四季の章 オトメノココロ
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二月最初の日曜日。
孝太を先頭に恋と愛は朝早くに観光区へ来ていた。
「……で、ホンットにユースケがあたしら呼んでんのよね?」
「その通りでございます」
「もし嘘ならば……わかっていますね?」
「ボク嘘つかない」
背後から突き刺すような視線を送る恋愛コンビに孝太は憔悴しきっていた。
昨日の優介の早退、加えて外泊は予想通りの物議を繰り広げた。
恋は怒り狂い愛は呪詛を口にしソフィは笑顔で詰め寄りカナンは無意味に騒ぎ、それを全て伝言役となった孝太が受ける羽目に。
更にその後の授業はもう無茶苦茶で、四人の叱咤を引き受ける孝太に教師も注意どころか同情する始末。
それでも放課後になれば恋と愛は日々平穏、カナンとソフィはアリス・スーリールの仕事を熟したのだが、真の恐怖はそれからだった。
バイトとして機嫌を取りながら奮闘した孝太を恋愛コンビは逃してくれず、更に営業を終えたカナンとソフィも合流、優介の行方を唯一知る孝太に質問攻め。
結局解放される午前三時まで口を割らなかった孝太の友情に脱帽できる。
にも関わらず今朝、孝太に優介から連絡が入り恋と愛をある場所へと連れてくるよう指示(もちろん一方的なモノで)再び日々平穏に向かい愛と泊まっていた恋に説明して案内しているのだが。
「ケータイも繋がらないし、なにやってんのよあいつは」
「まさか浮気……? いえいえ優介さまがそのような……」
「マジ……勘弁してくれませんかね」
昨日から不機嫌マックスの恋愛コンビの相手をする孝太は胃に穴が空きそうだった。
そんな不穏な雰囲気を醸し出したまま駅から歩くこと数分、到着したのは四季美島観光代理店に隣接する雑居ビル。
「ここって……」
「石垣楓子の職場……」
すぐさま思い当たる人物を思い浮かべ更に機嫌を悪くする恋愛コンビ。
「……やばい、また胃が」
負のオーラに当てられ孝太はお腹に手を当てると同時に、三人の前へ一台の車が停車。
「恋さんに愛さん?」
「もしかしてアナタ達もユウスケに呼ばれたの?」
運転席と助手席から降りてくるソフィとカナンは三人に気づき目を丸くする。
「もしかしてってことは……」
「あなた方も優介さまに?」
「はい、そうっす」
四人が目を合わせる中、事前に連絡を入れていたのか孝太が頷く。
「鷲沢に四人連れてこいって……ソフィちゃん、時間通りでなにより」
「当然です。外泊などと不良な優介さんを更正させるのが二歳上のお姉さんの役目ですから」
笑顔を向けるソフィだが目が全く笑っていなく、恋愛コンビとは違い静かに怒る彼女の視線が孝太にはとにかく痛かった。
「と、とにかくみんな揃ったし……行きましょうか」
「だね」
「ですね」
「はい」
「エエ」
同時に頷く四人を誘導し孝太はビル内へ。
受付で事情を話し案内されたのは一階の客室。
「……なんでこんな場所に?」
首を傾げる恋の疑問は最も。
ここは本土から訪れる重鎮を招くのに使われる部屋で、基本関係者以外立ち入り禁止。
「まあいいでしょう。これであの女狐は関係ないとわかりました」
「それもそっか」
「女狐……ですか?」
「なんのこと?」
楓子の職場である厨房室は二階なので安堵する愛と恋に、事情がまだよくわからないソフィとカナンはキョトン。
「お、よく来たね。わざわざご苦労さま」
「「「「――――っ!」」」」
しかしドアを開けた途端、会議テーブルの一席に鎮座する楓子の姿に四人の目が見開いた。
「とにかく座ってよ。優介くんも…………なに、この空気?」
「楓子さん……覚悟してくれよ」
優介の名前を出した途端、四人から負の気配を感じたのか肩を振るわす楓子に一人先に入った孝太が忠告。
「は? どういう――」
