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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ7 オトメノレシピ
111/365

冬の章 レンノココロ 前編

アクセスありがとうございます!



一月一日――新しい一年の始まる日。


 島の西に位置する観光区には、暗い時間にも関わらず大勢の観光客で賑わっていた。

 何故ならここは観光スポットの一つでもある日の出が美しく見える場所、まさに元日のみ味わえる観光……なのだが、実は真逆の東にある住居区は、地元民のみが知る隠れスポットだったりする。


「ソフィ、時間はまだなのっ?」

「もうすぐですよ」

「……どうして新年最初の時間をあなた方と過ごさねばならないのですか」

「まあまあ、賑やかなのも楽しくて良いじゃん。な、鷲沢」

「眠い……」

「あんたも正月くらい苛立たないの」


 山間の休憩所にいるのは優介と恋愛コンビに孝太、カナンとソフィとこの一月すっかりおなじみのメンバーが揃っていた。

 去年の元旦は山神神社で二年参りを済ませた後は、一度帰宅し昼頃におせちを一緒に食べていた。

 しかし今年はフランスより加わったカナンとソフィの為に初日の出を拝もうということになったのだが徹夜で無駄にテンションが高くなっている者、関係なく普段通りの者、すこぶる機嫌の悪い者とそれぞれ。

 それでもこうした時間も大切だと文句を言わず、こうして雑談をしつつ楽しみに日の出を待っていた。


「でも日本ってホントウにステキな行事が多いわ。一年で最初に昇る太陽を拝むなんてフランスにはない文化だもの」

「ならば日本の作法に従いなさい。厳かに一年の祈りや誓いをですね――」

「自然を大切にする心、すばらしいわ!」

「……後光に焼き払われてしまえばいいのに」

「恋さん、初日の出は神社のようにお祈りを立てるモノなのですか?」

「願い事を念じれば叶うって……でも愛の言うように抱負を誓ったりが普通かも」

「抱負……ではたくさん誓わないといけません」

「……なに誓うかもう読めたわ」


 などと盛り上がる女性陣を眺めて孝太は満足げに頷く。


「いやいや、こうして元旦から可愛いどころと一緒に日の出ってのもいいモンだな」

「どうでもいい……」

「お前、本当に眠そうね。でもま、初日の出を一緒に見るのも何年ぶりかねぇ」

「少なくとも、テメェとは一度もねぇよ」

「あれ? そうだっけか。正月って言えばだいたいお前や宮部とつるんでた気もするけど……」

「……そもそも、俺は初日の出なんざ興味ねぇ」


 うんざり顔で呟く優介に孝太は意外そうに目を向ける。


「へぇ、そりゃ初耳。鷲沢はこういった行事を重んじると思ってたけど」


 孝太が言うように優介は伝統行事を重んじる。

 年越しそばやおせちは料理のことなので当然だが、毎年初詣も行くし書き初めもしているのだ(ちなみに去年は『静寂』だった)。


「別に軽んじてるわけじゃねぇ。純粋に、興味がないだけだ」

「ふ~ん。何でまた日出様だけのけもので?」


「――ユウスケ! 日が昇るわよ!」


 問いかける孝太だったが、答える前に興奮したカナンの声がかき消してしまう。

 見れば山間から見える水平線からゆっくりと顔を見せる太陽が夜のとばりを照らしている。

 天気もよく見事な日の出は実に圧巻で。


「ほら! 早くお参りしなきゃ!」

「……参拝じゃねぇんだぞ。たく……」


 面倒気にぼやきながらも優介は孝太と共に道路沿いへ並んだ。

 各々が手を合わせ目を閉じ、今年の抱負や祈りなどを心で唱える中、優介は特に変わらずコートのポケットに両手を入れたまま徐々に姿を見せる太陽を眺めていた。


「……ふん」


 そしてもう一人、自分と同じように特別なことをせず、日の出を眺めている人物に気づき苦笑した。


 ◇


 初日の出を見終えてすぐ解散といかず、景色をバッグに記念写真を撮りたいと言い出すカナンやソフィを中心に盛り上がっていた。


「何かいいモンでも見えるのか?」


