60話 砂の王 中編
人を簡単に飲み込める大きな口のバケモノが、こちらを向く。
その牙から、血が滴り落ちている。
…試してみるか。
俺は、両目に魔力を込めた。
都市と違い、魔素が溢れている。
俺の前では、女騎士が剣を構えている。
右手に魔素を集め、その横へと歩みを進める。
「…誇り高い戦士か」
「うん?」
前に言われた事を思い出し、呟く。
女騎士は、なんだ?という顔で、こちらを横目に見る。
交易都市で完成させた魔法を、イメージする。
バケモノを見る。
腕を十字に振るい、空間を斬った。
女騎士には、お祈りでもしたように見えたのだろう。
不思議な顔で、俺を見て、襲ってくるであろうバケモノに視線を戻した。
…レベルが上がりました。
…レベルが上がりました。
…レベルが上がりました。
…レベルが上がりました。
…レベルが…
頭の中に、よく見知った言葉が流れる。
気づけば俺は、嫌な笑みをこぼしていた。
「ステータス オープン」
アリス レベル32
攻撃 960
防御 660
知力 660
魔力 320
速さ 660
これがレベルアップか。
素晴らしい。
俺はたまらず、笑い声をあげた。
「恐怖で、壊れ…なんだと?」
俺の笑い声と共に、動かなくなったバケモノは青い血しぶきをあげて、十字に崩れた。
女騎士は、それを見て驚き、俺の方を向く。
混乱しているようだ。
俺はというと、
(才能10の光の勇者でさえ、レベル50の限界値で、ステータスは500…)
溢れ出る力に溺れていた。
(この力、試してみたい…)
要塞の方を見る。
城壁の上には、こちらを見て騒ぐ敵兵の姿があった。
攻城魔法を思い浮かべる。
膨大な魔素を空へと集め、
…カチリ…
「メテオ…」
言葉でイメージをより明確にし、俺は魔法を放った。
混乱した顔の女騎士は、その言葉を聞きながら、目の前で起こる現象を、ただ眺めていた。
空から燃える隕石が、要塞へと降り注ぐ。
この世界では、誰も見た事のない魔法。
城壁による防御の根底を覆す魔法。
一瞬のうちに要塞には穴が空き、燃え盛る瓦礫の山へと姿を変えていく。
大地には、轟音と衝撃波が響き渡る。
…レベルが上がりました。
…レベルが上がりました。
…レベルが…
「その目は、見せない方が良いわ。わかる人にはわかるから」
エリーの言葉が頭をよぎる。
「そうね。言い伝えでは、異種族を殺す事で経験値が入るらしいわ」
マリオンの言葉を思い出す。
…俺が最初に設定した種族は…
アリス レベル36
真祖
俺は女騎士を気にする事なく、笑い声をあげた。