真夜中のキャッチボール
大学二年の一月も終わろうという頃、親父が死んだ。
仕事中に胸の痛みを訴え、救急車で病院に搬送され緊急入院となった。親父は見舞う毎にどんどんとしぼんで小さくなり、声もしわがれ弱々しくなっていった。俺とおふくろは巣をつっつかれた蜂のような落ち着かない日々を過ごしていたが、それが悲嘆へと変わるよりも前に、親父はあっけなくこの世を去った。
「お墓、どうしようね」
二人だけの密葬を終えた火葬場からの帰り、車を運転していたおふくろがぽとりとこぼした。助手席に座った俺は、親父の収まった骨壷を慎重に抱え直す。なんとなく、親父が居心地悪そうにしている気がした。
「お金、どれくらいかかるの」
「墓石だけでも相当な額かかるし、土地も探さないとねぇ……計算しないとわからないけど、これからの生活費とかあなたの学費とかもあるし、すぐには難しそうだわ」
赤みの残る目でまっすぐ前を見るおふくろが、少しばかり痛々しく見えた。それを見て一瞬ためらう気持ちはあったが、思い切って聞いてみた。
「先祖の墓とかはダメなの」
おそるおそるおふくろの方をうかがうと、その横顔は石像のように硬く冷ややかに見えた。赤信号につかまって車が止まり、やがて青に変わって、ハンドルをゆったりと左に切りながら、おふくろはようやく重い口を開いた。
「今日もあの人達は来なかったんだもの、きっとご先祖のお墓に入れてくれる気は無いわ」
その返事を聞くより前から、きっとそうなのだろうな、とは思っていた。両親はあまり詳しく話してはくれなかったが、二人の結婚は周りから祝福されたものではなかったらしく、俺の知っている限り親戚付き合いはほとんど無い。親父が亡くなった事はもちろん親父の親類にも知らせたのだが、帰ってきた答えは「葬儀には顔を出さない」であった。となれば親父の墓入りについても、かんばしい答えはもらえないであろう。
そうなるともう正直言って、墓のことは俺にはどうすればいいのかよくわからない。その心苦しさが俺の頭を俯かせる。
「そんなに心配するんじゃないわよ」
おふくろがわずかに声を張って言った。
「一番大事なのは一樹、あなたが大学をきちんと卒業することよ。お父さんの遺してくれたお金でそれはなんとかなる。お墓の事はそれからでいいんだから。お父さんには悪いけど、しばらくタンスの上にいてもらいましょう。お父さん、どこででも眠れる人だったから心配ないわよ」
そう言ってふふふと笑うおふくろだったが、俺はフロントガラスの向こうに広がる無神経なほどに青抜けた晴天を、うっそりと眺めるだけだった。
一週間ほどの忌引の後で、俺はバイトに復帰した。
休みを肩代わりしてくれたお礼として、休憩室にまんじゅうの箱を置いて「どうぞご賞味ください」というメモを書いていると、同じバイト仲間のおばちゃんである林田さんが出勤してきた。
「あら、かず君じゃない! もう復帰したの?」
そういいながら林田さんが俺の対面に座ってきた。
「はい、今日から復帰です」
「あらぁ良かった。今日節分だからなのか、ホールの人手が足りないらしいわよ。お客さんの料理間違えて運んだら大変」
「らしいっすね。節分の豆も添えてお出しするんですよね?」
「そうそう。仕事終わったら余った豆食べていいって。私40粒も食べるのよ、やぁねぇ!」
「俺はその半分で済むんで楽勝っすね」
「まぁ、憎たらしいったら」
にぎやかに言う林田さんに軽口を返して、まんじゅうの箱を差し出した。林田さんは、あら、ありがとう、と言ってまんじゅうを二個手にした。いそいそと包み紙を取るとそれを頬ばり、「おいしいおまんじゅうねぇ」と頬を緩めた。
「お父さんのこと、大変だったわねぇ。葬儀、大変だったんじゃないの」