 しかしいつの間にか一人離れたガードレールに腰を下ろしボンヤリと空を見上げている恋に気づいた孝太が声をかける。


「べつに~」

「ふ~ん。ま、いいけど」


 気のない返事をする恋に気にした様子もなく、孝太は同じようにガードレールにもたれ掛かる。

 特に会話もなく二人で遠巻きに優介を中心に代わる代わる記念撮影をする女性陣を眺めていたが。


「……ユースケ、楽しそうだね」

「そうか? 面倒気にしか見えんが……でもま、そう思うなら宮部も加わってくりゃいいのに」


 不意に口を開かれ孝太は苦笑しつつ指さすが、恋は首を振ってしまう。


「いいの。あたしは静かなのを好むから」

「どの口が言うか……つーか、最近の宮部って変じゃね?」


 孝太の知る恋ならあの輪に参加し、自然な流れで恋愛コンビの言い争いが始まり、更にはソフィも参戦、カナンが弄られ最後は優介がキレるというのがお決まりのパターン。

 なのに最近は今のように輪から離れる傾向がある。

 まあそれも最初だけで、気づけばお決まりのパターンとなっているが幼なじみの心境の変化を心配するも。


「べつに~」

「ですよねー」


 やはりはぐらかされてしまい孝太は肩を落とす。


「恋、白河。そろそろ帰るぞ」


 同時に聞こえるいい加減うんざりなのか優介の苛ついた声。


「優介さま、ここはお若い同士二人にしておくのもいいかと」

「てぇ! なんであたしがコータと二人にされなきゃいけないのよ!」


 続いて意味深に優介に進言する愛にたまらず恋が叫ぶ。

 そして気づけばお約束の言い争い、加えてソフィも参戦しカナンが応援するとお決まりのパターンへ。


「……白河、帰るぞ」


 ただ違うのが最後のお約束が行われず、優介が放り投げるヘルメットを孝太がキャッチ。

 元々ここへは優介の運転するバイクの後ろに孝太が乗り、女性陣はソフィの運転する車で来ているので、先に帰っても問題はない。


「あれ? うるせぇって叫ばないのか」

「知らん。ま、飽きたらあいつらも帰ってくるだろう」

「一向に飽きる気配はないけどな」

「なら飽きるまでさせておけばいいさ」

「いつくるんだろうな……ま、俺もいい加減眠いし……と」


 バイクにまたがる優介に続き、ヘルメットを装着して孝太も後ろへ。

 エンジンをかけて出発しても、背後では飽きることなくお約束は続いていて。

 そんな光景が見えなくなるまで眺めていた孝太が前を向く。


「で、気づいてると思うけど――」

「うるせぇ。運転中に話かけんじゃねぇよ」


 取りあえず報告をと思ったが、面倒気に一蹴されてしまう。


「……お前に言われなくても、いい加減あいつの不調にはうんざりだ」

「なら安心か」


 しかし言うまでもなく何かを考えている親友に孝太は笑った。



 その後、各々は一端帰宅し一眠りを済ませて昼過ぎに再び日々平穏に集合。

 大勢で様々な行事を楽しみ正月を満喫した夜。


「えっと……? この反応が起きるのは……あ~面倒!」


 宮部家のリビングでコタツに入り宿題をしていた恋は化学式にうんざりしつつ頭をかいていた。

 冬休みはまだあるモノの三が日が終われば日々平穏は営業を始めるので、今のウチに宿題を終わらせなければならないのだが、もともと勉強嫌いなので集中力が欠けている。


「こーゆー時は気分転換、何か飲もっと」


 開始三〇分で早くも休憩をする為、台所へ向かい牛乳を温めはじめてしまう。

 ちなみに母親は仕事上あまり時期は関係なく年末から留守、明日の昼には帰ってくるのでそれから一緒に日々平穏へ行き優介特性おせちを食べることになっていた。

 二人暮らしを始めてもう四年。

 恋にとって母親よりも優介や愛と過ごす時間の方が圧倒的に多く、今日のように家では一人で居る日が多い。

 寂しくないと言えば嘘になるが、女手一つで育ててくれるために昼夜問わず働いてくれているのはむしろ感謝している。

 なにより島の住民は恋にとって家族、寂しさや不満を抱いては罰が当たるというもの。

 故に正月の夜を一人で過ごしても寂しいとは思わない、むしろ勉強をしなければならない苦労が問題だ。


「さて……あ」


