の知らないところで準備をしたいとのこと。


「ま、今日は爺ちゃんも婆ちゃんもいないし、気兼ねなく手作っていいよ」

「ありがとうございます。そうそう、孝太さんにもお礼として用意させていただきますので楽しみにしていてください」

「俺にはサプライズも何も無しですか……まあ、ありがたく――」

「ペロルチョコを」

「やっぱペロルチョコなの俺っ?」

「手作りですよ?」

「凄いね! ムダに!」


 ◇


 珍しい組み合わせが賑やかに過ごしているとも知らず、日々平穏でも早速チョコレート作りが始まった。


「さて……それでは教えてやるから心して聞くように」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 現在清掃業者が作業をしているため、店の厨房ではなく家庭用の台所で優介と花織はエプロンを身に付ける。

 家庭用といっても一般的な台所と違いオーブンから器具まで厨房に比べても遜色ないので、料理教室に支障はない。

 恋が見守る中、材料の確認をしていた花織が目を丸くした。


「シュークリーム……ですか?」

「そうだ。もちろん不服があるなら変更する」

「あ、違うの。不服なんてない、けど……」


 自分の力量と出来れば料理らしいスイーツ希望で、何を作るかは優介に任せていたが決まったのはシュークリーム。

 花織としてはもっと聞いたことのないチョコ料理やケーキのような本格的な物を想像していただけに、一般的なスイーツの名前は意外だった。


「なんだ、もっと本格的な物を期待していたか」

「あ、えっと……」


 見透かされたように苦笑され花織は言葉を詰まらせてしまう。


「もしそういったのが良いなら教えてもいい。だが今回は菓子作りが目的ではなく、バレンタインだ。懲りすぎず、シンプルな方が親しまれるだろう」

「なるほど……」

「それにケーキなど量の多いものを作っても、相手は一人。なら食べきれる量で、それでいて身近な菓子の方が喜ばれることもある。相手のことを想い、メニューを考えることも料理にとって大切なことだ」



「……あのさ、愛ちゃん」

「どうかしましたか?」

「さすがにこれはデカすぎないか?」

「優介さまを思う気持ちの現れです」

「いや……でも食うのは鷲沢一人だろ? こんなの渡したら『もっと食べる者の腹を考えろ』みたいなこと言うんじゃね?」

「…………」

「夢中になりすぎて考えてなかったのね……」

「……孝太さん、一日早いですがバレンタインです」

「この量を一人で処理しろとっ?」

「私の愛がいっぱい詰まってますよ?」

「鷲沢へのだろ!」



「――それにシュークリームといえど花織のレベルを考慮するとギリギリだ。心して取り組まなければ、今日中に習得は無理かもな」

「……うん。ありがとう鷲沢くん、私一生懸命頑張る」

「その意気だ」


 小さく拳を握る花織に優介は微笑み――シュークリーム作りが始まった。

 まず手本として最初に作る優介の手際は見事の一言。

 一つ一つの作業に無駄はなく、合間に花織へ注意事項を伝えながら調理をしたシュークリームも


「さすがユースケというか……美味しい~!」

「……すごい。こんなに美味しいシュークリーム食べたことない」


 味見役の恋と花織から賛辞を貰うも優介は照れる様子もない。


「菓子作りの基本は正確な分量と手際だ。守ればこれ位の味は誰にでも出せる。それよりも花織、今度はお前の番だ。先ほどメモしたことを確認しながらで良いからやってみろ」

「はい!」


 意気揚々と花織も調理を開始するも、小麦粉をぶちまけて真っ白にしたりチョコクリームを混ぜてはひっくり返し、シュー皮は膨らまずペシャンコになり何故かその様子に恋は自分の胸を手にへこんだりと悪戦苦闘が続いた。