「あ、いえ……それほどでもなかったっす」
答えに困って曖昧に濁したのだが、林田さんはちょっと違う意味でとったらしく、
「大学生って言っても、まだ子供なんだから。あまり肩肘張らなくていいのよ。人が亡くなるのは誰にだって大変なことなんだから」
と、怪我をした小鳥を見守るような目で俺を眺めた。
「私もねぇ、こないだ私の父親が亡くなった時は大変だったんだから。本当に突然のことで、やれ葬儀場だ、やれお通夜だ、やれお葬式だ、って悲しむ暇もないくらいよねぇ、本当! 親戚のこともそうだし、お世話になった誰々も呼ばなきゃって連絡先あっちこっち探して。本当は妻である母さんがいろいろやるところなんだろうけど、母さん、もう年だからねぇ。娘の私がああだこうだと色々仕切らなきゃだから、本当大変だったわよ!」
林田さんはそうまくしたてる間もカラカラ笑ったり、へにょりと顔をしかめさせたり、表情をせわしなく行ったり来たりさせていた。うちの場合、そういう労苦は全ておふくろが片付けてしまっていたし、何より二人だけの密葬で終わらせてしまったため、正直言ってあまり大変なことは無かった。お坊さんにお経を少し詠んでもらって、後はお骨を焼いてもらっただけだ。火葬場の窓から、場違いなほどに穏やかな外の景色を眺めて、きっと人が亡くなった時はもっと大変なあれこれがあるんだろうな、とぼんやり考えていたことを覚えている。林田さんの苦労話を聞いていると、何もしていない自分がなんとなく責められているような気持ちになって、少しばかりの気後れを感じた。
「ところでちょっと聞いていいかしら。お墓ってどうした? うち、結構そのことで揉めたから、他のお家ってどうなんだろうって思って」
俺が呆けたように曖昧な相槌を繰り返していると、林田さんがそう切り込んできた。心臓がぎくりとした。
「お墓は……いろいろあって、ちょっとまだ決まって無くて……」
うまい言い訳も思いつかず口ごもるように返事すると、林田さんはにぎやかだった表情をほんの一瞬固まらせて、それから緩めた。
「あら……そうなの。まぁいろいろだものね。お墓を建てるってのも、簡単なことじゃないものね」
流石に年の功か、林田さんは俺の言葉に色々と察してくれたようだった。追求されたらどうしようかと身構えていた俺は、正直助かる思いがした。
「ですよね。大変っすよね」
乾いた笑い声を上げる俺を見て、林田さんが「それはそうと、そろそろ着替えなくっちゃ」と呟きながら、そそくさと更衣室へ消えていった。
その背を見送りながら、俺は無意識に自分の爪を噛んでいた。
その日、バイトの内の一人が突然休みになってしまい、残業をお願いされた俺が帰宅したのは深夜も1時を過ぎた頃だった。遅くなることは連絡していたので、おふくろももう眠っているに違いない。
玄関扉を開くと、キッチンに明かりが灯っていることに気付いた。パッタンパッタンとスリッパを引きずるようにしてそちらに向かうと、ダイニングテーブルの上に料理が並んでいた。メモも一緒に置かれており、それにはこう書かれていた。
「一樹へ
おかえりなさい。晩ごはんです。
しょうが焼きはラップしたままレンジでチンしてください。
ご飯はもう残り少ないので全部食べて炊飯器のスイッチ切っちゃってください。
お母さんはもう寝ます。
おやすみなさい」
カバンを椅子に置き、言われたとおりにしょうが焼きをレンジに放り込んで温めた。炊飯器の中には白飯が二膳分くらい残っていたので、丼にそれを全部よそって、温めたしょうが焼きをその上にどちゃどちゃと乗せた。テーブルの上には抜け目なくマヨネーズが用意されていたので、それを適当にかける。なんとなく、一口一口じっくりと味わうように噛んで食べた。食器を洗った後はシャワーを浴びることにした。熱い湯が凝り冷えた身体を少しずつ溶かしていくのを感じる。だが、何故か同時に胸の中がひどくもやもやとするのも感じた。これで良いのだろうか、という言葉が頭の中に炭酸の泡のように次々と弾ける。ざぁざぁと頭からシャワーをかぶりながら、また無意識に爪を噛んだ。あ、噛んでるな、と思ったが、止めることが出来なかった。
