箸休め 撫子学園にて
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二月最初の土曜日。
「……おいどーした」
一時間目の授業が終わった休み時間、背後に感じる負のオーラに孝太は開放感よりも恐怖に冷や汗を流していた。
「なにがだ」
振り返れば腕を組む優介、その目つきは普段の五割増しで鋭い。
「いや、なにがじゃなくてね?」
そのせいか教室内の空気はすこぶる悪く、孝太以外の近隣の席にいた生徒は授業が終わるなり早々避難するほど。
お陰で恋とソフィが心療セラピーよろしくクラスメイトらに明るく話しかけていた。
そして不機嫌の理由を察していた孝太が親友として、とにかく現状打破を試みる。
「……やっぱあの事で悩んでんのか?」
「まあな」
無駄だと分かりつつも訪ねてみれば優介は意外にもあっさり肯定。
「俺なりに試行錯誤はしてみたが……どれも決定打に欠ける。もう時間はねぇってのにとんだ体たらくだ」
「そんで苛ついてると」
「苛ついてねぇ、集中しているだけだ」
「でも周りはそう思ってくれないっと」
苦笑する孝太の言うことも最も。
本人は考え事をしているようでも周りから見れば不機嫌にしか見えず、被害は広まる一方だ。
「にしても、料理のことならなんでもござれのお前がここまで苦戦するとはねぇ」
「結局のところ、俺もまだまだ未熟ということだ」
「未熟ねぇ……ま、そうだけど。んで、なにが欠けてるって?」
「……お前の四季美島のイメージはなんだ」
取りあえず相談役を名乗り出れば、優介から突然の問いかけ。
「イメージ……まあ安直だけど四季じゃね?」
「実に安直だが、確かにその通りだ」
四季美島――名の通り日本の四季を存分に楽しめる観光業が成功する前から一部のマニアには有名だった、まさに代名詞と言える名物なので二人のイメージが同意するのも当然のこと。
「特別な名産もない。これと言った観光名所もないが、この島は一年を通して自然の変化を感じられる」
「ん……なら分かってんじゃね? 四季をイメージしたモンでいいだろ」
「やはりバカか」
首を傾げる孝太に嘆息しつつ優介は続けた。
「四季は名の通り四つの顔を持つ。なら四種類の味になるだろう」
「まあ……確かに」
「だがそれぞれの特長を生かした四つの味を一つに纏める方法が思いつかん。かといって春、夏、秋、冬と別々に作ればそれは四季ではなく季節をイメージしたもの」
「……よく分からんがよーするに形の違うピースを一つに纏めるパズル作成みたいなもんか?」
「そんなところだ」
「無理だろ……それ」
ようやく悩みを理解し孝太は呆れるしかない。
春夏秋冬、それぞれが大きな特徴を持つも括りは四季。それを一つの料理で表現しようとしているのだ。
いや恐らく優介のこと、試作段階でも充分すぎる料理を完成させているのに自ら様々な枷を課した上で、納得のいくモノに仕上げようとしているのだろう。
何とも料理に切実で自分に厳しい、孝太が呆れつつも誇らしく思っていると
「失礼します」
「オジャマするわ!」
教室のドアが開き一礼する愛と胸を張るカナンの姿。
「琢磨さん遊びに来たよー」
最後にリナが空気を読まず笑顔を振りまき教室内へと入ってくる。
「愛? なんであんたが」
「カナンまでどうしたんですか?」
学年の違う二人の来訪に(リナは関係なしに琢磨と和やかムード)恋とソフィが歩み寄る。
「恋……あなたは何をしたのですか」
「は?」
開口一番、愛に批判されてしまい恋は唖然。
「もう学園中でウワサよ? ユウスケがスッゴク怒ってるって」
「怒っているというか……機嫌は悪そうですが……」
カナンに事情を聞き困ったように微笑むソフィを余所に、恋は改めて首を傾げてしまう。
「なんであたしが批判されなきゃいけないのよ」
「恍けるのも大概になさい。あなたが優介さまへ無礼を働いたのでしょう。まったく……あなたはどうしていつも――」
