51話 黒髪の少女
あれから一ヶ月が経った。
週に何度かマリオンに呼ばれ、彼女の右手に遊ばれては、犬の真似事をしている。
そして、日中の私は、本に読み飽きていた。
何もしないというのは、3日も経つと苦痛なのだ。
それを、マリオンに伝えると、
「マリオン様からの命令で、きました」
私と同じく、奴隷紋の刻まれた黒髪のメイドがきた。
初日に大浴場の案内についた、褐色肌の少女だ。
話し相手として、遣わせたのだろう。
「普通に話していいですよ。私もマリオン様の奴隷ですから」
どこかよそよそしい黒髪の少女。
「わかった…ただ…話すのは苦手…」
これが素なのだろう。
目線を外し、か細い声で答える。
「メイドの仕事を、見せてもらってもいいですか?」
会話がもたないと思い、提案する。
「…わかった」
そう言うと彼女は部屋を出て、掃除道具を持ってきた。
私の部屋の窓を、拭き始める少女。
後ろで見ていると、気まずかったのか、か細い声で掃除のポイントを教えてくれた。
次にベッドメイクから始まり、床を雑巾がけする。
私も手伝ってみた。
慣れた手つきのメイドによって、小一時間すると部屋の掃除が終わる。
「次は、何をするんです?」
「…持ち場の掃除が終わったら、夕方まで休憩…」
「メイドの部屋も、見てみたいです」
私が、行くかもしれなかった部屋なのだ。
「…わかった」
彼女に先導され、1階へと降りる。
他のメイドは、まだ掃除をしている者もいた。
そして、離れへと続く渡り廊下に出ると、
ニャー
3匹の猫が、甘えた鳴き声で、黒髪の少女に寄ってきた。
「…ごめんね。今は餌を持ってないの」
中腰になり、猫に語りかける。
ニャー
言葉が通じるはずもないのだが。
「あなたの猫?」
「…野良猫。餌をあげてたら、懐かれたの」
またあとで、と彼女は猫に言い、歩みを進めた。
3階建のメイド達の住居へと入る。
1階層に4つの部屋となっていて、彼女は1階の部屋であった。
部屋に入る。
6畳ほどの狭い部屋だ。
ベッドと収納箱が1つだけ置かれた、殺風景な部屋。
「…ここが私の部屋」
特に話題も見つからず、餌という名の残飯を持って、猫達のところへ、引き返すのであった。