「なんであんたがいるのよ!」
「どうしてあなたがいるのですか!」
「なぜあなたがここに!」
「ど、どう言うことよコレは!」
「ヒ――ッ!」
……も空しく、一斉に詰め寄る四人に楓子は恐怖した。
「あたし達はユースケに呼ばれたの! なのにどーして楓子さんがいるのよっ?」
「それは……優介くんに頼まれて……」
「つまり優介さまとご一緒されていたとっ?」
「ええ……まあ……」
「何てことを! 優介さん不潔です!」
「へ? いや、私はただ……」
「見損なったわユウスケ!」
「だから私はただ――て、あれ?」
とにかく落ち着かせようと声を張り上げる楓子だったが、気づけば恋愛コンビが言い争い、更にソフィが加わりカナンが巻き込まれると自然の流れに取り残されていた。
「な、何なの……? でも、よかった」
「いや、まだ安心するのは早いっすよ」
安堵する楓子にうんざり顔で孝太が再度忠告。
「昨日の俺も詰め寄られて気づけばこーなって安心したんだけど、こいつら……いったん言い争いしたらパワーアップしてまた来るから」
「どういうことっ?」
「俺が聞きたい」
「……事情、話した方が良い? 私たちの保身のために」
「賛成。ま、鷲沢も頃合いだと思ってるだろうし」
「もし優介くんが怒ったら孝太くんのせいね」
「ひでぇ!」
「だいたいあんたらは――!」
「そもそもあなた方して――!」
「ですからあなた達は――!」
「いい加減アナタ達も――!」
「はい! 私の話を聞く!」
「「「「なにっ!?」」」」
「あ……私、死ぬかも」
今までにない恐怖を覚えながらも最年長としての威厳か、楓子は勇気を振り絞り睨んでくる四人と対峙した。
◇
「「「「観光事業の一環?」」」」
「その通り」
無事に説明できたことで唖然とする四人に楓子は指を立てる。
「ほら、四季美島は観光業を中心に成功してるけど、これと言ったお土産ってないでしょう?」
「まあ……有名どころは思いつかないけど」
「これといった名産もないですし……仕方ないと言えばそうですが」
島の事情に詳しい恋と愛も納得するように漬け物や果物やお菓子といった食品、置物などの工芸品はあるが人気商品というのが未だに出ていない。
「それを優介くんに考案して欲しいって学園長がね。やっぱりこの島で料理と言えば彼以外いないじゃない?」
「ワタシの存在忘れてない?」
「まあまあ。私たちはまだこの島では新参者ですから」
拗ねるカナンを宥めるようにソフィが頭を撫でれば楓子も苦笑する。
「一応、私やカナンちゃんの名前も会議であがってたよ。でもさ、やっぱこの島と言えば日々平穏で、その店主の優介くんがどんな料理を仕上げるか興味があるわけ」
なにより観光業公認の土産物となればまさに島の顔となる、それを島の住民が最も愛する日々平穏の料理人がやらずして誰がやると、満場一致で決まったらしい。
そう言われるとカナンも納得せざるえない。後々、アリス・スーリールも同じ立場になることを目指すがやはり歴史を出されては敵わないのだ。
もちろん優介が島の土産物を考案することに異論はない。
「……なんであたし達に秘密で受けたのよ」
「そうです……日々平穏は私たち三人のお店のはず……」
だがソフィはともかく従業員として働く恋と愛は納得出来ない。
優介は店主で二人は従業員、しかし日々平穏が島の代表として選ばれたのなら自分たちにも相談して欲しかった。
「日々平穏は四季美島の住民が名のごとく、観光事業が成功する以前のようなゆったりとした時間を過ごす為の場所――もちろん二人は知ってるよな?」
目を伏せる二人に孝太は努めて明るく問いかける。
「つまり鷲沢はこの事実を守って一人の料理人として依頼を受けた。あいつが日々平穏の店主として観光業に関わっちまうと、先代の思いを破ることになるだろ? で、宮部や愛ちゃんに相談すれば、それはもう日々平穏の店主だ。違うか?」
