56話 奴隷市場
奴隷市場
城塞都市の外周城壁の中に、それはある。
主な供給源は、傭兵が狩ってくる北の砂漠の民。
黒髪に青目、褐色肌が特徴のアルマ王国内では見ない風貌であり、高値で取り引きをされている。
この都市の特産品だ。
「とは言うものの、町や村からの調達では安定供給が難しいわよね?だから、繁殖させてるの」
奴隷市場の奥に、堅牢で巨大な建物が見えたから、マリオンに聞いた答えである。
(マリオンや騎士達が、奴隷を物扱いする理由はこれか)
人間を繁殖なんて言葉に、嫌悪感を抱く私はまだ壊れていないのか、この国の常識に馴染んでいないのか。
私の横では、リナが怯えていた。
「アリスちゃん、どの子が欲しい?」
薄着1枚で、並べられている商品を見て言う。
「リナは売らないですよ?」
「アリスちゃんが、気に入っているなら良いわ」
その言葉を聞き、黒髪の少女は胸をなでおろす。
これで、少しは懐くと良いなと考えた私は、クズなのだろう。
「あちらも、見てみましょうか」
奴隷市場はいくつかあったが、どれも体育館を何倍にも広くした室内に、いくつものステージがあり、その上に商品が陳列されている。
ただ、この奴隷市場は高級店のようで、身分が確かな者しか入れなかった。
マリオンの横には私とリナ以外に、女騎士と騎士数名が護衛についている。
その後ろには十数名の護衛騎士。
傭兵や買い付けの奴隷商人で、ごった返す他の市場と違い、あまり人とすれ違わない。
だから、前方から歩いて来る二人の女性に自然に目が止まった。
赤髪の女傭兵と、その横に対照的な空のような青髪の少女。
どこか懐かしい風貌に、目を奪われる。
青髪の少女の首筋には、奴隷の証が刻まれている。
まさか、こんな場所にいるはずがないよなと思いながらも、視線が外れない。
やがて、すれ違う距離になると、青髪の少女と目が合った。
「……」
「……」
目が合ったが、そのまますれ違う。
あれから、2年近く経っただろうか?
身長も顔つきも記憶より、少し大人びている少女に確信が持てなかった。
他人の空似で、恥はかきたくないな。
そう思い、マリオンの方へ顔を向ける。
少し先で、立ち止まる気配がした。
「…クロくん?」
声の方へと、顔を向き直す。
少し大人びたスカイブルーの彼女がいた。