80話 獣人とハーフエルフ
二頭の馬が檻を運ぶ。
それが二台に分かれ、本拠地へと向かっていた。
二台の馬車の周りには、行きより少し数を減らした盗賊達。
そして、私はその後ろを歩いていた。
手には鎖、その先は銀髪のハーフエルフの首輪へと繋がっている。
盗賊達お手製の奴隷の証だ。
「…くーちゃん…助けて…くーちゃん…助けて…」
私が男だと聞いてから、この調子だ。
銀髪の美少女は、絶望に瞳を塗り潰されながら、ずっと同じ言葉を繰り返している。
時折、足を止めては鎖で引っ張られ、苦しそうにまた歩き出す。
こいつ壊れてるのか。
話しかけても、同じ言葉を繰り返す少女に、早くも嫌気が差していた。
…
……
………
「ふ〜ん、こういう子が、名無しさんの好みなんですか?」
2週間ぶりに帰り、洞窟の前に家を完成させていたルルが言った。
「いや、まあ…その…」
「使うなら、ルルがいない時にやってくださいね」
変化球を投げる事を知らないのか、ストレートばかり投げる彼女に言葉を詰まらせる。
「名無しさんの仲間のルルです。これから、仲良くするのです」
彼女にとって、獲ってきた女の扱いとはそういうものなのだろうか、銀髪の美少女に手を差し伸べた。
「…くーちゃん、助けて…」
そんなルルの言動が聴こえてないかのように、また同じ言葉を繰り返す。
ルルが無言で手を掲げた。
パシーンと乾いた音が、辺りに響き渡る。
銀髪の美少女の頬を、叩いていたのだ。
「っ…」
「これから、仲良くするのです」
銀髪の美少女は手を差し伸べるルルの方へと、初めて焦点を合わせ…
そして、またうつむいた。
「名無しさん、この子壊れてます」
「…私もそう思いますよ」
ルルは困りましたね、と言うように両手でリアクションをする。
「この子、借りていいですか?」
「いいですけど、私のものだというのを忘れないで下さいね」
それを聞いたルルは、
「ルルが治療してきます」
任せて下さいとばかりに、銀髪の美少女の鎖を引いて歩いて行った。




