箸休め 白河邸にて
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ある日の休日、優介は白河邸へと来ていた。
互いに暇を合わせて一度茶を飲もうと誘われていたので恋愛コンビと弟子のリナ、孝太に店を任せて訪れたのだが。
「なぜ俺がそんな面倒ごとに付き合う必要がある」
案内された座敷でお茶を飲みつつ談笑していた優介だが、その話の流れに苛立ちをあらわに。
「そうかのう。良き話と思うが」
しかし鋭い視線を流してノンビリと湯飲みに口を付けつつ十郎太はやんわり返す。
「この島の更なる発展のため。重要な仕事じゃ」
「そんなに大層な仕事ならカナンか楓子にでも頼め。俺には向いてねぇ」
「ふむ、確かにお前さんのようなもっさい男よりも可愛子ちゃんの二人が向いておる」
「ケンカ売ってんのか……分かってんなら最初からそうしろ」
「しかし、じゃ。カナンちゃんはこの島へ来てまだ日が浅い、ならば少々重荷。それにようやく自分の店が軌道に乗り始めた大事な時期、迷惑もかけられんじゃろうて」
「あいつがそんなプレッシャーを感じるかよ。なら楓子ならどうだ、あいつならこの島に住んでいた。仕事も――」
「その楓子ちゃんからの推薦でのう。今回の仕事は島の顔となる、ならば島の顔である日々平穏の料理人が相応しいと」
「世辞には乗らんぞ」
「やれやれ……頭の固い」
興味なしと一蹴する優介に十郎太はため息一つ。
「じゃがお前さんもワシだけではなく、みなの願いならば聞くしかなかろう」
「あん?」
「荒川」
「はい」
十郎太の一声にふすまが開き秘書の荒川が書類を手に入ってくる。
「優介さん、これを」
「……何だ」
手渡された書類に目を通し優介は小さく舌打ち。
「どいつもこいつも勝手なことを……」
「確かに日々平穏は島の民のモノ、しかしみな自慢したいんじゃ」
「……ふん」
「そして楽しみにしとるんじゃよ。四季美島の憩いの場、日々平穏二代目店主は果たしてどのようにこの島を感じておるか、なにを思いこの地の台所を守っておるかな」
「もちろん私もでございます。優介さん」
十郎太に続き荒川も微笑み一礼。
しばしの沈黙の後、優介は書類を畳に置き
「……二つ条件がある」
「聞こう」
「この話は他言無用、もちろん恋と愛にもだ。あいつらには時期が来れば俺から話す」
「ほう? ならば一人で行うと」
「これはあくまで日々平穏とは関係のない仕事、料理人として俺一人でやるべきことだ」
「やはりそこに拘るか。まあよい、してもう一つは」
「先に話した報酬はいらん。代わりに観光業にでも役立てろ」
「なぜじゃ? 今回の事業には大きな金が動く、お前さんの借金が返済できる――」
「だからだ」
その条件にさすがの十郎太も驚く中、優介は面倒気に息を吐く。
「俺が稼ぐのは日々平穏のみ。それ以外の金であの借金を返済するつもりはねぇ」
「ほんに、強情じゃ」
「関係ないならボランティアだ。たまにはテメェの島の為に動いてやる。なにより――」
苦笑する十郎太に優介はお茶を飲み干し
「カリは必ず返す、それが俺の流儀だ」
不敵に笑った。
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