寝ようとしてベッドに横になったが、いつまでたっても寝付けなかった。十何回目かの寝返りの後、思い切ってベッドから起き上がり、リビングにあった車の鍵を手に取って、外へ出た。
車庫には家族で使っているミニバンがひっそりと寝静まっている。おもむろに運転席に座りキーを回すと、突然起こされた猫のような唸り声を上げながら、幾分眠たげなエンジン音をドッドッドッと夜のしじまに響かせた。ゆっくりとアクセルを踏むと、ミニバンはそろそろと滑るように道路へと出た。
どこか目的地があるわけではない。ただ、なんとも言えない鬱屈感に動かされるがままにハンドルを握っている。二月の空気は容赦なく冷たい。せっかくシャワーで温めた四肢は即座にかじかんでいく。運転しながら幾度も暖かい息を指先にあてる。こんな目にあいながら、俺は一体どこへ行こうというのだろう。
住宅地を抜け、市街地を通り、少しばかり走るとすぐに水田に囲まれた景色が開く。俺はなんとなく近くの展望台へと向かっていた。子供の頃の俺はその展望台から眺める街の景色が好きで、休みの日毎に親父をせっついてはよく連れて行ってもらった。
大して標高の高くない山だが、ガードレール越しに今通ってきたばかりの街の明かりが遠目に見える。後ろへと流れ去っていく夜景を横目に十五分ほど車を走らせると、展望台の少し手前にある駐車場へとたどり着いた。駐車場には他の車は一台もいなかったので少し驚いた。カップルや大学生連中が何人かはいるんじゃないかと覚悟していたが、誰も居ないのを見てほっとした。今は一人になりたい気分だった。
夜景が一番良く見える場所にそろそろと車を止めてエンジンを切った。外へと出ると、白い息がブワリと広がり、冷たい空気の中に溶けて消えていった。非日常的な静寂の中、聞こえるのは自分の呼吸とダウンジャケットの衣擦れ、枯れ葉が地面を擦る乾いた音、それに、大気の震えのようなわずかな響き、ただそれだけだった。
街の明かりを眺めながら、手すりに身体をもたげた。しばらく夜景を眺めていると少しずつ身体から無駄な力が抜けていき、それとともに張り詰めていた気も幾分和らいできた。そういえば子供の頃はこの駐車場でよくキャッチボールしてもらったっけな、と思い出した。トランクにグローブとボールがいつでも載っていて、ここへ来ると親父がそれを取り出すのだった。そうしてキャッチボールで気の済むまで遊んだ後は、おふくろの握ってくれたおにぎりを食べて、満足しながら帰っていったものだ。
そんな懐かしさに駆られて、ふとミニバンのバックドアを開けてみた。このミニバンは数年前に買い替えたもので、子供の頃に載っていた車とは別のものだ。だからそれは単なるノスタルジーの慰めにすぎない行動だったが、そこにグローブとボールがひっそりと置かれているのを見つけたとき、俺は心底驚いた。
「なんでこれがここに」
「理由っていう理由はないんだけどね。なんとなく近くに置いときたくて」
突然の声に驚いて、俺は振り返った。果たしてそこには。
「親父?」
「やあ、一樹」
親父が居た。病で衰弱する前の元気だった頃の姿だ。少しばかり弱気そうな笑顔が懐かしみを感じさせる。不思議なことだが、怖さのようなものは全然感じなかった。
しかし親父は死んだはずである。
「なんで親父がここに?」
「自分でもよくわからないんだ。自分が死んだ事は自覚してるんだけどね」
