58話 砂漠への進軍
王国歴308年
城塞都市ガレオン北
砂漠へと続く、切り立った山に挟まれた道には、かつて敵が築いた関所があった。
前々代のガレオン子爵から、2代に渡って攻略した関所は瓦礫の山となり、風化している。
私はそれを馬車の窓から、覗く。
現ガレオン子爵率いる騎士団と傭兵団の混合軍が、出兵して1日目。
奴隷に身の回りの世話をさせる為に、共をさせるのは珍しくははないようで、マリオンの言葉どおり、私は戦場へと連れてこられていた。
連れてこられたのは私だけで、リナも他の奴隷も屋敷で留守番なわけだが。
奴隷市場で買った奴隷と遊びたかったなと思いながらも、馬車は無情にも戦場へと進む。
奴隷紋の範囲は、マリオンの周囲へと切り替えられていた。
「あと2つ、関所跡を越えたら砂漠よ」
3つ目の関所を抜いたのは、数年前。
関所を抜くと、激しい抵抗は収まり、この先に敵の国があるらしいという情報以外、何もわからなかった。
そして、広大な砂漠が天然の要塞として、行く手を阻む。
そこからは小規模な戦闘は起こるものの、傭兵団単独の斥候という名の村への掠奪で、砂漠の入り口付近の情報を集めていたらしい。
「つまり、砂漠の先に何があるか、ほとんどわかっていないのです?」
「小さな村が、いくつもあるのは傭兵団の調査で分かったけど、そうね」
私の代で、この先に進むとマリオンは言った。
そして、今回は珍しく敵部隊が集結しているらしい。
場所は谷を抜け、砂漠のフチを進むように北西へ。
砂漠のフチと言うように、左には草木が広がり、その奥には森で覆われた山が見えた。
「あの山には、魔物と盗賊が住み着いているらしいわ」
そちら側から、奇襲を受けないように、ただ何も目印もない砂漠で方角を見失わないように、砂漠のフチを混合軍は進む。
馬車の周りには、ガレオン子爵直属の騎士団30名。
女騎士の姿も見えた。
馬車の後ろには、ノース侯爵第三騎士団100名。
そして、馬車の前面には、傭兵団500名弱。
アイリスも、あの中にいるのだろうか。
「どう攻めるのです?」
この混合軍を、どう指揮するのだろうか。
「簡単よ。敵部隊を見つけたら、遠距離一斉射撃からの突撃。こんな見渡しの良い砂漠で、小細工は必要ないわ」
「消耗が、激しい戦い方ですね」
「その為の傭兵団だわ」
奇襲対応など戦況に対して臨機応変に動けるように、ノース侯爵第三騎士団を後ろに置き、攻めは犠牲の気にならない傭兵団を当てるらしい。
前方から、激励のような声があがる。
どうやら、敵部隊の集まる目的地に着いたらしい。
上空からの視点でもなければ、何が起こってるか、まったくわからないな。
前方に広がる砂埃が、見えるだけ。
私に、部隊を手足のように動かす軍師の才能は、なさそうだと思うのだった。




