37話 女騎士と奴隷 前編
マリオンがいない日 1日目
コンコン
部屋がノックされる。
時刻は早朝。
奴隷として身についた習慣からか、日が昇ると共に目覚める私は、身支度を整え終わっていた。
女騎士と朝食を運ぶメイドが、部屋に入る。
「おはようございます」
「おはようございます」
女騎士は主人の騎士として、私は主人の所有物として、お互いの立場をわきまえた挨拶から始まる。
そして、朝食が運び終わると、部屋の外に待機する女騎士。
…
……
………
朝食が終わる。
マリオンがいたなら、許可を取り部屋でお昼寝をしたいところだが、いない望みは叶えられない。
「あの…私に構っていただかなくても、大丈夫ですよ」
直立不動で立つ女騎士に、暗に部屋から出て行けと伝える。
「マリオン様から、お世話をするように君命を受けました」
お世話じゃなくて、監視じゃないのか?と言いたくなるが、彼女の言葉と直立不動の姿勢から、他意を感じない。
ソファーに座る私と、直立不動の女騎士。
「マリオン様の奴隷である私は、どうすれば宜しいのでしょうか?」
必殺の上目遣いを使ってみる。
「…マリオン様からは、貴族街の中なら自由に出歩く許可が出ております」
必殺技は無効化されたようで、女騎士の攻略は失敗した。
「では、お昼寝をしたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
「はい」
私が騎士なら、嫌味の一つも言いたくなる事を告げるが、返ってきた言葉は短い了承であった。
そして、直立不動のままの女騎士。
「部屋の中にいられると、お昼寝に集中できなく…」
「では、部屋の外に待機しております。何かあればお呼び下さい」
私なら、確実に表情を変える言葉を告げても、淡々と返される。
そして、女騎士は部屋から出て行った。
彼女は…いや、騎士とはなんだろうか。
元の世界でも出会った事のない種類の人間に、混乱する。
そして、ベッドに横になった私は羽毛に負けた。
…
……
………
目が覚める。
何時間寝たのかわからないが、外はまだ明るい。
ベッドから抜け出し、部屋の扉を開ける。
女騎士が、直立不動で立っていた。
「どうかされましたか?」
何か負けた気がしたから、
「剣の稽古がしたいです」
久しぶりに、身体を動かす事に決めた。