そう言って、少し恥ずかしげに親父は笑った。
「なにか心残りとか、そういうのか?」
「どうだろう。一樹と母さんを後に残すことになっちゃったのは確かに残念だけど、自分でもなんでここにいるのか、よくわからないな」
親父自身もあまりピンときていないようだった。唐突な親父との再会に俺が呆けていると、親父がグローブを手にとって、俺へと笑いかけた。
「せっかくだから、しないか、キャッチボール」
そうして、俺と親父は他に誰も居ない駐車場でキャッチボールを始めた。
二月の寒さの中、ボールを受ける毎にしびれるような痛みが走る。グローブも、子供の頃は大きく感じたが、大学生の今となっては少し小さく感じられた。
「こうやってキャッチボールをするのも久しぶりだね」
「うん」
「あの小さかった一樹が、もう大学生なんだものなぁ」
俺のボールを受け止めながら親父がニコニコと笑った。
「突然死んじゃって、一樹と母さんには迷惑をかけてすまないと思ってる。でも、正直あまり心配はしていないんだ」
親父のボールがスパンと俺のグローブで受け止められる。俺は無言でボールを投げ返した。
「一樹ももう20だものな。しっかりといい子に育ったし、きっと一樹ならなんでもうまくやれるはずだと思っているよ」
「でも親父、俺は不安だよ」
親父の返球を受けながら、俺はそんな言葉をふとこぼした。
「もう20歳で大人だけど、なんにも出来ない子供みたいだって、親父が死んでから思ったよ」
この前からずっと胸の中でわだかまっていた想いを、少しづつ言葉にしていく。
「人が死んだときにどうすればいいかなんて、俺全然分からなかった。そういうの全部おふくろがやってくれて、俺はただそれを眺めるだけだったんだ。お墓のこともそうだ。俺バイトしてるけど、多分全然墓代の足しになんかならない。それ以前に、親父やおふくろが学費出してくれなかったら大学だって行けなかった。俺が好き勝手やってるときに、おふくろはいつだって飯を作ってくれてたんだ。今日だって、子供の頃だって」
グローブの中で強くボールを握りしめる。
「分からないことだらけなんだって、今更気付いたんだ。こんなことなら……親父が生きてる間に、もっといろいろ教わればよかったって……後悔してる」
そうなのだった。俺も今言葉を吐きだしながら、初めて自分の気持ちに気付いた。俺は後悔してるんだと思う。学ぶべきことを学べなかったと。そして、それに気付いた時には学ぶべき人はもう居なくなってしまったのだと。
親父は俺の言葉をただじっと聞いていたが、不意にぐっと腰を落とすと、グローブを構えた。
「一樹、思いっきりボールを投げてみなさい」
「え」
「思いっきり、ここに」
そう言って親父はグローブをパンパンと叩いた。俺は言われるがままに、全力で投球した。静かな駐車場をびりびりと震わすような盛大な音が辺りに響いた。
「……ちょっと痛いかな、って覚悟してたんだけど全然痛くなくてホッとしたよ。幽霊だからかな。いい球投げるようになったね」
親父がタハハと笑った。
「一樹、父さんにだって、わからないことだらけだよ。きっと母さんもそうだったと思う」
親父が静かな笑みをたたえて俺に語りかけた。
「大人だからって、なんでもかんでも知ってるわけじゃないし、絶対に失敗しないわけでもない。僕だって、お葬式のこととかお墓のことなんて、誰かの話を聞いて少し知ってるくらいのもんで、具体的にどうすればいいかなんて全部はわからないよ。なんなら、誰かの葬式をする前に、自分がされる側になっちゃったしね」
そういって、親父はニコリと笑った。幽霊ジョークなのだろうか? 正直笑えはしないが。