 マグカップを手にコタツに戻ろうとする恋だったが写真立ての前で思わず立ち止まった。

 リビングに飾っている二つの写真立ては恋にとって大切な物。

 一つは四年前、恋がバイトとして日々平穏で働き始めた頃に撮影した喜三郎とイチ子、優介の四人で撮った写真。

 もう一つは二年前、日々平穏を再開させた日に優介と愛の三人で撮った写真。

 どちらも普段から飾ってるのに今日に限り目に入ってしまった。


「ほんと……成長できてないわ」


 自虐的に笑うと開き直って自室の本棚からアルバムを手にコタツへ。

 開けば写真のほとんどが日々平穏の店内で撮影されたもの。

 観光ガイドを含む一切の宣伝活動をしていない日々平穏だが、同時に島の住民に愛されている日々平穏を少しでも知ってもらいたいと、島の住民が勧めているので観光客の来店も多く、店の雰囲気や料理の美味しさに記念撮影をする人が多い。

 なので島の外から訪れたお客様が撮影された写真を送ってくれる。

 他にも常連客が撮影した料理をする優介。

 言い争う恋愛コンビ。

 部活や学園行事の打ち上げに使われた時、お祭りの際に屋台を開いた時のものまで。

 つまりこのアルバムは再開した日々平穏の歴史そのもので、この世に三つしかない恋の大切な宝物だ。

 ちなみに残りの一つは愛が保管し、もう一つは優介のだが、それは店内に置いてあり来客すれば自由に見ることが出来るようになっていた。

 再開してもうすぐ二年、なのにこの大きなアルバムをいっぱいにするほどの思い出。

 きっとこれから先、もっと増えていくだろう。

 日々平穏を続けていくことで増えていく思い出、人との繋がりは嬉しいこと。

 嬉しいハズなのに――


「そーいえば、このお客さまは面白い人だったなぁ……」


 アルバムを捲りつつ思い出に浸る恋の表情は寂しいものだった。


 ◇


「…………う、ん」

 恋はゆっくり目を開けながら身体を起こす。


「っ――たぁ~」


 同時に背骨の痛みを感じてそのまま後ろへ倒れ込む。

 半分の世界が映すのは光、見慣れた自室の電灯だ。


「そっか……あたし、寝ちゃったんだ」


 痛みのお陰か意識が覚醒して恋は理解する。

 しばらくアルバムを眺めた後、再び宿題に取りかかったのだが途端に睡魔に襲われ眠ってしまったらしい。


「あーもーなにしてんのよー! 電気代いくらよ? もったいない」


 時計を確認してまず恋は進んでいない宿題よりも無駄遣いを悔いた。

 現在午前四時をまわったところ、点けっぱなしの明かりやコタツの電気料金は些細なモノでも、母親に負担を少しでもかけたくないと普段から気をつけているのでこのミスは痛かった。


「とにかく今後は気をつけるとして……シャワーでも浴びよ」


 だが悔いたところで時間は戻らないと切り替えて、自分用の罰金箱に二〇〇円を入れて浴室へ。


「……は?」


 行こうとしたが、突然コタツの上に置いていたスマホが着信メロディを奏でるので目を丸くする。

 こんな時間に電話とはいったい誰だろうと手に取れば――


「…………は?」


 予想外の人物にもっと驚きつつも、取りあえず通話ボタンをプッシュ。


「もしもし?」

『ほう? 起きていたか。ずいぶんと早起きだ』


 受話器越しから人を小馬鹿にしたような優介の声が。


「いや……あんたに言われたくないわよ。ていうか、こんな時間になによ」


 時間もさることながら普段、滅多に電話をしてこない優介がいったいなんの用だと首を傾げれば。


『一〇分後迎えに行く』

「は?」

『出来るだけ温かくしておけ。夜のバイクはゲキ寒い』

「バイク? ていうかゲキ寒いって――」

『遅れるなよ』

「いやいや! ちょっとユースケ? あたしまだ……って! 切ってるし!」


 返答も聞かずに自分の用件を伝えるだけ伝えて通話終了。


「……なんなのよもう!」


 しかし唯我独尊はいつものこと。


 故に恋は文句を口にしながらもシャワーを諦め慌てて用意を始めた。




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