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74話 北へ

集落を出た俺達は、北へと進む。


親分達が村を襲いに行くと言い、出て行った方角だ。

拓けた場所で、木々の上にそびえ立つ、山々の景色を確認する。


あの集落に着いた時点で、自分が森の中のどこにいるかは、見当もつかなくなっていた。


だから、目印は背後に見える山々の景色だ。

あれを背に向かえば、北らしい。


「どこへ向かうのですか?」

「とりあえず、街道に出てみようと思う」


行商人に出会えれば、この地域の情報も得られるだろう。

盗賊らしく、奪うのもいいな。


「行った事はあるのか?」

「いえ、ルルはここでは、食料係でしたから」


そう言って、後ろからついて来る彼女は、その身体の3倍はあるリュックを軽々と背負っている。


そんな、とりとめもない話を繰り返しながら、獣道を進むと日が暮れてきた。

今夜は野営だなと思い、土の家を魔法で造る。


「凄いですね〜」


硬くなった土壁をポンポンと叩きながら、ルルは感心していた。


「中は何もないし、大雨が降れば崩れる。長くは住めないさ」

「ルルは、土葬は嫌です…」

「土葬じゃなくて、生き埋めだな」


そして、集落で用意した干し肉で夕食を済ます。


「床が、冷たいです」

「床じゃなくて、土だな」


ルルのリュックから、折りたたんだ藁の寝袋を敷き、目を瞑る。


「でも、冒険譚の主人公みたいで、ルルは少し楽しいです」

「自由な二人旅だからな。ルルがいてくれて、よかったよ」


藁の寝袋に入りながら、ルルの方を見ると目があった。


「…口説こうとしてます?」


ルルの意外な一言に、言葉をつまらせていると、


「忘れるところでした」


彼女は立ち上がり、剣で二人の中央に線を引いた。

不毛な領土が、半分に増えたなと思いながら、眠りにつく。


……

………


あれから、三度の夜を越えた。


干し肉の量は十分だが、節約の為、猪を狩る。

ルルが血抜きと内臓抜きを終わらすと、


「水をください」


俺は魔素を集め、ルルと猪の頭上に大量の水を降らす。


「本当に便利ですね」

「焼く場所を、整理してくる」


そう言って、木々の隙間から見える拓けた場所に、足を進めた。


しかし、本当に同じような景色ばかりだな。


拓けた場所から見える、山々を見上げる。

そして、視線を下に向けると、焚き火の跡を見つけた。


「本当に同じような…戻ってきたのか?」


2日前に見た光景に、迷子になったという現実が襲う。


「ぐるぐる回ってると思いましたが、迷子だったのですか?」


切り分けた肉を抱えたルルが、後ろから声をかけてくる。


…ぐるぐると回っている?


「ルルは方角が、わかるのか?」

「森に慣れたら、誰でもわかりますよ?ルルは獣人ですから、特にです」


だから、ルルが食料係だったんですよと、何気なく伝えられる。


「名無しさんの事だから、何か考えて回ってると思いました。方角がわからず歩いてたなんて、やっぱり、バカなんですか?」


ジト目で怪しむ目を向けるルルに、苦笑いで返す。


「…ルルがいてくれて、本当に良かったよ」


その夜、俺の領土は三分の一に減封された。


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