「……違わないか」
「……その通りです」
事情を聞き恋と愛に笑顔が戻る。
三人の日々平穏だからこそ相談が出来ない、この事実はなによりもその理を守ってくれていると捉えられた。
「カナンちゃんとソフィちゃんも同じ。まあ二人は日々平穏の従業員じゃないけど、料理に精通してる。一人の料理人として挑むなら、相談しづらい」
「実際、私も厨房を貸してるだけで一切の手伝いを許してもらえなかったの」
「アイツ……どこまで強情なのよ」
「優介さんらしい、ですけどね」
更にカナンとソフィも秘密にされた理由に納得。
日々平穏の店主としてでなく、一人の料理人――鷲沢優介の挑戦に誰が文句を言えよう。
「まあ結構苦戦してたんだけどね。でも昨日ようやくアイデアが思いついたみたいで急に来て、ずっと厨房にこもりっぱなしで」
「今朝になって完成したから試食役に四人を連れてこいって……まあそういうわけだ」
「へぇ? あたし達が最初のお客様ってわけ」
「優介さまの考案したお土産……どのような料理でしょう」
「きっと優介さんらしい、素敵な料理だと思いますよ」
「ワタシのライバルだもの、当然よ!」
「現金な子達……」
先ほどとは打って変わり談笑を始める四人に楓子は嘆息するしかない。
同時に孝太のスマホが鳴り
「……さて、鷲沢がなに思いついたか楽しみだ」
完成した、厨房へ案内しろとのメールを読みほくそ笑んだ。
◇
「よく来た。まあ座れ」
二階の厨房へ入るなり調理服の優介が素っ気なく迎え入れた。
「ちょっとユースケ――」
「優介さま、あの――」
「一つよろしいですか、優介さん――」
「俺は座れ、と言ったが?」
一日ぶりの再会に早速詰め寄ろうとする恋、愛、ソフィもさすがに料理のこととなればいつも以上の迫力で、ジロリと睨まれ意気消沈。
そんな中、カナンだけは素直に用意されたテーブル席に腰掛けた。
「そうよ三人とも。今は何を言っても無粋、モチロン料理以外だけど」
「さすがだ。話がわかる」
「トウゼンよ。アナタがどのような料理を考案したか、ワタシは楽しみで仕方がないの」
「「「う……」」」
料理になると妙に通じ合う二人に三人は一本取られたと更に消沈、おとなしく席に着く。
「さすが優介くん。あの三人が借りた猫のよう」
「ですね」
見事な威厳に感心しつつ、楓子と孝太も振り当てられた席に着く。
厨房から順に愛、カナン、ソフィ、恋と向かいに楓子と孝太が座るのを確認して再び優介が口を開いた。
「さて、まずなぜお前達を呼んだかと言えばだが――」
「あ、それ知ってるから」
のだが、即座に恋から指摘され優介は楓子と孝太に視線を向ける。
「……どういうことだ?」
「孝太くんが言いました」
「マジで俺のせいっ?」
「まあいい……話す手間が省けたとする。なら試食をしてもらおう」
「それでユウスケは、どんなコンセプトで料理を考案したのかしら」
お咎めなしで安堵する二人を余所に早速カナンから質問が。
「アナタは島のお土産を依頼されたのでしょう? でもこの島にこれと言った名産はないと聞いたの。どういった理由で食材を選び、メニューを決定したか食す前にゼヒご教授してくれないかしら」
「いいだろう。まず食材だが出来るだけ四季美島産を使うよう考慮に入れた。この島は確かに名産と言われる物はないが産業は手広く、山や海の幸が抱負。そしてメニューについてだが俺は洋菓子を選んだ」
「洋菓子?」
「今回の依頼を受け、俺は各地域の土産物を調べてみたが食すモノで人気と言えば和菓子や洋菓子が主だ。その中でもやはり洋菓子の方が華やかで人気が高い」
「なるほど」
納得するカナンだが他のメンバーは微妙な顔。
メニューは洋菓子、なのに山や海の幸を使ったモノ。
果物などの山の幸はわかるが洋菓子に海とはどういうことか?