 味見の時は恋も心を鬼にしてダメ出しした。

 手順を間違える度に優介に怒鳴られた。


 それでも花織は諦めず、何度も挑戦を続けて――日が暮れる頃。


「うん、美味しい」


 ようやく恋から美味しいの言葉が出たが、その評価に花織は安堵することなく、ゆっくりと咀嚼する優介の言葉を待つ。


「…………クリームのしっとり感が足りない。生地もパサパサしすぎだ」

「あう……」


 やはり評価は厳しく、花織はしょんぼりする。


「だがコンビニのモノよりは数倍美味い」


 しかし続けられた言葉に唖然となり、優介は残った生地を最後まで味わった。

「先ほどの注意を忘れず、最後まで精進するように」


 花織の努力が合格を勝ち取った。


 ◇


「ほんと、花織は頑張ったね!」

「恋ちゃんが励ましてくれたお陰だよ」


 すっかり日が落ちた夜空の下、ご機嫌の恋と披露を見せながらも達成感で笑みを絶やさない花織が家路についていた。


「鷲沢くんもありがとう。それとわざわざ送ってくれてありがとう」

「……礼を言われることはしてない」


 そして二人の後ろを優介が歩いていた。

 まだそれほど遅い時間ではないが、夜道は危険と家まで送ってくれているのだ。


「それに帰ったら本番だ。最後まで気を抜くな」

「うん、わかった」


 その忠告に花織は頷く。

 バレンタインは明日、今度は優介の助言無しに一人で作らなければならないのだ。


「ユースケ、少しくらい大目に見てあげなよ。花織は頑張ったんだからさ」

「お前は浮かれすぎだ。なにを興奮してるんだか……」

「だって花織が頑張ったもん!」

「……なんだそれは?」


 妙に興奮している恋に優介は呆れてしまう。

 だが恋は友人として花織の頑張りが嬉しかった。

 自分に何度もダメだしされて辛かっただろう。

 優介に怒鳴られて怖かっただろう。

 なのに花織は最後までやり遂げた。内気で気弱な友人の努力が恋は嬉しかった。


「だから最後まで頑張って、明日はちゃんと渡すんだよ」

「結局、お前も同じこと言うんじゃねぇか。だがその通りだ。お前のシュークリームで料理を愚弄したバカ野郎に泣きながら土下座させてやれ」

「それは無いんじゃないかな……」


 恋のエールと優介の物騒な物言いに花織は乾いた笑いを漏らしていたが、不意に表情を引き締める。


「あのね……私、海ちゃんに告白しようと思うの」


「…………は?」

「…………ほう」


 突然の宣言に恋だけでなく優介も驚く中、花織は小さな手をギュッと握り締める。


「今まで……ずっと海ちゃんとお話できるだけで、チョコを渡せれば満足って思ってたけど……やっぱりイヤ。もっとたくさんお話したい、一緒に……誰の目も気にせず遊びに行きたい。チョコだけじゃなくて……私の気持ちも、受け取ってもらいたい」


 小さな声だが今までの花織では信じられないほど意思のこもった言葉。


「今日ずっと……鷲沢くんに言われたように海ちゃんのことを考えて、たくさん気持ちを込めてお料理している内に……今のままじゃ嫌だって、もっともっと仲良くなりたいって気持ちが溢れて……我慢できなくなったの。だから……」


 そして柔らかな笑みを浮かべて。


「怖いけど……私の気持ち、海ちゃんに伝えたい」


 気持ちを言葉に代えた。


「なんて、私って単純だね」

「ううん……そんなことないよ。花織、凄いよ! 凄い!」

「ありがとう、恋ちゃん」


 何度も首を振り自分のことのように喜んでくれる恋に花織は笑顔を浮かべる。


「でも……ちゃんと言えるかな? 私の気持ち……」

「なら今までと違う方法で渡せばいい」


 しかし弱気な姿勢を見せる花織に、今まで静聴していた優介が口を開く。


「料理でも場所や気分、体調で味覚が変わるように、渡すときの雰囲気も違えばお前の最後の最後で弱くなる心も変わるだろうよ」

「そうかな?」

「さあな。とにかく、最後はお前の気持ち次第だ」

「うん……ありがとう、鷲沢くん」

「……なるほど」


 と、お礼を言う花織の隣りで何故か感銘を受ける恋に優介は首をかしげる。


「なにを納得している」

「え、あ、うん。なんでもない! あ、ではあたしはこれにて!」


 指摘された恋はハッとなり、ちょうどアパートが見えたと同時に走り去ってしまった。


「……何なんだ?」

「さあ……?」


 恋の様子に訝しみながらも二人はそのまま歩を進めた。

 途端に無言になるも花織はふと思い出す。


「そうだ。今日の材料代払わなきゃ」


 何度も試作品を作り、何度も失敗して駄目にしたシュークリームの材料は優介が用意した物、故にバッグから財布を取り出す。


「必要ない」


 だがキッパリと拒否されてキョトンとなる。


「え、でも……。それに教えてもらった御礼もしなきゃ……」

「それも必要ない」

「でもでも……」


 食い下がる花織に優介は大きく息を吐いた。


「そんなに礼がしたいなら、明日俺を満足させろ」

「鷲沢くんを?」

「そうだ。お前の料理と心が成長したことを証明して、俺も教えがいがあったと満足させろ。それで充分だ」


 以上――と締めくくる優介に迷っていた花織だが、静かに財布をバッグに戻した。


「……ありがとう」

「ふん」


 そして無言のまま家路を歩き九重家に到着。


「今日は本当にありがとう」

「何度も礼を言う必要はない」

「うん、ありがとう」


 やはり最後まで礼を言う花織が家に入るのを確認して、優介はもと来た道を歩く。


「――おい」


 同時に背後から声をかけられた。



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