メニューにないエピローグ アルヒノユウグレ
何気に祝100回更新です!
アクセスありがとうございます!
島の中枢に位置する山の頂上付近、島全土を見渡せる場所に墓地。
「……優介から良い酒もらったから爺ちゃん婆ちゃんにお裾分け」
夕日を背に好子は一升瓶の中身を墓石にドバドバとかけていた。
その表情はいつものように笑っていて。
なのにその瞳はどこまでも虚無で。
普段から何を考えている分からない好子を象徴しているような表情。
「これはこれは、珍しい客人がおるわ」
だが十郎太の声がするなり瞳に心が宿った。
「どうも~。爺さんも墓参りかにゃ~?」
「まあのう。ワシは月に一度訪れとる。じゃが好子ちゃんとここで会うのは初めてじゃないか?」
「ん~そうかも。私は祖父母不幸な孫だから」
人懐っこい笑顔を見せる好子に対し十郎太は眉間にしわを寄せる。
「そんなことはなかろうて。喜三郎もイチ子さんも好子ちゃんを可愛がっておった。また好子ちゃんも二人に懐いておった。墓参りをしなくとも、その気持ちは変わっておらん」
「さて、どうかにゃー」
はぐらかす好子の横を通り過ぎ十郎太は線香を焚いて手を合わせた。
「優坊がフランスから帰ってきたぞ」
「そんな報告しなくても二人はお空の上で見守ってるから知ってるんじゃない?」
「まあ形式じゃよ。優坊がまた一回り大きくなったとな」
「確かに……ずいぶんと成長してたねぇ」
同意する好子に十郎太は視線を向けて。
「ならばもう――」
「でも、まだ早い」
提案するより先に好子が首を振ってしまう。
「ふむ……好子ちゃんから見れば優坊もまだまだか。相変わらず手厳しいのう」
「そーいうことかにゃー」
「では仕方ない。見定めは好子ちゃんの仕事」
「んで、爺ちゃんは同じく見守るのが仕事」
「……ワシはまだ元気じゃ」
残念だとため息を吐いて十郎太は背を向けた。
「しかしまあ……その通り。ワシは見守り続けることにしよう。喜三郎と、イチ子さんに変わって」
「頑張ってね~」
決意を残し去って行く十郎太を手を振り見送り。
「……確かに優介はまだまだ。でもね、それだけじゃないんだねこれが」
一人になるなり再び瞳から心が消えて虚無に。
「私は恋のことちょー尊敬してる」
その声は冷たく一切の心がこもっていない。
「愛のことちょー可愛い」
両手を広げる仕草もわざとらしく。
「それとカナンちゃんとソフィちゃん。予想外のご登場だけど二人にはちょー期待してる」
なのに全て好子の本音。
「優介はもう十分。でも、ギリギリ私はオチてない。だからさあ、早く成長してくださいな!」
人気のない墓地で好子は踊るようにくるくると回り続ける。
「ぶっちゃけ誰でも良いんだよね! 恋愛コンビでもフランスコンビでも――優介を想う娘なら大歓迎! 私は誰の応援もしない、だってムカつくから!」
狂ったように秘めた想いをぶちまける。
「私の優介を奪う奴なんて誰が応援しますかって! 誰でも良いから早く奪って欲しいねぇ!」
矛盾した思いを吐き出して踊るのを辞めた。
「まだ足りない。もっともっと青春して、泣いて怒って、悩んで苦しんで、だけど結局笑っちゃう。そんな強い娘じゃなきゃ好子さんは両手を挙げたげない」
代わりに両手を空に突き出し。
「こうさーん……て、言ったげない」
空しくなったのかその声は弱々しく、両手をだらんと下ろしてしまった。
「だからまだ渡せない。爺ちゃん婆ちゃんから託された」
いつしか夕日も沈み周囲は真っ暗な闇。
「このくそったれな遺言を……あの子にね」
なのに好子の両手だけは輝いていた。
それは愛が料理から抜き出した料理人の心の輝きのように。
それは優介がココロノレシピで再現する時のような。
温かく優しいオレンジ色の輝き。
しかし似ているだけで、好子の両手を帯びる輝きはどこまでも強く。
どこまでも優しい、悲しい輝き。
「誰でもいい……早く私を降参させな」
輝きが突然消えてしまい完全な闇の中、好子の寂しげな声。
「あんた達も嫌だろう?」
まるで祈るような声が聞こえる。
「……優介が――」
死んじゃうなんて
今回更新で『ココロノリョウリ』完結!
最後のエピローグはこれまでと少し作風の違う内容となっていますが、メインストーリーの重要な部分です。
また、レシピ6で第一部『三人の日々平穏編』も完結。
優介、恋愛コンビ、孝太に加えてカナン、ソフィとオモイデレシピのメインキャラクターがようやく揃いました。
なので次回から第二部『家族の絆編』がスタート……ですが、メインキャラが揃ったのでそれぞれの日常に触れたいと思います。
つまり能力関係は一切ない内容、特別なお客さまのお話が好きな方はすみません(汗)。
それでも充分楽しめる内容になっていると思うので、是非ともよろしくお願いします。
では次回更新からのレシピ7『オトメノレシピ』をお楽しみに!
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読んでいただき、ありがとうございました!