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61話 砂の王 後編

城塞都市ガレオンから北

砂漠の入り口を、北西に進んだ位置


要塞であった瓦礫の山。

砂漠に散らばる人の残骸。

十字に分解された、巨大なミミズのようなバケモノ。


力を手に入れた俺は、西に広がる森で覆われた山を眺めていた。


この世界、見知らぬ草原からスタートした。

そして、言葉も文字もわからず、力のない俺は不自由を強要された。


今、俺は見知らぬ砂漠にいる。

あの時と違うのは…


身体が自然と動く。

辺りに散らばる、持ち主を失った旅袋。

背中に背負うタイプの布袋には、干し肉と水袋が入っている。


それをいくつか集めては、一つの旅袋に詰め込む。


(…一応、持っておくか)


持ち主を失った剣を、腰に差す。


「何を…している?」


目の前で起こった光景を処理できたのか、呆然と立ち尽くしていた女騎士が、恐る恐る問いかける。


その瞳には、恐怖の色が浮かんでいる。


「自由になる」

「その奴隷紋なら、大丈夫だ…。私がいれば都市には入れるし、マリオン様も事情はわかっている」


赤く変色した逃亡奴隷の証を見て、言う。


俺は少し考えて、


…カチリ…


自分の魔力を、波のように周囲に飛ばした。

一瞬で広がる波が、遠くで動く人影の集団を捉える。


イメージは、レーダーであったが、


「失敗だな…」


方向と感覚的な距離、大まかな人数を感じるだけで、波が通りすぎれば、何もわからなくなる。


何より身体から抜け落ちた魔力量が、膨大であった。

消費が激しいから、常時発動はできそうもない。


女騎士の言葉を無視して、小さな砂丘へと立つ。

遠くで感じた集団の気配の方を見ると、バケモノから難を逃れた傭兵団が、こちらへと向かっていた。


空から降り注ぐ隕石を見て、隊列を整えた混合軍が斥候を飛ばしたのだろう。


振り返り女騎士の方へと、向かう。


「もうすぐ友軍が来る。マリオン様には、世話になったと伝えてくれ」


女騎士は、俺の口調の変化に驚きつつ、


「あの場所に戻るのが、嫌なのか?」

「嫌じゃないさ。ただ、好きなように生きてみたくなった」


西に広がる森で覆われた山を見る。

魔物と盗賊の住処らしい。


後ろには、マリオンの屋敷への道が、砂埃をあげて近づいてきている。


この2つに分かれた道。

一方は、変わらぬ快楽の日々。

もう一方は…


まあ、いいだろう。

野垂れ死にそうになっても、今度は力があるのだ。

あの瓦礫の山のように、奪えばいい。


旅袋を担ぐ。


女騎士は諦めた顔で、剣を抜いた。


「主人の所有物が逃げるのを、見逃す事はできん。殺しはせぬが、動けぬようにさせてもらう」


力の差を理解した上で、あのバケモノに立ち向かえるのだ。

騎士とは、こういうものなのだろう。


女騎士が、距離を縮めようと踏み込む。

いつぞやの模擬戦のような速さはない。


ゆっくりとした動きに見える彼女の懐に、距離を詰める。


驚いた顔の女騎士と目が合うと、彼女を投げ飛ばした。


「世話になったな」


そして、俺は西へと旅立つ。


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