「コンセプトはそのままだ。この島と言えばやはり四季、このイメージなくして島の名産とはならんだろう」
「四季か……いいコンセプトね」
「そのコンセプトを中心に思考を凝らした結果を、お前ら四人には最初に食してもらいたいと呼んだ」
「ワタシたちに? 光栄だけど……どうして」
二人の料理人の話に割って入れず、カナンが代表して訪ねれば優介は厨房からトレーを手にテーブルの前へ。
「四季は名の通り四つの顔を持つ、ならそれぞれの特長を生かした四つの味を表現する必要があった。そのヒントをお前らがくれたんでな」
テーブルにトレーを置けば四つの皿が。
その上に乗る料理に選ばれた四人は見惚れてしまう。
優介が選んだのは洋菓子でも人気の高いケーキだった。
ピンク、黄、赤、白のムースで覆われ手のひらサイズの大きさ。
それがハートに象られてファンシーな一品。
「まず愛をイメージした春」
「優介さまが……私を」
感動する愛の前にピンクのケーキ。
「続いてカナンをイメージした夏」
「ワタシが夏……」
戸惑うカナンの前に黄色のケーキ。
「そしてソフィをイメージした秋」
「光栄です」
嬉しそうに微笑むソフィの前に赤いケーキ。
「最後に恋をイメージした冬」
「あたしが冬……ねぇ」
微妙な顔をしながらも礼を言う恋の前に白いケーキ。
「とまあ、参考にさせてもらった礼として最初に食してもらいたくてな。楓子、悪いがお前への試食はこいつらが食してからだ」
「はいはい。義理堅い優介くんにそー言われちゃ文句ないわ」
「さらっと俺は無視か!」
「どうした? 眺めてないで食ってみろ」
「やっぱ無視か!」
孝太の突っこみはやはり無視され、四人はそれぞれ割り当てられたケーキを一口。
「これは桜のムース……口の中に広がる優しい甘さと香り……大変美味しく思います」
「こっちはレモンのムースね。サッパリとした甘さと爽快感、夏のケーキらしい完成度よ」
「このムースは……サツマイモでしょうか? ふふ、濃厚かつ自然な甘みと柔らかな口溶けが美味しいですね」
料理に精通する愛、カナン、ソフィは見事に素材を言い当てて幸せ笑顔。
「それだけじゃないわ。スポンジに卵を使ってない。この味わい……もしかしてお米?」
「さすがだ」
「お米?」
「ケーキにお米ですか……?」
しかしやはりカナンは上をいくのか、この料理に使われていた食材で一番の秘密を見事に言い当てた。
そう、優介はケーキの土台となるスポンジに定番の卵を使わず米を使用したのだ。
「別に珍しくないわ。卵を使わずにスポンジを制作するのは昔からある手法よ」
「出来るだけ島の食材を使うと言っただろう。ムースにも卵を使ってねぇから卵アレルギーの客がいても楽しめる」
「アナタこそサスガね。そこまで考えて調理した一品、見事としか言いようがないわ。けど……海の幸がわからないの」
訝しむカナンの言うように優介は山の幸だけでなく海の幸も使ったと報告している。その材料が何なのかカナンにもわからないのだが――
「ああ、それ多分あたしの」
一人もくもくと食べていた恋が挙手。
「このケーキのクリームだけどさ――」
「恋、ムースと言いなさい」
「……どっちも同じじゃないの? まあいいけど、とにかくこのムースしょっぱいのよ」
「しょっぱい……? なるほど、てっきり普通のミルクと思ってたけどソルトムースにしたのね」
「まあしょっぱいって言っても、少しだけで甘さを引き立たせる……? とにかく美味しいのは本当」
その進言にカナンは納得。
甘い菓子に塩を入れるのは矛盾しているが、チョコレートに塩を混ぜるのはお菓子でも定番となっている。
つまり優介は食材に海塩を使用したことで海の幸もクリアしていた。
しかもそれぞれのムースに花、果物、野菜、調味料と全く別のカテゴリーに分けたことで春夏秋冬を別々に表現して見せたのだ。
「だからあんなに悩んでたんだ……拘るね、優介くん」
「当然だ」
この試行錯誤に楓子も同じ料理人として脱帽、しかし優介は平然としたモノで。
「さすが優介さま……お見事です。四季美島をイメージした四種の味、きっと島の名物として人気が出るでしょう」
「ワタシも同意見。味も見た目も文句なし、太鼓判を押してあげる」
「もちろん私もです。本当に優介さんは素敵な料理を作りますね」
「味のわからないあたしに認められても嬉しくないかもだけど……ごちそうさま、ユースケ。美味しかったよ」
「それはなにより」
それぞれが笑顔を見せたことで優介の表情が和らぐ。
二週間という短い期間、一人の料理人として挑んだ仕事を見事完遂させた瞬間だ。
そして自分の料理を食べて美味しいと、笑顔を見せてくれるのは料理人として最も至福の瞬間。
なのだが――
「しっかし意外だな。鷲沢のイメージってこうなの?」