「てぇ! なんであたしのせい決定なのよ!」
「優介さまを怒らせるのはあなたの専売特許だからです!」
「あ・た・し、だけじゃないでしょ!」
「恋さん……自覚はあるんですね」
否定せず愛へ詰め寄る恋にソフィは呆れてしまう。
「そうでした。最近では卑猥巨乳メイドもいましたね」
「それって誰のことですか!」
が、ちらりと横目で指摘する愛にソフィも詰め寄った。
「自覚がないのですか? 無駄に脂肪の塊をぶるんぶるんさせている理由も納得です」
「愛さんセクハラですよ! そもそも今は恋さんの迷惑行為についてではなかったのですか!」
「だからあたしに責任押しつけるな! だいたい、愛だって迷惑かけまくりじゃん!」
「誰が迷惑をかけているとっ? 私は優介さまの妻として――」
「その妄想が優介さんに迷惑をかけていると自覚してください!」
「だいたいあんたらは――!」
「そもそも二人して――!」
「ですからお二人は――!」
「……そうやってサンニンがケンカするからユウスケ怒るんじゃないの?」
「はぁっ? なに他人事みたいに言ってんのよ!」
「あなたもライバルと称しながらいつも迷惑をかけているではないですか!」
「カナンも反省してください!」
「ワタシを巻き込まないでよ!」
ついにはお約束の恋愛コンビの言い争いに発展、しかもソフィやカナンまでも加わり教室が賑やかになる始末。
「相変わらず楽しそうだ」
「もう説教する気も起きん」
しかしその効果により教室内の雰囲気も明るくなり孝太は微笑ましく見守り、優介は視線も向けず無視。
「でもま、四季っていや宮部たちも見事にはまってるよな」
「あん?」
「制服だよ、制服」
と、指さす孝太の言うように言い争う四人は同じ学園でも全員が別の制服。
撫子学園女子の制服は島をイメージした四種類の制服に別れている故。
なので春をイメージしたチェリーピンクのワンピースタイプをカナンが。
夏をイメージした青を基調とするブレザータイプを恋が。
秋をイメージした山吹色と赤のブレザータイプをソフィが。
冬をイメージした白のワンピースタイプを愛が選んでいた。
「可憐なカナンちゃん、活発な宮部、落ち着いたソフィちゃん、清楚な愛ちゃん。春夏秋冬を代表した四季乙女だ」
「ふん、あいつらが代表かどうかは知らんが、少なくとも俺には違和感しかねぇよ」
「あれ? そうなん?」
「ああ……ソフィは納得だが――」
ため息を吐きつつも優介は視線を向けて持論を説明しようとするが
「……なるほど、難しく考える必要はねぇか」
「は?」
「灯台もと暗しとはこの事か。全く、どこまでも未熟だ」
「おい鷲沢? なにしてんの?」
一人納得しなぜか教科書を鞄に詰め込む優介に孝太は首を傾げてしまう。
「白河、俺は早退すると教師に伝えておけ」
「はい?」
「恋と愛に今日の営業は任せるともな。むろんお前はバイトに入れ」
「え? どゆこと? お前どこ行くんだ?」
「案ずるな。この案件による早退は白河のジジィに許可は得ている」
「そんな心配してねぇよ! つーか鷲沢、そこに宮部らいんだから自分で――」
「あいつらが俺の話を聞くのか?」
「無理っすね」
面倒気に問いかけられて孝太は即座に納得。
なによりせっかく優介の迷いが晴れたのにジャマをするのも無粋だ。
「んじゃ、せいぜいがんばって来いよ」
「言われるまでもねぇ」
と、立ち上がる親友を手を振り見送る孝太だったが――
「ああ、ついでに今日俺は帰らんが心配するなとも伝えておけよ」
「…………はい?」
まさかの事態に唖然、しかし優介は微かに笑い全く気づかない四人の横を通り過ぎて教室を後にした。
残された孝太は硬直したまま賑やかな乙女らを見詰めたまま。
「あ、俺死んだわ」
優介の外泊を理由を隠したまま伝えなければならない役目に死を覚悟した。
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