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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ1 サンニンレシピ
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エピローグ サンニンレシピ

アクセスありがとうございます!



 優介が倒れてから翌週。


「――いらっしゃいませー! 日々平穏にようこそ」

「鳥南蛮定食とビール、お待たせしました」


 夕刻の日々平穏は久しぶりの開店ということで、待ち望んでいた常連客らによるいつもより早いラッシュを迎えて恋愛コンビが忙しなく動き回っていた。


「かーっ! やっぱ優ちゃんのメシは美味いねぇ!」

「久々に恋愛コンビも拝めたし、仕事の後はこうじゃなくちゃな」


「「恋愛コンビ言わないでください!」」


 右へ左へと動きながらも同時にツッコミが入り店内が笑いに包まれる。


「にしても優ちゃん、本当にもう平気なのかい?」

「……料理中に話しかけんじゃねぇ」


 そんな中、カウンター席に陣取っていた一人の常連客が心配そうに声をかけると、鍋を振るう優介が不機嫌そうに答えた。


「心配かけて悪かったな、もう問題ない。そもそも大した事なかったんだよ。なのにどいつもこいつも心配性でな」


 本来は軽度の過労でも簡単には治らないが、愛と同じくココロノレシピを持つ優介の回復力は早く、翌日にはほとんど治っていた。

 だが恋愛コンビや好子、果ては十郎太までも出向いて説得し、結局大事を取って五日も静養することになった。


「ははは、優ちゃんらしいや。でもなぁ、やっぱ俺らとしても無理してほしくないねぇ」

「違いねぇ。働いた後にここで美味い飯と酒を飲む、これが俺たちの楽しみだ」

「部活の後の楽しみが減ったのを忘れるなー!」


「……だから、悪かったつってんだろうが」


 次々起こる批判に優介は顔をしかめ、再び店内に笑いが起こった。


「まったく……どいつもこいつも。ちょっと体調崩したくらいでたいそうに……」

「それだけみんなが、ユースケを心配してるってことだよ。だからもう倒れるまで無理しちゃダメだからね」

「私も今回ばかりは恋に同感です。優介さま、あまりご無理なさらないでください」


 盛り付けを終えカウンターに料理を出しながら愚痴る優介に、ひと段落した恋と愛が声をかける。

 表情はいつものように笑顔の恋と無表情の愛なのに、その眼差しは心配そうで。


 ――ふん、少しは見えるようになったようじゃな。


 ふと、懐かしい声が聞こえて優介は思わず目を見開く。


 恐らく恋と愛はいつも心配していただろう。

 なのに気づかなかった気持ち、前を見ることに夢中で、師の背中を追うことに必死で見えていなかった。

 だが二人が作ってくれたあのにぎりめしが教えてくれた今なら分かる。


「…………ああ、よく見えた」


 こうして心に余裕が出来たからこそ、見えている。


「ユースケ?」

「優介さま?」


 微笑む優介に二人は首をかしげるが、無視して店内にいる全員へ聞こえるよう声を上げた。


「飯を食ってる最中に悪いが、俺から話がある。今までは毎週水曜と学園行事中のみだったが、来月から定休日を増やすことにした」


『……へ?』


 その宣言に店内がざわめく中、従業員にも関わらず寝耳に水の恋愛コンビは呆気に取られてしまう。


「今のところ平日と日曜に一回ずつの予定だが……月によって変えるつもりだ。月初めに張り紙でもしておくので確認しろ。以上」


 だが優介は無視して言い切ると何事もなかったように仕事へ戻った。


「……おおう。ビックリしたけど、まあいいんじゃねぇか?」

「そーだな。ここで飯を食う日が減るのはちーと寂しいが、優ちゃんもたまにはノンビリしてえもんな」


 突然な事情にも何も聞かず、嬉しげに一人一人が優介に声をかけていく。

 やはり誰もが優介は働きすぎだと感じていたのだろう。

 納得して受け入れるお人好しな島の住民に、優介は改めて思った。


 この場所を――日々平穏を再開させてよかったと。


「「……あの」」


 呆然としたまま動かなかった恋愛コンビがようやく我に返り、何故かおずおずと優介に近づいてくる。


「なんだ? つーか、テメェらもさっさと仕事に戻れ」

「いやー……うん、戻るよ? 戻るけど……」

「その……やはりまだ体調が優れないのでしょうか?」

「もう大丈夫だと言ったろ」

「じゃあなんで休み増やすの?」

「何か問題あるか」

「まったくありません。ですが……」


 二人は何か言いたげで、しかし何も言わず視線をきょろきょろさせている。

 まあ無理もない。

 今まで仕事一筋だった優介が定休日を増やすのだ。

 嬉しさよりも驚きの方が大きくなっているのかもしれない。


「俺もまだ学生だ。たまには息抜きも必要だろ」


 そう、好子と契約したからじゃない。

 優介はまだ学生なのだ。

 仕事ばかりじゃなく、くだらない時間を満喫してもいいのだ。

 今楽しめる時間を犠牲にして掴んだ夢は、本当の夢じゃない。

 分かっていたのに、分かっていなかった。

 それを二人が分からせてくれた。


「……たまには仕事を忘れるのも悪くない。そういうことだ」


 ただ一人の高校生として仲間たちと楽しむ時間も必要なのだと。


「わかったらさっさと仕事に戻れ」 


 その分仕事の時は仕事に集中すると、優介は気持ちを引き締めて調理にかかろうと――


「じゃあ今度の休みは一緒に――」

「では今度の休日をご一緒に――」


 ……したのだが、同時に誘い文句を告げて恋愛コンビが顔を見合わせた。


「愛、ユースケはあたしと一緒に遊びに行くんだけど」

「ふ……愚かな恋。優介さまは私と一緒にお出かけするのです」

「誰が愚かよ! ていうか、最初に誘ったのはあたしでしょ!」

「私の方が早かったでしょう!」


「テメェらな……」


 そしてお約束の言い争いに優介は額に手を当ててしまう。


「お、始まったね!」

「日々平穏名物、恋愛コンビの愉快な大ゲンカ!」


 更にはお客たちもはやし立てる始末だが、いつもなら『恋愛コンビ』に反応する二人は聞く耳持たずで互いを威嚇していた。

 しかし必死になるのも無理はない。

 日々平穏を再開させてからというもの、二人は家や店の買い出し以外で優介と出掛けたことがないのだ。

 それが突然の息抜き宣言、優介を独占したい気持ちが爆発したのだろう。


「そもそも優介さまとお出掛けしていいのは妻の私だけです!」

「出ました! 愛ちゃんの妻宣言!」


「テメェら……」


「誰が妻よ誰が!」

「恋も負けるなー!」


「全員……」


 恋派、愛派と入り乱れいつも以上に盛り上がる中、優介は肩を震わせ――


「なによ!」

「なんですか!」


「静かに――しやがれぇぇぇぇぇぇっ!」


 やはりお約束の絶叫が木霊した。



 日々平穏。

 四季美島にある小さな定食屋は美味しい料理と楽しい時間、そして温かな思い出を提供する不思議なお店。

 そこは優しい心の持ち主が、心を込めて持て成す幸せな場所。


 従業員とお客様が賑やかなのはご愛嬌ということで。




これにてレシピ一『サンニンレシピ』は完結となりました。

明日からは第二部という名のレシピ二『ハジマリレシピ』の更新を始めるので、どうかよろしくお願いします。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価、感想などをお願いします。

読んでいただき、ありがとうございました!


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