「お金に関しては、そのうち働くことになるんだから、それはそのときになれば自然に解決することだよ。父さんがなにかを教えてどうこうなるものでもないさ。今は大学でしっかりと励みなさい。それが今一番、僕が望んでることだよ。僕はタンスの上でも十分居心地いいからね。お金のことで焦る必要はないさ」
そういって、親父は片頬をあげて笑った。むしろ皮肉に聞こえるが、多分親父の性格からして、本気で気にするなと言っているのだろう。
「母さんは……偉大だね。今回のことは大変な苦労をかけて、申し訳なく思ってる。きっとなにもかも分からない中で、必死に頑張ってやってくれたんだと思う。いや、今回だけじゃなく、今までもそうだった。いつでも僕と一樹を必死に支えてくれてたんだ。僕はそれに報いることができなくなってしまった。……心残りといえば、それなんだろうな」
親父はさみしげな笑みを浮かべた。
「一樹、大人っていうのは、いつでも大人になる途中の人達なんだよ。誰も完璧じゃなくて、誰も悩んでて、誰も誰かの支えを必要としている。そんな不完全な人たちなんだ」
親父はにわかにきゅっと締まった顔つきをした。真剣な目がまっすぐに俺を貫く。
「もし、大人と子供の違いを一つ挙げるとしたら、子供は誰かに支えられて生きるけど、大人は支えられるだけじゃなく、他の誰かも支えながら生きる、そういうところにあるんだと、僕は思うよ」
親父はそういうと投球の構えをみせたので、俺は慌ててグローブを前に構えた。
「一樹、お母さんをよろしく頼むよ」
親父は大きく腕を振りかぶって、前のめりになるほどの勢いでボールを放った。ガス管が破裂したんじゃないかと錯覚するほどの盛大な音を立てて、ボールが俺のグローブを叩いた。骨の芯まで響くような痛みが襲いかかり、思わずその場にうずくまった。ジンジンとする疼痛が治まるまでたっぷり五分ほどかけて、ようやく頭を上げた頃には親父の姿はもうそこには無かった。ほのかな手のひらのしびれだけが、親父から受け取ったボールの熱を確かに伝えていた。
その日明け方近くになって帰宅し、泥のように眠った。昼過ぎになってもっそりと起きたときには喉がカラカラに乾いていたので、階段を降りてキッチンへと向かった。
おふくろはダイニングテーブルについて昼のワイドショーを見ていた。俺はおふくろにおはよう、と一声だけかけるとコップに水を汲んでそれを一気にあおる。おふくろが少しキョトンとした顔で俺を見た。
「おはようって……あなた今日大学は?」
「今日は休講なんだよ」
と適当な言い訳をすると、特別興味があるわけではなかったらしく「ふうん、そう」と一言呟いてまたテレビに向き合った。
「そうそう、お父さんにお線香あげなさい。もう昼だけど」
というおふくろの言葉に従って、タンスの上の親父に線香をあげる。手を合わせながら、俺は後ろのおふくろに向かって言った。
「俺、大学出て働くようになったら、最初に親父の墓買うよ」
「えぇ?」
と、後ろでおふくろが驚いている気配がした。
「どうしたの、藪から棒に」
「いや、なんとなくだけど、そうしたいと思ったんだ。親父の墓のことは任せてくれよ」
俺がそう言うとしばらくの間、おふくろは黙った。テレビの中でニュースキャスターが「今日は立春ですね。喜ばしい日にふさわしく、好天に恵まれました」と満面の笑みで告げながら、旧暦で言うところの年明けだとか、新しい春の始まりを告げる日だとか、そんなことをやかましく喧伝している。
少しして、ズズッという鼻をすする音が聞こえた。
「バカね、あなたは。そんなこと考えなくていいから、頑張って勉強しなさい。それが一番お父さんが喜ぶことよ」
確かにその通りだった。おふくろには本当に頭があがらないなと思わされた。
笑っているかのように線香の煙がフラフラと揺れて、ふわりと消えていった。