「あん?」
「いや、四季のイメージ。秋のソフィちゃんはまんまとして愛ちゃんが春、カナンちゃんが夏、宮部が冬か」
孝太が疑問視するのは昨日の話題で彼女たちの制服があっているとのことだが、秋制服のソフィはともかく他の三人は見事にバラバラだ。
「カナンちゃんもわかるとして、恋愛コンビが全く逆で面白いわ」
「「恋愛コンビ言うな(言わないでください)!」」
孝太の一言で恋と愛からお約束の突っこみ。
「そもそも! 優介さまが私を春に選んでくれたのは当然のこと。そして恋が冬に選ばれたのも当然のことです!」
「ちょっと愛! あたしですら冬に選ばれて疑問もってんのになんであんたが当然って言い切れるのよっ?」
「ふ……愚かな恋。冬のイメージは底冷え、つまり冷酷な恋にはピッタリです」
「だ・れ・が! 冷酷だってっ?」
「それに比べ見なさい、この可愛いピンクのハートマーク。これは優介さまの私への愛情、やはり妻として最善の色を選んで頂けたのですね」
そしてお約束の言い争いが始まってしまう。
「あら愛さん? ハートマークならやはり赤が最善だと思いますが」
「どういうことです……ソフィ・カートレット」
「つまりです、薄いピンクよりも赤いハートマークの方が愛情タップリ。そして濃厚な甘さは恋愛における蜜の味、と思いませんか?」
「ふ……愚かなソフィ・カートレット。優介さまのご意志がまるでわかっていません」
「どういうことです?」
「原料はサツマイモ、つまり芋娘と――」
「誰が芋娘ですか! そもそも、愛さんの桜だってサクラチルって意味では――」
「なにを不吉な!」
「ふん! ピンクだの赤だの似たようなモンじゃない! あんたらこそユースケから似たもの同士って案に忠告されてるんじゃないのっ?」
「どう言う意味です恋!」
「どう言う意味ですか恋さん!」
「それに比べてあたしは清純な白よ白! やっぱ時代は白を――」
「可愛いピンクです!」
「情熱の赤です!」
「清純な白よ!」
「チョット待って……? ワタシの好きな色は黄色……それでユウスケはワタシを夏に……それって……もしかして……!」
更に恋と愛とソフィの言い争いに一人戸惑いオロオロするカナンと最近のお約束に発展する始末。
「……もう知らん。楓子、試食を頼む」
「オッケー! じゃあ私のは隣の休憩室でお願い。ここじゃゆっくり味わえないから」
頭を抑える優介の肩をポンと叩き、お気楽な楓子は先に休憩室へ。
「ところでよ、鷲沢」
「……なんだ」
賑やかな四人を無視して新たな料理を用意する優介に孝太が声をかける。
「いや、悩んでたの解決してなくないか?」
「なんのことだ」
「だから、四つの料理じゃ季節で四季じゃないとか何とか……」
春夏秋冬、それぞれが大きな特徴を持つも括りは四季。
それを一つの料理で表現しようと優介は悩んでいたはずなのに、結局用意されたのは四種類。
これでは話と違うと、孝太は疑問に思っていたのだが。
「ああ……そのことか。お前に心配されなくとも、これは四種で一つの料理だ」
「は?」
「まあ見てろ」
訝しむ孝太に対し優介は楓子の為に用意していたケーキを冷蔵庫から取り出した。
「この料理はそれぞれにスプリング・リーフ、サマー・リーフ、オータム・リーフ、ウィンター・リーフと名付けている」
「リーフ? ハートじゃなくて?」
「まあハートでも間違いではないがな」
「どゆこと?」
「ハート型は植物の葉と心を掛けている。で、この四種類をこう置けばなんに見える」
説明しつつ優介は四つのケーキを一つの皿に、ハート型の先端を中心に並べた。
「なにって……ああ、なるほど」
ジッと眺めていた孝太はようやく理解する。
植物の葉という言葉、そしてハート型が先端を中心に並べた形はまさに――
「四つ葉のクローバー、幸せの象徴だ」
そう、色は違えど四つ葉のクローバへと姿を変えた。
確かに四種のケーキを一つの商品として謳えて、この島のイメージにぴったりな四季の幸福を表現できている。
「わかったなら俺は行く。楓子にも感想を聞きたいんでな」
「へいへい。いってら~」
今だ賑やかな四人へため息を吐きつつ優介も休憩室へ入る中、孝太は改めて思う。
悩んでいた季節の纏め、そして心とクローバーを掛けた料理。
それをあの四人をイメージした途端、簡単に思いついたと言うことは。
「……お前にとってはあいつらの心は幸福の象徴か」
親友の料理に込められた真の意図に孝太は苦笑し。
「ならさしずめ、オトメノココロってとこか?」
土産として商品化した時の名前を思いついた。
箸休めからのまとめでした。
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